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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case7 _ ゴーストハンター
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第2話「真理子の怨念」






「………うん…うん」



節約を心掛ける主婦にとって、今の僕の行為というのは残虐なものなのかもしれない。


冷蔵庫をずっと開けっ放しにして、中身をただ眺めている。


整理しているとかそんなんじゃなく…ただただ眺めている。

というのも、年末に買いまくった食材がまだ消費しきれていなかったのだ。

クリスマス分はどうにか…でも、年末年始に消費を予定していたものは8割近く残っている…消費期限は迫っているものが多いけどまだ…大丈夫。


「安いからとステーキ用の肉まで買っちゃったけど…シチューとかに使うのもありかな…そしたら野菜も使えるし…」


パズル感覚で食材の使い道を考えていく。



「今夜は鍋かな…でも…」


「真。準備出来た?」


「……」


「落ち着かないから冷蔵庫の中を見ていようって考えてるの読めちゃって…ごめんね」


「だだ、大丈夫ですよ?別に問題なんて」


振り返ると、いつもの制服…ではない凪咲さんがいた。

「どうかな…」なんて控えめに聞いてきたが……


「あ………」


メイクもしているみたいだ。普段の彼女でも相当なのに、メイクやファッションをばっちり決めたら…もう地球上で彼女以上に綺麗な人なんて


「…ありがとう」


「え。あ!あっ、しまった!」


レベル2め…!


「でも、あの…本当に綺麗です」


「ふふっ」


「………」


僕は別におしゃれでもないし…凪咲さんの隣を歩いていいのだろうか…。

キラキラのダイヤモンドとビー玉の欠片くらい差がある。


「そんなことないよ。そろそろ行こ!」




今日は、お化け屋敷に行く。

…デートで。






………………………………next…→……






電車移動で30分。

若い女性がよく来るザ・若者の街に来た。

派手な色のソフトクリームとか、甘い辛い酸っぱい…色んな味を楽しめる一口サイズの山盛りシュークリームとか、食べられる帽子とか?

特殊な魅力の名物が多い。SNS用に若者が殺到するわけだ。



「駅から7分だって。この通りをまっすぐ行って抜けたらイベントホールがあるみたい」


「通り?人の川ですよこれ」


テレビで音楽フェスの映像を見た時と同じだ。

人が多すぎて人間がいるとは思えない状態になっている。

ごちゃごちゃしていて、髪の色もみんな違うし…


「大丈夫。手を繋ご。私が引っ張るから」


「回り道とか」


「おいで」


「………」


すでにちょっと怖い。



通りに入っていくと…両端に店があったんだと分かったり。

全方向から話す声が聞こえたり…パシャパシャとカメラの撮影音が聞こえたり。

食べ物の匂いがしたかと思えば誰かの香水のキツい臭いがしたり。


凪咲さんがいなければ僕はここから脱出出来ず溺れてしまいそうだ。


永遠とも思えるほど人混みの中を歩き続けて、ようやく抜けた。


通りを抜けた途端、スペースが…開放感が…!!



「ね、大丈夫だったでしょ?」


「帰りは何が何でも遠回りでお願いします」


「…真、ピアスしてたっけ」


「はい?」


「ほら。左耳…あ、これポップコーン?」


「………恐ろしい街だ…」



目的のイベントホールへ。

到着するとすぐ目に飛び込んでくるのは



「死の呪いが蔓延る街から脱出せよ!…ま、ま…」


「真理子の怨念。…真?」


「お、怨念…!?」


「看板でそんなに身構えちゃうの?」


「…入るんですか。本当に?凪咲さん、怨念ですよ?」


「ふふっ。行こ行こ。クリアしたら怨念ステッカーがもらえるって」


「全然楽しみじゃないですそれ…」



入場料2800円…!しかもちょっとした行列が出来てる。

信じられない。


「僕、ちょっとお腹が」


「ただのお化け屋敷だから。脅かし役も触ってこないし大丈夫だって」


「………」


凪咲さん、僕がスーパーの特売で並んでる時と同じくらいワクワクしている気がする。

なんで…なんでお化け屋敷がそんなに…




「めっちゃ楽しみじゃない?」


「ねー。てかウチらも行方不明になったりして」


「ないない!あ、でも養ってくれるならアリ」


「アリなわけないじゃん!ウケるー」




は?


「凪咲さん、前に並んでる人が行方不明とか言ってるんですけど」


「そういう設定があるんでしょ?脱出出来ないと行方不明者扱いになっちゃうみたいな」


「お、お、怨念…!怨念で帰らぬ人になっちゃうとか」


「そんなに怖いの?」


「なんで怖くないんですか?」


「もう。わかった。お化けが本当に襲ってきたら、私が倒してあげるから」


「……お化けに触れるんですか?」


「だって人間だし」


「お化けですよ?足が無くて、透けてるんです。こっちからは触れられないのに向こうからは触れるんです。それで一方的に首を絞められて」


「真途中で泣いちゃいそう」


「ならやっぱりやめておきましょう」


「ううん。絶対入る」


「……」


僕の人生、今日で終わりだ。


「ふふっ」




「チケットをお願いします」



あぁっ、ついに受付まで来てしまった…!


