第1話「無敵の豆腐と信頼の包丁」
念のため。再確認。確認の確認。
いくつも理由を作って何度も動画を見返した。
でもその全てで僕はこの人物が結子さんだという結論を出した。
結子さんではない…という証拠も探したが、やはりこれは。
気づけば風呂上がりで髪を拭く途中のまま。
まだまだ動画を見てしまう。
「そんなはずはない。あの時確かに」
実は生きていました!みたいな衝撃な展開プランは確かによくある。
なんなら、恋愛ものからホラーものまで何にでも使えてしまう魔法の展開プランだ。
ただ現実にそれが起こるかというと………
「否定出来ないのが困るところ…」
この世には創造の書が存在するのだ。
少数の人間のみがその力を使って…
「1回だけ死なない。いや、もしかしたらあそこから逆転したとか…?」
「真?」
「でもあれだけ攻撃されて食べられてしまえば、それこそ再生する能力だとしても」
「………」
結子さんは使者を創造しなかった。
ということは、代行自身が戦うタイプだと考えるのは自然。
うー…ん。
「実は代行じゃない可能性は?」
実は代行じゃない…結子さん自身が使者…でも使者があんなに単独で行動するのだろうか。
「そうじゃなくて、代行でも使者でもない普通の人ってこと。訳ありで詳しい…みたいな」
…その発想はなかっ…ん?
「凪咲さん!?」
「だって真が変だったから」
「変って」
「スマホに夢中で裸で自分の部屋に戻ってからゆっくり服着だすし」
「……嘘ですよね?」
「………」
「っ、」
「どっ、土下座なんてしないでいいから!」
「ごめんなさい!」
「そんなに気にしてないから!大丈夫だから!私は真が心配だっただけだから!」
「いやいやいやいやいや!これは大問題です!どんな訳があろうと!」
「ちょっとしか見てないって!っわかんない、突然だったから結構見ちゃったかもしれないけど!でもそんなには」
「本当にすみませんでしたぁっ!!」
「もういいって!」
ピンポーン。
「え」「え?」
…誰、だろう。
「ダンさん…?」
「そんなに私達に用あるかな」
「でも他に…年末ですよ?通常時でもまず人は来ません。もう古本屋は営業してないんですから」
「…ふぅ………焦りを感じる」
「へ?」
「……真。大丈夫。出よう」
「あの」
「気配を探ったの。とにかく大丈夫だから」
「はい…」
………………………………next…→……
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
「凪咲さん、大丈夫なんでしょうか」
1階に降りた途端何度も押された。
「イタズラなら私が蹴り飛ばすから」
「…加減はしてくださいね」
「どうかな」
凪咲さんがドアを開ける…と。
「…どちら様でしょうか……?」
若い。制服姿に、必勝の2文字が目立つマフラー。白い息を吐きながら。
「柊木さんですか!?」
「そうですけど…」
「助けてください!」
「……はい?」
「トシちゃんが柊木さんなら助けてくれるって!」
「トシちゃん?…真、」
「あのトシちゃんで間違いないですね」
「お願いします!助けてください!このままじゃ俺、殺されちゃうかも!」
大きな声でそんなことを言うと、誤解される可能性がある。
慌てて中へ入れて話を聞くことにした。
「それで…助けというのは…」
「俺の高校!ニュースになってるんです。野球部が」
「ま、まさか、」
「真?」
「野球部員が全員死亡したとかって」
「それです」
「全員?どうして」
「それがどうにも」
「俺…これ、見てください」
彼がスマホの画面を見せてきた。
「俺の親友の…最後の…」
メッセージ。
たさすて
なんだろうなんて思わない。
必死に入力した"たすけて"であることは容易に想像できる。
「…殺されるっていうのは?」
「俺…これ見て野球部の寮まで急いで行ったんです。そしたら逃げていく人影みたいなのが見えて」
「犯人を見たんですか!」
「ハッキリとは…でも、向こうは立ち止まって振り向いて…俺を見たんです」
「逆に犯人に見られたってこと。目撃者を消すつもりなら殺されるって考えたんだ?」
「…ちなみに、その後はどうしたんですか?」
「え…その後」
「親友の部屋には」
「……っ」
「思い出すのは辛いかもしれませんが、」
「死んでました」
「……」
「……」
それ以上は聞けなかった。
僕が彼に協力したいと思って凪咲さんを見ると、彼女は何も言わずとも頷いてくれた。
………………………………next…→……
調べるのは翌日の朝から。
今から寮に向かっても警察が調べているから入ることは出来ないのだ。
そこで、助けを求めてきた立元 卓也…通称タッちゃんが忍び込むルートを確保することになった。
少し暗い雰囲気の夕飯。
「いただきます」
「いただきます」
「……」
「でもトシちゃんって不思議な人だよね…」
「そうですね…」
まさか僕達を紹介するなんて。
闇深3兄弟の問題については僕達が解決したかというと…そうでもないのだが。
「あの男の子、トシちゃんと仲良いってこと?どんな繋がりなんだろう」
「…聞いてみますか?」
「待って、そこまでじゃ」
トシちゃんに電話をかけてみた。
…繋がった。スピーカーにしてテーブルの上に置くと
「もしもーし!おう!元気にしてたか」
「もしもし。トシちゃ」
「あの日2人とも殺されたんじゃないかって不安だったんだ!そしたら警察が来て…お前さんが解決してくれたんだろ!」
「いや、僕は」
「あんまパッとしないのによくあんなの大人しくさせられたよ!本当に立派だ!さすが!秀爺の血を引き継いでるよ!」
「あの…」
「もしかしてタッちゃん来たか?」
「そ」「困ってる人を助けてやってくれ!出来るだろ?」
「あの」「あいつは俺と話が合うんだ。守ってやってくれな。頼む!」
「ト」「すまんすまん!お店の予約時間がそろそろだから!それじゃ!」
一方的に話されて、一方的に電話を切られた。
「……」
「トシちゃんと話が合うんだ…」
「お店の予約って…」
もしかしたら。
いや、もしかしなくてもそうか。
世間のイメージ通りだ。
男というのはなぜいつもスケベな思考で脳内を埋め尽くすのだろう。
それこそ、その分野での想像力は皆天才的だったりする。
……いや、僕は天才とまではいかないか。
休み時間中…消しゴムを拾う時にたまたま雑談している女の子のパンチラを目撃してしまってしばらく意識してしまっ…はっ!!
