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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case8 _ 呪いの源泉
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第6話「広まる呪い」







「ただいま…」


「ただいま。真、早く」


「急げません。急ぎたいですけど」



我ながら驚異的な回復力だと思う。



「階段上がれる?」


「……厳しいです」


「ゆっくりでいいから、ね」



行動不能になって、逃げ帰ってきた。

でも、家が近づくほど体が動くようになってきて…最寄り駅を出た頃には少しずつ話せるようにもなっていた。



「布団用意しておくから真はすぐに休んで。私は」


「家の中だからって別行動はよくないです」


「そう…?」



代行とは戦わなかったが、それよりもすごいものと間接的に戦った。

そのせいで僕達は普段とは違う焦り方をしている。

"本物"に出会ってしまった人間は、変わるのだ。



「ソープ、こっちだよ」


「目の色は…大丈夫ですか?」


「うん。真っ黒じゃないよ」


「ニャア〜」



どうにか2階へ。

凪咲さんがソープを抱き上げて確保。

急いで凪咲さんの部屋に逃げ込んだ。



「………」


「………」


「ニャ」



僕達が帰宅後も変なのには理由がある。

見てしまったのだ。あの目を。

乗り換えのために駅の中を移動中に、ホームに立つおばあさんの目が真っ黒だと気づいてしまった。

それを2人で改めて確認すると、おばあさんは黒い涙を流したのだ。



僕達は、追われている。



「こういう時ってどうするの?誰に相談すればいいかな…」


「………」


「真?」


「すいません…少し…ほんの少しだけ…眠くて」


「今は…でも…」



思い返してみれば、森の中で戦った動物達は確かに黒神様の下僕だった。

凪咲さんが攻撃した熊の体から出た血も黒かったし、そもそも熊の皮膚が硬くなっていたのもおかしい。

…恐らく普段から井戸の水を摂取しているのだろう。

黒神様に許され、従って…違う。

生かされている。動物達はそれを認めているのだ。



「真。今風呂場の方から物音がしたかも」


「……元々この家は隙間風だったり勘違いしてしまう要素がいくつもあります。古い建物なので」


「本当に?違う?」


「ホラー映画を見た後とかは自分の部屋以外は全て異空間くらいに思ってましたから。電子レンジを置いてる所なんて、外が強風だとガタガタ揺れたりするんです」


「……分かった。それで納得してみる」



普通の動物が襲ってきたのなら、凪咲さん1人でも問題なかった。

でも熊との攻防を見た時、他の動物達もこうなのかと思うと怖かった。

………恐怖…そうか。



「真。ソープがずっと部屋の外の方睨んでる」


「引き戸は閉めてますから…」


「……」


「…多分、大丈夫です」



自分の許容出来る限界を超えた恐怖…それが引き金になるのだ。

それによってアイアン・カードは何にでもなれる。

火事場の馬鹿力が能力変化を助けた形だ。

ずっと避けてきたお化け屋敷、創造された真理子の怨念……そして創造された存在ではない…黒神様。

与えられた恐怖とストレスが、代行の能力の限界を取り払った。



ガタン!


「真!今完全に部屋の外で」


「…ネズミかもしれません。あまり出ませんが、たまにあるので」


「ほんと…?」



そのおかげであの鉄の大蛇は生まれた。

しかも思い通りに動かせたのだ…。

あの瞬間、あれは生き物になった。

……凪咲さんがレベル2になったように、僕も変わった。

反動こそあるものの、この力は相当なものだと思う。

そもそも、創造した物や力を使って反動が



ガタガタガタガタ!


「真!引き戸!揺れてる!」


「………」


たしかに。


「これは?何が原因?」


「台風が来ていれば、多少音が出ることはあります」


「じゃあ、台風来てる?そんなわけないよね?」


「凪咲さん」


「な、なに?」


「自分達の力でどうにもならないような敵が現れたら、どうしますか?」


「なんで今…えっと…勝てるくらい強くなる。人間って、火とか電気とか…身の回りのものを使って"進化"してきた。だから、魔法を使いこなすことでもっと強く」


「では戦うということですね。逃げるとかではなく」


「ま、まぁ…」


「…っ…」


「真?なんで立つの?…なんで引き戸に…ちょっと待って」



ドンドンドンドン!ドンドン!


