第8話「フリーカからの贈り物」
「それじゃあ始めましょう?敵も味方も忘れて…秘密のガールズトークを」
「…僕、男なんですけど……」
屋上。
月が雲に隠れている。悪天候とは言わないがものすごい曇り空で、肌寒い。
何にもないこの場所からは半里台の地が見渡せる。
とはいっても建造物のほとんどが崩壊しているから大して綺麗な景色ではないのだが。
失われた世界…みたいな。
「ほらほら。あなた達も座りなさいよ」
フリーカは上機嫌だ。自身の能力を使って病院内から椅子とテーブルを運んできた。
…どちらも影で形成された足が生えていて、生き物みたいに四足歩行で動いている。
……僕のあの発言は、ある意味で大成功…だったのかも。
………………………………next…→……
数分前。
「おほほほほほほっ!面白いこと言うのねぇ坊や。それは不利を認めての発言?」
「私達なら勝てるよ!任せて!経験ならあるんだから!」
フリーカと凪咲さんが少し遅れて返事をした。
フレイム・サンがあれば暗くて見えないという悪条件は無くなる。上手く操れば影の出現位置もこちらでコントロール出来るだろう。
それでも。相手は魔王ではない。創造の力が加わった存在なのだ。
人間が想像したものではなく、神の力によって創造されたものが相手なのだ。
経験の有無で簡単に片付けてはいけない。
「っ……」
表情なんて分かるはずがない。でもフリーカがにやけているように見えた。
凪咲さんは…僕の思考を読んで考えを改めたみたいだ。
それでも変わらず僕の前に立って守ろうとしてくれている。
「あなた達が話し相手に…ふーん…」
「ダンを呼ぶのが前提になるけど、私の魔法なら影を消し去ることも出来る。真のことも傷つけちゃうけど…」
戦わずに済むならその方がいいです。
…それに、相手は満更でもない様子です。終の解放者について…もしかしたら"六島先生"についても何か話してくれるかもしれません。
「……本気?」
「あらぁ。秘密のお話?殺すための作戦会議かしら。坊やなら意外なやり方で戦ってくれそうねぇ」
凪咲さんはそのまま敵意を向けていてください。
僕を面白がっている間は油断するでしょうし…戦って勝つのは難しいから穏便に済ませようとする代行を演じてみようと思います。
「そんなことない!勝てるよ…約束するから」
「…場所は屋上で、夜明けまで」
「ずっと話し相手になってくれるの?うふふふ…」
「真!!」
「…いいわ。満足させて頂戴。そしたらあなた達を傷つけずに帰らせてあげる」
…よし。
………………………………next…→……
そして、1対2で向かい合うように座った。
正直この椅子も信用ならないというか。
その気になれば椅子の影を使って拘束してくる…なんてことも考えられるし、全部すっ飛ばしていきなりグサッとやられるかもなんて。
「ないわよ。そんなこと」
「…え?」
「あなたが何を考えているのかなんて顔見れば分かるわ。分かりやすい坊やねぇ」
「……」
「それで?あなた達は今夜なぜここに来たのかしら」
「そんなの決まってる」
「人助け…です」
凪咲さんと目が合った。
…分かってます。でもここは僕に任せてください。
「最近、ある女性が恋人とここに肝試しをするために来ました。でも喧嘩をして女性だけ先に帰ってしまったんです。残された恋人は」
「死んだでしょうね」
「…その後女性に電話が。電話の相手は、使者を向かわせると。どこに逃げても必ず殺すと脅してきたそうです。それを知った僕達はその女性を殺しにやってきた使者を倒しました」
「あら。…なるほど。その女性に話を聞いて、ここに来れば代行がいると思ったのね。原因を排除してしまえば全てが片付くと。…人助けのためだけにわざわざこんな場所まで来るなんて、あなた達…」
「フ、フリーカ…さん。あなたはどうしてここに?」
「うふふふ。そうねぇ…嘘はなさそうだから、話してあげる。私は守っているのよ。とっても大切なものを」
「大切なもの…」
「そうよ…あら、」
かなり遅れてフレイム・サンも屋上に到着した。
照明と暖房を両立させたような存在で、心強い。
