第1話「気になる話」
「ねぇ…やっぱ帰ろう?」
「大丈夫大丈夫。そんなビビんなって」
「ダメだよ…立ち入り禁止って書いてあったじゃん」
「なんでか分かるか?本当に出るからだよ!」
「出ないよ!ねぇ帰ろうよぉ~…」
男女のカップルが訪れたのは廃病院。
男の左手には"知ってはならない心霊スポット"という雑誌が握られていた。
「早く歩かないでよ!」
「お前がビビりすぎなんだって!ほら隣来いよ」
「……手繋ぎたい」
「懐中電灯持ってるし」
「その雑誌捨てればいいじゃん!」
「これ無いとどこで事件が起きたか分かんないだろ?」
「じゃあ私が持つから!」
「お前絶対捨てるじゃん」
「捨てないって!」
「はいはい。…悪い、ちょっとトイレ」
「はぁ!?ねぇ!こんな場所でする!?」
「そんなこと言ったってさぁ…飯食った後からずっとトイレ行ってないし」
「なんで行っておかないの!?信じらんない!」
「俺が悪いのかよ!っもういい。トイレ行くから」
「待って私も行く」
「男子トイレに?正気か?」
「………少しも私のこと心配してくれないんだ」
「ただの肝試しでピーピー騒ぐなよ。はぁ…」
男は呆れた様子でトイレの中へ。
その場で立ち止まり待機する女は病院内の暗さと雰囲気に身震いしスマートフォンを取り出す。
恋人よりも頼りになる小さな機械がライトで廊下を照らした。
「ねえまだ!?」
………返事はない。
女は少し待ってから
「私先帰るから!もうっ最低!!」
激怒し、歩き出す。
カツ、カツ、カツ…ヒールの音だけが響く中
「トイレの中で待って、私が入ったら、わぁっ!とか驚かせて、怖がる私を笑うつもりなんでしょ?…ああもうなんであんなのと付き合ったんだろ。男って自分のことしか考えてないし」
怒りのままにブツブツと不満をぶちまけていく。
「合コンで連絡先交換した時は明るくて楽しそうな人って思ったけどただの馬鹿だし。誘われてデートしたら1回目からホテル行こうってうるさいし。…別に上手くもないし、避妊もしてくんないし、自分が満足したら後はほったらかし。はぁ…」
階段を下りる。
2階から1階へ、そして廊下を左に直進すればそのまま病院を出られる。
「もう電車は…ないじゃん最悪。タクシー代あるかな…」
女の中で、もう男のことは無かったことになりかけていた。
心霊スポット…しかも廃病院…そんな事も、もうあまり気にならなくなり今はとにかく家に帰ろうと
「わあああああああああああああああぁぁぁっ…!!!!」
「っ!!…は?な、なに?」
突然の叫び声。外まで数mというところで女を呼び止めるかのように病院内に響き渡った。
「………」
女は考える。
何かあったのかもしれない、と。
しかしそれと同時に男への不満が再燃。これも男の悪ふざけ…とも考えられ、
「帰ろう。お笑い見て寝よ。…はぁ」
女の心は変わらず。そのまま病院を出ていった。
その頃、病院内では。
「おい!な、なん、なんだよ!こっち来んなよ!」
何度も転びながら男が男子トイレから出てきた。
懐中電灯は中に落としてしまった。
トイレの中から情けない姿の自分を照らしている。
「気持ち悪い!!お前、お前、お前、誰なんだ!誰だよ!?」
男は迫る存在に大声で精一杯の威嚇をする。
それが無意味な行為だとようやく理解すると真っ暗な廊下に目を向けた。
「くそっ!あいつどこ行ったんだよ!!」
トイレの外で待っているはずだった女はいない。
ピチャ…ピチャ…
濡れた足音が男に迫る。
「くっそおおおおおお!!」
勇気を振り絞り立ち上がる。
自分達が来た方向へ早歩きで進む。
「ふざけんな…ふざけんな…くそ!」
振り返っても何も見えない。
残された懐中電灯の明かりも消えてしまった。
"あれ"の仕業なのは確定で、男は早く病院から出るため走ることにした。
「ぃいってぇっ!」
暗闇の中で方向感覚が狂ったのか勢いよく壁に激突。尻もちをついてしまう。
「…くそっ!スマホ…ポケットに入れてたから潰れ…あ!!」
懐中電灯以外の光源に気づく。
