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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case6 _ 夢は叶えるもの
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第8話「オガルちゃん」





「その、女を、置いてけ」



僕の肩に置かれた手。

手は触れたまま首へ移り、背中へ…。



「動いたら殺す」



背中と腰を行ったり来たり。

それは何往復かするとちょうど胸の反対側の高さで止まって。


…殺すってそのまま心臓を…



「ここまでとは…」


ダンさんが驚いてる。

彼は僕より代行として先輩だ。

先にレベル2になってるし、ジュリアさんも強いはず。

その彼が


「真。彼女を地面に」


「……」


動けないから目で訴えるしかなかった。

そんなことは出来ない。強く睨みつけるが、ダンさんはゆっくりと凪咲さんの足を置いた。



「お前も置け」



「…従うしかない」


「嫌だ」


「この状況では無理がある」


「助けに来たのに諦めるなんておかしいです!」



「喋れって言ってないだろ?」



ぷちゅ。そんな音だった。

軽い音がして、少しの時間差を経て僕の右脇腹に異変が…


「あっ…ぁぁ…」



「今ので指1本。次は拳を丸ごと突っ込む」



「聞け。今から彼がゆっくりと彼女を地面に…その後3人でここを離れる。私達がいなくなるまで攻撃しないと約束出来るか?」



「…約束?」



「………」


無駄だ。立場が違う。

力関係で相手が上すぎる。

交渉なんてありえない。命乞いだって無駄だ。

黙るダンさん…ジュリアさんも動きはなさそうだ。

…僕は体に指を突き刺された。体に穴が空いた。血が出ていくのが分かる。


痛いけど、痛がるともっと酷いことになる。



こんな時…こんな時。どうしたらいいんだろう。



あ…



………………………………next…→……




…れ?




「ここは…」



綺麗な空……いや、これはもういい。

確かこの世界の主には僕の心の中が筒抜けだったはず。



「おう。よく分かってるじゃんか」


「……夏野 ナギ…さん」


「初見じゃないのか。手間は省けるんだけどさ」


「状況は最悪です」



どんな偶然か。

突然僕は精神世界に招かれた。



「最悪だから招かれたんだろうよ。で、何やらかした?」


「思いつくものから…全部聞いてください」



味方の人数、状況、把握している戦力。

敵の人数、状況、分かる範囲の脅威。


代行…そして創造の力。


だいたい5分ほどで話せた。




「創造なー…とんでもないインチキだ。そんなもんがあったら勇者とか要らんよなぁ」


「でも今は創造は出来ません。動けないですし、ダンさんとジュリアさんは少しだけ距離があるので本を取り出しても渡すのは」


「創造無し。凪咲はぶっ倒れてる。残されてるのは負傷度合いが謎のジュリア、諦めモードのダン、脇腹に指を突っ込まれて痛いの我慢中のお前か。うーん…ちょっといいか?」


「はい。なん…ぶっ!!」


「お前よくも俺の娘を危険な目にお前この野郎おい!」


「精神世界でもこんなに痛いんですか…!?」


「俺がルールだ!なんなら痛覚過敏にして息を吹きかけただけで全身の皮膚が剥がれるような」


「分かりました!…すみませんでした」


「俺は感情的に生きるタイプだ。謝って済むと思うなよ。納得させたきゃきっちり逆転して完璧に勝て」


「……ごめんなさい。その方法があるならどうか…教えてください」


片方の頬を打たれたのに、もう片方も痛い。痛みが貫通している。

現実でこの威力なら1発で歯が全て…


「グロ。何考えてんだよ」


「すみません」





「はぁ…。いいか、アタッカーになれるのはジュリアだけ。お前とダンは補助か肉壁しか出来ない。今回は相手にターンを渡せば全滅だ。なのに許される行動枠は無し。ゲームなら大人しくリセット案件だが…」


