第39話 桃木家の使命
「私の名前は桃木虎太郎。君の言う通り、躍兎の父だ」
僕は目を丸くした。それを見た虎太郎さんはこう返す。
「し、知っていたのではないのか?」
「……いえ、推測していただけなので当たると思わなくて」
「それであそこまで自信満々に言えるのか、才能だな」
なぜかグサッと心に刺さる言葉であった。
さて、今がどういう状況か整理しよう。
僕は鬼の洞窟に閉じ込められた。ゆえに鬼に襲われそうになったが、命からがら逃げ延びることができた。しかし、その先で鬼に出くわす。だが、その鬼は襲ってこない鬼で、僕はそんな鬼を閉じる才能で人に戻すことに成功した。その結果、アークリオンである鬼に囚われていた虎太郎さんの意識は元に戻り、彼に感謝されたというわけだ。
そんな彼は健康体である。走ることは可能のようだ。
対する僕は足が震えている状態。歩くことはできそうだが、走ることは正直しんどい。
そんな僕に、虎太郎さんはこう言ったんだ。
「……すまない、気づかなかった。君は鬼に襲われたんだ、満身創痍だったな」
「いえ、虎太郎さんのおかげでこれで済んだんです。謝罪はいりませんよ」
虎太郎さんは目を丸めてこう言った。
「驚いた、見られていたのか。いや、推測かな? 私が鬼を別の場所に誘導したことまで気づかれていたとは」
僕は軽く頷いた。
この場で、洗いざらい話してもらう余裕ない。ゆえに、会話を一旦終わらせて、僕は立って動こうとした。
だが、虎太郎さんはこう言う。
「待て、この場所は鬼が嫌う場所だ。ゆえに、ここで一旦休んで行こう」
「……なんで、そんなことまで知っているんですか?」
虎太郎さんは、微笑んでこう続ける。
「そうだな、君には伝えなければならない。桃木家に伝わる話と、私が持っている情報を。それはそうとして、情報交換といこう」
「……?」
僕は不思議そうに首を傾げた。ぽちゃんと落ちる水滴の音と共に、虎太郎さんはこう訊いてくる。
「私は桃太郎の呪いにかかっていた。しかし私は戻れた。何をした?」
僕は虎太郎さんに、中学生の頃から師匠に散々言われてきた『類い稀なる閉じる才能』について話した。
「実は、僕には『類い稀なる閉じる才能』があるんです。その才能を『鍵使い』として扱い、虎太郎さんをアークから分離したんです」
「……」
それを聞いて、虎太郎さんは黙る。そして冷静にこう返してきた。
「……『類い稀なる閉じる才能』か。ふむ、わかるよ、私にもそういう時期はあった」
「……え!?」
僕は顔面を真っ赤にしてこう釈明した。
「いや! 違うんです! 別に僕が考えた特殊能力とかじゃなくて、師匠が考えてくれたんです! ああそうですね! 人より閉じるのが上手いと言えば良かったです!!」
「あ、あはは……かっこいいと思うよ」
ちくしょう、この優しさが余計に心に響くッ!
僕は心の中で、『かっこいいよ!』という天使と、『ダサいよ!』という悪魔に囲まれながら、イキっていると思われた恥ずかしさに悶えた。
そんな僕に、虎太郎さんはこう言う。
「ところで、師匠とは?」
「シーラという人物です……」
そう、全ては師匠のワードセンスが招いた事態なのである。責任をとってもらいたい。
そんなことを思っていると、虎太郎さんは喜びながらこんなことを言ってきた。
「もしかして、空錠鍵斗くんかい!? シーラさんからよく話を聞くよ! 他を圧倒する閉じる才能を持つ『鍵使い』が弟子になったと! いやー、まさかその才能が桃太郎の呪縛を超えたということか!」
合点がいったのか、一人で満足する虎太郎さん。僕は僕で、師匠がこんな場所で僕のことを高く評価し、そしてそれを周りに自慢していた事実を知って……なんとも言えない嬉しさを覚えていた。
こういう時、喜べばいいのか、謙遜すればいいのかわからない。
ニヤニヤしていると、虎太郎さんはこう続けた。
「それと、すまないな、謝罪が遅れた。数日前、君のことを殴った件だ。言い訳かもしれないが、鬼になっていたため、意識が朦朧としていて、躍兎の近くにいるだけで敵だと判断してしまった。あの後の行動を見て理解したよ。君は躍兎の味方だった。話も聞かずに殴ってしまい、申し訳ない」
僕はその話を聞いて、驚きつつも冷静にこう返した。
「いえ、謝罪はいいです。でも、アークリオンの状態で意識を残しているなんて聞いたことがありません。相当な苦痛があったのでは?」
あの陽向さんでさえ、アークリオンには飲まれてしまう。いや、陽向さんだからこそなのかもしれないが……とにかく前例がないのだ。
気になって仕方がない。
ソワソワしていると、虎太郎さんはこう説明してくれた。
「それは桃木の血筋だからだ。……ここからは、私が情報を提供する番だな。
話を聞いてくれるか?」
「もちろんです」
