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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
38/48

第38話 お伽話の呪縛

 PM.6時。


 オレ、空錠鍵斗(くうじょうけんと)は垂れてきた水滴により意識を取り戻す。


 頭を打ち、洞窟の中で気絶していたようだ。


「……っ」


 全身に痛みが走る。まぶたが接着剤で固定されているかのように動かない。


 ゆっくり開こうとしても、全身の気だるさのせいで、震えて言うことをきかない。


 指先も辛うじてでしか動かない。


「……」


 何があった。


 巡らない思考。止まる情報。脳内が交通渋滞だ。


 だけど、


 脳内で交通整備をする陽向さんの姿が見えて、こう伝えてくれた。


「これからもよろしく、相棒!」


「……!」


 刹那、加速する交通網。僕の脳に届けられた失われた記憶により、僕は状況を理解した。


 『鬼』。


 そう、僕は鬼に襲われた。


 洞窟に入り、奇妙な絵を見つけ、人骨を視界に入れたショックで動きを止め、その隙に後ろから襲われたんだ。


 その時の僕は焦りながらも逃げて、鬼に対処する方法を考えていた。


 でも、逃げた先で数体の鬼に囲まれて、対処しきれずにやられかけて、命からがら逃げていると、穴に落ちて、ここに着いたんだ。


 なんてお伽話(とぎばなし)だろうか。


 穴に落ちてピンチを回避だなんて。


 いや、そんなことはどうでもいいな。今必要な情報は、鬼が複数いたという事実だ。


 これを、ツキバアに伝えないと。


 一人じゃ絶対に対応不可能だ。


「……!」


 でも、身体はそれを拒否する。動くことすらままならない、激痛。


 一寸先は闇というわけではないが、動けない恐怖は間違いなく闇だった。


 ここは微かに光がある。どこかに穴が空いているのだろうか、青白い美しい光が……この場を照らしている。


 頭に落ちる水滴は、僕の体を伝って洞窟を湿らせる。


 ここは、目を(つぶ)れば寝てしまいそうな場所だった。


「……でも」


 陽向さんにまた会いたいから。


 動け。


 僕は力を振り絞り、横に落ちているキーハートに触れた。


 指先から伝わる、金属の冷たさ。刃は折れ、持ち手は僕の血で汚れている。


 でも、まだ……。


「……!」


 ギュッと強くキーハートを握る。内から溢れるパワーが湧き上がり、僕のまぶたは開いた。


 しかし、まだ、辛い。


 でも……!


 ガシャッ、という音と共に伸びるキーハートの刃。僕はそれを杖のようにして、立ち上がった。


 なのに……運命はそんな僕を許さないらしい。


「おき……た?」


「……ッ!」


 暗闇からこちらへ近づいてくるのは、一匹の鬼。


 まだ、僕の身体は二本の足で立てるほど回復していない。キーハートも振れない。


 どうやって対処する。


 そんなことを考えていると、ふと気づいたことがあった。


「……襲ってこない?」


 鬼は、襲うどころか、その場でまるで何かに耐えているかのように震えて立ち尽くし、こう呟いていた。


「に……げろ」


「……?」


「今すぐ、逃げろオオオオオオオオ!!」


「……ッ!」


 その咆哮。強い想いが、辛い悲鳴が、僕の耳に届く。


 フラッシュバックする思い出。


 この鬼は……あの時に会った鬼だ。


 躍兎(やくと)くんと初めて洞窟に入った時に殴られた……その鬼。


「……あ」


 脳裏をよぎる、ツキバアとの会話。


 『鬼はアークリオンの可能性が高い』。


 そしてアークリオンは、アークの暴走であり、宿主である人は苦しんでいることが多い。


 つまり、鬼がアークリオンだとするならば、彼は苦しんでいるのではないか。


「……っ!」


 刹那湧き上がる、オレの正義感。オレはアークロックのリーダーだ。


 そんなオレが、ここで動かないでどうする。


 アークリオンならば、救うべきなんじゃないか。


 アークロックの活動として。


 オレは……ゆっくりとキーハートを杖にして移動する。


「近づくナ……あっ! がっ! もウ……」


 鬼はそう言って苦しむ。


 でもオレは止まらない。


 躍兎くんと約束したんだ。


 お父さんを必ず助けるって。


 不思議だったんだ。なぜ、鬼はオレだけを攻撃して、躍兎くんを襲わなかったのか。


 なぜ、ここに来た鬼はあなただけなのか。


(まも)りたかったんですよね。大切な息子を。そして、ありがとうございます。オレを今まで……(まも)ってくれて」


 これは賭けである。彼が、例の人なのかはわからない。でも、それでも救うべきだから。


 オレは不器用ながらに、陽向(ひなた)さんの真似をして語りかけてみたんだ。


 虚空から取り出すのは、白い鍵。僕はそれを鬼の体に()して、回した。


 そしてアークリオンは、宿主から離れる。


 第二形態に行くかと思われたが、アークリオンはなぜかくしゃくしゃに萎んで、溶けるように消えた。


「……」


 これを、僕は見たことがある。


 陽向さんの時と……同じ。


「嘘だ……」


 でも、今はそれどころじゃないらしい。


 アークリオンから解放され、中からイケオジが現れた。


 普通、アークリオンから解放されたら気絶するのだが、彼は頑丈なのか意識を保っている。


 そんな彼は、躍兎(やくと)くんのお父さん。


 僕は躍兎くんのお父さんに、こう伝えた。


「おかえりなさい、お父さん」


 アークリオンの呪縛から解き放たれた彼は、自身の震える両手を見つめながら、涙を流す。


 アークリオンの第一形態に、時間制限はない。


 何かの要因によりアークが解放され、運悪く暴走してしまった場合、『鍵使い(キーユーザー)』がアークリオンを分離しない限り、暴走してしまった者は永遠に閉じ込められる。


