第9話「まだ、帰れない」
「なんだと!?」
これまでで1番大きな声だったと思う。
車の中でダンさんが大慌て。
その原因は僕達がここに来た理由とたまたま得られた情報。それと出会った相手が問題…なのは当然のことなのだが。
まさかこんなに大きい声を出すとは。
「ではそれが」
「はい。フリーカに持たされました。罠だという可能性の方が大きいとは思うんですけど」
「確かに外見は本に見えなくもない…厚さからすれば1ページどころか2、300はあるように見える」
「200ページくらいはありそうですよね。僕もそう思います」
「柊木様。その本を開く条件は」
「終の解放者のメンバーを殺すことです。4人。ダルダ、オガル、ミスネ、フリーカ…」
「4人も殺せば向こうにとって大打撃でしょうから。報復を目的とした一種の爆弾かと」
「…え」
それを聞いて無言で凪咲さんが影の本を僕から奪い取った。
「なら捨てた方がいいよ」
「爆弾も可能性の1つだ。そもそも、話し相手になるだけで見逃すという選択をしたフリーカのことだ。終の解放者の中でも忠実というよりは自由な存在…裏切りとまではいかなくてもこちらに有利な情報が」
「それも可能性の1つだよ」
「では間をとってこちらで預かるというのはいかがでしょうか?」
ジュリアさんが提案。
それによって車内が静かになる。
「…あ、こっちのことは気にしないでくださいね。何話してるのか全く分からないし運転に集中してるので」
気まずくなって運転手さんが口を開くほどだ。
「真、どうする?」
「もし爆弾のような危険物だった場合、ダンさん達は…」
「ご主人様なら再構築が」
「ジュリアさんは?」
「問題ありません」
「………でもそれなら僕達だって変わりませんよ」
「真。隣を見ろ」
ダンさんに言われて隣に座る凪咲さんを見た。
めちゃくちゃ僕を見てた。目が合ってドキッとした。
「心配…ですよね」
「うん。真はあまり創造しないし、ダンに預けた方がいいと思う。何かあった時冷静に対処出来るのもこの2人だし。…真に何かあったら私、暴れちゃうだろうから」「預けます」
そこまで言われれば十分だ。
話の途中だがジュリアさんに渡した。
「ではこちらで保管を。…柊木様」
「なんですか?」
「どうしてフリーカとの戦闘を避けたのですか?」
「……状況は、決して悪くなかったです。真っ暗な病院内も凪咲さんの魔法で蛍光灯よりも明るくなってましたし、なんとなくですけど…凪咲さんの調子も良さそうに見えて……でも。フリーカを目の前にして感じたんです」
「何をですか?」
「強キャラ感…です…!」
車内がまた静かになった。
走行中の車の音だけが僕の味方だ。
「ダンさんはネット上に投稿される小説とか読んだりしますか?異世界転生とかそういうのを」
「…いや、読まない。私が読書をする時は創造したいものに関係のある本を選ぶ」
「あ、それすごく効率的…じゃなくて。僕が読んだいくつかの小説には、当然のように存在する枠があるんです。それが、組織の幹部が実はボスよりも強かった…っていうのなんですけど。分かりますか?」
「なるほど。言いたいことは分かった。現実社会でも似たようなケースはある。社長より能力が優れている社員というのはそこまで珍しくない」
「フリーカはまさにそれだったんです。考えてみれば影の倒し方に正解はありません。どれだけ強い光で照らしても影は生まれますし、影が無くなればいいわけでもありません。それに…屋上でフリーカと話していて、本当に戦わなくてよかったって思ったんです」
「真…」
「凪咲さんが弱いわけじゃないんです。フリーカは外見もそうですけど…僕達の前で創造した時。あの時、本を持っていなかったんです。発光も無かった…そんなことって出来るんですか?本に触れずに創造するなんてこと…」
「……ジュリア」「はい、ご主人様。柊木様、こちらを」
ジュリアさんは自分達の創造の書を取り出して僕に渡した。
「なんですか?」
「私は今、本に触れていない。その状態で……READ」
「……何も…起きてない…ですよね?」
「ああ。では次だ」
ダンさんは僕の方に手を伸ばし、僕の膝に人差し指で触れながら
「READ」
「…これも」
「ああ。となるとやはり」
次は僕が持ってる本に人差し指で触れて
((READ))
やっぱり。本に触れながらじゃないと創造はできない。
