第2話「再会、そして再び」
「ではこちらが…当店の会員カードです。基本はレンタル1本につき1ポイント、新作は1本3ポイント、準新作は2ポイントが加算されます。ポイントは100ポイントにつきレンタル1本無料か、2000ポイントで中古DVD詰め合わせボックスと交換が可能となっておりますのでぜひご利用ください」
「はい…ありがとうございます」
店員さんの後ろの棚には2000ポイントの景品が並んでいる。
海外ドラマのセット…一昔前に流行った映画のセット…子供向けアニメのセット…まだまだある。選択肢は多いみたいだ。
受け取った会員カードの裏面に名前を記入し、正規会員になったところで改めて会計に。
「ではこちらの5本ですねー…」
「真!!」
「どうかしましたか?」
凪咲さんが慌てた様子で戻ってきた。
ふと見た時にいなかったから今度借りる映画を選んでいたのかなとか考えていたけど
「そんなんじゃないよ。使者!使者だよ!」
「え?ち、近くにいるんですか!?」
「客の女性!早く行かないと!」
「あ、じゃあ……」
当たり前に会話していたが、僕達の目の前にいる店員さんはなんだコイツらはって顔をしていて。
「ゲームの攻略の話です…気にしないでください」
「あ、はい…レンタル5本とプレーヤーでお会計が8772円で」「どうする?追いかける?」
「凪咲さんちょっと待ってください。先にこっちを…」
会計を終えて外へ。
パトカーは変わらず店の前に。
「電話で脅されたみたい。使者がどこまでも追いかけてお前を殺すって」
「てっきりその女性が使者なのかと…警官を殺して走り去ったのかなとか考えちゃってました」
「代行は恋人の電話を使って脅したから、電話の持ち主はもうダメかも。でもあの女性はまだ生きてるし…」
「守れる生命が目の前にあって無視は出来ませんよね。…凪咲さん、僕このDVDとか家に置いてきます。それまで怪しまれないように女性を見張っててくれますか?」
「うん。分かった」
「なるべく早く戻ります!移動する時は電話で知らせてください!」
走っていく真を見送り、凪咲もパトカーと距離を置くため少し歩いた。
車の中では女性が怯えていて警官が落ち着かせようと話しかけている。
「代行と女性の関係は何だろう。恋人を殺したとしたら、本当にストーカーとかかな。でも肝試しで入った病院にまでついていくってすごい執着。…わざわざ使者って言うぐらいだし自分で戦うタイプじゃないから…」
警戒をしながら可能性を探る。
ストーカーだと仮定するのも悪くはないが、肝試しと病院という組み合わせから黒神様のような危険な存在が関わっているのではと
「凪咲」
「……え?」
考えていた時だった。
聞き取った小さな声。
確かに名前を呼ばれ、声の主へと目を向けた。
「…モモ姉…!」
そこに立っていたのは凪咲と変わらない背丈の桃色の髪の女。
「ほ、本当に?本当にモモ姉なの?」
凪咲が1歩前へ踏み出すと女は1歩後ろへ下がった。2人の距離は数m。触れられるほどに近づくなら少なくとも5歩は詰めなければいけない。
「黒のスキニージーンズに赤いスカジャン。今ぐらいの寒さだといつもその格好だよね…」
「凪咲」
「ねぇ。モ…」
久しぶりに見た身内の顔。
凪咲は再会に驚いてばかりいたが、ふとこの状況の危うさに気づく。
どちらも小説の登場人物…。ならば、それは、つまり。
「モモ姉も…使者…」
「そう」
「……代行は誰?優しい人?…その、私達の関係を知ってるなら…私のパートナーとも」
「……」
凪咲は知っている。彼女が無言になるのは、必ず悪い知らせがある時だと。
「……そこのパトカーに乗ってる女の人を殺しに来たの?」
「違う」
「…じゃあ、私を?」
「…半分違う」
「敵なのは確定なんだね…」
「来て」
「モモ姉。"こっち"で何回戦った?」
「…来て」
「離れられない。私、あの人を守りたい」
「……」
「それに1人でついていくのは危険でしょ?そっちの代行がその気になったら私は不利になる」
「…今日は帰る」
「待って」
「……」
「あの日…私が公園で初めて使者と戦ったあの日…モモ姉が助けてくれたんだよね?」
「……また会う」
凪咲が見ている前でパッと姿を消した。
「超高速移動。…私は創造されてからしばらくはちゃんと力を使えなかった。速く動けるようになったのも最近だし、今のモモ姉はレベル2だって考えるのが自然…。久しぶりに会えたのに。戦わなきゃいけなくなったら私…」
………………………………next…→……
「ふぅ…ふぅ…」
大切に運びながらだからか思ったより走れない。
それでもなるべく早く家に帰ってこれた。
「鍵…鍵…ん?」
ドアの前に何か落ちて…あれ?なんか見たことあるような。
「なんだろうこ」
拾うために伸ばした手がピタッと止まった。
指だ。何指かは分からないが、爪がついたままの指先が落ちていた。
「な、なんで?人の…人間の指?え?でも、え…」
恐る恐る…拾った。
手のひらに乗せて見てみた。見間違えたわけではなく、やっぱり人間の指だ。
第一関節のあたりでスパッと…骨ごと切断されていて
「よく出来た偽物ってことは…あ」
ハッとした。
"自宅は守られている"ということを思い出したのだ。
「異界壁…!」
ダンさんと創造したものが効果を発揮した。
それ以外に考えられない。
「誰かが家に入ろうとして、ドアに触ろうとしたから…」
範囲内に入った指先が落ちた。
なら、気づかなかったら?