「………」


「お前のアイアン・カードを起点に…」




彼は僕達がこれからするべき事を教えてくれた。

それはゲームの攻略法を教えてもらうのに似ていて…何度も手順を確認し、想定外の展開にも対応出来るようにしてくれた。




「さすがにこれで負けは…あるけど?あるけど、詰んではいない。それが分かるだけでも違うだろ?」


「はい。ありがとうございます」


「…約束しろ」


「凪咲さんのことですよね」


「当たり前だ。万が一の時は」


「あなたを創造する。でもあなたのコストは大きいです。間違いなく。悪魔と契約していて仲間の技を覚えられるとか、時を止められても解除して自分だけ動けるとか…」


「それでもやれよ」


「無理です。条件付けても到底届きません」


「凪咲のために」


「………」


「考える時は、物事を変な視点から考えてみろ。面白い答えが出てくるもんだぞ?無理無理言ってないでさ」


「変な視点…」


「じゃ。お前が手順を忘れない内にこの世界から追い出すとすっか!負けんなよ。一般人」


「……一般人って」


「俺は勇者で魔王。お前は一般人。強いのは創造の書だろ?」


「もうここに来ることがないように、努力します」


「へぇ。言うねぇ。そうしろ。ぜひそうしろ…そんじゃ」




《汝に神をも欺く悪魔の加護があらんことを」



始まった。この精神世界から出ていく時、彼は変身するのだ。



《勇敢なる罪人よ、その血を我に捧げよ」



左手には眩しく輝くダイヤモンドで出来た剣、右手には…光を吸収する漆黒で出来た剣…

あれは彼専用なのだろうか。もし、凪咲さんにとっても重要な武器なら…



《死は単なる通過儀礼」



「出来れば殺されることなくスッと目覚めたいんですけど」


彼は笑った。それは無理だということだろう。



「うっ…」


わざと首の皮1枚を残して、彼は僕を殺した。

なぜ切り落とさなかったのか。それは彼と契約した悪魔によるもの…?



《お前も変われる。だから、狂え」






………………………………next…→……






「約束なんかしない。従わないなら全員殺す」




…戻ってきた。

敵は変わらず僕の背後に。

ダンさんも変わらない。



……彼を、信じる。





「早く。置けよ」



「……ふぅ……展開」



手順1、アイアン・カードを僕の背中に密着させるように展開させる。

相手との壁を作ることで、防御と短いながらも時間稼ぎが狙える…ただ、それは3mほどの大きさにした場合だ。

では縦に5m、横に10mなら?




「うぉっ?」



声の距離感が変わった。

隔離に成功した。回り込むか無理やり壁を突破しない限り僕達に手を出せない。




「ダンさん!ジュリアさんに指示を!」


手順2、ジュリアさんを囮にする。

見た限りでは肩をやられた。もし戦闘が難しいのであれば全力で囮になってもらう。彼女はきっと疲れ知らずだろうから。



「分かった。ならばここは君に全てを任せるとしよう」



すぐに壁の向こうのジュリアさんが応えた。



「はい、ご主人様。ですが私は戦えます。次こそは破壊します」



「…っ。オガルちゃん、ちょーっとだけおこっちゃうぞー?」



手順3、凪咲さんを起こす。

これは諸刃の剣。僕には知る機会すら無かった裏技。

ただ、成功率は高い。…でも、代償はあまりにも大きい。



「っ、やらない後悔よりはマシ!」


「真?」


「ダンさんどいて!…凪咲さん!先に謝っておきます!本当にごめんなさい!!!」



彼女の体を跨いで馬乗りに。

そして…お、お胸を…!!



「うおおおおおおおおお!!」


「こんな時に何を!君はどうかしてしまったのか!」


起きて!起きて!早めに起きて!じゃないと罪がどんどん重くなってしまう!



「…その手をどけて。じゃないと切り落とす」


「凪咲さん!!!」


「……真…何?…何してるの」


「後で全力で謝罪します!今はそれより戦闘を!」


「は?……戦…闘、オガル!まだ死んでないの!?」


「戦えますか!?というか戦ってください!今は無理をしないといけない場面です!」


「…あ…え、うん。わ、分かった!」


僕が離れると凪咲さんは胸を気にしながら立ち上がった。

僕に向けられた視線は…ものすごく…厳しいものだった。



「ダンさん、ジュリアさんの状況は!」


「………」



レベル2の恩恵で、声を出すことなく物事を伝えられる。思考の共有という形で。



「まだ戦えます!」


声が返ってきた。



「凪咲さん。本をお願いします」


「うん。…はい。受け取って」



これは"保険"だ。



手順4、凪咲さんを戦わせる。

でもそのまま戦わせるわけじゃない。

相当な無理とズルが混ざった卑怯なやり方だ。


「圧縮」



壁をカードに戻す。

大きさで無理をした分、少しだけ鼻がツンとした。



「お願いします!!」


凪咲さんには全力で相手を攻撃してもらう。

攻撃に集中してもらってより高い威力で


「高い威力…いいよ。やってあげる!」



信頼の対剣だ。白の包丁と黒の包丁…に見えてしまうが一応立派な武器だ。

そしてその刃を覆うように炎が出現した。



「今の私、一味違うから」


ボォッ!!