僕は頷いて、彼の話を聞く。
なんとなく、長くなりそうな気がした。
■□■□■
むかーしむかし、凶悪な鬼が住む桃木島……いや、当時は鬼ヶ島と呼ばれていた島に、桃太郎という男がやってきました。
桃太郎は恐怖で怯える住民を救うために、犬、猿、雉、と共に鬼を討伐しました。
そして、桃太郎は英雄として崇められ、この島はその功績を讃えて、島の名前を桃木島にしました。
伝説はこうだが、これは真っ赤な嘘である。
真実はこうだ。
むかーしむかし。鬼と人が共存する、笑顔で溢れる鬼ヶ島がありました。
その島は、鬼の総大将である『鬼神』と、人の総大将である『桃木家』によって支えられ、末長い幸せを求めて日々生活をしていました。
そんな島に、来客が来たのです。
犬と猿と雉を従える、好青年。
彼は、笑顔で鬼ヶ島に入り込み、そして……きびだんごを住民に与えました。
島の外から来た美味しい食べ物に住民は歓喜し、鬼も、人も、笑顔できびだんごを食べました。
そして夜。
住民の大半は……桃太郎の奴隷になりました。
きびだんごによる洗脳効果により、人々は、鬼は、桃太郎を崇め始める。
彼はそんな人や鬼を奴隷のように扱い、それに憤りを抱いた『鬼神』と『桃木家』は手を組んで桃太郎を倒そうとします。
しかし、住民の反感を買い、守るべき住民に襲われ、満足に戦えぬまま、桃太郎の呪縛により……『鬼神』すらも桃太郎の配下となってしまいました。
ですが、鬼神は意識を失う最中、桃木の子どもと契りを交わしました。
それは、『鬼の禊』。
未来へ繋ぐ、桃太郎を倒す希望。
アークに対する強い耐性を持たせ、鬼の根城である鬼ヶ城の全権限を持たせる権能。
それを受け取った桃木は逃げました。
でも、桃太郎から逃げることはできず、呆気なく彼は桃太郎に捕まり、そして従いました。
しかし、叛逆の意思は消えません。彼は耐えたのです。未来に桃太郎を止められる人間が現れるのを待って、洗脳されたふりをして、余生を過ごしました。
鬼から託された『鬼の禊』は血に混じり、血族へと流れていく。
そうして、桃木の一族は、代々当主が全ての真実と桃太郎への対抗策を得て、密かに生きてきたのです。
しかし、問題が起きました。
圧倒的な『支配』のアークを持っていた桃太郎は、『支配』の力で得ていた寿命を放棄したのです。
圧倒的な長寿に飽きて、桃太郎は五百歳で亡くなった。
桃木の人間はそれに歓喜した。
しかし、呪いはここからだった。
桃太郎はもういない。でも、やつがいた。
アークに必ず付きまとうもの。そう、それは……アークリオン。
桃太郎は死の直前に、自分から分離させた第二形態のアークリオンをこの世に残した。
そのアークリオンは……今もまだ、人を操るために、鬼を生み出す。
■□■□■
「以上が、私の知る真実だ」
「……今のが、桃太郎の真の歴史」
「ああ。だが、勘違いしないでほしいのは、世間に広がっている桃太郎と、桃木島に来た桃太郎は同一人物だとは言えない点だ。私も研究家でね、調べたのだが……時代が合わなかったり、言伝が間違っていたり、真実がどうかはわからないが、私は桃太郎の名を偽った詐欺師だとは考えている。が、ここは便宜上、敵を桃太郎と呼ぼう」
「……はい」
僕は今の話を聞いて、一つ驚いたことがある。それは……。
「でも、宿主から分離したアークリオンがその後、何年も、何十年も、何百年も生きるなんてあり得るんですか? 僕の考えだと、あり得ない気もします」
「流石だな」
「……!」
その言葉を聞いて、僕は目を大きく広げた。なぜなら、虎太郎さんはこんなことを言い始めたのだから。
「その通りで、宿主から離れたアークリオンはエネルギーが尽きて、長くても一ヶ月以内には消えるだろう。だが桃太郎のアークリオンは生きている。その理由は一つ。『桃太郎の腕輪』だ。桃太郎が生前にアークで作った腕輪がある限り、やつはエネルギーを受け取り生きることを可能にする」
「……腕輪!?」
「ああ。そして腕輪はやつの心臓でもある」
虎太郎さんは僕の頭にそっと触れた後、こう続けた。
「桃太郎のアークを閉じられる鍵斗くんがこちらにはいる。そして鬼はおそらく我々を探して入り口付近を捜索しているゆえに、腕輪の護衛は薄い。この条件、攻めるのにうってつけじゃないか?」
僕はその真意に気づき、こう返した。
「……つまり!」
「そうだ。桃太郎を倒すために、こちらから腕輪を奪取する。場所は鬼の状態の時に教えられた。案内する」
「……はい!」
僕は、強く頷いた。
正直言って、虎太郎さんの話は三割ほど理解できていない。
でも、桃太郎が悪さをして、島の人を苦しめているのは理解できたから。
幸せを守るために僕は行動する。
待っていろ、桃太郎。ここからは、僕たちの……反撃の時間だ。