取り出して画面表面に触れるとヒビ割れを指先に感じる…が、画面は点灯。
「っしゃあ!動く!ライト…ライト…!」
画面割れにより操作性が悪くなっているが、どうにかショートカットに登録している懐中電灯のマークをタップできた。
「うおっ」
懐中電灯にも負けない明るさで背面カメラ横のライトが点灯。
振り返り廊下を照らしてみると
「……いない…?」
見当たらない。
男はゆっくり立ち上がり、ホッとしてため息をつく。
「なんだよもう…ふぅ。帰るか」「かかこけこここききこきくこかきくこかかこきけくかかきけきけこ…」
耳元に声にもならない乾ききった音と息が吹きかかる。
「あ」
………………………………next…→……
「あの。あの…凪咲さん」
「………」
平和に思えた日常は2日くらいで終わってしまった。
彼女は寝る前にスマホで心霊動画やらホラー番組やらホラー映画やらを見るのにハマったのだ。
一応僕に気を使ってイヤホンを着けて視聴しているが、イヤホンは100円ショップで買ったものということもあり音漏れがする。
寝ようとするとキャーとかギャーとか悲鳴なのか断末魔の叫びなのか分からないものが聞こえて…
「…寝られない」
上体だけ起き上がって、僕に背を向けている凪咲さんの肩を軽くトントンと
「凪咲さ…」「っなに!?」
めちゃめちゃビックリしてる。
「あの…音漏れが…」
「あ、ごめんね。寝る前は見ないように気をつけるから」
「ちなみに今何を見てたんですか?」
「映画だよ。血濡れの恋ってタイトル」
「……そ、それってどういう…」
「お化けは出ないよ。主人公の女性は新人の新聞記者で、もうそろそろ死刑になる連続殺人鬼にプライベートで取材しに行くんだけど」
「…はい」
「殺人鬼が主人公に一目惚れしちゃうの。それで、死ぬのを覚悟していたのに急に惜しくなった!って怒っちゃって主人公を追い返すんだけど」
「……あ、なんか最後まで聞けそうです」
「それから主人公の周りでいくつも殺人事件が起きたの。ついに主人公の隣人まで殺されて。彼女はふと最近の殺人事件が繋がってるって考えた。事件の手がかりを求めて警官に色目を使ったり、マフィアのボスに会ってみたりして…」
「何となく分かりました。主人公に一目惚れした殺人鬼が脱獄して事件を起こしていたんですよね?それで最後に主人公を…!」
「違うよ」
「え?」
「主人公も脱獄の可能性を考えたんだけど、違った。殺人の手口はその連続殺人鬼と似ていたんだけど、新たに起きた事件の被害者達は踵に切れ目があったの」
「切れ目?」
「犯人が残したサイン。俺がやったんだってわざと証拠を残したんだよ。で、主人公はこれまでの事件を関連付けて次に狙われるのは自分だって確信した。でも警官達は頼りにならなくて、どこにも誰にも相談出来なくて…」
「どうしたんですか!」
「自分に一目惚れした殺人鬼に会いに行った」
「え…!なんで!」
「そこで警官に色目を使った時みたいに殺人鬼に言うの。私が欲しい?ならあげる。でも私はもうすぐ殺されてしまうけど」
「……!」
「殺人鬼はそんなやつ俺が殺してやると言った。それで…主人公は私服警官だと嘘をついた。殺人鬼を護送すると伝えて怪しまれたけど連れ出すことに成功したの」
「え!?死刑が決まってる殺人鬼を外に!?」
「殺人鬼は何人も殺してきたから、犯人の考えをある程度予想できた。2人で警察から逃げ回りながら…国外に脱出しようって決めて、泊まったホテルで停電」
「あぁっ!まさか見つかったんじゃ!」
「そう。殺人鬼同士の対決になる。どっちも人を殺すのに慣れすぎていて、ホテルマンを殺してなりすましたりしながら最後には凶器なしで殴り合い」
「うわ…!け、結果は!」
「……そこで真に肩トントンってされて…」
「ああっ!僕はなんてことを!!」
「ふふっ。じゃあ一緒に見る?」
「…でもスマホじゃ画面が小さすぎます。テレビじゃないと!その映画、レンタルとかやってませんか?」
「あると思うよ?3年前くらいのやつだから」
「行きましょう!」
「え?」
「レンタル店に!」
「…真、本気?」
