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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case10 _ 終わりの始まり
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第1話「別れと始まり」





時間はあっという間に過ぎるものだ。

振り返ってみれば色んなことをしてきたと分かるが、楽しい時も辛い時もやっぱりあっという間に過ぎていくのだ。

私も、あなたも、誰でも。人生は長いようで短い。



「……14冊目。読み終えた…」


三剣猫での出来事から全然時間が経ってない。

死にそうになって、複雑な気持ちで頑張って帰宅して、ソープを取り戻すためにあっちこっち探し回って、家全体を綺麗にして。

本当にあっという間に時間は過ぎるのだろうか。

1日が24時間よりもっと長く延長された感覚だ。


「次はこれを…」


落ち着かなくて読書を始めた。

考えてみればサラさんは…でも急に明日帰国すると聞かされて、ああ、急すぎる。


「15。次は…」


いつの間にか時間が過ぎていくことでお馴染みの過剰な読書だが、今回はなぜか目覚ましが不要だ。

1冊読み終えるとちゃんと次を選ぶ余裕がある。時間を確認すると1冊あたり2、3分というところか。


「空港には必ず行くとして、家を出るのは早朝。それまでの数時間をどう過ごせば…」


本を読むのに集中出来ない。だから過剰な読書に至らないのか。


「起きたばかりで寝られるわけでもないし…」


「ならお風呂に入ったら?リラックスできるよ」


「ごめんなさい。起こしちゃいました?」


「驚いた声で起きたけど、全部分かってるよ。サラが帰っちゃうんでしょ?」


凪咲さんは僕の隣に来て、軽く肩を揉んだ。


「きっと、またすぐ日本に戻ってくるよ。永遠の別れってわけでもないんだし」


「はい…そうですよね」


「肩こりに効く入浴剤あったよね。あれ使おうよ。私お風呂の準備してくるから」


「ありがとうございます…」


言われてみれば確かにそうだ。

じゃあ僕はなんでこんなにソワソワしているのだろう。


「ダンさんにメールしよう」


サラさんのこと。凪咲さんが落ち着いたこと。思うままに書いて送信した。


「ふぅ」


ヴヴヴ…


「え」


返信…早すぎるような。



件名 ジュリアです


ご主人様は入浴中のため、代わりに返信させていただきます。

サラ様の帰国については私達も知っています。柊木様がよければ明日空港には一緒に向かうのが良いかと。


落ち着いたようで良かったです。

危険な状態ではありましたが、異常地帯を発生させたことは事実。

伸び代があると考えればいい…とご主人様が。

追記で何らかの強化を試みるといいかもしれないとのことです。



「これを一瞬で入力したと考えると…ジュリアさんが恐ろしい」


そういえばジュリアさんがスマホを操作しているのを見たことがない。

フリック入力の速度が異常なのか…あ、なんか前にテレビで音声入力がどうのこうのって見たかもしれない。


「だとしてもめちゃくちゃ早口で言わないと…考えたら負けなのかもしれない」


2通ほどメールのやり取りをして、ダンさん達が明日僕達を迎えに来てくれることになった。


「サラさんに何かお土産みたいなものをプレゼントしたら喜んでもらえたり…」


「写真がいいかな」


「え?」


「みんなで写真撮ってさ。いつでも顔見れて、思い出せて、…ね?」


「写真…」


「でもオヤブンのことも考えると、猫のエサ詰め合わせとか?」


「あ。それいいと思います」




1人で抱えてた時と違って、凪咲さんが起きてからは…意外とあっという間だった。

お風呂に入ったり、簡単なものを作って食べたり、テレビを見たり。なんでもないようなことが大事だと改めて思った。


そして僕達は起きたまま朝を迎えた。






………………………………next…→……