炎の勢いが増して、赤の色が濃くなった。

少し眩しくなったところで



「ジュリア。邪魔」


凪咲さんが合図を出すとジュリアさんは後ろへ飛び退いた。



「なにー?あぁっ、起きたんだー!メイドだと物足りなかったからオガルちゃん嬉しい!」



振り向いて今更気づいたようでは間に合わないだろう。




「魂ごと燃やせ!…アグニ!!」




僕とダンさんはほぼ同時に身を守るようなリアクションをした。

生身の人間には熱すぎる。


凪咲さんは両手を振り上げて飛びかかり、勢いよく振り下ろした。

その振り下ろしで生まれた熱波があまりにも高温だったのだ。


…創造の書が燃えてしまうのではないかと不安になった。




「うぅ…んっ!!」



両肩にくい込んだ剣は常に炎を…その炎は相手の体に燃え移りすぐに全身を覆った。



「はぁぁ…せいやぁぁぁっ!!」



肩から剣を引き抜かず、そのまま下方向へ。

気合いの入った声と共に剣は体を切り裂き、両膝にまで刃が到達した。




「さすがにやば」



敵からは嬉しい反応。

でも僕は見逃さなかった。

体はWみたいに雑に裂けているのに、腕が動こうとしている。あの状態で殴り返そうとしているのだ。



「今だ」


僕は凪咲さんの近くへ駆け寄り、敵の目の前で


「展開!」



3mの正方形の壁を出現させると



ゴォォォォォオオン…!!


