ゲルハルトは激怒する。
私の名前はゲルハルト。
第1皇子だ。
いま、私は南の宮殿の庭園で、優雅にお茶を飲んでいる。
「う~ん。なかなか良い香りだ」
私が一人言を言うと、私の傍らに控えている執事が「そちらのお茶は、フォルクス侯爵から献上された物で御座います」と答える。
フォルクス侯爵か。
いま、彼は、裏切り者のコルテン伯爵とガーランド伯爵を匿ったブラウン侯爵の元へ、艦隊を率いて出陣している所だ。
ブラウン侯爵は、中立派の重鎮。
上手く彼を我が陣営に取り込めれば、我が派閥の力が増す。
そして、私の皇太子就任に一歩近付くと言う事だ。
ブラウン侯爵の派閥は、法衣貴族が多い。
だから、政治力には定評がある。
私のライバル、弟のハルベルト派は、門閥貴族が多く、帝国の要職に就く者が多い。
だから政治力では、ハルベルトに劣っている。
ブラウン侯爵が味方になれば、政治力でハルベルトに対抗出来る様になるハズだ。
吉報が届くのが、楽しみでならない。
私が、そんな事を考えながら、優雅にお茶を飲んでいると、幼馴染みであり、側近のエドワードがやって来た。
「たっ…大変です!殿下!」
「どうしたのだ?エドワード。そんなに慌てて」
「大至急、報告するべきと判断致しました!現在、宇宙局長の引き継ぎを行っている、デッカー侯爵からの報告です!」
「デッカー侯爵によると、南半球には既に宇宙港3ヵ所が完成済みで、もはや我々が新規に設置する余地が無いとの事です!」
「なに!どう言う事だ?」
「はい。既にチェスター殿下の名前で建設・設置の許可が降りていた様で…」
ガッチャーン!
ゲルハルトは怒りの余り、手に持っていたティーカップを投げつけた。
「何とかならぬのか?」
「既に宇宙港は完成しており、現在、開港に向けた最終チェックの段階だとか…現状では、どうしようも無いかと…」
「くそー!チェスターめ、余計な事を…」
ゲルハルトは、気持ちを落ち着ける為、深呼吸をした。
「エドワード。このままでは、私の面目丸潰れだ。私の指示で派閥の資金を投入したのだ。派閥貴族達からの不満が私に向かってしまう。何か良いアイデアは無いか?」
「ゲルハルト殿下の派閥貴族は、アンドロイドやロボットの使用を制限する法律に対応する為、仕度金を用意してまで移民を募っている状況です。どの貴族も資金の余裕が無く、貴重な派閥の資金を無駄にしたと知れば、良くは思わないでしょう…そうですね…貴族達の不満を外に向ける必要があるかと…」
「具体的には、どうするのだ?」
「そうですね…北半球にある3つの宇宙港はチェスター殿下の所有です。更に南半球に新たに3つもの宇宙港を所有する事になります。チェスター殿下が宇宙港を独占するのは、如何かと…」
「成る程!確かにそうだな!チェスターが1人で6ヵ所もの宇宙港を独占し、利益を一人占めするのは良くない!」
「はい。その通りです!ですから、次回の帝国議会で公共性の高い宇宙港の独占を禁じる法案を提出したら如何かと…」
「ふふふ…それは良い。チェスターが利益を独占していると知った貴族達は、良い気分はせぬ。派閥を越えて法案に賛成票を投じる事だろうな!ふふふ。今から楽しみで仕方無い!流石はエドワードだ!」
「派閥貴族達には、宇宙港建設をチェスター殿下に邪魔をされた。チェスター殿下が利益を一人占めしている。だから、法案を提出し、思い上がっているチェスター殿下にお灸を据えるのだと説明しては如何かと…」
「うむ。それで良い。では、その様に進めよ!」
「はっ。承知しました!」
彼らは知らなかった。
南半球の3ヵ所の宇宙港は、チェスターからハルベルトに譲渡されている事を。
ハルベルト派貴族達は、その事を知らされていて、法案に反対票を投じる事を。
また、中立派の貴族達も、チェスターが土星に建設した物流センター。
その土星の月に、各貴族領の名産品を販売する売店を出店。
チェスターの指示で、名産品の宣伝を行い、売店の売上が好調に推移し、かなりの利益を上げており、各貴族が恩を感じている事を。
彼らは知らなかった。
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私が執務室で仕事をしていると、エドワードがやって来た。
「たっ…大変です!」
「どうした?エドワード」
「それが…フォルクス侯爵が率いる、連合艦隊が敗北したと知らせが入りました!」
「何だと?ブラウン侯爵は、対した軍事力を持っていなかったハズだ。いったい何が起こったのだ?」
「それが…チェスター殿下、自ら艦隊を率いて、ブラウン侯爵の支援に現れたと…皇族への攻撃は、謀反と捉えられる危険があり、戦わずして撤退したとの事です」
「ふざけるな!チェスターなど、その場で葬ってしまえば良いものを…」
「しかし、それでは、フォルクス侯爵と共に参陣した派閥貴族達が、謀反人のレッテルを貼られ、討伐対象にされ兼ねません。そうなると、フォルクス侯爵への出兵を指示したゲルハルト殿下にも追求が及ぶかと…」
「くそー!!チェスターめ!横からしゃしゃり出て、余計な事を…」
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「フォルクス侯爵。何か申し開きがあるか?」
「はい。殿下!チェスター殿下が自ら軍を率いてお出ましになるとは、思ってもおらず…また、皇族である、チェスター殿下に弓引く事も出来ず、仕方無く撤退に至った次第で御座います…」
「…つまり、同じ皇族である、私自ら出陣しなかったのが悪いと言いたいのか?」
「いいえ、滅相も御座いません!しかし、あのまま、あの場所に留まっていれば、我々は反撃する事も出来ず、一方的に攻撃されてしまいます。そうなれば、殿下の軍事力が弱体化は避けられないかと…」
「成る程。つまり侯爵は、私の為に撤退したと言いたいのだな?」
「いいえ…決して、その…」
「お前達は、その場に留まり、名誉の戦死をすれば良かったのだ!もう良い!下がれ!!」
ゲルハルトは、怒りの余り、フォルクス侯爵と共に、今回出兵した貴族達を執務室から追い出したのであった。
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「殿下のあの物言いは、何だ!」
ゲルハルトの執務室を追い出された貴族達は、フォルクス侯爵の屋敷に集まっていた。
皆で酒を飲みながら、ゲルハルトへの不満を口にした。
「自分は安全な場所に居る癖に、偉そうに…」
「そうだ!我々はゲルハルト殿下の為に出陣したのに、労りの言葉も無く、戦死せよとは、いったいどう言う事だ?」
「我々が支えているから、次期皇帝争いに留まれている事を忘れておる…実に忌々しい…」
こうして、ゲルハルトと、彼を支える貴族達との間に、深い溝が刻まれた。