ピンポーン



「ダンとジュリアかな」


「行きますか。ソープ、お留守番お願いします。行ってきます」


「ニャア」



1階に降りてドアを開けると…やっぱりダンさん達だった。



「真。おはよう」


「おはようございます」


「柊木様。準備が済みましたら早速車に…」


「ありがとうございます」


「心配かけちゃってごめんなさい」


凪咲さんが気まずそうに謝ると、ダンさんは1歩踏み込んで凪咲さんの顔をじっと見た。


「問題ない。むしろ喜びたまえ。君はまだまだ強くなれるのだから」


「……強く…」


「あの。車ってあのタクシーですか?」


「はい。偶然、"あの時"と同じ運転手で私達を見てとても驚いていました」


「あの時…」


オガルと初対面した時の…


「帰りの分も先に払ってあります。現ナマで」


「ジュリアさん、あの時も現ナマって何回も言ってましたよね」



タクシーに4人で乗るなんて初めてだ。

何かあった時のため…ということでジュリアさんが助手席に。

後ろに僕達とダンさんが座ったところで


「あの…さっきも言いましたけどお金貰いすぎてるんです…」


運転手さんが申し訳なさそうにしている。


「問題ありません。その分無茶をお願いする可能性もありますので」


「む、無茶ですか!?」


「行き先は最初にお願いした通りです」


「分かりました…シートベルト…お願いします」


運転手さんが置き場に困っている少し大きめのポーチ…チャックが閉まりきっていなくて中身がちょっと見えてしまう。

札束だ。現ナマで1日買われた形になっているようだ。

最終的に座席と背中の間に挟むということで落ち着いたようだ。






………………………………next…→……






「おお…」


空港。

修学旅行の時に利用したのが最初で最後だったから、入り口が見えただけで初めて来たのと変わらないテンションに。

たくさんの車と、まさに旅行者な人達。

キャスター付きのスーツケースをガラガラ言わせながら引きずり回すあの姿…


「ふふっ。真をこっちに座らせればよかったね。真ん中だとよく見えないでしょ?」


「いえ。そんなことは…」


「よし、降りようか」


「私達が戻るまで待機をお願いします」



「はい、分かりました。あんな大金貰っておいて他の客乗せて帰るなんてありえませんよ…!」



タクシーを降りて建物の中へ。

あぁ…スーツケース…引きずり回したい。


「真。手が…」


「え?…はっ!!」


僕の右手がスーツケースの持ち手を握るように…そしてちょっと背後に預け気味に…まるでエアギター感覚で


「エアスーツケース…?」


「やめてください。恥ずかしすぎます」


「代わりに手繋ごうよ。私を引きずり回して?」


「何言ってるんですか」


「…ガラガラ言うから」


「言わなくていいですよ!からかわないでください!」



それにしても人が多い。

こんなに人間がいたのかと驚く。…いや、そんなの当然だと分かってはいるのだが。


「サラ達はどこだろう?ちょっとメールするね」



「…はぁ」


「柊木様、どうされましたか?楽しそうにしていたのに突然ため息なんて」


「なんかやっぱり急だなって。詳しく分かりませんけどサラさんが乗るのって朝一番の便とかじゃないんですか?」


「それだけ家族の元に早く帰りたいということだろう」


「……家族」


「だが私もこの別れは少し…いや、かなり大きな事だと考えている。共に戦う仲間が減るのは…」


「…ですよね」


「ハンバーガー食べてるって。あっちかな」


日本で最後に食べるものとしてハンバーガーを選ぶなんて。


「オヤブンがカリカリに揚げたポテトを食べたいって言ったみたいだよ?」


「あ、そっちなんですね」



お店に近づくとすぐに彼女達が見えた。

入り口から1番近い席で食べてる…なんかすごい注目されてるような。


「よく考えたら猫がポテト食べてるって結構な問題だったり…」


「ねぇダン。異常地帯って使う使わないを選べたりするの?」


