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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
36/48

第36話 鬼の根城

 AM.8時


 なんとなく、一日が過ぎるのが早く感じるようになった。


 幼少期より学生の方が一日の体感時間が短くなるもので、それは経験を積んだ故の麻痺(まひ)からくる。


 つまりは、慣れたのだ。


 僕もまた、多くの人と同じように……この桃木島(ももぎじま)での環境に慣れた。


 あんなに長かった一日目は何処(いずこ)へ。気づけば修行が始まってから四日目になっていた。


 そんなテンポよく進む毎日だが、僕は少しだけ警戒している。


 理由は一つ。


 今日は洞窟を探索するからだ。


 あの鬼が住まう危険な洞窟の中に、きっと何かがある。だからそこを探索する。


 僕は師匠に用意してもらった基礎鍵を数えながら、腰のポーチにしまっていく。


 身体能力強化の鍵が四本、壁走りの鍵が二本、跳躍の鍵が二本、疾走の鍵が三本、剛力の鍵が二本、耐久の鍵が二本、感覚強化の鍵が四本、計十九本の基礎鍵。


 多いと思いつつも、師匠に感謝する。


 そして自室を出て、リビングに向かった。


 どうやらみんなも準備ができているようで、部屋に入った僕を一斉に見る。


 相変わらず暗い表情で、今にも怨霊(おんりょう)として(たた)って来そうな程だった。


 そんな三人に、僕はこう言う。


「みんな、僕は今日……洞窟の中に行こうと思っている」


 陽向(ひなた)さんが、怨霊の表情からいつもの顔に戻りながら不思議そうにこう()いてきた。


「鬼のやつ?」


「うん。この島には鬼がいる。その住処に乗り込む」


「……!」


 その僕の言葉を聞いて、全員の表情が固まった。


 空気が一瞬ピリつくのを感じた。だがすぐに陽向さんが(やわ)らげてくれる。


「うんうん、成長だね〜。昔なら絶対に私たちに言わずに行ってたもん」


 その言葉を皮切りに、穂火(ほのか)ちゃんと、(れい)くんもこう言い始めた。


「そうですね、安心します」


「気をつけてください、鍵斗先輩」


 僕は頷く。そして陽向さんが、ウィンクしながらこう言ったんだ。


「危ないって思ったらすぐに帰ってくるんだよ!」


 僕はそれに笑顔で返した。まったく、気持ちのいい仲間と清々しい朝である。


「了解。三人も頑張ってね」


「うっ!」


「ぐっ!」


「おげっ!」


 僕の一言を聞いて、なぜかダメージをくらう三人。


 こういう日常にも慣れてきたけど、大切なものなんだ。


 僕は、胸の前に手を持ってきて、強く拳を握りしめた。


 ■□■□■


 AM.10時


 洞窟に行くと言ったが、まずはツキバアだ。今から彼女に会いに行く。


 僕は穂火(ほのか)ちゃんの修行場所である神社に行き、お辞儀をする。するとツキバアはこんなことを言った。


「穂火は自主練じゃ。書物を読んでいろ」


「はい!」


 穂火ちゃんは目を輝かせて答えていた。見ていると、彼女は何かの巻物を読み始める。


