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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
チョコレート戦争
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第2話「カミナリばあちゃんと手帳」






「さてと…」



まっすぐ帰宅するところだった。

布団を買わねば。


前のは子供の頃から使ってたこともあってそれなりに劣化していたし、買い替えはありだ。

…凪咲さんのも買うべきか…んー…とりあえず値段を見て決めよう。



家の近所の布団屋さん。

個人経営の小さなお店だ。

ここの店主のカミナリばあちゃんにはずっとお世話になっている。



カランカラン…。

枯れたベルの音が入店を知らせる。



「いらっしゃい…あぁ、真ちゃん」


「お久しぶりです」


レジ横に座っている。…イメージ通りの姿だ。

……なんかもう歳をとってないみたいに変わらない。

白髪が増えたくらいだ。サンダルも、花のワンポイントが印象的なエプロンもあの頃と同じ。



「今日はどうしたんだい」


「布団を買い換えようかなと」


「あぁ〜。秀さんと布団一式買っていったのは小学生になった時だったもんねぇ」


「覚えてるんですか?」


「忘れるわけないよぉ。大事な客のことなんだから。…あれから大丈夫だったかい?」


「………はい、なんとか」


「こうやって大きくなった真ちゃんを見てると秀さんを思い出すよ。あんまり似てないけどねぇ…おっほっほ」


「あはは…」


「秀さんはもっと男らしかった。皆があの男を頼ってたねぇ」


「………」


「ただ、口が悪くてねぇ」


「え?」


「あたし前はカミナリばあちゃんて呼ばれてたでしょう?外に置いてた売り物の座布団に糞を落とした鳩に怒ってさぁ」


「晴れてたのに突然の落雷。鳩に直撃してしばらく地元の有名人になったんですよね」


「そうそう。でもねぇ、秀さんが人助けをする時は雷より怖かったんだから」


「……」


「次借金したら俺がぶっ殺すぞ…とか、ちゃんと店に鍵かけろ俺が店の物全部持ってくぞ…とかねぇ」


「そんなことを」


「あぁ…なんか思い出すねぇ。真ちゃんくらいの歳だったかねぇ…目つきが変わって」


「え」


「頼れる男になった。強くて厳しい…心強い…同世代の女はみーんな秀さんに惚れてたねぇ…おっほっほ」


「あの。その頃の秀爺…もしかして常に何か持ち歩いてませんでしたか?本みたいな…」


「どうだか…………………」


「…………」


「う………ん?………」


「………」


「顧客手帳」


「手帳ですか?」


「うんうん。助けてやった相手の名前と、何があったのかを書いてたねぇ。最後のページまで書き終わるとねぇ…すぐ燃やして捨ててねぇ…」


「どうしてですか…」


「そりゃあ皆の恥ずかしいこと書いてるからでしょうよ。借金、浮気、相談したことが外に漏れないようにってねぇ」


「…あぁ…」


「………そうだ」


カミナリばあちゃんは立ち上がって奥に引っ込んでしまった。

店の奥は僕の家と同じで自宅スペースになっている。…ちょっと懐かしい匂いがする。


待っていると何かを持って戻ってきた。



「これはあたしの宝物なんだけどねぇ。秀さんの手帳」


「え、でも手帳はページを使い切ったら燃やすって」


「こっそり拾ったんだよ。おっほっほ…見るかい?」


「いいんですか」


「見た通り焦げてるから全部は読めないけどねぇ。インクも焼けちゃったみたいで文字もぐちゃぐちゃで…」


手帳を受け取った。カミナリばあちゃんはゆっくりとしゃべり続けているがそれは聞き流すことにして…。




依頼人 トシ 、 解決済み


店の宝石を盗まれた。怪しいのは近所の風俗店。特に新店舗の"雨宿り"が怪しい。

店長と風俗嬢が挨拶に来た際、店長と話している間ずっと嬢が店の中をうろついていた。

