第2話「犯人探し」
早朝。
僕達は例の事件が起きた学校へやってきた。
発生した事件の影響が大きく、休校はもちろんのこと保護者達への説明会なども別の場所で行われるそうで。
今ここに来られるのは警察関係者…くらいだ。
「帰らせて良かったんでしょうか」
「タッちゃんだって襲われるかもしれないし。ほら、マミみたいなこともある」
「マミさん?」
「助けを求めてきたけど、最後には敵対した。タッちゃんが代行や使者じゃないとはまだ決まってないし」
「…なるほど」
「行こう。寮はあっちだよね」
正門、裏門。校門はどちらも入れない。
そこでタッちゃんが開拓したのは裏門から少し離れた場所。
深夜の内にどこかのゴミ捨て場から運んできた廃棄予定のカラーボックスや机を重ねて少し不安定な階段を作ったようだ。
見た目はただのゴミだし、人の少ない時間なら目立つことなく校内に侵入出来そうだ。
静かな学校。
まだ懐かしむ年齢ではないが…不思議と振り返りたくなるもので。
「真は部活とかやってた?」
「いいえ。帰宅部です。時には少し早退気味で帰宅してました」
「なんで?学校嫌い?」
「…スーパーに行きたくて」
「節約家だね」
「クラスメイトにはドケチと言われましたけど」
「ふふっ。安く買えるお得感とか、普段節約したからたまにできる贅沢とか…そういうのも楽しいのにね」
「分かってくれるんですか!!」
「お母さんとよく買い物行ってたから…着いた」
殺人事件の現場。
そう聞くだけで、場所の雰囲気はガラッと変わる。
……禍々しい。物陰、換気口、ふと細かいところに目を向けるのはそんな場所からこの世のものではない何かが手や顔を出してきそうだからで…
「寮の裏口に鍵がかかってて、暗証番号が415523だよね」
「はい」
セキュリティ面は意外としっかりしている。
正面の入り口からはロビーまで自由に出入りできるが部員の部屋に通じる通路へはオートロックが。
そして裏口にもオートロック。
暗証番号は毎週変更される。
これでしつこい取材陣やファンなどから部員達を守れるわけだ。
……わざわざここに侵入するというのは、一般人には難しいように思う。
部員の関係者…教員…
「タッちゃんは裏口の暗証番号を知ってる。だから中に入って殺そうと思えば」
「さ、さすがに…」
「野球部に恨みがある人…教員にもいるかもね」
「恨みですか」
「じゃあなんとなく殺したの?わざわざこんな場所に来て?」
「殺すのは誰でもいいのにここに来るかと聞かれるとまぁ…」
「野球部が活躍することで嫌な思いをする人とか、活躍して有名になったことで部員の誰かが調子に乗って恨みを買ったとか」
「サスペンスですね…」
「セキュリティのおかげで犯人候補は絞れる」
…裏口から入るとすぐに部員達の部屋に通じる通路に出た。
「2階もあるね」
「1人1人に部屋が与えられてるみたいですね…ちょっとしたアパートみたいな」
「タッちゃんの親友って4号室だよね…鍵開いてる」
「……」
恐る恐る入室。
普段は嗅ぐことはない悪臭が部屋にこもっていた。
ベッド、勉強机、野球道具…壁にはアニメのポスター。
……ベッド…血の染みが…
「寝てる間に襲われたみたいですね」
「血の広がり方。変だね。枕の上の方が汚れてる」
「それとシーツも…これだと、頭部と上半身の2ヶ所から出血したんでしょうか」
「……刃物かな…それとも」
凪咲さんが考えている間、僕は他を見ていた。
勉強机には教科書とノートが。
ノートには教科書の一部を丸写しして、それに対する考察のようなものが書かれている…気合いを入れるためか、ノートの端には次60点以下だったら試合に出れないと赤で書かれていた。
高校球児。やはり目指すは甲子園か。
僕はそういう人生を変えるような何かを目指したことは…
「真。そっちに携帯ってないかな?」
「携帯ですか?」
「部員の携帯。調べたら恨まれてるか分かるかも」
「………」
コンセントを探し、充電器から伸びるコードをたどって…
「あ、無いです。警察が持っていったんでしょうね」
「そっか…他の部屋も見ようよ」
「はい」
………………………………next…→……
ガチャ。
「この部屋で最後ですね」
「皆同じ殺され方。ベッドの染みも同じ…犯人は…」
「どうして頭と上半身なんでしょうか。頭を攻撃するだけでも致命傷は与えられますし、潰すつもりならきっと簡単に殺せてしまいますよね」
「胸を突き刺したって簡単に殺せる。全員同じ死に方だから、抵抗はされてないわけでしょ?」
「…犯人は複数とか」
「1人が頭?」
「はい。頭を攻撃する人と…僕達すごく危ないこと考えてますね」
「犯人を突き止めないと。もし代行なら…もし結子なら」
「警察でもどうにもなりません」
「……しっ」
「…?」
静かに。凪咲さんが僕にジェスチャーで伝える。
………カチャ。タッタッタッ。
ドアをそっと開閉した音と小走り。
隠しきれなかった物音を聞き取った。
「怪しい。追いかけよう」
「はい!」
部屋を飛び出すと、通路の先に一瞬足が見えた。
「裏口から外に出るみたいです!」
「分かった」
凪咲さんは先に行く。