フリーカは影そのもので、本の場所も分からない、何かに触れてる様子もなかったのに創造できたなんて…。
それはそうと…創造した時、READという言葉の響きが少し揺らいで聞こえる。
そうか。成功すると聞こえる印象も変わるのか。
そして発光。本の上に出現したのは…
「輪っか?」
「真。私からの贈り物だ」
「え?え?」
銀色の輪っか。そこまで大きくないから武器とかではなさそう…
「アクセサリーなんじゃない?」
「あ、」
「その通りだ。手首に着けたまえ」
「はい…っとと」
意外とひんやり。右手を輪っかに通してみた。
…ピッタリだ。手を握ったり回してみたり、腕を曲げたりしてもキツくない。
かといって隙間の分ブラブラと揺れて邪魔になるわけでもない。
「緊急時にはそのリングに強い衝撃を与えろ。そしたら」
「そ、そしたら」
「面白いことが起きる」
「え。教えてくれないんですか!?」
「正しく言えば、教えないのではなく、教えられないということだ。だが必ずその身を守る力になるだろう」
「…あ、そういうことなら…ありがとうございます」
「ダン。これいつ考えたの?」
「君が自宅を守るために創造をしたいと言った時だ。私も真も、どんなに武装をしたところでただの人間。忘れた頃に役に立つ装備を用意することが効果的だと考えた」
「……タイミングっていうか運命っていうか」
「どうした?」
「終の解放者っていう代行の集団がいて、それに関わってしまった私達がいて。代行同士はよっぽどのことがないと…普通は殺し合いになる。これから大変だなって」
「………大天使」
「真?」
「凪咲さん。半里台には言い伝えがあるって話しましたよね。終わりを知る大天使が…って、覗きの指輪で見たこと…今ふいに繋がって」
「なんだ。何の話だ」
「…終の解放者っていう名前、半里台の大天使の言い伝えと関係があると思うんです」
ダンさん達は反応に困っている。
凪咲さんは…分かってくれたみたいだ。
「僕が創造した覗きの指輪は、着けてる状態で対象に触れれば考えてることや断片的な記憶を覗き見ることができる効果があるんです。でも、僕はその対象が人とか動物とか限定だと思い込んでて。さっき病院で床に付いて乾いた血に触れた時にも発動したんです」
「そこで見たのか。オガルのそれを」
「はい。確かに、オガルの誕生の瞬間も衝撃的だったんですけど。よく考えてみれば、オガルを創った…六島先生と呼ばれてた男性も言ってたんですよ。大天使がどうのって。凪咲さんも病院の中を調べてたら六島先生にたどり着いて」
「うん。すごく人気っていうか、怪しい感じ。それで真と、六島先生が患者達を洗脳したんじゃないかって話してて」
「オガルを創ったということはオガルより立場が上。それと…フリーカが僕に本をくれた時に挙げた名前…」
「ふっ…ふははははは!!」
「…ダンさん?」
突然笑いだした。
「フリーカにその六島先生について聞いたか?」
「あ!…聞くべきでしたね」
「それでいい。向こうは私達が知ったことを知らない。そのままでいい」
「全員考えが一致したということです。フリーカが殺せと言った名は恐らく終の解放者の中で同程度の実力を持つ4人。フリーカに与えられた役割からして全員が幹部クラス。そして終の解放者のトップ、ボスの名前が六島」
「……」
また車内が静かになった。
「あは、なんかあれですね。サスペンスドラマで犯人が分かった時みたいなね、…すいません、黙って運転します」
タクシー運転手だったからつい乗客と会話する感覚で反応してしまったのだろう。
「六島先生については私が調べておこう」
「あ、お願いします」
「ねぇ真。私達…ミスネには会ったことあるよ」
「…あ!サラさんがオヤブンさんを創造した時の!」
「そう。ミスネは相手の1番苦手なものを生み出すっていう創造をしてくる。あと暗いのが好き。お化け屋敷とか」
「…2度と行きたくないです」
「ミスネ、オガル、フリーカ。お2人は幹部クラスの3人を知っているのですね」
「あとはダルダか…」
「……ご主人様」
「どうした」
「1つ、よろしいでしょうか」
「…え?私?何?」
ジュリアさんがダンさんと凪咲さんを交互に見てる。
「三剣猫でのことです。トゥカミが襲撃により殺され、それぞれが別行動になったのを覚えていますか?」
「僕、覚えてますよ!」
「その時に」
…あれ、ジュリアさん、無視?
