↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case9 _ 3人の目覚め
78/443

第4話「向こう側へ」





空き巣なんて初めてだ。

冷静に無くなった物がないか確認はできたが、結果を受けてその冷静さも無くしてしまう。


「わ、わ、えっと、どうしよう…」


今は凪咲さんのこともある。

なのにソープがいなくなって、創造の書まで……



「真。お掃除ちゃんとしないとだめだよ。一緒にしよ?」


「今はそれどころじゃな…あっ!!」


凪咲さんにお願いすれば創造の書を取り返せる。

レベル2になった恩恵がこんな形で活きるとは。


「凪咲さん。創造の書を渡してください」


「……どうして?」


「必要なんです!すぐに!」


「…私より?」


「え…」


「私より必要なの?」


「それは」


答えられない。

急いでる時に聞かないでほしいというのが1番の理由だが、答えようとするとちょっとした矛盾が発生する。

凪咲さんは大事だが、創造の書は彼女の生命とも言える。

目の前にいる彼女を選ぶか、彼女の生命を選ぶか…そんなの答えられるわけが


「私のこといっぱい考えてる。嬉しい」


「…凪咲さん。ソープが何者かに」


「おいで?」


「あの!」


力いっぱい引き寄せられ、一瞬手首から先が取れてしまうんじゃないかと思った。

数秒強めに抱きしめられ、解放したかと思えばじっと見つめてくる。


「一緒に寝よ?」


「…今ですか?今は」


「来て?」


今の彼女の発言は、文字に書き起こしたら大半が語尾に"?"が付くだろう。

なんで?なんで?と質問攻めする子供のようで、実際はそれよりもっと気味が悪くて、圧こそ感じないものの…決して逆らってはいけない気がしてならない。


何かを言うより先に彼女は布団に手を向ける。

魔法を使っているのだろう。崩れた布団は浮き上がり、綺麗に広がると床に着地。シワも見えない力で取り除かれていく。


「ふふっ」


「ちょっ!?」


ベッドメイクならぬ布団メイクが完了すると彼女は僕を押し倒した。

触れ方は優しいのに、もしかしたら車にぶつかったくらいの威力があったかもしれない。

押された胸の辺りがやけに苦しい。


「……」


無言で彼女が隣に来る。

数回一緒に寝たことがあるから、ソワソワするようなことはない。毎回緊張はするが。

でも今回は緊張の意味が違う。


「ぎゅってして?」


「ちょっと…息が…胸が苦しくて…仰向けでも」


「ん」


「ぁぐっ」


ならばと強引に腕を掴まれ引っ張られる。

無理やり全身が右に起こされ横を向く。

左手は彼女の腰へ。体の密着、顔の近さ、でも考えることは


「殺さないよ?」


「っ……」


考えるより先に答えを言われた。


「私の機嫌を気にしてるの?」


「…はい」


「喧嘩しても殺さない。だって真だもん」


ただでさえ近いのに、彼女はさらに距離を詰めてきた。

互いに腰に手を回し鼻息すら遠慮したい距離感。変わらず見つめてきて


「私は使者。だけど人間」


「…え、…」


「あなたに創られた日から、毎日が特別」


少しだけ温かい表情になった。それを見て僕も落ち着いてきた。


「自分の存在を疑う日々だった。でも、あなたは私の存在を信じ続けてくれた」


不思議と掛け布団がない状態でも包まれている気持ちに…錯覚…?