僕達の背後に移動し落ち着くとフリーカは話を再開した。
「詳しい場所は話せないけれど、"ここのどこか"に私達のボスの大切なものが隠してあるの」
「創造の書?心臓?」
「攻撃的な彼女ね。もちろん何かは教えないわ。うふふ」
「っ…」
「何年前だったかしら。守ってくれと言われてずっといてあげようと思ったの」
「誰に?」
「ボスよ。私はここに縛りつけられてるわけじゃないから離れようと思えば簡単にできる。でもそうしようと思わないのは…私って簡単ね」
「その大切なものを狙ってここに来た人って今までどれくらいいるんですか?」
「いないわよ?」
「………」
「でもいてあげないと。特に今は」
「僕達のことですか?」
「いいえ。私から見てあなた達は…見どころはある、くらいかしらね。あなた達の自信や実際の戦闘能力なんて関係ないもの」
「じゃあ」「オガルについて話して」
「うふふふっ!オガルを知っているの?戦って生き延びたのなら褒めてあげるわ!」
フリーカは少し興奮気味に。
テーブルに指をトントンと軽く叩きつけると、小さな影が生まれて変形。10cm…もなさそうな大きさの人形になった。…多分これはオガルなのだろう。
「あの子は終の解放者の中で1番の力持ちなの。殺したいと思うなら一撃で、徹底的に生命を絶たないと返り討ちに…あら。もしかしてあなた達、」
「殺した。上半身と下半身に分けてあげた」
「そう…こうやって殺したのね?」
オガルの影人形が凪咲さんの言った通りに真っ二つになった。
凪咲さんが頷くと、影人形は接着して元通りに。
「私はこうやって殺したわ。あの時は気が狂いそうなくらいめちゃくちゃにしてやりたかった…」
影人形に別の影が触手のような姿で迫る。手足を拘束するように絡みつくとブチュッと音を立てて四肢を引きちぎってしまう。影人形から黒い…血を思わせるように影が垂れ流れて…倒れた胴体に下から剣山みたいに細くて鋭い影がいくつも…そして再び触手が伸びてきて首に巻きついて。
「待って。あなたも殺した?意味わかんない。オガルは」
「オガルだけじゃないわよ。終の解放者は全員、死んでも生き返る」
「………全員?」
「そう。全員」
「あの…創造の力でなら可能だとは思うんですけど、それだけのことをするとなると要求される代行の能力って」
「うふふふ。だから私はボスについていくの。彼は代行を束ねる王になる事もできるんだから」
「じゃあ、今頃オガルはどこかで」
「元気にしているわぁ」
「ダメ元で聞いてもいいですか?終の解放者って…何人いるんでしょうか…?」
「うふふ。面白いこと言うわね。もちろん言えないわ」
「ですよね…」
「じゃあ次はこっちが聞く番よね。本当に、この後無事に帰れると思う?」
「フリーカ…!」
「はい。思います」
「……あら!」
「僕達を殺すと決めていたなら、とっくにそうしていたでしょうし。暇つぶしに会話を楽しんでから殺すとしても、僕達に警戒させる隙を与えすぎです」
「可愛い…っ。うふふふ。いいわ!気に入った。坊や、あなたを試してもいいかしら?」
「試す…?」
右手で恐らく口元を隠しながら、
((READ))
「創造っ!?」「真!」
「慌てないで。これは私からの個人的なプレゼントよ」
テーブル上に出現したのは…スマホくらいの大きさの
「1ページしかない本。影にしか語れない本なの…私にしか開くことができない、秘密の贈り物」
「これをどうして僕に…」
「受け取らないで。罠だよ」
「約束してもいいわ。それはあなた達にとって不利になる物ではないから。でも、その本は私が許さないと開かない」
「……これを僕に。でも開かない…」
「ダルダ」
「オガル」
「ミスネ」
「フリーカ」
フリーカはテーブル上に影人形を出現させた。
全部で4体ある。
「今言った4人の解放者を殺せたら、その本を開けるようにしてあげる」
「4人…メンバーの名前をそんな簡単に教えるなんて」
「簡単に殺せる相手じゃないから別にいいのよ。それと、私を殺すのは最後にして頂戴ね。それも条件よ」
「…それだけのことをして、この本の中には」
「知りたい?…なら殺してごらんなさい。坊や」