「中では走らないようにお願いします。もし落とし物やリタイアなどございましたらお近くのスタッフまでお願いします」


簡単すぎる注意。

錆びてボロボロなドアが開くと生暖かい風が…


「ただの暖房だよ。手繋ぐ?」


「当然です!こんなの1人で!……行けないことはないですけど…」


危ない危ない。大声でビビっているのを発表するところだった。


「ギリギリアウトかな…?はい」


凪咲さんと手を繋いだ…。でも少し…ほんの少し…ああダメだ怖い!!


「まだドア開いただけだから。入るよ?」


「なんで新年早々お化け屋敷なんてやってるんですか…!!」




地獄に入場。




明るい場所から暗い場所に来たせいで真っ暗だ。目が慣れるまで動けない…


「私見えてるから大丈夫。リードするから」


「………」




「ぃギャアアアアアアア!!!」




「うわああああああっ!?」


「ただの音声。ん、こっちかな」




「…誰も助けてくれない」




「凪咲さん!誰か女の人がいますっ!」


「音声…」




「…誰も…誰も。誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も」




「うわああああああ死ぬうううううううう!」


「もぉ!ふふっ…まだ導入部分でしょ?」




「どうして?どうして助けてくれないの?なんで?なんで見捨てたの?」




「ふぁぁう!?うわああああああ!」


「真…?」




「もういい。みんな…みんな…死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」




「は…ははは…あは…は……」


「大丈夫!?…あ、でも音声終わったよ。先進もう…真、歩いて」


「もぅ…むり…」


「ん。これなら歩ける?」


「え」


手を離して、代わりに腕を組んでくれた。

凪咲さんにくっついてるおかげでいくらか安心してきたけど…


「これなら離れ離れにもならないでしょ?」


「……はい」


凪咲さん…なんか良い匂いがする。


「次は、あ。お化け出そう」


「…っ!?」



…暗闇に目が慣れてしまった。

足下はもちろん、見えてはいけないものまで見えてしまう。


壁には死やら恨みやら殺すやら文字がいっぱい書かれていて…ぼんやりと赤い照明で照らされているのは


「お化け」


「ううん。あれはマネキン」


「お化け」


「真ー?しっかり」


凪咲さんに引っ張られていると景色が変わった。

屋内なのに外にいるみたいだ。


「街から脱出だもん。ビルとかお店とか再現してるけど絵とか木材だよ?」


「……でもビルに血の手形が」


「ねえ真!あれ見て!」


「………」


あ。壁の隙間から誰か見てる。


「ごふっ」


「真?」


あ。隙間から覗いてる目がぎょろぎょろ動いてる。


「う、ぐふっ」


「ちょっと」


あ。後ろから走ってくる音がす…え?


「おわああおおおう!?ふええええいっ!?」


「真!真っ、暴れないで!」



「ォォォアア…」



「だっ!だぁっ!?らっすぉおおおおおおおお!?」


「ちょ、真ってば!」



「………」



「殺されるうううううううう!!」


「真…お化け役が引いてる…」



「………」



「戻って行っちゃった…」


「死ぬ!死ぬ!死ぬ!」


「死なない!ほら次!」



………これがこの世の終わり。

この世の果て。全ての終焉。



「大げさなんだから。へぇ…真理子から逃げてたら一軒家に迷い込んじゃったんだ?」


「…何言ってるんですか…正気ですか?」


「それそのまま真に返すよ」




ピチャ…ピチャ。水の落ちる音。


「ぎゃあうう!」


「なに?」


「たっ、畳が!」


「和室に入ったからでしょ?あ。日本人形」


「………」


「急に真顔になってどうしたの?」


「……絶対動きます」


「そうかな…ふふっ」



絶対動く。分かっている。警戒していれば、大丈夫。


「えい」


「………うわ」


人形が、浮いた。ゆらゆら揺れながら、こここここここっちに!?


「来るっ!?来るう!待っ、あああ!!」


「…可愛い」


「凪咲さん!凪咲さん!ぎゃあああああ!!!」


「はいはい。ごめんね。今のは私がやったの。風魔法で」


「……冗談じゃないですよ!!」


「すごい怒ってる…」


「つっ、次!早くこんなところ脱出して」


「お風呂場かな?」


「終わった…」


なんで凪咲さんはそんな笑顔でいられるんだ…!

も、もしかして怨念のせいで気が狂って…!!



「真。浴槽の中覗いてよ」


「いやですよ!!」


「でもほら、水が入ってるだけだし」


「中からお化けが!」


「待機するの苦しくない?水中だよ?」


「お化けが呼吸どうこうを気にしませんよ!もう死んでるのに!」


「生きてる人間だってば」


「ならダイビングとかで使うマスクかなんか着けてるんですよ!!」


「…ふふっ。変なの」



ザァァッ!!



「いひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


風呂から長い黒髪のお化けが、お化けが!



「すごい。本当にマスク着けてる」


「……………」


「真?……あれ?真!?」








………………………………next…→……






「お客様、大変申し訳ありませんでした」



「いえ、大丈夫です。…真。もう外だよ。お化けいないよ。ね?」


「………」


「あの…」


「本当に大丈夫です。びっくりしたみたいで…むしろ脅かし役の人を褒めてあげてください。それじゃあ私達もう帰りますので」


「あ、ありがとうございました…!」




「真。その辺のお店入って休もう?」


「………」


「ん、お団子喫茶。温かいお茶なら安心するかな」





………………………………next…→……





気がつくと、僕は湯呑みを両手で包んでいた。


「あったかい…」


「みたらし団子もあるよ?」


「いただきます…」


「ふぅ。真、半分気絶してたよ?いきなり黙っちゃうし心配したんだから」


「…え?」


「覚えてない?」


「………」


「お化け屋敷は途中でリタイアしたよ。聞いたら、本当にあと少しでクリアだったんだって」


「リタイア…?」


「真?」


「お化け屋敷…?」


「うそ…もしかして」


「入ったところから覚えてないです」


「………そんな…」



凪咲さんは今までで一番びっくりしたと思う。



「も、もう一回行かない?」


「嫌です。記憶に残したくありません」


「お願い」


「凪咲さん以上にどうしてもという気持ちが僕にはあります。折れません」


「…一生のお願い使ってもいい?」


「駄目です。もっと他に楽しいことを探しましょう。お化けなんかに頼らないものを」


「…真」


「はい?」


「…どうして助けてくれないの?」


「ぃひっ!?」


「ふふっ。記憶になくても体が覚えてるね」


「………」




心臓が一時停止した。

なんとかお茶の温もりで復活したものの、下手したら死んでいた。



「真そんなにお化け苦手なんだね…」


「凪咲さんは苦手なもの無いんですか?」


「うーん…」


「見つかった時は仕返しします」


「へぇ?」


「ネズミとか?十字架は?」


「私を何かと勘違いしてない?」


「くぅ…」


「なんかね、近くでテレビの撮影やっててみんなそっちに行ってるみたいなんだけど」


「見に行きたいんですか?」


「ううん。今ならさっきの通りが空いてるんじゃないかなって」


「…急いで店を出ましょう」



通りまで戻ってみると確かに人がいない!



「もう少し遊んでいかない?」


「はい。そうしましょう」



まずは不思議な雑貨屋に入った。


芸能人をカラフルなこけしにプリントしたもの。

ネコ耳、イヌ耳、ゾウ耳?…動物の耳カチューシャ。

インコ、フクロウ、鷹…嘴マスク。

食道…肺、心臓…臓器類…体内の構造が分かる人体模型なりきりTシャツ。


面白いと思ってはいるが、いざ買うかと聞かれると返答に困る。




次はクレープ屋さん。


甘い物のイメージがあったが、チャーハンクレープやらギョウザクレープやら…ご飯としてのクレープも少なくないらしい。

……てりやきチキンクレープ…?


「私は無難にチョコバナナかな」


「……ゴロゴロ唐揚げクレープで」




続いて綿あめ屋さん。


人気キャラクターの形のものや、カラフルなもの、何味かお楽しみのミステリー綿あめ…。

この街は全部こんな感じなのか?…飽きとは無縁だ。




「夜ご飯食べられるかな…」


「満腹で帰宅したら翌日の仕込みをしますから大丈夫です」


「うん。ありがとう」




「ヘイ!!」




「なんだろう。困ってるみたい」


「ですね……ん?」



お化け屋敷のある方向に走っていく男。

それを追いかけようとするけど…諦めちゃった女性。外国の人みたいだ。


「真。声かけてくるから待ってて」


「あ…はい」



彼女は女性に近づくと英語で話しかけていた。

…多分英語。え、違う?いや…英語だ。



「バッグ取られたって。ひったくりだと思う。パスポートとかも入ってるみたいだしすぐ警察連れて行こうよ」


「分かりました。行きましょうか」



凪咲さん、頼りになるなぁ…。

話を聞きながら励まし、交番に着くと事情を説明した。



「さっき走って逃げてた男の人が犯人だよね」


「ですね」


「このまま警察に任せるのもいいけど私達も探そうよ。1人で観光に来ててサラがかわいそう」


「…あ、名前サラさんなんですね」


「うん」


サラという言葉に反応している。会釈をしたら返してくれた。

不安そうな顔だ…


「サラにはここで待つように言ったから、探しに行こ」


「はい!」




思わぬ出来事…でも、うん、これでいい。

ずっと落ち着かなかったから気が紛れる。


…それに、どうして助けてくれないの?なんて言われることもないだろう。





………………………to be continued…→…


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