「何か気になるのか」


「オヤブンって確か異常地帯を発生させてたはずだから」


「そうか。…どうだろうな。まだジュリアはそこまで強くなってはいない。私には分からない」「申し訳ございません、ご主人様」


「気にするなジュリア。異常地帯の有無が強さの全てではない。それは自分でも分かっているはずだ」「はい、ご主人様」


「…でも空港で異常地帯が発生したら大変な事になりそう」


「オヤブンは天才だ。彼なら可能なのかもしれないな」


「あ、サラさんがこっちに手振ってますよ!」


入店するとジュリアさんが注文のためレジへ。

僕達はサラさんの隣のテーブルに座った。


「マコトー!ナギサー!」


「ふふっ。元気そう」


「元気しか長所ないからな!しゃーないで!」


「あの。オヤブンさん。普通猫はポテト食べないんですよ」


「ん?それがどうかしたんか?」


「…悪目立ちしてます」


「ワイは気になら…そうか、サラが余計アホに見られるな。でもこのカリカリが食いたいんや…」


「あ、そういうことなら」


「ん!なんや!」


「これ、猫のエサなんです。お土産にどうかなって持ってきたんですけど」


「おお!?マコト、お前ワイに他の猫と同じもんを食わせようと」


袋を開けるとオヤブンさんの様子が変わった。


「ん?…ん?…ちょっといい匂いやな。それこっちに…このトレーの上に出してみ」


「はい。試食してみてください」


「あむっ…おっ、…こぉの…おぉ、」


気に入ったみたいだ。猫なのにリスみたいに頬が膨らむほど詰め込んで咀嚼してる。


「詰まらせちゃいますよ」


ボリボリ鳴ってる。飲み込むと同時に目を見開いて


「かぁっ、や、やるやんけぇ…!!」


「そんなに良かっ」「もっと出せ!食わせてくれ!食いたいんや!はやく!!」


「ちょっ、オヤブンさん!」


周りの目を気にして慌てたが、客がどんどん店から出ていく…


「あの…もしかして」


「異常地帯だ。食事で興奮したオヤブンが発生させたのだろう」


「そんなことあるんですか!?」


「マコト!はやく!!」


「あ!す、すいません!」


トレーの上で軽く袋を振って出そうとすると、オヤブンさんが袋を叩いて出すのを手伝おうとする。

ただ思ったより体重をかけてくるから袋を持つ手のバランスが


「わわっ」


トレーの上にぶちまけてしまった。

床に落とさなかっただけよかったと思うべきか。

オヤブンさんはもうガツガツ食べ始めてるし…放っておこう。


「真。こっち来て」


「はい。なんですか?」


「写真撮ろうよ。ダンとジュリアはこっち。サラとオヤブンは動かなくていいよ。私達が寄るから」


「おおおお!写真撮りまーす!」


目がキラキラしてるサラさん。食べかけのハンバーガーを両手で持って食べようとしているポーズで静止した。

僕達はサラさんの左側。ダンさん達は右側に寄って、凪咲さんがスマホをテーブルの上に設置した。


「セルフタイマーにしよっか。5秒だからね」


画面に映る自分達を見ながら最終位置調整。

準備が出来たところでタイマーをスタートすると、画面上に数字のカウントが表示された。


5、4、3、2、1…


「んぎゅっ!水っ!水ぅ!?」


撮影の直前、オヤブンさんがパニックに。僕達全員がそんなオヤブンさんに注目したところで


パシャッ。


「あっ!変なタイミングで撮影されちゃいましたよ!」


「オヤブン。はい、水どうぞ」


「あれ、サラさん…オヤブンさんのことオヤビンって呼んでましたよね?」


「…っ……っ……っぷは…助かったぁ…知らんけど呼び方変えたみたいやで?」


「あ。意外といいかも。見てよ」



撮影されたものを見てみると…オヤブンも含めて全員驚いた顔をしていて面白い。


「記憶に残りやすくて良いと思うが、一応笑顔のものも撮っておこう。さぁ、準備をしたまえ」


ダンさんが写真写りを気にするタイプだと判明した…気がする。

少し焦っているように見えた。






………………………………next…→……