「………」
「代行同士だもの。争うのは自然の成り行き。仲間を作るのも悪くないわ。でも、私とあなた達では上手くいかない…うふふふ」
「こんな挑発受けたの初めて。分かった。後悔させるから。絶対。あと私の真に色目を使ったのも許さない」
「それで構わないわぁ…じゃあ、少し早いけどこれでお開きにしましょう?」
「え?」
「あなた達のお迎えが来たみたいだから」
フリーカが影の触手を生み出し、矢印に変形させた。
その方向を見れば…
「車?誰?」
「ダンさんです…さっき電話して来てほしいってお願いしたんです」
「そっか…」
「ここには私を殺す時まで来ないことをオススメするわ。あなた達が頑張ってるかどうかは分かるから…。もし違う用事で戻ってきたら…ちゃぁんと敵として見てあげる。死ぬより辛い思いをさせてあげるわぁ…うふふふ」
………………………………next…→……
屋上から病院内へ。
病室から外へ。
移動中、ずっと視線を感じた。
なんだか病院内の全ての影にフリーカを感じた気がする。
でも襲われることは一切なかった。
半里台総合病院から無事、脱出。
「…これ、どうする?」
凪咲さんが取り出したのは病院内で使う鍵だ。
「持っておきましょう。次に来た時のために」
「分かった」
「外に出るとあの感じがしない…ということは、フリーカは病院を守ってるんでしょうか」
「第3診察室」
「へ?」
「無かったんだよね。第3診察室だけ。ちゃんと確認したんだけど」
「……」
「1、2、4、5。3だけ無いのはおかしいよ。きっとフリーカが隠してる」
「じゃあそこに終の解放者の…重要な何かが…失ってはいけない生命線が…」
「真!無事か!」
そこに車が到着。ダンさんとジュリアさんが降りて駆け寄ってくる。
「ダンさん!」
「遅くなりました。申し訳ございません」
「全然です。何とか大丈夫でした」
「こんな場所に何の用があった?」
「それは帰りながら話そうと思います。…すぐ帰りましょう」
「っ、そうか」
「…ここ、結構な心霊スポットなんですよ。僕そういうの苦手なので」
車のことはよく分からないが、5〜6人は余裕で乗れて荷物も載せるスペースがある。程よく大きい白い車だ。
運転手もいるみたいだ。…ん?見覚えがあるような。
「あ、お客さん。どうも」
「あ。どうも…」
「例のタクシー運転手です。ご主人様が買いました」
「か、買った!?」
「雇ったと言うのが正しい」
「それはそれですごいですけど…」
「仕事を辞めていただくためにいくらかお金を払いましたので。もちろん現ナマで」
「……じゃあ…運転手さん、ダンさんの専属運転手に」
「はい。よろしくお願いします」
とっても笑顔だ。きっと、こんな時間に運転することになっても全然苦にならないくらいお金をもらっているのだろう。
「では帰るとしよう。安全運転で」
「はい!ご主人様!」
ダンさんの周りの人、みんなこうなのだろうか。
………………………………next…→……
「行っちゃったわぁ…さようなら、坊や」
屋上で走り去る車を見届けるフリーカ。
車が見えなくなるとテーブル上の影人形に視線を移した。
「それぞれが死ねば同期された人形が壊れる。もし本当にあの坊やが私の思うような子だったら…うふふふ」
オガルらしき影人形の頭を撫でて微笑む。
「いやらしい女ね、私。あなた以外の男を甘やかすなんて…ねぇ?六島悠悟先生っ。うふふふ。…あら」
着信音。影が伸び、どこからともなくスマートフォンを取り出すと
「はぁい。…ええ。何も問題ないわぁ。…そう、また赤髪の……大丈夫よ。ええ…」
電話を切り、立ち上がるとフリーカの背に影が集まり翼に変わった。
「全く面倒ね。頼られすぎると可愛くなくなっちゃうわぁ…!」
続けて影が集まり尻尾が生える。
尻尾の先は三叉の槍そのもので鋭く尖っていた。
「邪魔者は消さないと…っ!!」
その尻尾を一振りしテーブルと椅子を破壊。
「うふふふ…お出かけの時間ね」
そう言ってフリーカは月が姿を隠す夜空に向かって飛んだ。
………………………to be continued…→…




