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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
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第43話 預言の核!

 山を砕き、内部から現れるのは『鬼神(きしん)』。その巨体は四十メートルを超え、もはや怪獣の領域だった。


 先ほどまで穏やかだった気象も、まるで異変を察したかのように荒れ始める。


 これは、明らかに異常事態であった。


 同時に、神社で腰を休めていたツキバアの脳に刺激が走る。


 急いで立ち上がり見上げたそれは、予言の姿であった。


 三十五年前の預言者から伝えられた『桃木島(ももぎじま)』に響く厄災の予言。それはツキバアに若き日の思い出を想起させる。


「……穂火(ほのか)!」


 ツキバアは気絶しそうになっていた穂火に近づき、肩を揺らす。目を覚ました穂火は、驚いたようにこう言った。


「ダークネスカタストロフィ!?」


「そんなこと言っている場合ではないぞ!」


 ツキバアは穂火の言葉を制止し、汗を流しながらこう言った。


「予言は確かであった。つまりはそなたが『鬼の巫女』の代役なんじゃ。穂火、大変な思いをさせるかもしれない。それでも、桃木島を救うためにこの『槍』を取ってくれないか!?」


 突然の言葉に穂火は困惑する。だが、珍しくゆっくりと、動揺しているように動くツキバアを見て、穂火は心を落ち着かせた。


 痛む腰を押さえながら、ツキバアは奥の部屋の扉を開ける。


 そこにあったのは、布。


 否、布を外したその先には、


 銀色に輝く槍があった。


 特殊な模様(もよう)が刻まれており、刃は鋭い。穂火はそれを見て目を輝かせる。ツキバアはこう言った。


「これは、『鬼の槍』。かつて、『鬼神』の配下として桃太郎に立ち向かった鬼の巫女の神器。これは、預言者によれば…‥穂火、お前さんしか扱えない代物(しろもの)らしいのじゃ」


 ツキバアは、そっと槍に触れる。


 これを渡すとは、そういうことなのだから。


「なんの関係もない穂火をこの戦いに巻き込むことは気が引ける。だが……我々を助けると思って」


 ツキバアは穂火が断ると考えていた。当たり前だ、こんな重い使命、誰だって受けたくない。


 でもさ、穂火は中二病なんだ。


 これにワクワクしない中二病はいない。それに……彼女はアークロックなのだから。


 ツキバアの思いは杞憂(きゆう)に終わった。


「やり……ます。槍だけに」


「……は?」


「いえ! やるって言ったんです」


 穂火はその震える手をぎゅっと握りしめ、アークロックの仲間の顔を想像する。


 そんな穂火は槍に近づき、持ち手を掴み、こう言った。


「それに、空錠(くうじょう)先輩が関わっているのなら、私も無関係ではありませんので。アークロックとして、この島の幸せを守る」


「……穂火」


 山田穂火(やまだほのか)。彼女は、怖いくせに、不器用に笑顔を浮かべて、こう述べたんだ。


「それが、アークロックだから!」


 ツキバアは、微笑みを見せないように下を向いた。(ほころ)びたその笑顔は、信頼の証明。


 ツキバアは、そっと顔を上げて穂火を見つめてこう言った。その時の表情は、師匠らしくキリッとしていた。


「この五日間の修行期間で、教えられたことは少ない。だが、神器を扱う上での最低限の技能は教えておる。じゃから穂火……あとは託したぞ」


「はい!」


 穂火の心臓は高鳴る。これまで応援を刃物のように受け取ってきた彼女だが、アークロックの経験を得て、応援をパンチとして受け止められようになった。


 そんな穂火は、少しよろめきながらも、確かに奮起(ふんき)する。


 その余波は、他のアークロックメンバーにも響いた。


鍵斗(けんと)くん!!」


 誰よりも早く動き出し、誰よりも早く現場に向かったのは、陽向灯里(ひなたあかり)