レベル2になったことで世間が知る人間の運動能力の限界を遥かに超えた彼女は、1秒という短い時間で20m近い通路を駆け抜けて出ていった。
一瞬でドアが大きく開かれて…突風みたいだった。
遅れて外へ出ると、凪咲さんはいた。
片手で誰かを掴んでいる。
「真。マネージャーだって」
「マネージャー?野球部のですか?」
「……あの、あなた達は…?」
野球部のマネージャー…田中と名乗った彼女は、どうしても寮に忍び込む必要があったらしい。
「タッちゃんの…そうなんですね」
「それであなたは何で来たの?」
「……2号室…私の彼氏の部屋なんです」
「か、彼氏…!」
「あまり一緒にいられないから秘密の手紙とか書いたりしてて」
「手紙?携帯電話があるのに」
「手書きの文字の方が心がこもってて良いって彼氏が」
「あの。上着のポケットからはみ出てるのってその手紙ですか?」
「あ…はい」
「見てもいい?」
「だ、ダメです!無理無理!絶対に!」
「怪しい」
怪しい…が、どちらかと言うと単純に見られるのが恥ずかしいようにも
「本当に無理です!」
「殺した犯人の情報があるかも」
「凪咲さん、さすがにラブレターが手がかりになるとは」
「あなたと彼氏以外の人のことは書いてる?愚痴とか」
「…いいえ」
「じゃあ2人だけの恥ずかしいラブレターってこと」
「………」
「ちなみにあなたは事件が起きた時間はどこにいたの?自宅?」
「………」
「言えないってことは…もしかして彼氏さんに会いに来ていたとか…でしょうか」
「私は殺してないです」
「何時に来たの?」
「夜8時に…」
「帰ったのは?」
「…分からないです」
「どうして?」
「そ、その…言えません」
「凪咲さん。さすがに難しいですよ」
普通の女子高生です。10人以上を同じ殺し方で…毒殺とかならまだ怪しむべきとは思いますが…。
「うん。そうだよね。…ごめん、恋人だもんね。若いしそういう事もするよね」
「いえ。…え?」
「顔真っ赤」
「ち、ちがっ、」
「真みたい」
「どうしてそこで僕が出てくるんですか!」
「ほら」
3人で学校から離れた。
田中さんが別れ際に、事件後の寮に侵入した理由を話してくれた。
「…手紙もなんですけど、彼氏のスマホに私の画像があるんです」
「恋人だし普通じゃない?」
「…人に見せられない画像なんです」
「…服を着てないやつ?」
コクンと頷く。…高校生ってそういうものなのか。
僕は当時…いや、そんなことは…周りに…うーん…
「真」
「あ、はい」
「スマホは警察が持っていったと思うよ」
「…見られたくないです」
「ちなみに犯人に心当たりとかある?」
「いいえ」
……そういえば。深夜にテレビで放送されていた海外ドラマがあった。
高校生の青春が主なテーマなのだが、共感出来る部分が少なすぎて逆に覚えている。
未成年が飲酒で問題を起こしたり、アメフト部がいけないお薬を使っていたり、
主人公の親友が彼氏に送った裸の自撮りが全校生徒に出回ったり。
たしか喧嘩別れになって、彼氏が復讐として拡散したんだったような。
それに対する報復として殺し屋を雇おうとしたところで主人公が…えっと…
「最近彼氏と大きな喧嘩はした?」
「…喧嘩…ですか?」
「見られたくない画像を他の人に見せたとか」
「えっ…」
「本当に?そのままだよ」
「そのままってなんですか…なんで分かるんですか」
偶然もいいとこだ。
でもこれ以上深く聞くのは…
「女の勘みたいなもの。また何かあったら話聞かせて。タッちゃん通して連絡するから」
「あ、分かりました…それじゃあこれで」
田中さんを尾行しても面白いかもしれない。
それくらいには彼女が怪しく思えた。
「どうする?」
「うーん…刑事ドラマとかなら、犯人は現場に戻ってきたりとか」
「マネージャー?」
「出来ると思います?」
「代行かも」
いよいよ警察が役に立たなくなる日が来そうだ。
創造の力が絡むと途端に誰でも犯人になれる可能性が…
「タッちゃんに話を聞こうよ。もしかしたら、タッちゃんが見たのは犯人じゃなくてマネージャーかもしれないし」
「……」
「真?」
「さっき部員の部屋を調べてる時に、犯人が複数って」
「…可能性の1つとして言ってたね」
「タッちゃん…田中さんどちらも寮に入ることが出来るんですよね」
「でもタッちゃんは助けてって送られてきたから…」
「殺した後でメッセージを送ったのかもしれません…それっぽく」
「殺した動機は?」
「それこそ、田中さんの見られたくない画像が関わってくるのかな…と。田中さんと彼氏さんが喧嘩をして、腹が立った彼氏さんは画像を野球部員に見せたんです。そして田中さんが復讐をするのに力を貸したのが」
「タッちゃん?でもなんでタッちゃん?」
「…田中さんに恋していたとか。復讐を手伝うことで距離を縮めようと考えたんじゃないでしょうか。罪を共有することで他とは違う特別な関係になりますし。とはいってもこれは僕の想像でしかないんですけど」
「………意外とあるかも」
…でも、そうなると監視カメラの映像に映っていた結子さんは一体…?
………………………to be continued…→…




