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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case10 _ 終わりの始まり
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第2話「異能の手」





「すいません。すいません…、通ります。すいません、どいてください」


さっきまで特に気にしていなかった人の多さが、緊急時にはものすごく邪魔になる。

まっすぐ向かいたいのに立ち止まって話をしていたりわざとゆっくり移動していたり。

無言で押し退けたいくらいだが、自然と"すいません"と何度も口に出していた。



「凪咲さん!」


もう少し。

この異常現象の発生源にたどり着いたら、すぐに凪咲さんを抱きしめてこの場を離れなければ。


「すいません!通してください!」


戦闘になったら。

僕の後ろにはダンさん達がいる。

凪咲さんさえどうにかなれば、彼らが敵を倒してくれるはず。



「凪咲さん!」


「………ぁ」



1人。大勢がこの1人を避けて歩いていた。

半径2mほどの円形のスペースが不自然に生まれていて、その中心でうずくまっていて。

僕を見つめるその目は…ブラックホールみたいで。

目を合わせたら最後、身動きがとれない。


「………ぁ」


「…凪咲さん…じゃない…」



グレーのパーカーと同色のスウェットパンツ。

フードを被っているけど、はみ出ている髪の感じからして


「真、君のパートナーは」


「ダンさん、来ないでください」


「…敵か」


数m後ろから追いついたダンさんが声をかけてきた。

この状況、どう解決すれば


「話すことはできますが、僕は今動けません。僕の目の前にいる相手と目を合わせてはいけません」


「なるほど。ジュリア」「はい。ご主人様」


「ここで戦うつもりですか?」


「殺す必要はない。ただ、戦意を奪うだけだ」



「粉砕します」



僕の右側をジュリアさんが抜けて、うずくまっている相手に


「………ぁ」



ウウン…!


「え、うわ…」


その瞬間、僕とジュリアさんが同じように仰け反る。

今のよく分からない衝撃で体が解放されたみたいだ。

…動ける。



「ジュリアさん」


「代行か使者かは不明です。接近を許さない力を持っているのであれば、他に選択肢はありません」


「真。離れるぞ」


「でも凪咲さんが」


「電話をかけたまえ!"それ"の近くにいないならまた違う問題ということだ!」


「は、はい!」



ジュリアさんが僕の隣に。

また襲われないようにと守りつつ、電話をかけている間も移動し続けられるように道を開けてくれている。


「……鳴ってる」


呼び出し音は聞こえる。今のうちにスピーカーにしておこう。きっと聞こえにくいだろうから。

…あとは出てくれれば


「っ…もしもし!真!?」


「凪咲さん!!今どこですか!」


「ごめん!偽者だった!」


「偽者って何の話ですか!」


「真にナイフ刺した奴!追いかけてトイレに押し込んで殺そうとしたら風船みたいに割れていなくなっちゃったの!」


「とりあえず空港の外に!待たせてるタクシーの所まで戻ってきてください!そこで合流しましょう!」


「分かった!」



「声の雰囲気からして暴走はしていないようです」


「ですよね。よかった…」


「では急ぎましょう。柊木様、ついでに申し上げます。"ああいう相手"と遭遇した場合は、放置するか誘い出すのが有効です」


「あのうずくまってた人ですか?」


「悪魔降ろし。超能力者。いわゆるオカルト系と分類できるタイプの代行や使者。彼らは映画や都市伝説などに影響され、たった1度で代行の力を使い果たしてあのような感じに仕上がります」


