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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case11 _ 精神の病
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第7話「影」







キーーーン……大きく、小さく。耳鳴りがして。

感情がぼやけて、視界がぼやけて、世界がゆっくりになって。

……ここは、病院。

古くて新しい。たくさんの人が死んだけど、生まれた人もいる。


僕のことも診てもらいたい…ここは病院なんだから。



「真!」


やった。先生が来てくれた。



「真!しっかり!」


僕…僕死にそうなんです。



「震えてる…!ちゃんと息して!……どこも怪我してないのに!」


先生、僕どこが悪いんですか?



「先生?何言ってるの?」


…………。


「真?…ねぇ!真!っ、ちょっと苦しいかもしれないけど我慢してね」


「………こふっ」


「もう一回。……」


「………う"っ、ゴホッ!!…はぁ…はぁ…な、凪咲さん…」


「大丈夫?炎魔法で温めた風魔法を口から流し込んだの。こうすると魔法反応が起きて風魔法が膨らんだり縮んだりして不快感を与える。それで脳が」


「…み、水を」


「水?そっか、喉が渇くの忘れてた。もうカラカラでしょ?待ってね」


彼女は手を程よく丸めた。水魔法を使って、丸めた手のひらに水を溜めるということか。


「そんなとこ。でもぬるーい水だけどいい?」


「お願いします…」


「口開けててね」




少しして、チョロチョロと水が流れてくる。

確かにぬるい。でもそのおかげか嫌な感じはしない。

すぐには飲み込まず、口の中に一定量溜まったところで



「ごくっ」


「すごい音したけど平気?」


飲める。美味しい。もう1度…


「うん」


今度はもう少しだけ流しこむ水の勢いが増した。

僕の要求に合わせて絶妙な調整をしてくれる。

ゴクゴクと飲み干し、いくらか意識がハッキリしてきたところでゆっくり立ち上がった。


…覗きの指輪は一旦外しておこう。



「何があったの?」


「床の一部だけ色が違うの分かりますか?その辺なんですけど」


「……うん。茶色っていうか黒っていうか…難しいけど」


「それ、この病院で死んだ人の血なんです。夜見入…ケンジって人の」


「覗きの指輪でどこまで見えたの?」


「最後まで。この指輪は、覗き見るというより追体験するっていう方がしっくりきます。…本当に」


「そのケンジが死ぬところまで追体験してしまったから、影響されて真も死にそうになったってこと…」


「はい。彼の視点であの雑誌に載っていた噂の事件を体験しました。しかも犯人は彼の妻でした」


「…そうなんだ……」


「でも、もっと大変なことが分かったんです」


「大変なこと?」


「……その犯人の女性は代行で、夫を殺そうとしたらまた別の人が現れて…えっと」


「ゆっくりでいいよ。焦らないで」


「なんか…名前が…あぁ…ド忘れしちゃいました。あんなに苦しい思いをしたのに忘れるなんて」


「その新しく出てきた人が何かしたの?」


「はい。夫を殺そうとする直前で割り込んできて、創造で妻を変えてしまったんです…オ、オガルに…」


「え?」


「オガルって、確かに言ったんです」


「……じゃあ。オガルは半里台出身で、元々は…でも、殺人事件起こしてるし普通の人間じゃないよね」


「自身も代行でありながら、他の代行に創造で強化された。だからあんなに強かったんですね…」


「そういえば。名簿は見つからなかったんだけど私も気になることがあってね。六島先生っていう」


「…あっ!!」


「なに?なに?」


「その人!その人ですよ!」


「オガルを作ったって人?」


「はい!」


「その六島先生だけど、精神科医だって書かれてたからこの病院で働いていたんだと思う。それに、カリスマ的な魅力があったみたい。病院に来る人の多くがその六島先生に診てもらいたいって言うらしくて」


「精神科医…」


「彼がたくさん患者を診ると突然人が大量に死ぬとも書かれてた」


「医者で代行って、正しく創造の力が使われてたらどれだけの人間を治せたんでしょうか…」


「真も同じこと考えてるよね。その六島先生が半里台の人々を変えたって」


「…はい。きっと、最初は創造の力で人を治したはずです。ダンさんの再構築のように、病気でも怪我でも判断が難しい心の病でも簡単に治せる力が代行にはありますし」


「それで評判が良くなった。六島先生なら何でも治せるって聞いてみんなが頼ってくる」


「その中の何人かが殺人事件を起こした。…オガルのように変えられて」


「程度はともかく、色んな人に何かしたんだと思うよ」


「ですね…」


「さっき私が殺した代行も多分その中の1人なんだろうね」


「…洗脳。洗脳ですよ。ここに来る前、本屋の店主が半里台について話してくれましたけど…恐らくあの人も。自分では正気だと思っているけど、自然と半里台の場所を教えてしまう。協力者というより、関係者で洗脳されているから無意識に協力してしまう…」


