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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
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第52話 戻ってきた島の日常

 桃木島滞在、七日目。


 今日は帰宅の日。


 昼頃に桃木島を発つ予定ゆえに、アークロックメンバーはそれぞれ早朝から桃木島(ももぎじま)で挨拶回りをするつもりでいた。


 時刻は五時。誰よりも早く起きた穂火(ほのか)は、合宿所の庭で、ほんのり冷たい朝の空気に髪を揺らしながら、そっと『鬼の槍』に触れた。


 たった五日の修行なのに、自分が大幅に強くなった実感を抱いて、彼女は信じられないような表情でいたのだ。


 そんなところに、(れい)がやって来る。


 零は穂火の背中に向かって、突然こんなことを言った。


 まさか零がいるなんて思わず、肩を震わせる穂火。彼女は呆れたような瞳で零の話を聞く。


「今日はおさげなんだな」


「……どわっは!? あんた……乙女の背後を取るなんて、いい度胸ね」


「なんだよそのテンション。……長髪にはしないのか?」


 その言葉に裏を感じた穂火は、警戒を表すように、ジュワッチ、と手を開いてファイティングポーズをとりながらこんなことを言った。


「どういう意味?」


「似合ってたって意味だ」


「……」


 そういうことを、零は簡単に言う。だがそれにイラッとした穂火はプンスカと怒りながらこう返した。


「そういうのは昨日の宴で言ってよ。それにあれは、髪ゴムが無くなったから仕方なく髪を解いてただけ。


 本来の私はおさげだもん。


 可愛い?」


「はいはい」


 ため息と共にそう呟いた零に、穂火は「おいー!」とその程度の反応かい、と言わんばかりの情緒を示した。


 だがまあ、二人はこれでも仲良し……である。


 そんな二人は、ゆっくりと昇っていく太陽を見つめて、静かに微笑んだ。


 ■□■□■


 朝の六時。


 僕は寝癖すら直さずにリビングで食事をしていた。


 昨日は、いや、その前も、洞窟に閉じ込められた時から激務であった。


 おっと、自己紹介がまだだったな。


 僕の名前は空錠鍵斗(くうじょうけんと)。『鍵使い(キーユーザー)』である。


 そんな僕はアークロックのみんな、そして師匠の合計五人で朝食を頬張る。


 今日の朝ごはんは師匠が買ってきてくれたサンドウィッチである。


 どこかから「サンドイッチだろ」とツッコミが聞こえた気がするが、僕が食べている包装にははっきりと『サンドウィッチ』と書かれているのだから、これはサンドウィッチなのである。


 そんなサンドウィッチは美味しく、ハムの柔らかい感触と、レタスのシャキシャキとした感触が口の中に広がり、やけに爽やかな味に頬を(ゆる)めていた。


 そこに、陽向(ひなた)さんが「鍵斗くん、寝癖が立ってるよ」などと言いながら(くし)を持ってきて僕の髪を直し始めたのだ。


 僕は「いいよ、後で直すから」と言ったが、陽向さんは「いいからいいから〜」とニコニコしながら言って、僕の髪の寝癖を直し始めた。


 普段、少し寝癖がある髪型でいるからか、寝癖がないのはそれはそれで落ち着かない。


 おい、そこの君! 別に寝癖があるのが格好いいなんて思ってないんだからな! 思ってないんだからな!!