最後の最後に楽しい思い出を作って、サラさんの見送りの時がやってきた。


「電話もメールもある。私達、離れても友達だからね」


「ナギサ…!」


「いつでも戻ってこい。困った時は私達を頼りたまえ」


「おう!世話になったなぁ…付き合った時間の長さなんて関係ないんや。それが友情ってもんやで」


「オヤブンさん。代行は日本だけでなく世界中にいます。数は分かりませんけど…。油断は禁物です」


「せやな。次会う時、ワイとサラはめちゃくちゃ強くなっとんで?マコトもナギサもちゃんと精進するんやで!」


「はい!」


「…サラ様。こちらを」


「ジュリア!わぁお!温泉まんじゅう!ありがとうございまーす!」


「ぜひまた会いに来てください」


「はぁい!!」



サラさんとは握手。オヤブンさんとはハイタッチ。

別れの挨拶を終えると、2人は何度も振り返りながら行ってしまった。



「奥の通路に行くまでは見守ろうよ」


「そうですね」


「楽しい時はあっという間、だな」


「はい。ご主人様」



……やっぱりあっという間…なのか。




ドン。



「あっ、すいません」


「………」


「真?」


「通行の邪魔になってたみたいです。サラさん達も行っちゃいましたし、僕達もそろそろ…」


「柊木様」


「はい?」


「…刺さってます」


「……刺さってます?それってどういう」


「はい。刺さってます」


「ナイフか!」


「……え…」


どこに刺さっているのかを確認したかったが、視界がボヤけてきた。

分かる。この後どうなるか。気絶して…


「抜け」「はい。ご主人様」


「あぎゅっ!?」


「気配を消す布を被せます」


((READ))



そうだ。ダンさんがいるから、再構築で…!


じわっとする。背中を刺されたみたいだ。

でもすぐに治る…いや、上書きされる。

個人的には、治すより強いように思う。

パッと元通りになれるのが良い。



「ダンさん、ありがとうございます」


「悪いがこのまま布を被っていたまえ。また狙われる可能性がある」


「え?でも一体誰に」


「心当たりはないのか」


「……分かりません」


「ジュリア、タクシーまで……っ?」


「ダンさん?ダンさん?」


布を被せられているから周りが見えない。どうにか自分の靴が見える程度で。…大きい布だ。


「真。君のパートナーの姿が」


「え!?」


「呼びかけたまえ。まさかとは思うが…三剣猫の時のように暴走するという事になれば」


「困ります!」


凪咲さん!凪咲さん!!戻ってきてください!大急ぎで!!




「キャーーーーーーー!!」




悲鳴。案の定、というやつか。


「真。移動するぞ…」


「ダンさん?どこに行くんですか?」


「もちろん外だ。と言いたいが、君はあの暴走状態から元に戻す方法を知っているか」


「凪咲さん、暴走してるんですか?」


「可能性の話だ。ただ、私の目に問題がなければ椅子やスーツケースが地面を離れて乱れ舞うのは異常に思える」


「…この布取ってください」


「ああ…そうしよう」



「……ん………うわぁ」




乱れ舞うって言葉が確かにピッタリだった。

ポルターガイスト現象と言ってもいいだろう。

長椅子がぐるんぐるんと振り回されながら宙を舞う光景は異常以外にありえない。


…たくさん人がいるから分かりにくいが、少し離れた場所でのみ人の流れ方が違うように見える。意図的に避けているような。



「あそこにいるとしたら」


「行くのか」


「放っておいて落ち着くものじゃないんです。とにかく出来ることをやらないと」



僕にナイフを刺した犯人を追いかけたのだろう。

でも、戦闘になったらどうすれば。

せめて人目を避けて戦わなければ…普通の人達を巻き込むわけにはいかない。







………………………to be continued…→…


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