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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
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第50話 本は閉じられた

 ガキンッッッッ、と甲高い音を鳴らしながら、穂火(ほのか)と『支配のアークリオン』はぶつかる。


 その激しい攻防は、穂火の蹴りによって一時的に止まる。


 二人は離れ、まるで達人の間合いのように攻撃の手を止めた。


「……」


 そして、山田穂火(やまだほのか)は槍を向ける。


 その矛先(ほこさき)は、『支配のアークリオン』へと。


 この戦いは、もうじき終わる。穂火は言葉を失いグルルとしか鳴かない『支配のアークリオン』を見て、口を開いた。


 これが、この詠唱が、最後の自信へと繋がる。


「……!」


 ■□■□■


 同時刻、別の場所で空錠鍵斗(くうじょうけんと)は奥歯を噛み締めていた。


 完全に回復した鬼神を見て、勝機を掴めないストレスに襲われる。


 水沢零(みずさわれい)の存在により、ダメージを与える方法は手にしている。


 だが、目にしてしまった『心臓がない』という情報は、鍵斗に『ゾンビ』という可能性を植え付けた。


 どれだけ攻撃しても手応えがない理由は、不死身だから。


 そんな相手にどう勝てばいいのか。方法が浮かばずに、鍵斗は目を細めた。


 そして、仲間のことを思い出す。


 この場にいない、穂火(ほのか)灯里(あかり)を。


「……っ! 陽向(ひなた)さん!」


 そして、相棒の名を口にした。


 依然としてバトルは続く。


 降ってきた鬼神の拳を避けた鍵斗は、「くそっ!」と言葉を(こぼ)した。


 なぜなら、殴られるとは腕を拘束していたキーハートがちぎられたことを意味していたからだ。


 空中でクルクルと回っていたキーハートの(つか)を掴んだ鍵斗は、その刃が折れたキーハートを見つめる。


 もう、キーハートの刃のストックはない。


「……でも」


 諦めるな。


 いずれ来る勝機を逃さないために。


(れい)くん……!!」


「はい……!」


「合図するから、攻撃の準備を!!」


 空錠鍵斗は、諦めない。中学生から続けてきたアークロックとしての活動が、彼に(ささや)くから。


 折れなければ、いつかは勝てると。


 それに今は……仲間がいる。


 鍵斗は、ふと口角を上げた。


 仲間の顔を思い出しながら。


 ■□■□■


 そして、すべてのピースはこの場へ集まる。


 『鬼の赤子』と追いかけっこを続けていた陽向(ひなた)は、脇腹を押さえながらも走り続けていた。


 鬼の赤子は小さくすばしっこい。


 先ほど目の前に立てたにも関わらず、股下を抜けられた。


 まるで、ネズミのよう。


 簡単には捕まえられない。陽向は「絶対に捕まえてやるっ!」と言いながら、(へい)を登り、角材を乗り越え、家々の間を進む。


 家と家の間に置かれてあった廃棄の洗濯機も飛び越えて、邪魔な障害物があれば壁を蹴って強引に前に進む。


 それを見た鬼の赤子は「ぴぎゃ!?」と言いながら走る速度を上げた。


 しかし、陽向も追跡(ついせき)を続ける。


 なぜ、鬼の脚力に彼女がついていけるのか。それは彼女が陽向灯里(ひなたあかり)であるからだ。


「捕まえてやるよ! だって私、体育の成績5なんだから!!」


 そう、成績は5までしかない。ゆえに、彼女の身体能力の評価もその域に留まっていた。


 だが、やはりアークが使えないというのはかなりの痛手であり、どれだけ優れた基礎身体能力を持っていたとしても、鬼の異常な脚力にはあと一歩追いつけずにいた。


「……っ!」


 挙げ句の果てには、逃げている最中に成人の鬼に会う。赤い肌、黄色いツノ、虎のパンツ、ありきたりな鬼を見た陽向は緊張しながらも、サッカーのマルセイユルーレットのように華麗(かれい)に回避した。


 驚愕(きょうがく)すべきは、鬼が振り返る動きの死角に合わせて走り抜けたことである。


 鬼は、陽向灯里の存在を視認することすらできなかった。


 鬼の背後をするりと抜けた陽向は、そのまま鬼の赤子を追いかける。


 でも、絶妙に追いつけない。


 脇腹に痛みが走ったその時だった。


 陽向にひらめきがよぎる。それはまるで、空錠鍵斗のような発想であった。


(力を借りるよ、鍵斗くん!)