 だが、陽向灯里の単体での突撃を許さぬものがいた。


「あらあら、ダメですよ灯里。一人で突っ込んでも、たかが知れています」


「その通りだ、ちったァ私たちを頼れ」


 陽向灯里の横に現れたのは、陽向の師匠である宮島霊奈(みやしまれいな)と、陽向の姉弟子である鹿村信乃(しかむらしんの)だった。


 二人は山を駆け下りながら、こう会話した。


 宮島霊奈はこう言う。


「陽向、鹿村、お前たちは鬼神のもとへ向かえ」


「いいんですか!?」


 陽向がそう返すと、霊奈は口角を上げてこう言った。


「ああ、失敗を取り返せ。それと、鹿村は陽向のフォローに付け」


「承知いたしました」


 鹿村はいつもの調子でそう答える。陽向は二人に感謝した。


 しかし同時に疑問が湧く。


「でも、霊奈さんはどうするんですか!?……って!」


 刹那、陽向の視界に映るのは鬼の姿。


 あれが鍵斗くんが言っていた鬼か……!! と思いながらも、陽向は自身の無力さに(なげ)く。


 そんな陽向の肩に触れ、霊奈はこう言った。


「心配するな。いつか力は答えてくれる」


 そして、変化(へんげ)するは霊奈の体。(ひたい)からツノを伸ばし、骨格は肥大化し、筋肉量は跳ね上がる。


 その姿はまるで……。


 まるで……。


 霊奈は目を丸める陽向にこう伝えた。


「なぜ、私が鬼に詳しかったのか。なぜ、私がお前の師匠になったのか。その理由は一つ。


 私は……元鬼の僧侶。


 鬼に悩まされ、唯一桃太郎の呪縛から自力で解放された女。ゆえの、力に振り回されないための師だったんだ」


「霊奈さん……!」


 そう、宮島霊奈は、鬼化する。ただしその姿は、宮島霊奈だと判断できるラインの、強いて言えば半鬼化であった。


 そして霊奈は鬼を襲撃する。同時に陽向と鹿村にこう伝えた。


「私は鬼を町まで行かせないように足止めする! お前たちは鬼が溢れる原因を止めろ!!」


「はい!!」


 陽向は『鬼神』の元へ向かう。使命もあるが、大切な相棒のために。


 そして、水沢零(みずさわれい)は子どもを抱きしめていた。それも、女の子。


 震える園児を(なだ)めるように、その子を抱きしめる。だが視線は窓から見える『鬼神』に囚われていた。


 そんな零に、エプロン姿の女性保育士はこう言う。


「行って来なよ、零くん」


「……でも、子どもたちを置いていくわけには」


 そんなことをぐだぐだと言い始めた零に、次々と現れた保育士のお姉さんたちはこう伝える。


「私たちだってプロだ」


「子どものことは任せて」


「貴方には、貴方にしかできないことを」


 零は、その声を聞いて立ち上がる。零の腕の中から離れた女の子は、こう呟いた。


「れいちぇんちぇ?」


 そんな女の子に、零はウィンクしてこう伝える。


「君を助けるために、やらなきゃいけないことがあるんだ」


 女の子の目はその言葉と甘い顔にやられて、ハートマークになった。そんな彼女を保育士に任せて、零は保育園を出る。


 もう彼は、たぶん、おそらく、ほんの少しだけ、女性に対する耐性は得た。


 いや、少し違うな。


 彼は……(まも)るための意志を手に入れたのだ。


 そんな零は、『鬼神』の元へ向かう。


 己が信頼し、感化された……空錠鍵斗(くうじょうけんと)を護るために。


 そして、戦場は一堂(いちどう)(かい)する。


 『鬼神』という大きなシンボルを中心にして。


 ただ、元からそこにいる者もいる。そう、空錠鍵斗である。


 彼は「やばいいいいいいいい!?」などと叫びながら空中から落下していた。


 だが刹那として、脳裏をよぎる一瞬の閃き。


「……そうか! あれが使える!!」


 鍵斗は虚空から鍵を取り出す。この鍵は、三倉宗介(みくらそうすけ)のアークを閉じた時のもの。


 鍵斗は、力を借ります……三倉さん、と思いながら、その鍵をキーハートに()した。


 回る、キーハートの鍵穴。そして三倉宗介のアーク、『高跳び』のアークがキーハートに宿る。


 鍵斗はキーハートを振り、そのキーハートの剣先が空間に薄い膜を作る。


 まるで高跳びを実際にするように、キーハートを起点として空錠鍵斗は空を跳んだ。


 キーハートのコピーは、使用すれば鍵が消費される。


 つまり、一度限りの超跳躍というわけだ。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。


 『鬼神』の頭よりも高く跳んだ鍵斗は、空から『鬼神』を視界に入れた。


 依然として落ちる身体。だが、思考を止めるな。


 勝機を見出(みいだ)せ。


 なにを、どうしたら、あの『鬼神』に勝てる。


 硬い皮膚、大きな身体。刃を通せたとしても、倒しきれない。


 あの巨体にダメージを与える方法を、必死に考えろ。


「……!!」


 空錠鍵斗には修行はない。空錠鍵斗はこれ以上強くなれない。


 この桃木島において嫌と言うほど痛感した、自分の限界。


 でも鍵斗は諦めなかった。


 そう、それこそが空錠鍵斗。


 いつ、いかなる時であろうとも……空錠鍵斗は諦めない。


「効いてくれっ!!」


 キーハートに挿されるは、アークを閉じた鍵。


 それにより、キーハートは変化する。


 空中からの落下エネルギーを追加した、その一撃は……!!


 ドンッと言う音と共に鬼神にキーハートが刺さる。耐久の鍵を使っていなければ、鍵斗も無事ではなかった。


 だがそれは『鬼神』も同じ。安易な攻撃は『鬼神』には効かな……。


 否、それは、全身へと進む衝撃。


 空錠鍵斗は誰のアークの鍵を挿したのか。


 それは、桃木島で関わった彼の力。


 伝える恐怖から生まれた、話す願い。


 その主は……リアム。


「くらえっ!!」


 ドンッと全身に放たれたのは、強力な音波の攻撃。それは『鬼神』の体に響き、動きを止める。


 洞窟内部からそれを見ていた桃太郎は、呆れていた。


「それでも『鬼神』は止まらない」


 だが……動きは……止まる。それどころか、身体が、少しずつ……小さく……。


 桃太郎は目を大きく開いて、こう呟いた。


「なんだと?」


 そう、リアムの力は『伝える力』。単なる音波ではない。


 空錠鍵斗が届けたのは『起きろ』という声だった。


 それにより、『鬼神』の意識がうっすらと蘇り、アークが切られる。


 小さくなった『鬼神』は、岩に囲まれた、海辺の場所に鍵斗と共に落下した。


 まだ、『鬼神』の意識は戻っていない。でも……それでも、希望は見えたから。


 空中から落下した鍵斗は、『鬼神』に向かってこう言った。


「怪獣映画じゃないんだ。同じ土俵に上がってもらうぞ……英雄さん」


 戦いは始まる。桃太郎は、強く舌打ちを鳴らした。

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