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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
聖夜の贈り物
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第6話「レベル2になる方法」





「くっ…少し出遅れた…っ!」



スーパーイナズマまで全力で走った。

自転車なら数分早く到着できたはずだが、近くに駐輪場はない。

特売日は店の近辺が嘘みたいに混み合うので結局自転車に乗っていくのはおすすめできない。



「先客は30人くらい…?」


先頭に立つのは常連の老夫婦。

どちらも70超え…なのに"買い物上手"なのだ。

まず、おじいさん。欲しい商品を素早く回収し最速でレジへ向かうその姿はミスターイナズマという異名が付けられるほど。

そしておばあさんは、1度カゴに入れた商品は災害が発生しても手放さない強固な守り…僕は勝手にガーディアンと呼んでいる。



ライバル達の姿を確認しながら最後列まで移動し並ぶ。

今回はクリスマスと正月が合体した特売…そして今年最後の特売…全員気合いが違う…!



「あら。マスターパーフェクトじゃないの。遅かったわねぇ」


「……ハンドウーマン…!!」


僕の前に並んでいたのは4兄弟を育てる母親…たしか本名は平嶋さんだ。

…平嶋さん、いや、ハンドウーマンは強敵だ。列で待っている間にハンドクリームを塗りまくるこの恒例の準備が憎くて仕方がない。

クリームでヌルヌル&ベトベトにした手で、彼女は何人もの客から商品を奪っていった。…僕からも…!


陳列された商品に皆が手を伸ばす中、彼女の手は…ああ、思い出したくもない!

マグロの刺し身盛り合わせ1パック250円の恨みは…今日こそ。


「今日もいただくわ。あなたのカゴ、ガバガバなんですもの。おほほほほほ」


「っ、負けない…!」


彼女のルーティンは開店時間に合わせられている。

もう…塗り終わる頃だ。


「間もなく開店時間となります!押したり走ったりはしないようにお願いします!」


店員が前もって注意をする。

もちろん、これも店側のルールだ。破れば商品は買えないし罰金にも繋がる。

…それでも、戦争は起こる。ここに並ぶ客は……強い…!



「開いたわ」


開店。最初に入店したのはミスターイナズマ。彼は僕が入店する頃には店を出ているだろう。

ガーディアンは年寄りだからか買い物自体はゆっくりだ。それでも毎回買い物に成功している。


僕が警戒するべきなのはやはり…



「いらっしゃいませぇー!」


入り口には2人の店員がいる。

これはルール違反がないかの確認のためだ。

店内にも品出しついでに監視役がいる。



入店した。

毎回の事ながら、入店後に見える位置に店内の地図が貼ってある。


店側のルートとしては右下に入り口があって、そこから反時計回りで左下のレジに向かう。

が、欲しいものが決まっているなら話は変わる。


「お菓子売り場を抜けてショートカットだ…!」


全部を見て回れば誘惑だらけだ。

目玉商品以外のものでも大手スーパーには真似出来ない価格だ。

ほら…白菜、大根、白滝の3点セットで198円。…買う。


僕は今回の特売で、クリスマスケーキとチキンを狙う。正月系は最初から捨てることにした。

そうすることで買い物の時間を短縮し、買い物の確実性が増す。


正規ルートだとほとんどの客が野菜と漬物の誘惑に釣られてしまう…でもお菓子売り場を通過すれば…


「なっ…1kg分のチョコレート詰め合わせ398円…っ!!」


仕方ない。こればっかりは買おう。


お菓子売り場を抜けると、野菜や漬物が並ぶ売り場をカットして肉や魚が並ぶ売り場に直行出来る。

まずはここでクリスマス用のチキンを…!



「っ…」



チキンが陳列されている商品棚に客が群がっている。

そこから1人のおばあさん…ガーディアンがゆっくりと出てきた。買い物カゴにはもちろんチキンという戦利品が。


4人家族向けのサイズで480円。質も量も素晴らしい…何より、実物を見ると…とても美味しそう…。


「絶対に買う…!」


群がる客の中へ踏み込む。

僕以外の客同士が押して、押されて、押し返してを繰り返す。

この荒波を乗りこなせなければ商品には手が届かない。

必死に左手を伸ばし、商品を…チキンを…


パシッ…!


「っ、」


出た。"神出鬼没の叩き手"、煎餅屋さんの主人…松岡さんだ。

ライバル達の手を片っ端から叩いて蹴落としていくワイルドプレーヤーだ。

痛くはない。むしろ優しい。でも商品から遠ざけるのには十分な威力…!


……だから僕は左手を伸ばしたのだ。

すぐに引っ込めて右手と交代。左手を突っ込んでいた分のスペースに素早く右手を入れることで叩かれる寸前までのリカバリーが容易になる。

あとは的確に…掴む!!