 中二病な彼女が好きそうなものだと思いつつ、僕はツキバアを見た。ツキバアはこう言う。


「して、何の用じゃ?」


 僕はツキバアの目を見て、こう話した。


「前に鬼について話したんですけど」


「うむ」


「この島に鬼がいるのは確かです」


「……それは本当か?」


 目を大きく開いたツキバアを見て、僕は確信する。彼女は何かを知っていると。


 だがそれは穿(うが)()ぎであったようだ。


 彼女は(あご)に手を当てて考えた後、こう言う。


「すまないな。前は頭ごなしに否定して」


「い、いえ」


 謝られることは想定外であり、少し面食らう。


 ツキバアは背中が痛むのか、背中を叩いた後、僕にこう言った。


「長くなりそうじゃ、そこの切り株に座れ」


「は、はい!」


 僕は切り株に座る。ツキバアは落ちていた木の棒を地面に突き刺し、その上に足を曲げながら立った……いや座ったのか。


「……それ、リラックスできますか?」


 まるでどこかの仙人の様な格好に、僕は(いぶか)しむ心で苦笑いを浮かべてそう言った。だが彼女は、「気にするな」と言いながらこう続けた。


「まず言っておこう。ワシは鬼については知らん。人生で一度も見たことがない」


「……っ!」


「じゃが、知っていることはある」


「……!」


 ツキバアは、その神妙な面持ちを僕に見せてこう続けた。


「鍵斗よ、アークリオンのイメージとはなんだ?」


「イメージ?……怪物ですか?」


「その通りじゃ。アークリオンは、いわば人ではない異形の見た目をしておる。


 古今東西、その様な生き物は確認されているじゃろう?」


「……まさか!」


「その通りじゃ」


 頷くツキバアを見て、僕は喉を鳴らす。そう、つまり鬼とは……。


「昔の人は、アークリオンをこう呼んでいた。『妖怪』……と」


「つまり鬼は……」


「うむ。アークリオンの可能性が高いだろう」


 その聞き馴染みのある『アークリオン』という情報は、不明瞭だった鬼の情報にラベルを付ける。停滞(ていたい)していた思考が濁流(だくりゅう)に飲み込まれたかのように一気に繋がり合う。


 僕は笑みを浮かべた。


 なぜなら、アークリオンならば対抗できるからだ。


 僕は、一般人よりアークリオンに触れて生きている。


「質問です」


「なんでも聞け」


「鬼がアークリオンなら、アークから生まれているということ。でも、アークは『鍵使い(キーユーザー)』が心の箱を開けないと発動しないはずです。この島には『鍵使い(キーユーザー)』がいると?」


 この考え方には自信があった。だがすぐにかぶりを振るツキバアを見て、僕は心の高揚をそっと抑えた。


「いない。潜伏していれば話は別だが、私とお主の師匠であるシーラが調査した結果……見つけられなかった」


「……」


 僕は、師匠のことを一応信頼している。


 日常生活能力は低いが、アークに関する仕事力は僕を(はる)かに(しの)ぐ。一体いつ寝ているんだと聞きたいレベルで有能なのだ。


 ゆえに、『鍵使い』はいないと考える方がよさそうだ。


 であればなぜ……?


