第10話「殺る。殺られる。」
「ジュリア!行って!」
てっきり魔法の詠唱をするのかと思った。
凪咲さんの声に合わせてジュリアさんが姿勢を低くして飛びだした。
そして僕達の前には
「っ、強い光だ…!」
「凪咲さんの魔法です!」
「フレイム・サン。邪悪なるものを焼き消せ」
強光が形になりトンネル内に生まれるとふわふわと天井付近へ移動した。
これで
「見えるぞ…!」
「私も行ってくるね!」
僕とダンさんはフレイム・サンを直視できない。
目を逸らした先にちょうど彼女がいたから見ていた。
両手に剣を持つその姿が一瞬ブレたかと思えばパッと消える。
「はや…い」
ダンさんが小さく驚いた。
でも驚くべきは
「殺せ殺せ殺せえええええ!」
「大天使さまぁぁぁっ!」
明るくなってちゃんと見えるようになった敵の姿だ。
服装は最近のものだが土や葉が全身に。何人かは裸足だ。
戦闘前からボロボロになってる人もいる…どうして…。
「包丁、バット、エレキギター…それぞれ家にある物を持ってきたようだな」
暗闇に目が慣れるように、強すぎる光源が近くにあっても慣れてくる。
本能的に直視を避け、トンネル内を見渡す。
ジュリアさんは集団の中へ入っていって周囲からの攻撃を無視しながら1人ずつ倒していく…凪咲さんは
「はぁっ!!」
戦闘に不向きな格好なのに。
飛び蹴りで何人かを巻き込みながら吹っ飛ばし、寄ってくる男女の腹に剣を握ったままの拳をねじ込む。
「あれを見ろ。ジュリアが指をへし折っても怯まない」
「え?」
「人間の姿だが手加減は無用だ。殺す気で戦わせろ」
「は、はい!」
凪咲さん。ダンさんの指示です。遠慮なく…殺す気で戦えと。
伝えてすぐに動きが変わる。
回転斬りで近くにいた人達がバタバタと倒れていく。
ジュリアさんもダンさんの指示を受けてからは首、顎、額をよく狙うようになった。
「あの人達、別に強いってわけじゃないんですね。数の暴力でどうにかしようって印象です」
「…代行の下僕か。使者にもなれず戦いに巻き込まれるとは不幸だな」
「洗脳する創造。簡単じゃないですよね?」
「自分に好意を抱かせる、指定した場所へ移動させる…簡単な操作ならそこまで難しくないだろう。だが他人に影響を与える創造は難易度よりも消費が厳しい。ここに来ている人間達を操るだけで相当なはずだが」
「あれ?ジュリアさんが戻ってきます」
めちゃくちゃ足が速い。…凪咲さんの方が速いけど、ジュリアさんのスピードでも異常だ。高速道路を調子よく走ってる車を余裕で追い抜かせそう。
「ご主人様、柊木様。離れるようにと」
「凪咲さんがですか?」
「はい。あの光を爆破すると」
「なに…!?」
「ト、トンネル崩れたりとかしませんよね…」
「車まで下がってください」
1人戦闘を続ける凪咲さんは全員の足を狙ってる。
もう4人くらいしか立ってる人はいない。倒れた人達は足に力が入らなくて立ち上がれず、凪咲さんの方を見ながら手を伸ばすだけだ…。
「痛覚を失い、ひたすら目標を殺そうとする。複雑な洗脳ではありません。ですが…」
車を盾代わりに。隠れながらジュリアさんが取り出したのは
「これ、電車の定期ですか?」
「はい。都内在住の人間がわざわざこんな場所まで。当然、移動手段は」
「電車じゃ時間がかかりすぎますよ」
「走ったのか」
「帰宅中に創造の効果が現れたのかと」
「都内か…半里台から離れた人間が移り住んだ場所から人を殺すために戻ってくる洗脳と考えると」
「あ」
胸騒ぎというか。僕が声を漏らした瞬間。
ッッッッッッッ!!!
「伏せてください!!」
ジュリアさんが頭を下げるように押さえつけた。
道路を間近で見ているのに、視界が白くなっていく…!