「オガルがいました。終の解放者が関係していたとすれば、見えてくるはずです」
「……なっ」「…あ!」
「え?え?なんですか?」
「…ごめん真。もしかしたら真はちゃんと見てないかも」
「……仲間はずれ」
「違うよ。そうじゃなくて、たまたまで」
「私はジュリアと共に撃破した」
「はい。そうです」
「…あいつがオガルを呼び出して」
「そうです。あの男です」
「……誰なんですか…」
「えっとね、ダンと真を旅館まで逃がす時に私離れたでしょ?」
「はい」
「その時に戦った代行がオガルの関係者なら。しかも、オガルを呼び出すってことは」
「………すいません分かりません」
「もう。いいよ、ジュリア続けて」
凪咲さんは僕の肩を抱いて引き寄せた。
自然と膝枕をしてもらって、頭を撫でられて…恥ずかしいけど一旦全部がどうでもよくなった。
「柊木様は?」
「大丈夫。…六島先生は精神科医で、半里台総合病院で働いてたって考えるのが自然」
「今思えば、あの男が着ていたのは白衣にも見えたな」
「はい。なので当然、あの代行こそ六島先生と呼ばれる男かと。そして私達はあの男の創造を見ています」
「そっちも見たんだ?あれって使者じゃないよね」
「ああ。死者だった」
「はい。どう見ても死者でした」
3人の今のやり取りが意味不明だった。
聞いてるだけでは誤解してしまう。紙に書けば分かりそうだが。
「水死体みたいな」
「私が見たのは水死体ではなかった」
「とにかく死体を使者として創造するようです」
「…あの時は殺したと思ったが」
「はい。間違いなく殺しました」
「殺したの?」
「両手で頭部を挟み、押し潰しました」
「……フリーカが言ってた。終の解放者は"全員"、死んでも生き返るって」
「……馬鹿な」
「まだ分からないけど、六島先生も生き返ってるかも。オガルもそうらしいから」
「ご主人様。次に会った時は"本気"で殺すのが良いかと」
「だな」
「あ、あれ?…ご主人様?」
「どうした」
運転手の様子がおかしい。
車もゆっくりに…というか停車した。
「このトンネルの先に行きたいんですが…なんか…あれ…」
起き上がって前方を見た。
車内全員で…車のライトが照らす先を見ていると
「人か」「人です」
「なんか多くないですか」
「…パッと見で20人以上はいるかな」
トンネルの途中に人がいっぱいいる。
こっちを見てじっとして…不気味だとか怖いだとかそういうのは一切なかった。
ずっと車内で話してたことを思えば。
「道を塞いでいるのか」
「…半里台に住んでた人達でしょうね。半里台に訪れた人間を生きたまま帰らせない、みたいな…」
「洗脳されたままってこと?」
「無意識ですよ。きっと」
「うぃやああああああああああ!???」
奇声。
「わぁっ、何なんですかあれ!こっ、殺される!?」
「大丈夫だ。問題ない。だが…創造の力が加わっているのならそのまま突っ込んで轢き殺せとは言えないな」
「ご主人様!?」
「ジュリア、降りるぞ」
「はい。ご主人様」
「真。私達も」
「はい」
「あ、あの…!?」
車から降りるとすぐに凪咲さんの足下に魔法陣が。
「ダンさん、ジュリアさん、少しの間でいいので目を閉じて息を止めていてください」
「先制攻撃か」
「にもなりますけど、僕達のためになることです」
「うふふっ。ありがと。真…行くよ」
「今です!」
今。この瞬間。この瞬間に、僕達と"終の解放者"との戦いが始まった…気がする。
………………………to be continued…→…