「洗脳する創造。うん。そうかもしれない。診てもらいたいって彼の元を訪れた人達はもれなく洗脳されて…、六島先生はあえてその度合いをばらけさせた。一部の住民は近所の人達がおかしくなったと思って半里台を離れるけど、逃げた先で周りの人に半里台へ行くよう無意識に勧めてしまう」


「今は心霊スポットとしてですけど、以前は違う理由で勧めてたんでしょうか」


「ねぇ。まだ調べてない部屋もあるんだけど、一緒に手がかりがあるか探してみる?」


「…はい」



改めて手を繋ぎ、歩きだした。

僕達の背後にはフレイム・サンがゆっくりついてきている。

おかげでじんわりと暖かく、ライト要らずで明るい。






………………………………next…→……






2階。控え室。



「病院で働いてた人達が休憩に使ってた場所だろうね」


「真ん中に大きなテーブル。部屋の端にはロッカーが5個並んで…あれって冷蔵庫ですか?」


「んー…あ、なんか落ちてる。東京のお土産あります。みんなで食べてくださいね。だって」


「冷蔵庫ですね。もし中に入ったままなら」


「開ける?」


「いや、だめです。開けないでください」


「そう?腐った食べ物以外にも何か隠してあるかも」


「こういう場所でも…、こ、こういう場所だからこそ、開けちゃだめなんです。本当に開けるって言うなら僕離れてます。ぜ、全部焼き消してください」


「真。何の話してるの?」


「名称を声に出すのも不快な害ある存在の話です」


「……あー。いいよ。分かった。ちょっと部屋の外で待つ?」


「え…」


「ゴ……ゴホン。私は家族の中でも珍しく平気な方っていうか。お父さんの家系がすごい苦手な人多いから代わりによく処理してたし、任せて」


「お願いします…1匹も残さず全滅で」


「ふふっ。はーい」



凪咲さんに甘えて部屋の外へ。

廊下には変わらずフレイム・サンが浮遊していた。

優しくドアを閉めると、部屋の中からは




「…うわ……冷蔵庫の中がこんなに汚れてるとちょっとショックかも。真が見てたら…あ。えいっ」



えいっ…?



「えっと…お土産の箱の中は何もなし。他にはペットボトルと…うん、特にこれっていうのはなし!よいしょ!」



よいしょ…?



「真、部屋から出るよ。すぐ閉めるからちょっとドアから離れてて」


「あ、はい」


「せーの」


自分が部屋から出るのに必要な分だけドアを開き、すぐに閉めた。

ひとつひとつの動作がコンパクトで、本当に慣れてる人の動きだと分かった。



「聞かない方がいいよ」


「みたいですね」


「私は触れてない。服にもくっついてないし」


「変な想像しちゃうのでもう報告はやめてください」


「ロッカーの中、もう少し詳しく調べてもよかったかもしれないけど」


「大丈夫です!次、行きましょう」


「うん」




次は同じ2階にあった備品倉庫。

倉庫なだけあってドアは大きくて少し重い。



「備品だもんね。消毒液とか、ガーゼ、包帯、マスク…そういうのを置いてたんじゃないかな」


「横に長い棚が3つ。どれにも物は置かれてませんね」


「うん。必要な物だから取っていったんだろうけど。掃除はしなかったみたい」


「何かあったんですか?」


「事件当時のものかな。あれも血だよね」


「……」


覗きの指輪を着けて触れれば夜見入って人のあれと同じような追体験が


「ダメだよ。もう真にはさせない」


「僕もやりたくないです」


「1…2…右奥に2人。左奥はもう少し多いから死体をこの部屋に運んだのかも」


「………」


「出よっか」


「はい」




気分が悪くなっていないか心配されつつも移動。

次は



「屋上。これで残ってた鍵は全部使ったことになるよ」


「屋上…3階廊下の奥の非常用階段から行けます」


「それも見たの?」


「出来るなら忘れたいです…」


3階に上がると手が震えた。

凪咲さんがぎゅっと握って抑えてくれたから気づけたのだが、覗きの指輪で見たものと今僕の目で見ているそれらが重なって…当時のことが再現されるんじゃないかと不安になっていた。