「私の好みを聞いて何でも用意してくれた。服でも食べ物でも何でも。望めばいくらでも甘やかしてくれた」


「…僕、そこまで」


していたのだろうか。必要なものは揃えてあげようとはしたが。

いや、客観的に考えると


「毎日私に気を使って疲れてたよね。でもそんなの全然見せなくて、いつも変わらないあなたで」


…あれ?なんか凪咲さん、話し方変わって


「あなたを守り戦うのが私の役割なのに。私の方が強くなくちゃいけないのに。武器も持たない無防備なあなたの方がずっと強かった」


「そんなことは」


「思い出して。私がいない時のこと」


「……」


「私のために私から離れたあの時」


……元の世界に戻そうとした時、か。

あっという間に過ぎた時間ではあったが、忘れることはない。

頼るために代行が代行を探し、良い返事をもらったのに…それを選ばなかった。


「僕は」


「私がいなくても戦えた」


「凪咲さんを苦しめる選択を」


「それでも最後に私を選んだ」


「……」


代行同士の戦いを影で傍観していた。

決着を見届けて、恐怖して、結局最後に頼ってしまっただけのことで。


「やっと必要としてくれた」


「え?」


「それでも私があなたにしてあげられたことは全然なくて」


「そんなことは」


「私はあなたを守れなくて、何度も何度も死に引き合わせてしまった」


「僕生きてますよ?」


…でも、それはダンさんがいたからだ。

彼の創造が無ければ、今頃僕はどうなっていただろう。


「それでも私を頼ってくれる。好きって言ってくれる」


気づけば体も温かくなってきた。

楽な格好に着替えていたらすぐに寝れそうなくらい心地良い。


「あなたと一緒にいるうちに、このままがいいって思うようになった。もう家族に会えなくても寂しくないって…あなたといたいって」


「凪咲さん…」


「その気持ちを改めて言葉にするね」




「あなたが、好き」




「っ、僕もです。凪咲さんのことがっ、」


言い切る前に唇を塞がれた。

考えなくてはいけないことや今すぐ行動しなくてはいけないことがたくさんあるのに、僕はそれらを後回しにした。


…選んだ。目の前の彼女を。


ひたすらに自分の気持ちをさらけ出した。恥じらうことなく。

抑えていた彼女への好意がキスに反映される。

無我夢中で求め、求め、求め、求め、さらに求めて。


「っ、……!?」


頭の中で音がした。

紙が破れるような、ビリビリという音。

それに小さな振動と痛みが伴い…脳を揺さぶる。


でも、やめない。

舌も唾液も、全部がぐちゃぐちゃに混ざり合うような感覚に没頭して、やめない。









ドサッ!


