第1話「仲直り」
「………」
僕は今、自宅謹慎中だ。
「真。きっちり説明してもらうから。レベル2になる方法を話すのを拒んだ時とは全然違うよ?」
「…そうですよね」
戦闘して脇腹を負傷した。病院には寄ったけど、痛み止めを貰って終わった。
…ダンさんがまた"再構築"を使ったからだ。
今思うとなぜ病院に行く必要があったのかわからない。
次回彼に会ったときに聞こうかな…。
そのまま帰宅して、翌日の朝…それが今だ。
「話さないと大変なことになるよ?」
再構築の話を聞いた凪咲さんは、絶対安静を理由にして僕の体を布団で巻いて拘束した。
絶対に逃げられない状態で、僕に自宅謹慎を命じた。
「聞いてる?」
「聞いてます…」
今は、絶対安静以外の自宅謹慎の理由として…彼女の…その…お胸を触った件について
「触った?」
「………」
「鷲掴みにして乱暴に揉んだよね?」
「…あ、あの…」
「考えを改めて。ほら」
「本当にごめんなさい」
「認めるんだ?」
「あそこまで触って否認するはずがありません」
「触って?」
「やり方は間違ってますけど!あれで凪咲さんが起きてくれると確信があったので!」
「……は?」
「…その……」
「どうして?なんで?」
……"あの事"を話せないのはなぜ?言おうとすると…
あれ?今何しようとしてたんだっけ?
という軽いボケが必ず発症する。
「ねぇ。どうして胸を揉んだら私が」
「とにかく謝ることしか出来ないです!本当にごめんなさい!」
諸刃の剣界隈の中でもトップクラスの反動だろう。
真実が言えないなら、全面的に非を認めるしかない。
そうなると…僕があの場面で突然変態になったことになるわけだ。それにすら"なぜ?"が発生するだろう。
こうして無事に家に帰ってこられたけど…まだ僕の戦いは終わっていない。
「………」
無言で僕を睨みつけている。
これならまだ怒りに任せて殴ってくれた方がいい。
精神的に来る…彼女の方が辛いのは分かっているのに。でも言えない。
「…ごめんなさい。言えるのはそれだけなの?」
「うぅ……」
「また言えない何かがあるの?」
「……」
「レベル2の時はキスが条件だったから。じゃあ今回は?言えないってことはまた下心が関係してる?」
なんて言えば。
「真。よく聞いてほしいんだけど。最後まで私の目を見て聞いてくれる?」
「なんでしょうか…」
「レベル2になったことですごく強くなれた。じゃなかったらあの時私は真達が来る前にオガルに殺されてたと思う」
「…はい」
「あの時。1人で戦ってる時。諦めそうになった。でもね、真の声が聞こえたんだ…私を呼んでる声が」
「凪咲さんを探してる間ずっと呼びかけてました。思考の共有を使えば電話に出てくれるかもって」
「おかげで全力になれた。レベル2ってすごいと思う。…相手を信じられれば」
「え…」
「逆に相手を信じられなくなったら、レベル2は危険なんだよ?なんでか分かる?」
「……いいえ」
「…創造の書をいつでもどこでも取り出せる。…これって、使者が"自殺"出来るってこと」
「じ、自殺!?」
「自分のページを破り捨てれば…」
「凪咲さん、ま、ま待ってくださいよ!そんな」
「私は真にとって何なのかな。…やっぱり"そういう気持ち"の方が勝っちゃう?」
「あの」
「だとしたら、創造の仕方間違えてるよ。容姿は私のままで、そういうのが大好きなスケベな性格にしなくちゃ」
「待ってくだ」
「今までこんなこと無かったのに。レベル2になって私の身体が変わったからだよね…」
「本を出さないでください。絶対に」
「どうして?あぁ、どうせ消えるならその前に1回くらい"絡みたい"ってこと?」