すぐに衝撃が壁に伝わり、若干振動した。

でもその程度で終わった。



…攻撃の直後に圧縮。それに合わせて凪咲さんは壁の左右どちらかから走って出ていき敵の背後を狙う。


「圧縮!」



「ちっ…何この壁…」



「まだまだ燃やせ!…アグニ!!」


背後から凪咲さんが剣を振る。

今度は左右から挟むように…両肘を捉えた刃は、



「ぐぅ…ああああっ!!」



肘から先を切断した。

さらに敵の体を燃やし続ける炎の勢いが…これではちょっとした火事だ。




「オ、オガルちゃん、ピンチかもぉ!」



…オガルちゃん?名前か。オガル。

腕を失ったなら…次は足で戦うか逃走するか。



「オガルちゃんきーっく!」



「展開!」


もちろん凪咲さんへの反撃は許さない。


回り込んで凪咲さんの側で同じように壁を作り防御。



凪咲さんが攻撃し、僕が盾になる。

しかも盾は伸び縮みするから…



「圧縮!展開!!」


カードに戻しすぐに展開。

今度はオガルの視界を奪うように横長に。

そして、この瞬間、壁は地面から離れている。

…大体足を切れるくらいの高さで。



「はぁぁっ!!!」



凪咲さんが屈んで攻撃した。

そしたらすかさず



「圧縮!展開!」



相手からしたら僕の防御壁は相当邪魔なはずだ。

出たり消えたり、大きさは自由自在で、かなり頑丈。

しかも突然目の前で大きく展開されると視界も制限されるから



「背後の私達に気づけない。しっかり借りは返します…」


「オガル。あなたはこれで終わり…」




「…っ、」



ジュリアさんの右ストレート。

凪咲さんの左の剣の突き。


2人の攻撃は綺麗にオルガの顔面と心臓にクリティカルヒットした。




手順5、必ず無理をした分の反動が来るので逃げる。

まず凪咲さん。倒れていたのに無理やり目覚めて、しかも全力で攻撃してもらった。

そして僕。短時間でこんなに展開と圧縮を繰り返したことはない。

ダンさんとジュリアさんはきっとまだ平気だろうが、僕達は間違いなく危うい。



「ふぅ…ふぅ…」


「凪咲さん。武器と本をしまってください」


「…うん」


凪咲さんがオガルの胸から剣を引き抜くと、ジュリアさんがオガルを蹴り飛ばした。


この隙に逃げる。


大大大大大逆転だ。



「………」


「ジュリア。どうした」


「ご主人様。…この者、死にません」


「こいつ、すごくタフなんだよね。もしかしたら創造の書を攻撃しないと倒せないかも…」


「凪咲さん!」


彼女は簡単に脱力し、ふらっと倒れそうになる。

そこをなんとか僕が肩を引き寄せて止めた。



「ダンさん。今はとにかくここから離れましょう」


「……ああ」




ジュリアさんと僕が凪咲さんに肩を貸した。

二人三脚のようなものを想像していたが、ほぼほぼジュリアさんが強引にリードしていく形になった。







「……ヤラレタ」



4人の姿が見えなくなると、我慢していたように声を発した。



「意味わかんな。何あの壁。体もこんなだし」


右肩を下に横向きに倒れているオガルは、


「くやしぃー!オガルちゃん負け?死んじゃうのー?」


ひたすら喋り続ける。顔面を殴られたが、口だけは無事だったのだ。


「せっかくの衣装もボロボロだし…オガルちゃん悲しいなぁ…!」


「…この気配…、悪運つよ。というか見張ってた?」



そこに、白衣を着た男が歩いて来た。



「オガル」


「…見てた?」


「代行が来てから使者の動きが変わった。精神面で支え合う関係だからこそあの動きが出来たのだろう」


「オガルちゃんもう要らない子?」


「必要だ。復活の時は近づいている。優れた代行が生きる世界を」


「…いいから早く助けろよ」


「復活の時までに多重人格を装うのを止めろ。悪い癖だ」


「オガルちゃんはオガルちゃんだもーん…」


「……ふん、」


「ぎゃう!」


男はオガルの腹を踏みつけた。





………………………………next…→……






ブチッ!!



「…見破られたようだ」



逃げ帰ってきて急いで乗ったタクシー。

運転手さんは驚きながらも乗せてくれたけど…後で清掃が大変そう。

僕達、汚れてるし、怪我もしてるし。


助手席に座ったダンさんは突然手のひらサイズのスピーカーを取り出した。

どうやらジュリアさんがいつの間にかオガルに盗聴器を付けていたみたいで…。


「復活の時までに多重人格を装うのを止めろ。悪い癖だ」


「オガルちゃんはオガルちゃんだもーん…」


「……ふん、」


それしか聞き取れずすぐに破壊されてしまった。

あまり情報は得られなかった。




「復活の時。そして多重人格。聞き取れた会話から得られたものはこの2つのキーワードだ」


疲労感と脇腹の痛みが…凪咲さんも目が死んでるし…ダンさんとジュリアさんはやっぱりまだ元気そうだった。


「多重人格はオガルちゃん…つまり私達が戦った"あれ"に向けられた言葉だ。いくつかの自分を演じ分けるのが癖らしいが…何のために」


「ご主人様。会話をしていた男は代行でしょうか?」


「もし安全な場所で離れて見ていたなら可能性はある。だがそれなら途中で創造をしてオガルを強化しても良かったはず…」


「私としては、どちらも代行だと思います。ご主人様」


「面白いな」


「オガルは代行兼使者型。何らかの条件を設定し、通常の人間には再現不可能な肉体に改造しています。まず、怪力。防御せずに攻撃を受けた際に動作に支障が」


「怪力は確かにあるだろう。故に生まれたのが衝撃波なのかもしれない。あれは"怪力すぎた"せいで可能になったおまけだ。私としては痛覚の無効化も付け加えておきたい」


「はい。ご主人様。オガルは体が切り裂かれても動揺しませんでした。痛覚の無効化と怪力。2つの点から、オガルは異常なまでにゴリ押しを好むようです」


「状況からして、真。君のパートナーは1人であれと戦っていたことになるわけだが…おや?」


「ご主人様。私達の会話を聞いている途中で、痛いから寝よう…と小さな声で…病院へ向かいますか?」


「そうするべきだな。運転手。そういうことだから病院へ向かってくれたまえ」



運転手はとにかく瞬きが増えていた。






………………………………next…→……






「オガルを負かし、殺せないと判断すると今度は盗聴器を付けたか。素晴らしい代行だ。ただ、創造したのが簡易的な盗聴器というのはつまらない」


「ねぇ早くオガルちゃんを助けてよぉう」


「今後あの代行達と争うことになった場合…実に勿体ない」


「聞いてるー?」


「邪魔になるようなら…しかし…」


「ねぇってばー!」


「何代にも受け継がれてきた"夢"を守るために策を」


「おーい。死体マニア。話聞けー」


「……」


「オガルちゃんを助けて!」



((READ))



「なんで使者に運ばせるのぉー!?その腕は何のために付いてるのぉーー!」


「すぐに治せ。まだ戻らない者がいる。失敗していたならすぐに本を回収しに行かなければ…」


「うっせーな。ならてめーで行ってこいよ」


「…っていうかぁ!夢って守るものじゃないよー?」


「…?」



「夢は、か・な・え・る・も・の!それに!オガルちゃんがいればぜーったいに叶うんだから!」








………………………to be continued…→…


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