恐らく隙をついて嬢がやったのだろう。


…調査の結果、嬢が使者だと分かった。吸血魔手と呼ばれる情報が少ない怪物で、吸血鬼とよく一緒にされる。

吸血魔手は異常なまでに手先が器用で、音を立てずにトシの店の宝石を盗んでいたようだ。

証拠を突きつけるが嬢は抵抗。仕方なく……………………した。




「大事なところが都合よく焦げてる…」


「それでねぇ、」





依頼人 トシ 、 解決済み


泥酔して帰宅する途中に店の鍵を盗られた。

犯人の容姿を一切覚えていないようなので近くに監視カメラがあるか調査するところから始める。


手がかりは見つからなかった。

強引に鍵を破壊し店に入ると、値段の高い宝石だけごっそり盗まれていた。

仕方ないので鍵を探すことにした。

トシのために創造するのはもう最後にしたい。


優秀な警察犬を手本にした使者のおかげで犯人を見つけた。

ギャンブル依存で金銭感覚が狂った男だった。妻と子に逃げられ、一発当てなければ人生やり直せないと嘆いていた。

救いようがないので殺した。

盗まれた宝石は既に他店で売り物になっていた。




「…トシちゃんのページが多い……あの人…結構面倒な人だったんだ…」


「おっほっほ…あとねぇ、」



次もまたトシちゃんだ。

………焦げがひどいけど…頑張れば読める。




依頼人 トシ 、 解決済み


襲われた。こいつはどこまでも運が悪い。

相手はカマキリ人間だと言っている。簡単に言えば化け物。一部の人間が言うなら使者だ。

入院中は放っておいても大丈夫だろう。その間に片付ける。


カマキリ人間を見つけた。

馬鹿な代行だ。自身の肉体とカマキリを融合させたらしい。

醜い緑色の肌と、手首から伸びる刃。

ぶっくら膨らんだ眼球は複眼になりかけていた。

これでもそれなりに戦えるらしい。危うく腕を持っていかれるところだった。

手加減せず全力で行く。

やはり金剛体を使う時は気合いがいる。




「…金剛体」


「真ちゃん。布団を買いに来たんでしょう?」


「…あ、はい。これありがとうございました」


「いいの?欲しいって言うかと思ったんだけどねぇ」


「いえ。これはこのままカミナリばあちゃんが持っていてください。…大切な思い出として」


「そうかい。ありがとうねぇ」




その後、布団を選ぼうと思ったがカミナリばあちゃんは店にある最高額の布団を勧めてきた。

…値札の左から2桁削って。






………………………………next…→……







「ただいま…」




「おかえりー。真、スマホちゃんと買え…うわ、何その布団!」


「なんとかって名前…忘れちゃいましたけど、高級なお布団です。布団ではなく、お布団です」


「いくらしたの…?」


「驚きますよ」


「………」


「6800円です」


「たっ………は?」


「高いって言おうとしました?」


「だって…高級な布団なんでしょ?6800円で布団一式だと買えたとしても相当な安物じゃないと」


「近所なんですけど、秀爺と長い付き合いの人がお店やってて」


「スーパーイナズマじゃないの!?」


「さすがにスーパーイナズマで寝具は扱ってないです。…秀爺の私物を持ってたんですよ。その人」


「…私物」


「はい。僕に返すつもりだったみたいなんですけど、そのまま持っていてくださいと言ったらこのお布団を…」


「お礼ってこと?」


「元の値段、13万6800円ですよ?」


「すご……」


「ふっかふかなんです。しかも、通気性抜群で洗わず干さずでずっと使っていた場合でも、臭わないしふかふかのままなんだそうです!」


「そんなに…?」


「さっそく布団に入ってみたいと思います!寝ませんけど!」




ワクワクしながら2階に上がり、自分の部屋でお布団を開封。



敷き布団が分厚い…!


「うわぁ…手が沈む…!」


厚さは大体10cmくらいはあるだろうか。

置いた手を優しく包みながら吸い込んでいく…!