「凪咲さん!」
「だっておかしいよ!!全力で戦って倒れた人の胸を揉んだんだよ!?何をどうしたらその行為が正当化出来るの!?説明してって言ってるんだから説明してよ!」
さすがに耐えられなくなって、凪咲さんは泣いた。
正直に言いたい。ものすごく。
「……僕、狂ってますよね」
「………」
「レベル2の時とは違う理由です。でも、言いたくても言えないんです。恥ずかしいからとかじゃなくて、封じられてるんです…これもまた意味わからないですよね…でも僕としてはなぜそうしたか話せるなら何度でも詳しく話したいんですよ」
「………」
「それと。これも話しておきたいです。僕はきっと…凪咲さんの事が好きです」
泣きながらガッカリしたように見えた。やっぱりそういう理由じゃないかと思ったのだろうが、
「でも性欲を満たしたくて凪咲さんを創造したわけじゃないんです。恋愛経験は無いし、歳の近い女性と一緒に生活したこともないし、僕が恥ずかしがるのが面白くて凪咲さんがからかってきた時だって、僕は本気で恥ずかしかったんです。味わったことのない緊張があって…。だから誰かを好きになるとか、性的に見るとか、まだよく知らないんです…」
「……」
「でも、意識はしてます。ずっと仲良くいられたらいいなって思います。もしかしたらそれは恋愛の1歩手前なのかなって最近考えてました。…はぁ。僕は何を…だめだ。今のは忘れてください。代行と使者の関係を優先します。もう仲良くなろうとか思いませんから、もう一度僕と」
「最後のは聞きたくなかった…」
「え…」
「ごめんね。ちょっと1人になりたい」
「凪咲さん」
「冷静になって、よく考えて、それから戻ってくるね」
「待ってください」
「ちゃんと戻ってくるから。電話は置いてくね」
「待って!!」
行ってしまった。
………………………………next…→……
夕方のチャイムが聞こえた。
長い長い1日だ。
ずっと、ずっとモヤモヤして。
発言の全てを後悔している。
出来ることなら精神世界に招かれた時に戻りたい。全てを拒否してあの男を思いっきり殴りたい。
でも今は……理由を話せない代わりになるべく正直な気持ちを伝えようと努力して、空振りしたことの方がキツい。
「………っ」
泣けてきた。情けない。ずっと布団に巻かれて動けないまま僕は泣きはじめた。
どうすればよかったのか。何をどう言えば彼女に伝えられたのか。
「………」
好きとか言わなければよかった。
ただ、本当の理由はどうしても言えないんだ。…それだけ伝えて終わっていれば…
「うぅぅ………」
もう。最悪だ。
朝からずっとこのままだから空腹だし、トイレにも行けない。
いい加減我慢の限界で、気を緩めたわけでもないのに…下半身が濡れて温かくなった。
………………………………next…→……
「俺はお前の言う迷惑ってやつを迷惑とは思わない!何もかも、愛おしいんだ…好きだから!」
「せ、先輩……」
ドジで問題ばかり起こす女子高生の主人公。
ドラマの最終回が近づき、文化祭開催の危機をもたらした彼女に学校一のモテ男である先輩が告白をする。
その後は大事な書類があっけなく見つかり全てが解決、主人公もイケメン彼氏をゲットして…たしか最終回のラストは大学の初日に主人公が思いっきり寝坊して目覚めたところ…だったような。
…ドラマの再放送?…いや、テレビの電源は…それに、今やってる再放送の枠にはホラー映画をドラマ化したやつが…あぁ、これは夢か。
いつの日だったか、この…モテ男とドジ子の大問題〜高校生活編〜の再放送を見た時の…記憶?