「病室は見なくてもいいよね」


「…夜見入…303」


「…真?」


「思い出しちゃって」


「調べる?」


「……」


「私がいるから」


「…はい」




他の病室は全て無視し、303…あの部屋へ。



「…ベッドが3つ。って言っても、置いてあった跡が床に残ってるだけ。何も残ってないね…変なの。診察室はほとんどそのままだったのに」


「……」


「真?」


「屋上に行きましょう」


「うん。怖がらなくていいからね」



病室には10秒もいなかった。

すぐに離れたけど…何も無かったけど…でも、やっぱり何かを感じるような。



「廊下の奥…あのドアから非常用階段に出るのかな」


「はい」



ガチャ。ガチャガチャ!


凪咲さんがドアノブを回す。でも鍵がかかっているのか開かない。



「壊すしかないか…すぐ開けるからちょっと離れて」


「……」


「ん?何見てるの?」



303の病室に何も無かった理由。


「何これ!?」


それは305に…


「意味わかんない。ベッドを立てて窓を塞いで…そこからどうして同じように立てて並べて部屋の壁を埋め尽くしてんの!?」


「真ん中だけ空けてありますね…」


「よく見たら円形になってる。待って、これもしかして何かの儀式に使ってるんじゃない?」


「儀式ですか?」


「そう。それに真、いつの間にか口呼吸になってる。この部屋、臭いよ」


「……っ…これ何の臭いですか」






「あらぁ…まさかとは思ったけど、ここに代行が来るなんて…珍しいわぁ」





「え」


「廊下!」


慌てて病室を出ると…誰もいない。



「フレイム・サンでそのまま焼き尽くしてあげる」


どこかに隠れているのか。

凪咲さんが魔法を操り、フレイム・サンが廊下を巡回パトロールする。




「面白い力ねぇ…きっと触るもの全てを燃やしてしまうのでしょう?」




声はするのに。姿は


「真。しっかりして。ここは3階。外に出るならそこのドアを開けるか1階まで下りないといけない」


「逃げられない…ってことですね」


「うん。戦うしかない」




「覚悟を決めたのなら、礼儀ってものを重んじるのもいいかもしれないわぁ…!」




声からして女性なのは間違いない。

わざとなのか、色気の主張が強い喋り方だ。


「……うわ」「ちょっと、嘘でしょ!?」



影が、動いた。


すぐ近くの303の病室の入り口、フレイム・サンによって生まれた影が変形し…人みたいに


「実体化する」


「凪咲さん…?」


「思い出して。お父さんが体験してきた話。あの小説の中にも影を操る登場人物がいたはず」


………エル。主人公の仲間として登場するも、物語が進むと今度は魔王となって敵対。その際に影を操り戦闘を…




「よく分かったわねぇ。…私は影そのもの。私の命を奪うつもりなら相当賢くないといけない…でも、身を守るだけならそう難しくない…うふふふ…!」



床に伸びた影が立体に。

真っ黒なまま人として僕達の前に立つと、左手は腰へ…右手は口元へ…シルエットだけで判断するのは難しいがやはり女性っぽいような。




「おほほほほっ!」




「なら影が無くなるくらい眩しくして…っ!」


「だめです」


「どうして!」


「フレイム・サンを僕達の方へ引き戻せば確かに目の前の影は消えます。でもそうすれば僕達の背後に影が生まれてしまいます」


「……」





「初めまして。私はフリーカ。終の解放者の1人…」




「終の解放者…」


簡単な自己紹介を済ませると、フリーカは自身の体を気にした。

影が立体化したものだが、どうやら胸が気に入らないらしい。




「もう少し大きくてハリがあった方がいいわよねぇ?」




そう言うと胸が膨らむ。そこから数秒で全身を"調整"し、その姿は




「どうかしら。セクシーすぎるくらいがいいの…坊や、あなたにはどう見える?」




「…」


「答えなくていい。今すぐ殺すから」




「うふふふ。そんなに急がなくてもいいのに…久しぶりなのよ。話し相手がいるのって」




「その余裕がむかつく」


「………あの」




「何かしら。坊や」






「……それなら、僕達が話し相手になります。話が終わったらそのまま帰らせてもらってもいいですか?」


凪咲さんはもちろんのこと、影で出来ていて目も鼻も口も付いていないフリーカでさえ驚いたように見えた。







………………………to be continued…→…


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