 そう考えていると、ツキバアはこう言い始める。


「ワシが生まれた頃から、この島では神隠しが起こっていた。三十年に一回ほどだがな。……その原因を(さぐ)ろうと動いたこともあったが、無駄に終わった。じゃから鍵斗」


「……?」


「もしお主が鬼を見たというのなら、(のが)すな。これは子どもであるお主に言っているのではない。アークロックのリーダーであるお主のことを信頼して言っておる」


「……ツキバアさん」


 僕は、その言葉がやけに嬉しくて、なのに表情には出なくて、ただ彼女を見つめたのだ。


 そんな彼女は、初めて僕に笑顔を向けてこんなことを言った。


「お前さんは一人前だからな」


「……はい!」


 そして、ツキバアは穂火ちゃんを見てこう続ける。


「穂火は才能ある巫女になるじゃろう。わしならあと一日あれば育てきれる。じゃからこっちは任せろ。鬼は任せたぞ、鍵斗」


 僕は、胸の前に手を持ってきて拳を作り、ツキバアに見せて笑顔でこう返した。


「任せてください!!」


 今思えば、あの時の僕はどこか……油断していたんだ。


 PM.4時


 学校が終わった躍兎(やくと)くんと会う。


 僕は彼に軽く「二時間後に帰ってくるね! ないとは思うけど、帰ってこなかったら、大人に言ってね」と伝えた。


 躍兎くんは「おう!」と言いながら、サッカーボールをいじる。


 そんな彼を見ながら、僕は洞窟に入ったんだ。


 基礎鍵の感覚強化を()して、持って来た懐中電灯を付ける。


 岩肌は乾燥しており、ザラザラしている。かと思えば、どこから(したた)っているのか頭に水が当たり、冷たさを感じる。


 空気も入って来ているのか、怖いくらい涼しかった。


 というか、寒いくらいだ。


 (こけ)も生えている、水も漏れている、そんな不気味な洞窟の中で、懐中電灯と強化された感覚を頼りに先に進む。


 だが、暗闇のなか、懐中電灯がチカチカと点滅し始めた。故障かと思い、一度消してもう一度付けた。


 ぽちゃんと水滴が落ちる音がする。——そこで僕は見たんだ。


 暗闇に隠され、光に照らされて姿を現した怨念を。


 それは、壁に描かれた、無惨な人の似顔絵。絵の具を使っている、明らかな人工物。


 人の目は潰されていて、まるで叫んでいるかのように口は大きい。そんな絵は、壁に大きく描かれていて、オレの背丈を超えるほどだった。


「……っ!」


 自分の表情が恐怖で歪んだのがはっきりとわかる。喉の奥で声が止まる感覚。


 グロテスクというか、(おぞ)ましい。


 錯乱状態で描いたかのような、謎の男の顔。


 それはまるで恨みを込めるかのように、傷つけられていた。


 怖くなり、オレは後退(あとずさ)りする。瞬間、足音を聞いたような気がして、後方を振り返る。


 通って来た暗闇の道を懐中電灯で照らすが、誰もいない。


 なのに、誰かがいるようで、足がすくむ。


「……」


 人工的な絵の具。悍ましい絵。明らかに、知的生命体がいる。


 息が荒れる、心臓の音が跳ね上がる。


 いつの間にか、この暗闇も耐えられない恐怖を与えてくる。


 オレは一体どこに入ったのだろう。


 いるのは、鬼なんだよな。


 鬼の洞窟なんだよな。


 いち早く帰りたくて、身体能力強化の鍵をポーチから取り出そうとした。でも、手が震えて上手くポーチを開けられない。


 ああ、そうか、オレは……怖がっているんだ。


 ゆっくりと鍵を取り出して、体に()した。


 大丈夫だ、大丈夫。


 なんとかな……。


「……ぁ」


 オレは見た。


 地面に落ちた、白骨化した腕を。


「……っ!」


 ■□■□■


 この島には……鬼がいる。


 バササッと鳥が山を飛び出したのを見た陽向灯里(ひなたあかり)は、不思議そうに宮島霊奈(みやしまれいな)にこう聞いた。


「なんか不安ですね。そういえば鬼について知っていますか?」


 そんな質問に、宮島霊奈は(いぶか)しむ。まるで、触れてはならないものに、触れてしまったかのように。


「……なぜ、そんなことを気にする?」


「いえ、鍵斗(けんと)くんが調べてて」


「……そうか、ならやめとけ」


「……なんで?」


 宮島霊奈(みやしまれいな)は、タバコの火をつけてこう言う。


 彼女がふと見上げた空は、どこか曇りで、不穏な影を残していた。


「なんでもかんでもねえ、鬼はこの島に存在する。問題は……一匹じゃねえってことだ」


「……一匹じゃない?」


 陽向灯里の脳裏に、今朝の会話がよぎる。


 心配になった彼女は、ふと胸の前に手を持って行った。そして、こう呟く。


「鍵斗くん……」


 空は依然(いぜん)として曇り。


 みんなと繋がる共通の空。


 でも、空錠鍵斗(くうじょうけんと)がそれを見ることは叶わない。


 洞窟の奥。さらに奥。


 微かに光が入り込み、青く照らすこの場で、命からがら逃げ延びた空錠鍵斗は、壁に背を預けて上を見た。


 赤い液体が垂れる。


 刃が折れたキーハートを握る彼の力も弱り、荒い息だけがこの場に響く。


 そう、彼は……


 満身創痍でそこにいた。


 もう、帰れない距離。


 PM.6時


 空錠鍵斗は……意識を失う。


 桃木島の木は不気味に揺れ、波音は規則的に叫んでいた。

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