 それによるストレスは、想像だにできないほど大きいものだろう。


 それから解放されたのだから、この反応も頷ける。


 彼は、涙目で僕を見た。そしてこう述べる。


「ああ、ああ……! 解放されたのか……私は……!」


 そして、震える喉で僕に感謝を伝えたのだ。


「ありがとう、名も知らぬ男性よ。私を……桃太郎の呪縛から解き放ってくれて!!」


 僕は微笑みで感謝を返した。だが、『桃太郎』という言葉が引っかかり、こう呟く。


「……桃太郎? って! どわー!」


 だが、そんな僕など知らぬように、ぼろぼろの僕に突然、彼は抱きついてきた。


 足の筋肉が弱っているのか、彼はそのまま、僕を抱きしめてそのまま倒れる。


 僕は下敷きになりながら、トホホと思った。


 でも、これでいいんだ。


 幸せを守るのが……アークロックなのだから。


「待っていますよ、外で躍兎くんが」


「……ありがとう、ありがとう。息子に、会わせてくれ」


 涙を流しながらそう伝えてくる彼の笑顔を見て、僕はそっと微笑んだ。


 しかし……桃太郎とはなんなのだろうか。


 ■□■□■


 空錠鍵斗(くうじょうけんと)の知らぬ場所で、ある男はその異変を感じ取っていた。


 暗い、暗い洞窟の奥。そこにある鬼ヶ城で、宴が行われている。美しい鬼が踊り、屈強な鬼が酒を仰ぐ。


 その奥で鎮座する殿は、桃色の陣羽織(じんばおり)に身を包み、ポニーテールのように髪をまとめ、白い鉢巻をつけている者。


 そいつは、大きな顔を持ち、人ならざる体格を持っていた。


 腰には刀があり、背中には旗を背負っている。


 その男の最たる特徴は、腰につけたきびだんご。


 そう……それはまるで……。


 鬼の一人が、走りながら現れ、汗を散らしてその男の前で土下座する。


「すみません! 男一人を逃しました! 必ず見つけます! なので許してください、桃太郎さ……」


 ザッ、と振られた鬼殺しの刀により、首をはねられる鬼。


 その鬼は人の姿に戻り、他の鬼に腕を掴まれる。


(ろう)に入れておけ」


 そう述べるのは、太い眉毛を歪ませ、目に怒りを(とも)した男。そう……桃太郎であった。


 桃太郎は、遠くで、自身の呪いがいとも容易く『閉じられた』ことに屈辱を覚えながらこう述べる。


「あり得ない。オレの呪いを(はら)っただと……? 誰だ? オレの呪縛を取り払ったのは……!」


 その(うら)みは洞窟を駆け巡る。桃太郎は立ち上がり、大声でこう叫んだ。


 屈辱を誤魔化すように。


「あいつが逃した男を追え! そして必ず生かしてオレの前へ連れてこい! ここで……殺してやる」


 その、憎悪と不安がこもった怨みの目は、鬼を穿(うが)つ。失敗すれば自分たちが死ぬと、鬼たちは理解させられた。


 彼らは酒を置いて、鉄の棍棒を持って空錠鍵斗の捜索に動く。


 そして桃太郎は……あぐらをかいて、酒を飲む。


 彼の名前は桃太郎。


 そして、桃木島には伝説が残っている。


 桃太郎は鬼の王を討伐した。


 はたして、伝説の真実とはなんなのか。


 この洞窟の中に眠るお伽話(とぎばなし)が……現代に(よみがえ)る。


 AM.8時


 洞窟の外。合宿所の前で、五日目の朝を迎えるアークロックのメンバーは、同時に合宿所を出る。


 朝日の下で、陽向灯里(ひなたあかり)はこう叫んだ。


「鍵斗くんはまだ帰ってきてないけど、修行頑張るぞー!!」


「お、おー!」


 山田穂火(やまだほのか)水沢零(みずさわれい)は、どこか遠慮気味に答える。そんな二人に、陽向はプンスカと怒ってこう言った。


「こらこら! 今日は最後の修行日なんだからね! 明日は帰宅だし、もー! がんばろー!」


「それもそうですね」


「おー」


 それでも遠慮気味な後輩二人に、苦笑いする陽向灯里。そして彼女は空を見つめて、空錠鍵斗の帰りを待つ。


 修行は最終盤へと向かう。


 桃木島での伝説は……島に訪れた四名により、新たなページを刻む。


 その戦いの火蓋は、静かに切って落とされた。

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