3.皆は幸せになるのよ
「お茶を持ってきました」
そこへリリアが現れたので、手招く。
「ねっねっ、リリアは第一王子派? 第二王子派?」
「奥さま、なんの話をしているんですか……旦那様が嫉妬しますよ」
私の質問を聞いたリリアは呆れた顔をした。
最近よく怒られるのよね。この分だと断られてしまうかしら。
「私は断然、陛下派ですね」と紅茶のポットを手にした。
「まあ、陛下? なるほど、陛下という選択もあったわね」
「お髭の形が綺麗ですし、渋くて格好良いです。あの良さはまだ王子では出せませんね」
などと鼻で笑った彼女に、私とアリエッサは感心してしまったわ。
「お年は召されていますけど、陛下って今も格好いいですよね!」
「それでしたらリリア、執事も好みでは?」
「はい。ですので奥様にも協力していただきたく」
「ア、アイザックじゃダメかしら?」
そういえばまだ結婚していないと言っていましたけど、まさか本気で考えていないわよね?
最近「リリアはどんな男性がタイプでしょうか?」と照れながら聞いてきたアイザックの顔が浮かんで、私は困ってしまいました。
「どうしてアイザック様の名前が出てくるんです」
「そ、それは」と緩く手を握ると、リリアが瞬きました。
リリアは実家からついてきてくれた、私の大事なメイドです。
彼女にも幸せになってほしいわ。
それに、協力しますわとアイザックに言ってしまったもの……どうしましょう。
「冗談ですわ、奥さま。さすがに執事は観賞用だと思っています」
「は、早くそれを言ってちょうだい! 本気かと思ったじゃないの……」
私を見て、どうしてかリリアもアリエッサもくすぐったそうに笑うのです。
恥ずかしくなってきて、どうしましたのと二人を見比べます。
「ありがとうございます、奥様」
「あははっ、思ってたより面白い人かも!」
リリアには頭を下げられ、アリエッサには腹を抱えて笑われたわ。
私はどうして二人が面白そうにしているのか分からず、首を傾げました。
「私たちは夫人が好きってことですよ」
頬に指を当てたアリエッサが、リリアに寄って腕を組みました。
急に距離の縮まった二人が羨ましくて、私は声を上げます。
「わっ、私も二人のことが大好きですわ!」
そう主張しますと、二人は目配せをしてそれぞれ別の方向にため息を落としました。
「な、なんですの……?」
「いえ、なんでも」
とリリアは言いましたが、
「それは侯爵様に言った方がいいですよ」
アリエッサは手を広げて上下に振りました。
それを聞いて名案を思いついた私は、そうですわと手を叩きます。
「アリエッサ、お昼を一緒に食べませんか? 侯爵様もそろそろ休憩時間ですから、三人で!」
そう提案した私に、アリエッサは額に手を当てました。
いけないわ、頭が痛いのかしら?
リリアに薬を持ってきてもらいましょうか……いいえ、お医者様にお見せする方がいいかもしれませんわね。
「なんで王宮から送られてきた監査官なんかと、大好きな夫を引き合わせようとするんですか? 夫人のそこだけが理解できないんですけど」
「お二人の相性がいいと思ったからですわ。きっとロマンス小説のような大恋愛になりますわよ」
手を握りあわせて昔の二人に想いを巡らせます。
ですが、アリエッサとリリアは冷め切った目を向けてきます。
ど、どうしてそんな目をするのかしら……? 私は未来を知っているのですよ。
「この際ですから、ハッキリ言っておきますけど。私は侯爵様と不倫したいとか思ってませんからね」
「えぇっ、どうしてですの!?」
侯爵様は素敵でしょう、格好いいでしょうと言い募ります。
「どうしてもこうしてもないでしょ!?」
アリエッサはテーブルに手を突いて立ち上がって叫びました。
「愛し合っている夫婦を邪魔するなんて、ぜ~ったいに嫌! ですから!」
ご飯も一緒に食べませんから! と怒って、アリエッサは座りました。
開いた帳簿に顔を突っ込んで吟味し始めてしまいます。
アリエッサの頑なな様子に、手を伸ばすが引っ込めます。
「そんな……」と私は項垂れてしまいました。
私は本当に、名案だと思いましたのに。