「……ん?」


腰の辺りに何かが落ちた。

大きい何かが。


「……創造の書。必要なんだよね?」


「え、あ!」


起き上がり確認すると2冊ともそこにあった。

取り出してくれたのか。

…白の表紙に茶色い汚れが。


「この匂い、焼肉のタレ…」


「犯人追いかける?」


「でも。あれ?凪咲さん」


「うん」


「凪咲さん?」


「ふふっ。なに?」


嫌な感じが無くなっている。

なんていうか、いつもの彼女だ。


「あの…変なこと聞いてもいいですか?」


「何か気分悪くて。あんまり覚えてないけど、真と一緒に帰ってきたっていうのは分かるよ」


「あんまり覚えてない?」


「うん…断片的っていうか。何回も真とキスしたのは覚えてる」


「なっ、なんで!?逆ですよ!そっちを忘れててくださいよ!」


「なんで恥ずかしがるの?」


「恥ずかしいに決まってるじゃないですか!」


「今してたキスが1番激しかったのに?」


「うわああああああ!!」


「真」


「なんですか!これ以上僕を」


「ありがとう」


「……こちらこそ、ありがとうございます」


何を?なんて聞けない。


「何もかもだよ」


「うぅ、はい」


「せっかく愛し合ってたのに悪いんだけど」


「言い方変えてくださいよ!」


「急いでソープを取り戻しに行こうよ」


「はい!そうします!すぐに!」


立ち上がり、ふと考えるのは創造の書の隠し場所。



「隠してそうな所を探すものでしょ?私に貸して」


「どこに隠すんですか?」


「帰ってきたらまたちゃんと隠すけど、今は」


凪咲さんがタンスの引き出しに手をかけ、引くと


「わ!ちょ!わっ!」


超高速。手で目を覆い隠した。それでもちょっとだけ見えてしまった。


「上から3段目だからね」


綺麗に整理された彼女の下着類が。


「こっちの花の模様が入ってる」


「言わないでください!僕は取り出しませんから!その時は凪咲さんにお願いしますから!」


「はーい。ふふっ」


「からかわないでくださいよ!」


「じゃあ行こ!」


今度は強引にではなく、優しく。

目を覆い隠す手をどかして見せてくれたのは僕が大好きな彼女の笑顔だった。






………………………………next…→……






家を出る時。鍵の確認を4回もした。

きっちり閉めた。



「ねえ見て。なんとなく地面に焼肉のタレが」


ポツポツと。これを辿れば。


「駅の方かな?」


「急ぎましょう!!」


交代で地面を観察する。

駅の方へ歩きつつ、万が一途中で道が違ったら対応できるように。


「私、あの焼肉のタレを初めて見た時驚いたんだよね。あれもスーパーイナズマで買ったの?」


「はい。業務用ってやつです」


2Lのペットボトルに入ったタレ。

あれは確か雨の日の特価で238円だった。

保存に気をつけながら長期間美味しく使ってきたタレだが、この調子だと犯人は頭から被ったことになるのだろうか。

大量に浴びなければこんな間抜けなことにはならないはずだが。



「あら、真ちゃん。急ぎの用事は終わったの?」


「あ。さっきはすいませんでした」


近所のおばさんに再会した。


「なんか口周りテカテカしてるわよ?ティッシュあげるから拭きなさい」


「あ、すいません」


「私もティッシュ1枚いいですか?」


「はいどうぞ。あら、あなたもテカテカね……あら…!」


おばさんが察して恥ずかしそうな顔をしたが、今はそれを気にしている場合ではない。


「そ、そういえばね。さっき駅前でちょっとした騒ぎがあったのよ」


「騒ぎですか?」


「犬がいっぱい走ってたらしいのよ〜!ほら、内川さんって足が痛いってよく駅前のマッサージ行くでしょう?その時に見かけたんだって!それで聞いたのよ〜」


「犬…?」


なんか無関係とは思えない。


「その犬達がどこに走っていったか分かりますか?」


「向こうよ。"向こう"」


「分かりました。ありがとうございます」


「気をつけてね〜」



小走りで駅へ向かう。


「待って真。向こうって?」


「駅を挟んで反対側です。凪咲さんも行ったことがありますよ」


「ラッキーストリート?」


「はい」


「…またあそこに行くの?」


「タレのこともありますが、勘が犬の方を優先しろと」


「分かった」



野良猫ならまだ分かる。でも野良犬は今では珍しい。

しかもそれが1匹ではないとなると、代行の目線でなくとも異変だと分かるはずだ。


きっとこの件には代行が絡んでくる。

そしてその代行は僕達が探したい人物と高確率で一致するだろう。


ならば


「あう!!」


「っとと…ごめんなさい!」


男の子とぶつかってしまった。どうにか堪えて転ばなかったようだが…


「怪我はありませんか?」


「ぷひ!?だい、だい、だだだ、大丈夫!」


「…なんだろう」


「走っていっちゃいましたね」


「でも大丈夫ならいいよ!走ろ!」


「はい!」







………………………………next…→……





「おいおい、どうしたんだよそんなに慌てて」



「ぷひ!ぶつかっちゃったです!」


「仕方ないんだけどお前は存在感がないからなー」


「でもぶつかったのは柊木 真、代行だったです!」


「……バレたか?」


子供は懸命に首を横に振る。


「ならいい。ついでだし俺達もついていくか」


「でも"ママ"…!」


「あのなぁ。っても間違いとは言えねえんだよなー…いいから来い。今の真がどんなもんか興味がある」


「はいママ」


真と激突した子供は、母と思われる人物と共に真達を追って駅へ向かう。





「サムネイル撮るよー!もーちょい右、ちょい右。おけ!おっけ!はい、」


数人の若者。手には立派なビデオカメラとスマホ。


「今回のネタはマジで再生数稼げそうじゃん?」


「な!編集頑張るわ!」


「…んー、悪い。もう1回サムネイル撮り直す」


「どした?手ブレじゃないよな、カメラの機能を考えたら」


「なんか気になってさ。後ろにめっちゃ髪が赤い人が写ってて。俺達よりそっち見ちゃうっていうか」


「えー。どんな人?髪赤いとか目立ちすぎでしょ…うわ」


「めっちゃ赤いじゃん!これも動画になりそうだし!」


「すごくね?髪赤いし、黒の革ジャンでしょ?超ロックな見た目してんのに、子供連れてるよねこれ」


「…なんかすごいな」


「シンママがロックンロールすぎる件ってどうよ」


「バンドやってる人なら宣伝のために出てくれるんじゃね?」


「よっしゃ、じゃあさっそく…」



その時、彼らの間を風が抜けた。


パキ。


「今パキって鳴った?」


「いや、別に…ええええええええ!?」


大事に両手で持っていたビデオカメラが真っ二つに割れた。


「うぅわ待って!データ!SDカード!」


「お、おう…熱っっ!!」


「黒焦げ!?どうなってんの!?」


「…本当にどうなってんの……」


それまで元気に騒いでいた若者達は静かになり、さっさと荷物をまとめると残念そうに去っていった。







………………………to be continued…→…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。