「ダメだよ!叩いてる!しかも音が多い!1人でこんなに同時に音を」


「…勝ちましょう」


「…へ…?」




ガララ…


引き戸を開ける。

そこには、ポツンと1人の女性が。

どこでその容姿が効果的だと知ったのか。

ボサボサの長い黒髪…蝿が頭の近くを飛んでいる。

ボロボロの白い服…薄汚れている白が不気味さを演出するのだ。

ガサガサの白い肌…病気とは違う。…もう生きてはいない体だ。

ふと足を見れば、爪が汚い。真っ黒だし。


いかにもな、ジャパニーズゴーストというやつだ。



後ろから凪咲さんが僕を何度も呼んでいる。

でももう遅い。開けてしまった。見てしまった。



「…ォ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"!!!」



「展開」


出来れば、これで最後にしたい。

これ以上恐怖を感じてしまったら、僕は壊れてしまうから。


これで、最後。もう僕に限界は無い。

力を高めるための糧になれ…黒神様。








………………………………next…→……








……生暖かい。



…少しだけ臭う。



「ニャ」


「ん」


ソープか。

僕の鼻を舐めていた。それから猫パンチ。

臭うと口に出したわけではないが感じとったのだろうか。



「……あれ?」


隣には凪咲さんが寝ている。

今は何時…


「あ、スマホ」


自分のは無い。仕方なく起きて台所で軽く手を濡らしそのまま顔を手で拭った。

ちゃんと顔を洗うのは後だ。


テレビのリモコンを手に取り、電源を入れる。




「では、続いてのニュースです。繰り返しお伝えしていますが、欠月の…」



画面左上の時刻表示には7:16とある…朝だ。


ぼんやり眺めていると、昨日僕達が行ったあの場所が映っていた。



「…ということなんですけれども。どうでしょう?」


司会が出演している芸能人にコメントを求める。よくみるやつだ。

ここで余計なことを言うと炎上だなんだと事が大きくなるのだ。


…あ。この人あれだ。ホラー映画といえばでお馴染みになってしまうほどジャンルに特化した女優さんだ。

この女優さんが出演する映画の撮影現場では必ず心霊現象が起きるとよく聞く。



「そうですね。欠月には何度か撮影で行ったことがあるんです。映画の雰囲気に合うからって監督が決めて。でも毎回現地の人に反対されてちゃんと撮影出来たことは1度も無いんですよ。欠月って、森があるんです。さっきもVTRで映ったと思うんですけど」


「はい。ありましたねえ」


「あの森に、黒神様…?だったかな。神様がいるらしくて。森に入ると神様が怒るんだって言うんです。おかしいですよね」


「黒神様?それはそれはまた…怪しいですねえ?」


ここで出演者全員が笑った。なにがおかしいのか。


「多分私のこと知っててそういう話を捏造したんだと思います。畑が燃えたのも特別珍しいことじゃないですし、森から熊が出てきたのも生息していれば自然ですよね。こんなの売名行為でしかありません」


あーあ…。


「これは傑作ですね!ホラー映画の女王を利用しようと!いやぁ、ま、たしかにね。冬は乾燥してますしタバコの吸いがらから火事になることもありますから!近所の人がポイってしたんでしょうね!」