「その言い方だとみんな同じように仕上がるって聞こえますけど」


「はい。同じように仕上がります。似たり寄ったり。類似品です」


「類似品って…」


「もちろん代行の能力には個体差があるので、下手に関われば命を落とすことになるかもしれません」


「アドバイス出来るってことは今まで何回か戦ったりしたことがあるんですか?」


「はい。12殺、4逃走、1餓死です」


「単位が全部おかしいと思うのは僕だけでしょうか」


「接触可能なら殺せます。行動させないように先に手足を潰すのが良いかと」


「さっきみたいに触れない時はどうするんですか」


「害がなければ放置。攻撃してくるのであれば」


「仕方なく逃げるんですね!」


「ご主人様は解決策を用意しています。いずれはどんな相手でも必ず殺せるでしょう」


「………」


「もうすぐ外です。走ってください」


「はい!」



先に外に出たダンさんを追うと、


「真!」


「凪咲さん!」


電話で話した通り。タクシーの近くで再会できた。


「大丈夫だった!?ダン達がいるから何も言わずに任せちゃったけど」


「はい。でもこっちはこっちで凪咲さんのこと心配してたんですよ!勝手にどこかへ行ったりしないでください!」


「ごめんね…」


「2人とも、タクシーに乗りたまえ」


「あ、はい…」


先に僕達が乗ると、ダンさんはドアを閉めてしまった。


「ダンさん!?」


「"あれ"を放っておくわけにはいかない」


「戦うんですか!?なら僕達も」


「すまないが君達はこのまま帰りたまえ。任せろ。私は負けない」


「…でも」


「運転手。この2人を乗せた場所まで。急いで出発したまえ!」


「ダンさん!」


「片付いたらメールを送る」




「シ、シートベルトお願いします!すぐに出ますから!」


運転手さんに促されシートベルトをカチャカチャやってる間に車が動きだしてしまった。



「……ダンさん」


「……」


黙って僕の肩に頭を預ける凪咲さん。

僕は僕で彼女の手を握った。

ダンさん達のことが心配だけど…






………………………………next…→……




タクシーを見送ることもなく中に戻り走る2人。



「さて。ジュリア、試そうか」


「追記…しかしご主人様、体への負担が」


「意識を失わなければ問題ない。本来考えていた使い道とも似ている…このための"再構築"だ。やるぞ」


「…かしこまりました」


空港に残った2人。

ダンにはダンの考えがあって真達を先に帰らせた。

その考えを知るジュリアは心配そうにダンを見ていた。



「この能力はひと味違うぞ。調べてきた歴史の中で誰1人として本に残していない。思いついた代行は少なくないだろうが、誰も実現出来なかったということだ」


「…私の指先に創造を無効化する力を与えるのですか?それはどういう…」


「お前が触れればそれで終わる。代行の武器、使者の遠距離攻撃、バリア、…使者そのもの。何もかもだ。触れれば無効化される」


「無効化…存在を否定し消し去るのでしょうか。それとも」


「不明だ。だからこそ私達が試す。創造可能な回数を限定し、追記式補助を使い、再構築で負担を体の外へ逃がす。それでも相当な覚悟が必要だ。…しかし、成功すれば」


「先ほどの相手は動かない。実験相手としては最適ですね」


「ああ。…いいな?」


「なんなりと。従います」


「異能の手。さあ、創造の力で創造を否定してみせろ…!」




((READ))




「参ります」


ジュリアの右手が震える。指先、爪の内側から青い液体が侵食して5本の指を染め上げた。


「……、」


創造が行われるとダンはそのまま意識を失いかける…が、ギリギリで踏ん張り自身の創造の書を開く。


「2冊を同時に使い続けるのは初めてだ…」



((READ))



再構築。自身の体を健康なものに強制的に上書きする。創造による負担は行き場を失い…


「消える。コストの踏み倒しが出来る…!」



一方。


「この手で…触れる!」


ジュリアは先ほどの敵の元へ。

今も変わらずうずくまったままポルターガイスト現象のように物を浮かせて乱暴に振り回している。


「………ぁ」


彼女の接近に気づき、顔を向ける。

それは恐らく力の使用を示していて。


「異能の手…!」


すかさずジュリアは右手を突き出す。



ウウン……ズォッ!!