 陽向はそう思いながら、近くにあった少し大きめの石を蹴る。


 それは真っ直ぐ前に進み、鬼の赤子に……当たらずに、ある家に当たった。


 その石の音は、まるで人の動いた音のように響き、鬼の赤子の意識をそらした。


 それが、隙。


 陽向(ひなた)は今だと思い、急いで近づいた。


 だが、子どもの反射神経を舐めるでない。彼らは、いつ、いかなる時であろうと、感覚が鋭いのである。


 思ったより意識をそらさなかったことを悟り、陽向は「く……!」と呟いた。


 あと、少しなのに。


 その少しが、届かない。


 最後のピースが埋まらない。


 この桃木島の物語の最後を()える、役者が足りない。


 誰か……あと、一人でも……!


 そう思った時、大きな声が響いた。


 そう、子どもの反射神経は偉大である。


「お姉ちゃん! 助けに来たよ!!!」


 その声の主は、桃木島にて、誰よりも鬼を信じ、守ってきた者。


 サボり魔で、サッカーが好きで、鍵斗のことが好きな、男の子。


 その子は……。


(桃木の声!?)


 桃木躍兎(ももぎやくと)


 鬼の赤子を通して、鬼神はその声を聞いた。


 刹那、鬼の赤子の体がぴくりと止まる。


「今……ダァァァァァァッッッッ!!!」


「び、ぴぎゃっ!」


 桃木躍兎の声により動きを止めた鬼の赤子は、陽向灯里に捕まった。


 優しく抱きしめられた鬼の赤子は「ぴびっ」と言いながら、気絶する。


 静寂を取り戻していた環境が、この一手により、グワンと動く。


「ありゃ!?」


 気絶した鬼の赤子を抱きしめる陽向は、何がなんだかという表情で困惑する。


 だが、それが『鬼神』にダメージを与えた。


 なぜ、『支配のアークリオン』が『鬼神』に対して絶対的な信頼を寄せていたのか。その理由は、『鬼神』への改造手術。


 『鬼神』という存在をさらに強くするために心臓を抜き、不死身の肉体を与える。その代償として、抜き取られた心臓は『鬼神』にエネルギーを送るためのタンクとして、口を与えられ、目を与えられた。


 その姿こそが、鬼の赤子であった。


 厳重に管理されていたはずの鬼の赤子の部屋は、謎の猫と空錠鍵斗により、破られている。


 ゆえの、『支配のアークリオン』の誤算であった。


 別の場所で、穂火は『支配のアークリオン』にこう言う。


「どれだけ貴方が強くなったとしても、言葉を捨てた時点で終わりなんです!!」


 槍と刀が、ガシガシとぶつかる。その音は周囲を威嚇(いかく)した。


 だが、そんな穂火は、『支配のアークリオン』の隙を見つけられずにいた。最後の隙が見つけられずに、『詠唱』が(とどこお)る。


「でも……!!」


 どれだけギリギリでも、彼女には仲間がいるから。


 いつだって、チャンスは残っているんだ。


「私は、アークロックの一員だから!!」


 その時、奇跡が繋がる。


「……ッ!」


 海蝕洞窟(かいしょくどうくつ)で、鍵斗は息を()んだ。


 心臓が止まり、ガクンと動きを止める『鬼神』。それを見た鍵斗は隙を察し、零にこう言った。


「今だっ!!」


「はい!!」


 空中から降ってくるロケットランチャーを掴む鍵斗。零は(ゾウ)を召喚し、『鬼神』にぶつける。


 その衝撃で『鬼神』は倒れ、明らかな隙を晒す。


 鬼の赤子の気絶により、『鬼神』の無敵は終わった。


 象が消え、そんな『鬼神』に、無数の弾丸が放たれる。


 両腕で(かま)えた二丁のガトリングはガガガガッと動き、『鬼神』を制圧する。そして、空錠鍵斗(くうじょうけんと)のロケットランチャーが火を吹いた。


 ドガーンッという音と共に、この場は揺れる。


 そして、その影響は『鬼神』に最もリンクしている者へと繋がった。


 『鬼神』はその攻撃により、ダウン。


 別の場所で、穂火は詠唱する。


 それは、勝利を掴むための、最後の言霊。


「鬼よ、精霊よ、我に力を与え、地獄の聖炎を与えたまえ。願わくば、アークロックに勝利をもたらし、桃木島(ももぎじま)に歓喜の嵐を呼び覚ませ。鬼の巫女の無念をこの槍に乗せ、今こそ勝利の革命をッ!!」


 そして、発動するは、『鬼の槍』の五つ目の効果。


 『鬼の槍』の最後の力は……『想いの解放』。


 『鬼の槍』に取り付けられた、切り札。


 これまでの蓄積したエネルギーを、一挙(いっきょ)に放つ必殺技であった。


 それは、鬼の巫女の代から続くエネルギー。


 鬼の巫女が、苦渋を飲んでも、発動を諦め、未来へ託した自身の力が、今……! 