「どうした真。飯が冷めるぞ」
「え…」
秀爺…!!そうか、この時はまだ…
「若いのはこういうのが流行ってるのか?問題抱えた女を好きになるって、この女優くらい容姿が良くても厳しいもんだと」
「……」
「真。お前はこういうのじゃなくて、もっと幸せが寄ってくるような子を選べ。ただでさえお前には不幸が寄り付いて離れないんだ」
「秀爺」
一方的に話し続けている。夢だから干渉できないのか。
「お前がどんな女が好きか知らんがなぁ。柊木家の嫁ってのは」
懐かしい。この後はたしか、誰が見てもいい女…だったはず。
「誰が見てもいい女ばっかりなんだ」
ほら…。
「見た目も大事かもしれん。婆ちゃんも若い時はそりゃあ美人だった。でもなぁ真、一番大事なのはどんな事があっても一緒に居たいと思えるかどうかだぞ。喧嘩して口をきかない時でも、家族だから仕方なく一緒に暮らすんじゃなくて」
あの時は秀爺の言ってることを中途半端にしか聞いてなかった。
最終的に自分達の若い時の惚気話が2時間くらい続いたからだ。
…なんでこんな夢を。
………………………………next…→……
((READ))
「キャーーーーーーー!!」
「もっとだ。叫び声だけじゃなくて本気で怖がっている顔が見たい…おや、次の客か」
「ねぇ怖いよ…絶対先に行かないでよ?」
「行かねーよ」
「離れないでよ?」
「離れねーよ。もっとくっつけって。胸をもっとさぁ」
「お化け屋敷でそんなこと言わないでよ…」
「いいじゃん。お化けじゃなくて俺がお前を襲って食っちゃう予定だし」
「もぉ!ばか!」
「ほらもう怖くねーだろ?行くぞ」
「馬鹿め」
「きゃっ」
「お!次のお化けめっちゃ喋るんだけど!馬鹿め!とか笑うわー」
「ねぇ…なんでこのお化けだけ衣装じゃないの…?私服だよね?」
「ん?本当だっ…かっはっ…やべえ!腹痛てぇ!ツボった!」
「ねえ笑ってないで先行こうよー!」
「マジ待って…うわーやべえよ!何回見ても…くぁぁぁー!」
「…笑い方きもい」
「ふん。次はお前だ」
((READ))
「ん?…は?おい、まっ、やめ、やややめ…うわっ」
「何これ!やだ!ねえ待って!置いてかないでよっ!」
「見せろ。お前の恐怖を」
「やだっ…いやっ…あ」
都内某所。
客が行方不明になると噂が立ったお化け屋敷。
しかしあくまで噂レベルで止まっているため事件性は無く、むしろ集客に役立っていた。
「はい。ええ。創造の書は届けましたよ。なのでしばらく自由に行動させていただきます…ええ。オガルが?…ええ。ええ。…2組?……分かりました。こちらでも探しましょう。それでは」
電話を切り、お化け屋敷の飾りを蹴りつける。
「面倒だ!なぜオガルの尻拭いを…っ!!……!」
そこへ次の客が歩いてきた。
「やばー。暗いわ。え?触った?今」
「触ってないから!つーか男同士でお化け屋敷とか」
「まーいーじゃん。これも思い出よ。そのうち笑い話になるって」
「………」
この日、お化け屋敷の客が12人いなくなった。
………………………………next…→……
「真。…真」
「…ん……秀爺…」
「起きて」
「…………はっ……冷たい…」
夢から覚めた。
記憶の中の秀爺との再会に浸っていたかった。
なんとなく冬の朝の布団の離れ難さと似ている。
「…ごめんね」
「凪咲さん」
「布団取ってから家出るべきだったよね」
「………あっ!!」
起きた時、寒いじゃなくて冷たいと思ったわけだ。
布団がびしょ濡れだ。おねしょをそんなに経験したことはないが、過去最多のレベルだった。……夢を見ている間にもやってしまったのだろうか。
「こ、これは」
「私のせい」
「というか、その、」
「ごめんなさい」
「とにかく恥ずかしいので見ないでください!!」
布団だけではない。僕の部屋着もびしょ濡れなのだ。
やらかし具合が最悪なのだ。
男だけど、もうお嫁にいけないって言葉を使うタイミングは今だと思った。
凪咲さんには自分の部屋で待つように言って、布団を洗濯機の前まで運んだ。
布団を洗える大きさの洗濯機にしたのは秀爺の考えだ。自分が布団を汚した時に手間を減らせるようにと…実際には僕がやってしまったわけだが。
…でも着ているものが気持ち悪いので先に着替えることにした。