これがフレイム・サンの爆発…直撃したらどうなってしまうのだろう。
車がガタガタ震えるのが聞こえる。
「くっ…君のパートナーは驚異的に成長したようだなっ…移動速度、魔法攻撃…三剣猫で何があった!」
「そう言われても!特に変わったことなんて」
………ある。
直接の原因になりそうなことを、暴走する直前にしていた。
でも、あまり言いたくない。
「暗い。光が消滅したようです」
ジュリアさんに言われて立ち上がると嘘みたいに真っ暗で、車のライトでさえ頼りない。
「呼び戻したまえ…どうせ敵は全滅している」
…凪咲さん。無事ですか?戻ってきてください。
「大丈夫だった?」
「うわっ!?」
「ごめん。びっくりさせた?」
「もう瞬間移動の領域ですよ!!」
「魔法の応用なんだけどね。ところで。あの人達、普通に殺そうとしても無理そうだったよ」
「…そうなんですか?」
「ジュリアも分かったと思うけど。創造の力で洗脳されてる以外にも何かある」
「洗脳以外の効果か?」
「うん。あれ、肉体ごと消さないと死なないんじゃないかな」
「その感じだと…凪咲さん?さっきのフレイム・サンの爆破で」
「全員いなくなったよ」
「あ…そ、そうですか」
「引いてる?」
「死なない、か。…予想以上だな。急いで帰るとしよう。終の解放者…特に六島についてはすぐに調べる必要がある。代行の能力だけ見れば私達よりずっと上だ」
珍しく?ダンさんが汗をかいていた。
車内に戻る時、今更すぎるが運転手が無事か心配になった。…でも
「………っ………っ?ご主人様?あ、あ、もう…もう終わりました?」
座席で体育座りして顔を両膝の間に埋めていた。
ダンさん、代行とかの説明はしないつもりなのだろうか。
理解できないようなことがこれだけ起きると普通の人はどうなってしまうのか…
「今度こそ帰るぞ」
帰りの車内はピリピリした雰囲気だった。
ジュリアさんと凪咲さんがずっと警戒していて、ダンさんは小さくぶつぶつとひとりごと。
僕は僕で……三剣猫でのことを思い出していた。
彼女とのキス。それと…相思相愛が条件なのではないかと予想したレベル3。
今、凪咲さんはレベル3なのでは。
………………………………next…→……
「あらあら…あらあらあら…派手に死んだのねぇ」
都内某所。
無音で舞い降りたフリーカは、地面に広がる血の海に尻尾の先を
「つけるのは止めておこうかしら。ダルダったら懲りないんだからぁ…今は本が優先で赤髪は」
「俺がなんだって?」
暗がりから声がする。
「うふふふふ。かくれんぼが上手なのねぇ…もしかして待ってたの?」
「ようやくちゃんと会えたなぁ。お前が"回収役"か。死体も本もちょっと目を離すと無くなっちまってるもんなー」
ピチャ。
血の海に1歩、踏み込んだ足先が見える。
それに注目したフリーカだが
「無・駄・よ?」
尻尾は背後に忍び寄る別の存在へと向けられていた。
「なんだよー。実は戦闘向きなのかお前。なに、最終兵器ってやつ?…モモ」「戻った」
「子供の使者?そういう趣味なのかしら」
「お前にはそう見えてんだな。……」「出来る」
「頭の中でお話してるのねぇ。私を殺そうと思うのなら、もう無理よ?」
「そうか?ダルダもミスネもオガルも俺がトラウマになるくらいぶっ殺してやったけどなー」
「殺したのはあなたじゃなくて使者でしょう?」「イーヴィル…」
「甘いわ」
ズバァァァン!!
ド派手な攻撃音が鳴る。しかしフリーカはその場から動かず
「影を斬るなんて無理よ」
「残念。そいつが斬ったのは影は影でもお前の心の影。自覚しろよ…痛みを」
「おっほほほほほほほ…!!」
「…は?」
「私を何かと同じにしてるのなら、何回戦っても私を殺すなんて無理ね」
「チッ」「守る」
フリーカが伸ばした影に反応し、薄いバリアが展開する。
「ん~…カチカチね。オガルの攻撃はそれで防いでいるみたいだけど…」
「おいおい!それってアリかよ!」
「アリなのよ。どうする?」
影は地面に潜っていく。
バリアの下から攻めるというやり方は
「やるじゃん」「…分かった」
ブシュッ。
「この手応え…あぁっ…心臓を一突き。気持ちいいわぁ…」
影が縮む。獲物がフリーカの前へ運ばれてくる。
姿を見せたのは、赤髪の女。
「あなたのおへそから侵入して…まっすぐ心臓まで貫いたわ。今のあなたは痛みを自覚してるの?それとも…創造で痛覚を取り去ったのかしら」
「っ…」
「聞くだけ無駄よねぇ。他の子…特にオガルなら。こんな状況になった時油断して…さっきの使者に殺されるんでしょうねぇ。あなた、使者を逃がしたわね?」
「ははっ…」
「敵の代行が瀕死になることがどれだけ美味しい状況か。そう、あなた…自分を餌にしたのね」
「…嬉しいか?終の解放者にとって俺は…っ…」
「………演技は下手。目を見れば分かるわぁ。あなたは死ぬのを恐れていない。むしろ逆ね。待ち遠しく思ってる……蘇生する創造が目的なら」
ボキッ!…ゴキッ!
影が赤髪の女の体を締めつける。
強く…さらに強く。骨を砕きながら影が上半身を包み込んだ。
「逃がさないわ…!」
「っひひ!…目も鼻も口も付いてねえのっぺらぼうが!………覚えとけ。お前らを皆殺しにする…"神"の名を」
「っ……な…に…これ」
「結子…天使 結子…!!」
「あなたが…こわい」
「来いっ!!!」「斬る」
どこからともなく聞こえた声は、結子の首を体から離してしまった。
「………影で掴んでいた体が消えていく…そう…蘇生を許してしまったのね…。六島先生のよりすごいわ…!」
立ち尽くすフリーカ。
硬直して数秒後、気づいた。
「わざと負けた…!?私に見せたのは既に他の子達にも見せた創造。別に知られても問題ない…なら何が目的?私を見ること?…私の…創造を見ること…!」
………………………………next…→……
「っと。あー、だるっ。ここどこ?」
「1km離れたアパートの屋上」
「そっか。モモ。お前は代行探し行ってこい」
「分かった」
「お疲れー…ふぅ。で?お前はちゃんとやることやったか?」
「はい!名前はフリーカ。代行兼使者型。創造は影魂。肉体を影に変換し、魂を紐付けることで実質不死となる…」
「実質ならちゃんと殺し方があるのか?」
「創造の書を狙う…しかないです…ぷす!」
「お前そのぷすぷす言うのやめろって。そうかー…じゃあ普通にやったら勝てないよなー」
「ママ…」
「ママって呼ぶなって。それも何回も言ってんだろうが。んー…あー、良いこと思いついた。アイツに殺ってもらお!天才だな!俺!」
………………………to be continued…→…