「あ、枕もレベル高い…」


高反発、低反発、そばがら、綿…色んな枕があるが…どれにも当てはまらない。


マシュマロのような弾力…とても柔らかくて、預けた重さに従うも完全には潰れず……これ、首をしっかり支えてくれそうだ。



「うぉぉ…掛け布団!」


冬だと体温で暖かくなるまで少しひんやりして辛いのが、このお布団にはない。

一瞬。一瞬でほんのりと。1分もしないうちに…心地よくて…




「真?どう?」



「……おやすみなさい」


「え?寝るの!?」


「だってこれすごいんです…」


「………」



凪咲さんが無言でお布団に入ってきた。

驚きはしたが、正直今はこの心地よさの方が…



「あ、すごい」


「ですよね…」


「これシングルじゃないよね」


「ですね…一応シングル表記なんですけど、敷いた感じだとセミダブルくらいは…」


「真…この布団気持ちいい」


「同感です。これが体を休めるってことなんですね…」


「これからはこの布団で一緒に寝ようよ」


「…はい………ん?」


「なに?」


「いや、凪咲さんは自分の布団があるじゃないですか」


「また別々で寝るの?」


「当たり前にやってたみたいに言わないでくださいよ!僕毎回寝れなくて大変だったんですから!」


「寝れなかったの?」


「そうですよ!」


「なんで?」


「なんでって!…う……」


「顔赤いよ」


じっと見つめてくる…!


「……だめ…?」


「…だめ…です…!」


「え?」


「負けません」


「ふふっ。そっか…真は私と寝るより高級な布団の方がいいんだ?」


「言い方ずるいですよ!」


「だって寂しいよ。布団に負けるなんて」


「………」


本当にずるい。そんなことを言われると


「一緒に寝てもいい?」


「だめです」



でも僕は折れなかった。






………………………………next…→……







夕食後。ダンさんからのメールを思い出した。



「凪咲さん。ダンさんとサラさんからメールが来てたんです」


「あ。サラにはアドレスだけ教えたけどメール来てたんだ」


「はい。サラさんのは、オヤブンが太ってきたらしいという報告が」


「それ私も来た。画像送ってって頼んでみてよ」


「分かりました。…あ、あとダンさんの方なんですけど」


「そっちはサラみたいに平和な内容じゃなさそう」


「ですね。代行を追ってるから協力してほしいと」


「見せて…戦闘部族…末裔?」


「結構大変そうですよね」


「でも断れないよ。大きな貸しがあるし」


「……すみません」


「真が謝ることじゃない。…協力するって返事して」


「はい」


「あ、でも明後日以降ね」


「…何か予定あるんですか?」


「一応。真の体って、回復はするけどそれはダンの創造の力でもあるでしょ?元々の体を思えば休みは多めにしないと」


「…あぁ…そうですよね。分かりました」



っ!そうだ。そうだった。

ダンさんの創造、"再構築"のおかげで僕の体はダンさんの基準に従った健康な体になったんだ。

……黒神様の件で僕が無理できたのも…帰りに意外と早く回復したのも…。


彼のおかげなのだ。



「生かされてる」


「ん?」


「いえ、なんでもないです」


貸しは僕達が考えているよりずっと大きい。

ちゃんと恩返しをしないと。



「あ、サラさんからだ」


「なんて?」


「………えー…」


「どうしたの?私にも見せて……えー…」



太ったなんてもんじゃない。

何かの冗談か…あ、画像を加工したのかもしれない。


「真…たぶん嘘じゃないよこれ…」



画像には自転車とオヤブンさんとジュースのペットボトルが映っている。

大きさの比較のためだろう…。


僕達の記憶では、オヤブンは創造された時は普通の猫の大きさだった。


「頼れる大型犬サイズですよね」


「ゴールデンレトリバーとかこのくらいじゃない?」


もうこれは猫ではない。

ライオン…トラ…チーター…猫に似た別の何かだ。






………………………to be continued…→…


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