ハルベルトとエリーゼは、お茶をする。
「ハルベルト様!本日は、お越し頂きありがとう御座います!」
ここは、エリーゼの父、ボーデン公爵が首都星に所有する屋敷であった。
上位の貴族は、3つの屋敷を所有するのが普通だった。
上屋敷。
中屋敷。
下屋敷である。
上屋敷は、貴族家当主が首都星に赴いた時に住まう屋敷である。
領地持ち貴族は、普段は自身の領地で、領地経営を行っているが、冬の社交界シーズンになると、帝国首都星にやって来る。
中屋敷は、当主を後継者に譲った元領主夫妻が住まう屋敷である。
現領主が、自身の領地で領地経営をしている間、元領主夫妻が首都星の中屋敷に残り、他の貴族や帝国との交渉や根回し、情報収集を行う。
そして、冬の社交界シーズンに、現領主夫妻が首都星にやって来ると、代わって領地へ赴き、領地で采配を振るう。
下屋敷は、首都星に屋敷を有していない寄子貴族達が、首都星に赴いた時、宿泊させる為の屋敷である。
下屋敷には、小さな屋敷が数件建設されているのが普通であった。
そして今日、二人がお茶をする場所は、中屋敷であった。
ボーデン公爵は、帝国の財務長官である。
従って、首都星を離れられず、常に上屋敷に在住していた。
そこで、元領主夫妻が領地に赴いており、中屋敷には誰も住んでいなかった。
しかし、そこは公爵家。
常に使用人達が屋敷の清掃を行い、庭師達が庭園の手入れをしていた。
エリーゼが貴族令嬢を招いて行うお茶会は、上屋敷で行うが、気心の知れた友人や、他人に知られたく無い話をする時は、この中屋敷を使用していた。
エリーゼは、ボーデン公爵家令嬢である。
だが、ハルベルトの婚約者でもある。
もし、敵対しているゲルハルトが次期皇帝に即位した場合、次期皇帝争いを演じていたハルベルトや、その関係者である自身を始め、ボーデン公爵家すら、どの様な仕打ちを受けるか分からない。
だから彼女は、実家のボーデン公爵より、ハルベルトの事を優先していた。
ボーデン公爵家の上屋敷では、ハルベルトとの秘密の会話が、父に漏れる事を心配した。
だから彼女が、信頼の置ける少数の使用人だけを連れ、この中屋敷にやって来たのであった。
「ハルベルト様。その後、宇宙港の方は順調ですか?」
「ああ、エリーゼ。順調だ。宇宙港を支える地上から宇宙へ伸びる塔は、チェスターの方で建設済みだ」
「その塔の上に設置する、宇宙港も建設済みだ。いま、宇宙を曳航中だよ!」
「警備の方は?」
「ああ、誰かに攻撃され、破損したら敵わない。だから派閥貴族達の私兵艦隊が警備しているから心配ない」
「報告では、あと半年程度で3ヵ所とも設置が終わると報告を受けている」
「そうでしたか!それは良かったですわ!」
そう言って、エリーゼが笑った。
「それから、ハルベルト様。チェスター殿下が新な領地を得たとか…」
「ああ、その報告も受けている。チェスター派だった建設長官の椅子を譲る見返りらしい」
「そうでしたか…これ以上、チェスター殿下の力が増すのは好ましく無いのですが…仕方ありませんわね」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。チェスターの領地も、建設計画が目白押し。積極的に政治に関わっている時間は無いんじゃないかな?」
「いいえ、ハルベルト様!チェスター殿下には、皇帝に即位する気が無くても、誰かに担ぎ上げられないとも限りません!だから警戒はしておくべきです!」
「ああ、分かったよ。エリーゼ」
「その後、ゲルハルト派の動きはどうですか?」
「ゲルハルトが南半球に宇宙港を建設しようと購入した土地なんだが、その内の2ヵ所で問題が発生したらしい」
「問題ですか?」
「ああ、何でも1ヵ所は元砂漠。もう1ヵ所も海を埋め立てた土地で、どちらの土地も、地盤が弱く、そのままでは宇宙港の土台となる巨大な塔の建設が出来ないらしい」
「そうなのですか!?」
「ああ、そうだ。それで地盤の改良工事をするんだが…担当する下級貴族は、ゲルハルトに相談出来ず、身銭を切って工事を進めるらしい」
「そうなのですね!でも、そんな事をしても、今さら宇宙港を設置するスペースは有りませんのに…でも、少しでもゲルハルト派の資金を減らすのは良い事ですわ!」
「いまだに宇宙港を建設するつもりらしい…無理だと気付いた時のゲルハルトの顔が見られなくて残念だよ!」
「ふふふ…」
ハルベルトとエリーゼは、互いの顔を見合せながら笑った。
「ハルベルト様。何でも、ゲルハルト派の貴族達が大規模な移民を募集中だとか」
「ああ、不足する労働力を補うのに必死らしいよ。仕度金を用意する貴族もあるそうだ」
「今までのつけが回ってきただけですわ!でも、その状況なら、政治に構っている時間は無さそうで安心しました。ハルベルト様。これから、どうなるのでしょうか?」
「う~ん…帝国から追徴課税を受けると言う、不名誉な事態は避けたいだろうから…手荒な真似をしなければ良いが…」
★★★★★
この暫く後、帝国首都星にゲルハルト派貴族達の私兵が集まり始める。
私兵の陸戦隊が、続々と首都星に集結した。
すると、謀反を警戒した帝国軍が、陸戦隊の増員を決定する。
皇帝が住まう宮殿や官庁街を中心に、帝国軍陸戦隊が展開し、物々しい警備態勢を敷いた。
その為、市民の生活も影響が及ぶ事態となった。
また、ゲルハルト派に誘発された、ハルベルト派の貴族や、中立派貴族達も、私兵の陸戦隊を首都星に送り込み、自身の屋敷へ駐屯させた。
呑気に通常の警備態勢だったのは、チェスター派の貴族達だけだった。
この緊張した事態は、ゲルハルト派の貴族達が、南半球に購入した土地に住まう住民達の強制移住が終わるまで続いた。
この結果、首都星に居住する一般市民達から、ゲルハルト派の評判を下げる結果となった。
噂を流し、人々の不満がゲルハルト派に向かう様、仕向けたのはミアとエラだった。