 山田穂火(やまだほのか)の手を通して、桃太郎に鉄槌(てっつい)を下す。


 だが、どれだけ立派な技でも、当たらないと意味がない。


 しかし……!


 その凄まじい衝撃により、『支配のアークリオン』の意識が戻る。


「これは、まさか……!?」


 ズギンッッッッ、と『支配のアークリオン』の体に痛みが走る。その衝撃は、これまでの攻撃と比にならないレベルのもの。


「ガハッ……!!」


 『鬼神』が倒されたことにより、そのダメージがリンクしていた『支配のアークリオン』にフィードバックした。


 強いダメージにより、鬼の力に深く潜っていた『支配のアークリオン』は脆さを晒した。


 『鬼神』の力は、サラサラと消える。


 残るは、桃太郎の力のみ。


(マズい……!)


 『支配のアークリオン』の脳裏(のうり)にそんな感想が浮かぶが、もう遅い。


 穂火は『詠唱』の()めに入っており、『鬼の槍』はガチャンと開き、排熱を始めていた。


 ツキバアの想いと、鬼の巫女の想いと、桃木家の想いと、桃木島の想いが乗ったこの一撃は、桃太郎の力とて耐えられない。


 焦った『支配のアークリオン』は、急いでお供を呼び寄せた。


 だが……!!


「なぜだ、なぜ応答しない! (さる)ゥゥゥゥゥゥゥゥウウウッ!!」


 洞窟内部で、『支配のアークリオン』に命じられ、『桃太郎の腕輪』が沈んでいた場所の水を取りに行っていた『猿』は、ボコボコに殴られて倒れていた。


 横で、男はこう言う。


「ガハッ!……すまないな、鍵斗くん。私には、このくらいしかできなかったよ……!」


 そう、それは鬼の姿をした、桃木虎太郎(ももぎこたろう)。彼の動きにより、『支配のアークリオン』は回復の術を失った。


 同時に、『犬』も覚醒したツキバアにより倒される。


「漆黒の乱脚ッ!!……だったよな、秋穂(あきほ)


「クソッ……!!」


 全てが上手くいかずに、そう漏らす『支配のアークリオン』。


 空錠鍵斗の襲撃に始まり、山田穂火の妨害に続く、そして最後は、桃木島全てが敵に回る。


 水沢零がいなければ、空錠鍵斗は『鬼神』に倒されていた。ツキバアが、虎太郎がいなければ、穂火は倒されていた。


 そして最大の誤算は、陽向灯里(ひなたあかり)の存在。


 全てが唐突に始まった『支配のアークリオン』の最終章。


 だが、それは『話していれば』予知できたこと。


 他人を知ろうともしなかった彼に、勝機などなかったのだ。


 穂火の眼光が鋭く光る。そして、こう放たれた。


「ピリオド・ストライクゥゥゥゥゥゥゥゥウウウッッッッッ!!!!」


 全てがノリで付けられており、今後発動することのない穂火の技。


 だけどそれが、唯一無二の力を与える。


 彼女の技は、その場限りの、一期一会な、限定技であった。


「いっけえええええええええっ!!!」


 『虎の活力』により高まった肩の力で槍を思いっきり投げた穂火は、その先を見る。


 空気を切り裂いて進むその槍は、排熱を続け真っ赤に染まる。


 全てのエネルギーが乗ったそれは『支配のアークリオン』に当たり、海まで突き進む。


 バザーンッッッ!!! と破裂するような轟音を響かせながら、海が真っ二つに割れる。そして、巨大な海柱を打ち立て、大爆発を巻き起こした。


 真っ赤に埋め尽くされる背景をバックに、穂火は髪を後ろに振り上げながらこの場を去る。


 おさげな彼女の髪は、綺麗な長髪に変わる。


 輪ゴムは風圧で吹き飛び、その凛々しい顔は成長を感じさせた。


 だが、性格は変わらないもので、穂火は胸に手を置いて、ホッと息をつく。


 海から飛んできた三本の刀が地面に刺さり、サラサラと消えた。


 桃太郎とアークロックの戦いは、全員の尽力により、アークロックの勝利に終わる。


 海から戻ってきた『鬼の槍』は穂火の横に立つように地面に刺さった。


 その姿はまるで、『ありがとう』と言わんばかり。


 千年以上続いた桃木島のお伽話(とぎばなし)は、ここで終わる。


 アークロックにより、その物語の本は閉じられた。

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