目に見えない何かがジュリアの手に触れ、同時に弱々しく弾ける。炭酸水に指を入れるような微弱な感覚を確かに感じながらジュリアは前進する。


「……ぁ、……ぁ、」


「これが…歴史を知り、新たに刻むための力」


「……ぁ、……な、なんでだよぉ!ぶっ飛べよぉ!うわぁぁぁ!!」


「あなたのような代行は皆同じ。狂った演技を続けて自分に酔っているだけで、その身が危うくなれば途端に正気に戻り、命乞いを始める」


「っ、だっ、だったら!助けてくれ!よく知ってるんなら助けてくれ!分かるだろ!?見逃せば必ず」


「勘違いはいけません。代行がやり直す人生などこの世には存在しません」


「いやだぁ!こっちに来るな!くるなぁっ!?」


ジュリアを阻む力は消失。ついにそのうずくまって動かない体に手が触れる…と


「おっと…」


「ぅぅわあああああああっ!!!」


絶叫。その場で体を広げて横になりもがき苦しむ。

触れられた背中は手の形を残しながら肉を失い、内部を露出していた。


「あなたは創造の力で肉体に何らかの変更を?」


「………」


「まるで綿あめですね。この手で触れればその体を好きなだけ溶かせてしまう」


「………」


「ショックが強すぎたようです。声を発することも出来ないとは」


右手の代わりに左手で体に触れる。


「声は男性。胸の膨らみは女性…」


ポケットに手を入れ、漁る。

触れたものを掴み引き抜くと


「紙切れと…23円……終の解放者に」


光あれ。紙切れを広げるとそれだけ書いてあった。


「てっきり創造の書の切れ端かと思いましたが…では下半身に…」


下腹部に触れる。へその下に膨らみと異物感。


「おや…体内に」


「っジュリア」


「はい、ご主人様」


「…様子がおかしい。異能の手を、解除出来ないっ…!」


「……ご負担は」


「続いている。蝕み続けている…再構築で踏み倒せると考えていたが、神は"ズル"を許さないらしい…相応のコストがこれか…ふっ。死ねるぞ」


「……ではこれで」



バキィッ!



苦しむダンを見てジュリアが取った行動は。


「…右手を…折ったのか」


「そして取り除きます。これで創造の対象となる右手は」


床に落とし、思いっきり足で踏み抜くと右手は破壊された。


「今のは余計でした。手首から離れた時点で異能の手の効果が無くなっていましたから」


「………すまない」


「いいえ。ご主人様を苦しめるなど仕える使者としてありえません」


「…腹立たしいな。お前が右手を折った途端に楽になった」


「折って回復出来なかった時のことを思えばむしろ喜ぶべきです。ご主人様、それよりもこの方…」


「なんだ」


「不思議な体をしています」


右手を失ったにも関わらずジュリアは表情を変えることなく話を続ける。

右の手首からは複雑なケーブルやら米粒ほどの大きさのネジなどがポロポロとこぼれ落ちている。


「待て。先にこれを」


ダンはそれを止めるためにハンカチを取り出し、手首を塞ぐように結びつけた。


「…ありがとうございます」


「続けろ」


「体内に創造の書が埋め込まれています。どのように入れたのかは分かりませんが、強引に入れたと思われます」


「……」


「声が男性、胸が女性ときて…下半身は男性でしょうか。足の太さや筋肉量からして」


「ジュリア。ずっと気になっていた。周囲の人間が私達をただ避けているこの状況が。異常地帯ならば人々は離れていくはずだ。どうして気にせず避けて歩くだけなのか…」


「脱がせてみましょう。本を読めば何か分かるかもしれません」


ジュリアは左手だけで器用に服を脱がせていく。

男性らしい下着に手をかけ、引きずり下ろすと


「……ご主人様」


「見えている」


「この方は男性でもあり女性でもあるのでしょうか」


「その答えは本にある。取り出せるか」


「はい。…っ………失礼を。前ではなく後ろから入れたようです。…掴めました。奥に引っかかっているので、引き抜くため多少乱暴になるかもしれません。血などが飛びますのでご主人様は下がってください」