「……でもまあ」


「……?」


「幸せな朝だね」


 僕がそう呟くと、陽向さんは「だね!」と返してくれる。


 気づけば僕以外は食事が終わっていた。


 さて、僕も僕で、お世話になった人に挨拶をしなければならない。


 いつまでもゆっくりしているわけにはいかないのだ。


 ■□■□■


 朝の八時、僕は穂火(ほのか)ちゃんと一緒にいた。なぜなら、ツキバアと共にいる人に用事があるからだ。


 それは『鬼神(きしん)』と虎太郎(こたろう)さんであった。


 離れた場所でツキバアと何かを話している穂火ちゃんを無視して、僕は目の前に来てくれた鬼神さんと虎太郎さんと話すことにした。


 虎太郎さんは人の姿であり、鬼神さんは鬼の姿だ。


 そんな二人と話を始めようとしたが、僕は本来ならばもう一人来るはずであった人物がいないことに気づき、こう()く。


躍兎(やくと)くんは?」


 すると虎太郎さんはばつが悪そうにこう返してくる。


「すまない、躍兎は言っても()なくてな。まあ昼までには説得するよ。それよりもだ、昨日は酒が入っててちゃんと伝えられなかったことがある」


 僕は、久しぶりに家族の元に帰ることができた嬉しさで、夫婦で仲良く肩を組んでガバガバと笑っていた桃木夫妻を思い出す。


 昨日の桃木夫妻の飲みっぷりは凄く、少しだけ蚊帳(かや)(そと)にされていた躍兎くんが可哀想に思えたぐらいだ。だが、彼も彼で僕の横で楽しそうに笑っていたのを思い出し、まあ大丈夫かと息を整える。


 それはそれとして、虎太郎さんはこう言った。


「ありがとう、桃木島に伝わる呪いを終わらせてくれて。いや……君流に言うなら、閉じてくれて、かな?」


 その、言い方を合わせてくれたことに、僕は感謝もせずに赤面した。


 そうか、僕はいつもこんな恥ずかしさを周囲に撒き散らしていたのだと再確認し、居ても立っても居られなくなる。


 まさに、『穴があったら入りたい』であった。


 しかしこの(ことわざ)を作った人は、本当の恥を知らないのだろう。今の僕は、穴を掘ってでも入りたいである。


 だが、目の前の会話から逃げるのは申し訳ないので「いえいえ……」とだけ返した。


 そんな僕らを見ていた鬼神さんは、「ぶっ」と噴き出す初動を見せる。


 僕と虎太郎さんは思わず注目してしまい、鬼神さんの「あーはっはー!」という豪快な笑いを目の前でくらってしまった。


 うるさい、と思うよりもまず、こんな笑顔で笑う人なのだと思わされた。そんな鬼神さんはこんなことを言う。


「まさかあの桃太郎を倒したのが、君のような人物だとはな!」


「……馬鹿にしてます?」


 僕は遠慮気味にそう返した。だがすぐに、ボンボンっと強く僕の背中を叩いた鬼神さんはこんなことを言ったんだ。


「まさか! 君はまだ若く愉快な人間だと知れて、少し気が緩んだだけさ!」


「……あ、あはは、『陽気(ようき)』なんですね、鬼神さん」


「そうだな、私は素早いからな」


「何を言っているんですか……」


 一体どんな地獄耳なのか、離れた場所でツキバアと話していた穂火ちゃんが目を輝かせながらこちらを見てきた。


 多分、ゲームかアニメか何かの話なのだろう。


「……って! ゲームやアニメ、見たんですか?」


 僕が鬼神さんにそう言うと、鬼神さんは「ああ! 面白いものだな、ゲームというやつは!」と答えてくれた。


 虎太郎さんが「昨日、君と別れた後、躍兎がゴアにゲームを教えていたんだ」と付け足す。


 ゴアとは、鬼神さんの本当の名前だろうか。そんなことを思っていると、鬼神さんがこう言ってくれた。


「そうだ、名乗るのが遅れたな。私はゴア・マガラだ。なんてな! 私はゴア・オーガだ、よろしく」


 僕は何ごとも広くではなく深くやるタイプなので、ゲームも例外ではなく、何を言っているのかわからなかったが、とにかく面白いことを言ったようなので「あはは」と棒読みで笑い、すぐにこう返した。