「……でも着替えだけじゃ…」
軽くシャワーも浴びよう。
素早く"後処理"をして、時計を見れば夜の20時を過ぎていた。
改めて。
凪咲さんを呼んでテーブルで向かい合うように座った。
「………」
でも何を言えば。
「あの公園に行ってた。私が創造された日に行った公園」
「…そうなんですか」
「体を動かして、散歩に来てた親子と仲良くなったりして…落ち着いた。それでよく考えてみたんだけど」
「……」
「真さ。封じられてるって言ってたよね。言いたくても言えないんだって」
「はい…」
「お父さんでしょ?」
「……えっ」
「まさか創造された今でも有効だとは思ってなかったから忘れてた。お父さんに呼ばれたんだよね?」
「…本当に、本当に…分かるんですか?」
「うん。前にも経験あるから…。お父さんがアドバイスするんでしょ?口外禁止なのはバレたら私に嫌われるって思ってるから。娘の好みとか秘密とか…お父さん誰にでもに私のこと自慢したがるし」
「………」
まさか言えなかった答えを彼女の方が見つけてくれるとは。
「中学生の時ね、姿勢が良かったのもあって他の子より胸が大きく見えてたんだ。それで男子に変な目で見られるのが嫌で学校をズル休みしたことがあって」
「はい…」
「部屋にお父さんが来た。何があったか教えてくれよって。でも言いたくなくて寝たフリしてたんだけど」
「あの、もしかしてその時に」
「うん。お父さんは私の胸を揉んだ」
「………」
「私、飛び起きて夢中でお父さんを叩いたよ。死ねって言いながら。…あとで謝ったけど」
「そんなことがあったんですね…」
「お父さん覚えてたんだ…」
「凪咲さんが赤ちゃんの頃に呪いをかけたとか聞きました」
「うん。"あの中"のお父さんは私が成人式から帰ってきた時までの記憶で出来てるはず」
「最初はどうして分かったんですか?」
「お父さんと私しか知らない思い出を知ってたやつがいたから」
「……」
「でも知ってることをお父さんには言ってない。守ろうとしてくれてるんだし…実際それで救われてるから」
「今回も…助けられました」
「うん。今思えば、私が攻撃して防御は全部真がやってくれるって…おかしいもんね。真はそこまで戦闘慣れしてないし」
「…すみません」
「私もごめんなさい。酷いこと言って…」
「………」
「……まだ私と仲良くなりたいって思う?」
「え…」
「正直な気持ちが聞きたい」
「…はい。仲良くなりたいです」
「嬉しい」
「僕もその…言えない理由が分かってもらえてすごく嬉しいです」
凪咲さんは席を立って僕の隣に移動した。
「仲直りしよ」
「ですね」
「ハグ」
「……」
「恥ずかしい?」
「でも、します。したいです。凪咲さんと」
「え?…うん」
そっと…彼女の背中に腕を…
「真…」
「っ…!」
ギュッと抱き寄せられた。そうなると誤解されないように気をつけていたのが無駄になるくらい体が密着してしまう。
……や、柔らかい…!
「柔らかい?」
「え。ち、違いますよ!今のは凪咲さんがギュッってしたから不可抗力で」
「ふふっ。分かったから。慌てないで…真も抱きしめてよ」
「……こ、こうですか」
「強く」
「これ以上は」
「ただのハグなんだから」
「ーーーーーーっ!」
「可愛い」
「なんでからかうんですかー!」
「あっ、そうだ」
「…今度はなんですか」
「公園で仲良くなった親子にもらったんだ…えっと…どこだっけ」
…ハグから解放された。…ちょっと心臓に悪い。ドキドキする。
「これこれ。街で配ってたらしいんだけど、お化け屋敷に子供連れてくのは良くないからって」
「最恐!絶叫確定!あなたはこの恐怖の街から脱出できるか!…へ、へぇ…」
「行ってみない?」
「お化け屋敷ですか…しかも相当自信ある感じですよねこれ」
「苦手?」
「映像なら怖いのは平気なんですけど…肝試しみたいなのは全部腹痛とか体調不良を強く訴えて避けてきました…」
「じゃあ行こうよ」
「……聞いてました?」
「怖がらない人がお化け屋敷に行って何が面白いの?」
「……あぁっ、ごもっとも…!!」
「だから、ね。行こうよ。お化け屋敷デートってことで」
「………デート?」
デート?
………………………to be continued…→…