「……」
凪咲さんは普通にご飯を食べてる…よかった。今のを読まれていたら…
「…スカートに着替えてこようか?」
「………」
「冗談。でも真ってそんなに変なこと考える人じゃないよね」
「心臓に悪いです…」
「もしかして私に気をつかって我慢してるとか?…もしかしてラッキーストリート」
「いっ!行きませんよっ!!」
「よかった。せめてご飯の時くらいは楽しく過ごしたかったから」
「…」
「結子がこの事件に関わってるの?」
「え…いえ、分かりません。でも、寮の近くを映す監視カメラの映像が出回ってて…そこにはどう見ても結子さんが」
「後で私にも見せて」
「はい…」
「あ。……」
「どうかしましたか?」
「好き」
「え、えっ!?えっ!?」
「この漬物。白菜が」
「え?あ、」
「ん?」
「それはスーパーイナズマの特価品です」
「そうなんだ。こんなに美味しいのに」
「今度また買います。毎回1パック68円なので」
「安っ。ふふっ」
…ああもう。
こんなの否定しようがない。
どこをどう見たって僕は凪咲さんを意識している。
漬物が美味しくて気に入っただけの"好き"に過剰な反応を…。
間違いなく弄ばれてしまってる。
………………………………next…→……
食後。
色々と落ち着いたところで、凪咲さんを呼んだ。
「改めて、凪咲さんの武器を創造したいと思います…あの時壊れてしまったので」
「そうだ…ね」
「何か要望はありますか?多分前より強いものが用意できるかと」
「前のと同じでも全然いいけど…絶対に壊れない、とかは無理だよね」
「やってみましょうか」
開発なんて偉そうなことは言えないが、せっかく創造の書を2冊所有しているのだから…と色々試してみた。
…物の再現力。
例えば、今日食べたご飯の中から凪咲さんが気に入った漬物。
例えば、いつどこで買ったか覚えていないけど気に入っている僕の靴下。
どちらも成功した。漬物は美味しく食べられるし、同じ質感の靴下が手に入った。
…物の再現力。
例えば、お金。
例えば、豆腐。
どちらも失敗した。お金は複製が出来たものの、お札には独自の番号が振られているから同じものがあってはいけないし…透かしが再現できなかった。…一方、小銭はどういうわけか再現できた。
豆腐は、どうしてもその柔らかさというか…存在が維持出来ずに崩れてしまった。味は悪くなかった。
今の僕ではこんなものなのだ。
それでも、アイアン・カードのような特例もあるわけで。
今度は崩れてしまった豆腐に能力を付与してみた。
自力で存在を維持出来るように、身が崩れてもすぐに再生してくっつくように…。
これは、やりすぎた。
柔らかいのに摘んで引きちぎろうとしても…指を突き刺そうとしても…何も受け付けない。
無敵の豆腐が生まれてしまった。
これを万が一食べてしまったら、一切消化されることなく排出されるのだろうか…?
無から生み出す、元々あるものを複製する、既に存在するものに能力を付与する…色々とやってみたところで実験部分のページを破った。
すると、創造されたお金や豆腐は透けるようにその存在を消失させた。
「とにかく耐久性を優先したもの…でいいんですか?」
「うん…さっきの豆腐を見ちゃうと…事故が起きそうで」
「分かりました…」
信頼の対剣
夏野 凪咲専用の剣。
白と黒の双剣。信じあう剣は何者によっても破壊されることはなく、強く結びつくことでさらに力を増す。
「僕達みたいな武器を…強く結びつく力を」
「…真」
((READ))
本が光ると、創造する瞬間を隠すように部屋中に光が…!!
チャキ。
光の中、音がした。それは彼女が新たな剣を握ったということだ。
光が落ち着くと…
「…すごい。こんな武器初めてだよ」
「あれ、なんか」
包丁っぽい感じになってしまった。
そんなつもりで創造したわけではないのに
「ううん。包丁なんかじゃないよ。立派な武器」
「そ、そうですか…?」
「うん。すごく手に合う。握りやすくて、力を伝えやすくて」
「試し斬りとか言わないでくださいね」
「でも次に戦う時が楽しみになった」
「そんなにですか」
「そんなにだよ。今の私達は」
「……」
「頑張ろうね」
「…はい!」
嬉しそうに剣を眺める凪咲さんを見ていると、なんだか…おっと、考えるのも時々は控えないと。
………………………to be continued…→…
2019年の更新はここまでです。
お付き合いありがとうございました!
来年もよろしくお願いします。