「見ていられない…」


ダンは後ろを向き2歩分離れる。

後ろでは肉が千切れる生々しい音が聞こえ、少ししてから彼女は小さくため息をついた。


「取り出せました。あとで何者かが回収するつもりだったようです。本にはビニール袋が」


「…回収か」


「紙切れにあった終の解放者に光あれという言葉と関係があるかと」


「よし、本を」「ご主人様!」


振り返り、ジュリアに近づこうとしたダン。

そんな彼の首に手刀を宛てがう存在。

ジュリアの目に映る、桃色の髪の彼女。



「…回収しにきた…ようだ」


「創造の書。渡す」


「断ります。今すぐあなたを粉砕して」


「ジュリア。構わない。渡せ」


「ですが…!後のことはお任せ下さい。処刑モードを」


「その気になれば私はもう死んでいる。わざわざ"交渉"してくれている向こうの優しさに甘えるべきだ」


「……分かりました」


ジュリアはその女性にビニール袋ごと差し出す。


「これ。右手」


「…なんだ、…創造の書の切れ端か?っ、」


ダンは解放され、左手に紙を握らされる。そして腹に1発蹴りをもらってその場で崩れた。


「ご主人様!」


「創造の書。もらった」




「よーし、本寄越せ。あ!待て!それ絶対きたねえだろ!ビニール袋取れ!でも本には触んなよ!?」




流れゆく人々の中からもう1人姿を現した。

ダンの心配をしながらもジュリアはその姿をしっかり目に焼き付ける。



「悪いなー。ま、再構築とかいう大当たりの創造でどうにでもなるだろ?そのご主人様が起きたらやっとけ」


「…あなたは」


「勘違いされたくねーからこれだけ教えてやる。俺は終の解放者じゃねえ。あいつらは面倒だけど面倒なりに強いからなー…」


「……」


「ジュリアだっけか。ロボットメイドなんだろ?痛みを感じないなら羨ましい…けどな、もう少し自分を大切にしろ。助けるためでも自傷なんてありえねえから」


「見ていたんですか」


「お前のご主人様に吹っかけたのと同じようにお前にも"交渉"してやるよ。…俺達のこと、誰にも言うな」


「…もし話せば、どうなりますか」


「俺達を敵に回すことになる。あ、こいつ使者の中でも最速クラスだから戦うことになったらポンポン首が飛ぶ…分かるよな」


「………柊木様に話すな。ということですね」


「おぉおぉ。お前頭キレッキレかよー!…出来ればお前らの仲良しごっこはもう少し見ていたい。黙ってりゃ今までと変わらねえ生活だから。な?」


「……」


ジュリアは黙って1度だけ頷いた。



「にしても。面白いことするだろ?終の解放者ってのは。こいつは無理やり代行にされた。闇バイトってやつだなー。逃げ出さないように体に女を足されて、ケツから本突っ込まれてさー。めちゃくちゃすぎるだろ。…こんなこと出来るのはオガルくらいだ」


「オガル…!」


「会ったことあるだろ?あいつの力はあいつが感じた痛みの分だけ強くなる。良い事聞けてよかったな」


「そのオガルなら柊木様の使者が」


「そういうことにしといてやるよ。近いうちに腰抜かすかもなー!あーっはっはっは!」


そう言って桃色の髪の女性の使者から受け取った創造の書を開き、ページに手をかけた。


「あ。お前らも終の解放者と戦うならこれも教えてやるよ。あいつらな、何かする時は必ず空間を捻じ曲げる創造を使うんだよ。どういう仕組みかは教えられないけどなー。このページを破けばそれが無くなる。つまり人々がお前らを発見しちまうってわけ」


「……」




「黙ってろよ。これは俺達の戦争だ」



睨み合ったまま数秒。先に折れたのはジュリアだった。

ジュリアはダンを担ぎ、逃走。


姿が見えなくなるまで見送る2人。




「なぁ。この死体お前に任せていい?」


「…汚い」


「だよなー…しょうがねーっ!ゴム手袋創るから2人でやるか」


「分かった」


「でもお前足持てよ」


「…汚い」


「汚いもんなんていっぱい見てきただろうが。というかどうすっかな…あのダンって代行もイカれてる。創造を否定する創造かぁ…あのまま死んでてくれりゃあよかったのに。あいつと戦うってなったら切り札あれで確定だろ?どうすんの?さすがの俺でも本当に死ぬかも」


「…嘘つき」


「でぇっ。ばれたか」



その後、空港には死体も争った痕跡も残らなかった。







………………………to be continued…→…


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