「はい!」
夜。22時過ぎ。まだ店は開いてる。
利用はしてないが、情報だけはある。
2人とも寝巻きの上から上着を羽織り、すぐに家を出た。
決断してから外に出るまで2分くらいだった。
「駅の方だよね」
「はい!急ぎましょう!」
小走りで向かう。
目的の映画の内容は8割以上聞いてしまったが、毎年のようにテレビで再放送されるアニメ映画だって内容が分かっていても楽しく見れてしまうのだから今回も問題ないはずだ。
「でも珍しいなー。真がこういう映画に興味持つなんて」
「映画自体は好きなんです。色んな気持ちにさせてくれますし」
「じゃあ時々こうやって一緒に映画借りに行こうよ。お互いに1本ずつ選んだりして」
「…ホラーはダメですよ?」
「一緒なら大丈夫だよ」
「なんで借りる気満々なんですか!」
………………………………next…→……
到着。…でも様子がおかしい。
「警察が映画をレンタルするためにパトカーで店に寄っていくなんてことありますか?」
「ないでしょ…なんかあったんじゃない?」
入店。レジカウンターで店員と警官が話をしている。
「……」
「私に任せて。ほら、サスペンスコーナー探して」
「はい…」
目的の映画を探しながら、凪咲さんが耳を傾ける。
「確かタイトルは血濡れの恋だからまず、タ行を」
「………客の女性がお店の中で騒いだみたい。大声出して…今はパトカーの中で放心状態…」
「映画より物騒なことになりそうな感じですね…」
「女性が落とした電話が通話中になってたって。無言だったからストーカーなんじゃないかって警官が」
「そ、それから…どうなんですか?」
「うーん…また来るとかなんとか。ひと通り話は終わったみたい」
「なんか…気になりますね」
「あ、」
「なんですか?また何か」
「血濡れの恋…2もある」
「…な、なんですって…!!」
血濡れの恋、血濡れの恋2、もし友達の友達の友達が母親の恋人だったら、スーパー料理大戦~極うま中華~、にゃんにゃんふー!
…5本の映画を選んだ。
中にはDVDではなくブルーレイ?とかいうものもあって、それを見るために新しく再生機器も買うことにした。
「にゃんにゃんふー!、面白そうですよね。猫のカンフー映画って」
「吹き替えより字幕のがおすすめだって。オリジナルの声優さんの演技が面白いみたい」
「おお…」
「お預かりします。当店の会員カードはお持ちでしょうか?」
「あ、持ってないです。今入会出来ますか」
そういえば、利用は初めてだから会員カードとかも作らないといけないのか。
「ではこちらの申請書に記入をお願いします」
「はい…」
真が会員登録をしている間、凪咲は外の様子を気にしていた。
まだパトカーが動いていない。中で話を聞いているのか。
「一瞬だけ外出て聞いちゃおうかな…」
真を見ればまだ申請書とにらめっこをしている。
「ちょっとだけ」
好奇心に負け、凪咲は外に出ることにした。
店を出てもパトカーには目を向けず、スマホを弄りながら
「……」
自身の聴力に頼る。
「……るほど、じゃあ確認するけど…あなたは彼氏さんと肝試しするために立ち入り禁止を無視してその病院に入ったんだね?」
「はい」
「それで…病院の中を歩いてる途中で彼氏さんがトイレに入って、あなたは怒って帰ろうとした。そしたら叫び声が聞こえたけど、イタズラだと思った」
「はい」
「で…帰宅途中にお笑いのDVDを借りようと店に寄ったら彼氏さんから電話がかかってきて、出たら…お前を殺してやるって彼氏さんじゃない声で言われた」
「はい」
「それで怖くなっちゃった」
「はい」
「うん…うん…」
「ふーん…」
聞きたいことを聞けて満足した凪咲が店内に戻ろうとしたその時だった。
「…もう家に帰りたくない!!逃げても無駄って言われた!地球の果てまで逃げてもシシャが必ず見つけ出してお前を殺すって!シシャって何!?ねえ!助けて!助けてよ!安全な場所とかないの!?」
「…シシャ…え、うそ。使者…?」
………………………to be continued…→…