「でも、よかったです。現代に適応できているようで」


 僕がそう言うと、ゴアさんは「いやはや、ゲームというものは面白い。私が生きていた千年程前では想像できないような技術発展だ」と言った。


 いやいや、あなたのその適応力も素晴らしいですよ、と返そうとしたが、すぐに話が変わってしまったのでぐっと飲み込む。


 ゴアさんはこう言った。


「しかしだ、君は今日のうちに帰ってしまうのだろう? 悲しいな、もっと話がしたかった」


「僕もですよ、でも……僕には僕で……止めなきゃいけない人がいるから」


 ふと脳裏をよぎるのは、親友だった陽真(ようま)くんの顔。


 そのせいで少し悲しい顔をしてしまったのか、ゴアさんはこんなことを言ってくれた。


「そうか、君にはやることがあるのだな。ならば応援する」


 虎太郎さんも、こう返してくれる。


「困ったことがあれば、いつでも遊びに来なさい」


「……はい」


 僕は優しさに触れながら、微笑んだ。


 本当に、桃木島はいい島だ。でもそれももう終わる。


 ふと振り向いて見下ろした海。その水平線は見えず、遠くには微かに街が見える。その街に戻るのは、もうすぐ先。


 だけど……まだ桃木島での停滞は続く。アークロックらしく、ゆっくりと行こうじゃないか。


 僕はそんな黄昏(たそがれ)たことを思いながら、離れた場所にいる穂火ちゃんに目をやった。二人は、なんだか盛り上がっていた。


 どんな女子会をしているのだろうか。頼むから悪口だけはやめてくれと、心の中で願った。


 ■□■□■


 ダークネスラブトーク。


 私は山田穂火(やまだほのか)


 漆黒に染まりし地獄の住人だが、そんな私は今……キュンキュンしています。


「わー! ツキバアその話……! その話……! ダークネスエモだよ……!!」


 私は小声で、かつ全力でそう叫んだ。矛盾しているだろうが、これが乙女心なのだ。慣れろ。


 そんな私に、ツキバアはこう言う。


「そうじゃ。だから、わしはお前さんが大切なのじゃ。


 愛する男が……育てた息子の娘じゃからな」


「ツキバア……」


 私は聞いた。ツキバアの想いと、私への感謝を。


 桃太郎とのバトル中に私が唱えた詠唱は大体は合っていたらしく、ツキバアは『昔の恋が蘇ったわい』と笑顔で言っていた。


 私はそれが嬉しくて、嬉しくて、ツキバアを抱きしめたんだ。


 私にお婆ちゃんはいない。生まれた時からもう死んでいて、お爺ちゃんっ子だった私は少しだけ寂しい思いをしたんだ。


 でもさ、その寂しさももう埋まったよ。だって今は……あなたがいるから。


「お婆ちゃん」


「……ほのか?」


 私はツキバアの小さな身体をギュッと包み込みながら、こう続ける。


「ツキバアのこと、お婆ちゃんって呼んでもいい?」


 私の肩がそっと濡れる。震えるお婆ちゃんの手は、私の背中に優しく触れた。


「うむ……!」


 潮風のせいかな、私は涙を流してしまう。


 ザバーンと聞こえるこの桃木島で、私は初めてお婆ちゃんに会った。


 そんなお婆ちゃんは、「うおおおおお! 穂火ァァァァァ!!」などと叫びながら、私から離れて、急にダンスを踊りだす。


 あれは、私でも知っている、ディスコというやつだった。


 そんなに嬉しいのかな、などと思いながら、私はそんなお婆ちゃんを見て爆笑する。


 それを見たお婆ちゃんは、怒りを露わにして「何を笑っとる!」と言った。


 でもさ、お婆ちゃん。今のお婆ちゃんの顔は、どこか()(もの)が落ちたように綺麗だよ。


 だからね、お婆ちゃん。


「ガチバトルはやめようよおおおおお!!」


 私は『鬼の忠誠』で槍を手元に戻しながら、お婆ちゃんの蹴りに対抗する。


 まったく、困ったお婆ちゃんだ! 


 そんなことを考えていると、ふとツキバアの笑顔が目に入った。


 しばらくは、文通でもしようかな。


 私はそう思った。


 潮風の吹くこの島は……どこか心地いい。

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