もしそのまま踏み込もうと身を乗り出していたら。
「………」
なんて効果だ。
「…あ、凪咲さんのとこに早く戻らないと」
鍵を取り出し、ドアを開けた。
当たり前の動作だが今回ばかりは緊張した。
荷物はドアを開けてすぐ近くの所に置き、鍵を閉めて…数歩下がって久しぶりに自宅の外観を眺めた。
色々とボロい。見ないうちに塗装が剥げたりしていて…
「凪咲さんからメールだ」
移動したらしい。
しかも移動先はあまり良い思い出のないあの場所で。
「でも行かないと」
電車でもよかったが急いでいるのでタクシーで向かうことにした。
………………………………next…→……
「相変わらずの雰囲気…!」
ラッキーストリートとは違うがこの場所も大人のための場所だ。
あの時は初めて"夜の店"に入って、預かったものとはいえ大金を使った。
「ごーとぅへゔん…マミさん…リカさん…」
あまり思い出したくないかもしれない。
「真、こっち」
「凪咲さん…本当にこんな所に?レンタル店から結構移動してますよ?」
「パトカーから出てきてすぐタクシーに乗って移動したんだよね。ふらふらしながらお店に入っていって…」
「なんで気まずそうな顔してるんですか」
「覚えてる?ほら、前に真が潜入した」
「ごーとぅへゔんですよね?」
「そう。ゴートゥヘヴン。そこで働いてるみたい」
「…またまた。冗談ですよね?」
「店長って大きい声出して中に入っていったから…」
「ま、またあの店に?」
「店の近くで張り込みしようよ。中に入ったらお金が必要になるし」
「…よ、よかった」
個人的にはお金よりも当時の記憶を呼び起こされる方が嫌だ。
キャバクラは…キャバクラ嬢は、怖いのだ。
「じゃあ手繋いで。こうしてればキャッチに声かけられたりしないから」
「それは大事ですね。見せつけるくらいに繋ぎましょう」
「ふふっ。いいよ」
指を絡めて手を繋ぐ。
それをぶらぶらと振って仲良しアピールをし、歩きだす。
「そもそも僕達服装が違いますよね。レンタル店に急いでたからこれで家を出ましたけど、まあ近所のコンビニに行くのが限界というか」
「いいの。恥ずかしがらないで。あと、恋人繋ぎだから。ね?」
「は、はい…」
道行く男性に声をかけるおじさん達が僕をジロジロ見てくる。
……すごい見てくる。
「ねえ真、聞いてほしいことがあるんだ」
「なんですか?」
「…さっき真が一旦家に帰った後にね、モモ姉に会った」
「モモ姉…それって」
僕が最初に創造する使者として選んだ…あのモモか。
「創造に失敗して、色々調べて、防御魔法が現実離れした力だからコストが大きいんだって考えて…それと、もうひとつの可能性。…他の代行が既に創造していた場合…」
「そう。モモ姉は使者だった」
「……」
「モモ姉にもパートナーの代行がいるってことだよね。私は出来ることならダンやサラみたいに仲間になれたらって思ったんだけど…なんか無理そうだった」
「いずれ戦うことになるかもしれないってことですか…?」
「私の予想が正しかったら、モモ姉はレベル2になってる。上手く力が引き出せない状態なら戦うことになってもどうにかなると思うけど」
「あの。小説の中だと手刀で戦ったり、防御魔法で凪咲さんのお父さんとかを守ったりしてましたよね」
「うん。モモ姉の防御魔法はどうやっても攻略できない。それに移動速度も…私を無視して真を殺すかもしれない」
「…こっちが相手の代行を直接狙ったとしても防御魔法ですもんね」
「…どうしよう」
「戦わずに済むのが1番ですけど…。凪咲さん、矛盾…、矛盾ですよ」
「え?」
「矛と盾。どっちも性能に絶対の自信があって…」
「どうしたの?何の話?」
「僕、家に戻った時に見たんです!ドアの前に指が」
「…指?」
「ダンさんと創造した家を守るためのバリアですよ!誰かが家に入ろうとして異界壁に指を」
「待って、誰かが家に…?」
「でも大丈夫だったんです。分かりますか?あの異界壁があれば、もし凪咲さんとモモが戦うことになっても」
「…誰が家に入ろうとしたんだろう」
「え?それは…」
モモか。それともモモを創造した代行か。
と言いたそうにしている彼女の横を走っていく男性。
「警察呼べ!警察!中で暴れてる!」
そう叫ぶのは店の前に出てきた男性。
何事かと近くにいた人達が集まっていく。
彼の上に視線を移せば、…ごーとぅへゔん。
「行こう!真!」
「はい!」
騒ぎに紛れて店のドアを開け、ふわふわの白い絨毯の上を歩き中へ。
明るい曲が流れているが、争っている音が奥から聞こえる。
ガシャン!パリン!と忙しい。
酒の入った瓶や高そうな灰皿、ガラスのテーブル…原因はいくらでも思いつく。
「来ないでーーーーっ!!」
見つけた。
広い部屋の隅に追い詰められた女性と、迫る…
「血塗れの…男性?」
「私行くよ」
全身に血がべっとり…ゾンビ映画でなければ見ることのなさそうな格好の男性。
凪咲さんは僕の隣から消え、一瞬で彼の背後へ。
蹴るでも殴るでもいい。ぶっ飛ばしてしまえば
「っ!!」
しかし、凪咲さんは飛び退いた。
見れば、男性の背中から何かが飛び出ていて。
飛び出ていて…
「…あれは……腕?」
………………………to be continued…→…