また全員が笑ってる。…馬鹿にしてる。


「えー、まあね、これを機にぷっ、観光地にね、なったら…いいとぷふっ!思います!ね!はい。ということで次のニュー」「キャアアアアアアア!!」


悲鳴。カメラは悲鳴の出処へ。



…ホラー映画の女王とやらは、両手で目を隠している。

生放送中のハプニングだ。放送を止めるか続けるか…



「どうしたんですか!」


「目が…目がぁぁ!」


「たぶん目にゴミが入っちゃったんでしょう…か…ね?はい。やっぱり女優さんですから。実力派ですねえ!」


司会が誤魔化そうとしている。

でもこの人の反応は…あの目の隠し方は…


「助けて…」


「ねー、分かりますよ。きっとね、これで手とったら新作の映画の告知が入ったりしてね!皆さん、ご注目!」


「助けてください!」


場が静まり、女優さんに注目が集まる。


「目が…目が…」


…カメラが女優に寄った。




「……………っ!」




次の瞬間、画面いっぱいに映し出された女優の顔。

手をどけて…僕の想像通りの展開になった。



「うわあああああああああ!」


「目が!目がああ!」


「CM!CM行け!早く!!」



「今日もあなたに安心を〜♪あったまるまる、毎日コーコア〜♪」



今の瞬間を見た人は日本にどれだけいるだろう。

でも、ネットの力でこれからすぐに広まる。

真っ黒な目と、黒い涙…あの女優さんは今日中に死んでしまうだろう。

…これを見た人達が悪ふざけで欠月に行き、例の森で肝試しをして死人が増えるようなことにならないといいが。




「…まこと…?」



「おはようございます」


「おはよう…え?もう…え?」


「どうかしましたか」


「覚えて…る?」


「何をですか」


「…ううん。大丈夫なら…いい」


凪咲さんは警戒しながらトイレに行った。



「……」


覚えている。昨夜のことなら。


僕は黒神様を追い返した。

霊的な格好で現れたそれの顔面を、形状変化させたアイアン・カードで殴ったのだ。

ボクシングで使うグローブを意識して…右手に纏った。

大きな鉄の拳は黒神様の顔全体を捉え、手応えバッチリの音が聞こえた。

そして、言った。




「…お前のようなものでも神と呼ばれるのなら…私は何と呼ばれるのだろうか」




何でそう言ったのか分からない。

今思えば、森に帰れ!とか…2度と井戸から出てくるな!とかでよかったのに。


僕がそう言わなかったせいで、黒神様は欠月に帰らず東京を彷徨うことになったのだろうか。




「…本当に大丈夫?」


「はい。大丈夫ですよ」


「体は痛くない?」


「多少怠いです」


「……ねえ変なこと言うけど、真に黒神様が乗り移ってるとかは」


「ありえません」


「……………これ。これ見て!」


「はい…?」



凪咲さんがスマホを向けてきた。

外国のホラー映画の予告映像か。



「寝ても、覚めても、死んでも追ってくる…!…あなたは永遠に続くこの恐怖に耐えられるか…!…悪魔家族…!」


ナレーションが怖がらせようとしている。途中で音声に特殊効果を付けて低くて変な声にしているようだ。



「どう?」


「見たいとは思いません」


「……それだけ?」


「はい」


「じゃあ、じゃあこれ!」



「それは…あなたの体を…奪う…内側から…!!…ギャアアアアアア!!…奪われていく恐怖!全身が奪われた時、それは、覚醒する…!!……ト、トミー?……ヴワァァァァァァァ!!………トミー…レンタル開始」


予告に凝縮されている。視聴者が実際に見たいと思う部分は、ヒロインらしき女性がトミーという男性に声をかけて…トミーが振り返るシーンだろう。その後の叫び声からして、トミーはもう人間ではなくなっているはずだ。



「…え?」


「なんですか?」


「私がこんなこと言うのもおかしいけど、いいよ?抱きついてきても」


「………」


「怖いでしょ…?」


「凪咲さん」


「うん」


「今更作り物に怖がるわけないじゃないですか」


「……そっか…。ごめんね。なんか怖がらなかったら真は真じゃないんだって思ってた」


「克服とは違いますけど、僕達は経験値が違いますから」


「そ、そうだね。朝ごはん私が作るよ」


「ありがとうございます。じゃあその間に顔でも洗ってきます」




洗面所。


水を出すためにハンドルに手をかけ…あ、震えてる。


「実は怖かったりして…」


でも、多少耐性がついたのは本当だ。

以前ならあの予告…特にトミーの方は見終えた後から人が振り返るという行為に異常な恐怖を感じていただろうから。


「例えば、蛇口から出てくる水が…」


黒神様…



「……そんなわけないか」



…で、ちょっと油断したところで顔を洗ってる僕の横に黒神様が立って…



「…ない」



結局何も起きなかった。

黒神様は本当に僕達を諦めたようだ。



でも、諦めた分の怒りは他所にぶつけているらしい。



テレビの生放送中のあれから始まり、1週間もしないうちに4人の死者が出た。







………………………to be continued…→…


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