ドアーフのドンガ②
俺達は通路を進む。
バイオレットが先頭を歩き、俺はその後に続く。
俺の後ろに護衛役のヘルマン。
更にその後に執事のクレストンと、商人のノアが続く。
俺達は通路を抜け、広い部屋に入った。
…酒臭い…
部屋の中には、ずんぐりとしたオジサン達が、寝ていた。
「こいつら!…チェスター様!殺りますか?」とバイオレットが聞いてくる。
だから「殺らないよ!」と俺は答える。
すると、部屋の奥にあるドアが開き、同じくずんぐりとした女性が入って来た。
この女性も、ドアーフみたいだ。
「なんだい!まだ寝てるのか!ちょっと待ってておくれ!!」そう言うと、エプロンの中からシンバル?みたいな物を取り出した。
どうやら、この女性がドックの入口を開けてくれた様だ。
この女性が着ているエプロンのポケットが、アイテムボックスになっているみたいだ。
女性は俺達を見て「耳を塞いでくれるかい?」と言う。
そう言われて、俺達は手で耳を塞ぐ。
すると「ジャ~ん!!」
塞いだ耳からも分かる位の大きな音が鳴り響いた!
床に寝ていたドアーフ達が、耳を塞ぎながら床にのたうち回る。
よろよろと、ドアーフ達が起き上がる。
「煩いぞ!リンガ!何しやがる!!」
1人のドアーフが、リンガと呼びながら文句を言った。
バイオレットが、文句を言った男性の所へ行き「貴殿がドンガ殿か?」と尋ねる。
「ああ、そうだ!所でお前さんは誰だ?」
「私はチェスター様の秘書のバイオレットだ!そして、あのお方がチェスター様だ!!」そう言って俺を見る。
するとドンガの首がゆっくりと動き、俺を見た。
「ふ~ん。随分と若いの~それで、要件は何だ?」
「貴様!チェスター様に向かって、その態度は何だ!殺すぞ!!」
「おい!バイオレット。静かにしろ。話が進まなくなる」
「はい…失礼しました」
「さて、ドンガ殿。俺はこの造船所を買収したいと考えている。当然、借金も総て俺が返済する。それと従業員やその家族の面倒も見るつもりだ!考えてくれないか?」
「ふ~ん」
これだけじゃ駄目っぽい。
ガブさん。
何か良いアイデアは無いか?
《はい。マスター。ドアーフは優れた職人であると同時に技術者でもあります。土星に建設中の物流センター。それに付随して、民間の輸送船の建造計画の説明をするのが良いでしょう》
そうだった。
全体像の説明が必要だな!
「バイオレット!土星に建設中の物流センター。それから輸送船。それらの説明を頼む」
「承知しました!」
バイオレットがアイテムボックスから機材を取り出す。
そして部屋の壁に投影しながら計画の説明をする。
「成る程…お前さんは、随分と豪快な事をする…わしは、そう言う男は嫌いじゃないぞ!だがな~う~ん…」
まだ、何かが足りないみたいだ。
すると、ガブさんが《帝国軍の主力級軍艦を建造する件と、それを改造する計画の一部だけを開示して下さい》
「バイオレット!領内での軍艦の建造計画と、その改造計画の一部だけを開示しろ!」
「はっ。承知しました!」
「なに!軍艦を建造するのか?」
お~!かなり興味があるらしいぞ!
バイオレットが説明する。
そして軍艦の設計図の一枚だけを投影する。
ドアーフ達が集まり話し出す。
「ここは、こうしたらどうだ?」
「おお!良いアイデアだ!」
「なら、こっちはこうした方が良くないか?」
「ああ、そうだな!」
設計図一枚だけなのに、あれこれとドアーフ達が意見を出し合う。
「おい!この図面だけでは分からん!もっと詳しい図面を出せ!」
そこで俺は「いや~部外者には、これ以上の情報を開示出来ないな~」
すると、ドンガが「そう言わずに頼む!」と言う。
「俺と組めば、民間船だけじゃ無くて、軍艦の建造にも関わってもらうつもりなんだけどな~」
「な…なんじゃと、それは本当か?」
ふふふ。
かなり興味があるらしい。
もう一息じゃないか?
《マスター。ドアーフは酒好きです。この世界には無い、清酒を提供する事を提案します》
清酒か…随分と懐かしい…!
ちょっと待てよ!
何で清酒があるんだ?
《マスターの前世の記憶を元に、スキル・ストック内のダンジョンに田んぼの階層を作成。そこで苗を育てて清酒を再現しました》
…なあ…ガブさん。
俺は聞いて無いんだが…
《…マスターの記憶を元に、コシヒカリの味と食感を再現。何時でも米が食べられるます!それから酒米を収穫し、清酒を醸造済みです》
そうなの?
まあ良い。
米があるなら、後で食べられる!
米か~!
遂に米が食べられるのか!
うふふ。
《マスター。ドアーフの説得が先です!》
ああ、そうだった。
「ドンガ!清酒って知ってるか?米って言う穀物から造った酒で、アルコールは18度位だったかな?」
「この世界では、多分…俺しか持って無い酒なんだが…俺との契約祝いで渡そうと思ってたんだが…仕方無い。バイオレット帰るぞ!」
「まっ…待ってくれ!契約しないなんて言っとらん!その清酒とやらを飲ませてくれ~!」
ふふふ。
勝負あったな!
ここまで来た甲斐があった。
それを聞いたバイオレットが、契約書を取り出す。
そして、ドンガがそれにサインした。
よし!
上手くいったぞ!
ガブさん。
酒を出してくれ。
《承知しました》
鏡開きとかに使う酒樽が5樽。
やや辛口が2樽と、辛口が3樽だそうだ。
こうしてドンガとの契約が終わり、ドアーフ達の宴会が始まる。
ドンガ達は、住宅兼工場を兼ねたこの小惑星の外側に、ブースターを取り付けて、軍艦の造船設備のある木星付近まで、小惑星ごと移動して来るそうだ。
後の事は、御用商人のノアに任せて、未成年の俺は転移門でビスマルクに戻る。
艦内の部屋で、執事のクレストンに渡した米が、炊き上がるのをワクワクしながら待つのだった。