「このっ…うおぉっ!」


全力で引っこ抜くと、僕の右手はしっかりとチキンのパックを手に入れていた。

これで少しだけ安心出来る。次だ。

売り場から離れて次の目当て…ケーキを手に入れる。



ケーキはレジの近くで売られている。

そこまでにも調味料、冷凍食品、アイス、飲料系と罠がたくさん。


残念ながらここはショートカット出来ない。

…そして、この辺りから彼女の縄張りに入るのだ。


「いた…ハンドウーマン!」


獲物は激戦を勝ち抜いて油断している客。

目玉商品を手に入れて安心して別の商品を見ている隙にカゴから欲しいものを奪っていくのだ。

彼女は全く苦労せずチキンを手に入れていた。僕の目の前で。


あの手から商品を守るには、それこそ買い物かごに蓋でもしないといけない。


…っ、この足音は!


タイミングを計って僕はカゴを体に密着させ半回転した。

瞬間、僕の横を早歩きで抜けていくおばさん。

彼女は"ウルトラクレーマー"。そこそこ有名で地元では出禁の店がいくつもある嫌われ者だ。

そしてこのおばさんは嫌われ者として開き直り、スーパーイナズマの特売に現れるようになった。

堂々と客のカゴに手を突っ込んで商品を奪おうとするのだ。

注意しても女性とは思えない声で凄まれる。


だから対策は回避する以外にない。


…マズい。マークされた。

ウルトラクレーマーはUターンして僕のカゴを狙っている。

口がパクパクしている…多分とんでもない事を小声でブツブツと繰り返し言っているのだろう。


逃げるように移動する。

後ろにはウルトラクレーマーがばっちり追尾してくる。

仕方ないのでこのままケーキを…



「しまった。遅かった…」


チキンを回収後すぐに行ければ、レジ付近なこともあってライバルは少なく済んだ。

でもウルトラクレーマーから逃げていたことでケーキはチキン争いと同等…いや、それ以上の戦いに…!


しかも、この群がり方はハンドウーマンにとってフィーバータイムだ。


立ち止まればウルトラクレーマー。

ケーキを取りに行けばハンドウーマン。

上手く2人を避けても神出鬼没の叩き手もいるだろうし時間がかかる…諦めるべきか…!



「………は…っ」


思いついてしまった。

僕はこれまで、ショートカットや的確な商品選びで確実にほしいものを買ってきた。

マスターパーフェクト。それは店内の売り場や最短ルートを完全に把握し、毎回ほしいものを全て購入してきた僕の異名。

今日、僕は本当にパーフェクトになろう。


「展開」


カゴの上部でアイアン・カードを展開し、蓋の代わりにする。

これで商品を横取りされる心配はなくなった。



「ズルいかもしれないけど、これが僕の本気だ…!」






………………………………next…→……






「ありがとうございましたぁー!」





「ふぅ」



大勝利。いや、違う。完全勝利だ。


マスターパーフェクトの名に恥じない買い物だった。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!マスターパーフェクト!」


遅れて出てきたのはハンドウーマンだ。

彼女は僕のカゴに手を入れようとして軽く突き指していたんだっけ。


「あんな鉄板みたいなの使ってズルいじゃない!」


「人の買い物カゴから商品を横取りするのもズルですよね?」


「あなたはそういうことしない人だと思ってたわ」


「期待された通りのカモになれなくてすみません。でも僕、マスターパーフェクトなので」


「…来年は負けないからね」


「望むところです」



彼女は大きめの1袋を持って去っていく。

僕は大きくてパンパンの2袋で両手が塞がっている。



「結局正月系も全部買えた…今までで1番買えた…!」


普通に買った場合と比べると、全体で2万円近く安くなったと思う。



「あぁ…こうやっていっぱい買い物して冷蔵庫を埋め尽くすのって」


なんて幸せなことだろうか。

電気代を忘れて1日中冷蔵庫を開けっ放しにして鑑賞していたくなる。



「おや。君は」


「ん?あ、ダンさん!」


帰り道に遭遇した。


「朝早いですね」


「今君の家に行ってきたところだよ」


「え?」


「子供窃盗団は解散し、子供達は皆親の元へ帰った。代行はもう2度と子供達に手を出せない。それを伝えようと思ってね」


「解決したんですか…!」


……早い。


「偶然さ。神が味方してくれたのかもしれない」「流石です、ご主人様」


「は、はぁ…」


「そうだ。それを運ぶのを手伝おう」


「え?大丈夫ですよ」


「話しておきたいこともある。付き合ってくれたまえ」


「……」


「ジュリア」「はい、ご主人様。荷物を預かります」


「あ。お願いします」


「君の使者と話をしたよ」


「…そうですか」


「次は君の意見が聞きたい。私達代行の役目とどう向き合うべきか」


「役目…ですか?」


「私は生命の価値を平等にしたい。善と悪、弱者と強者の差を無くして新たな形の平和を築きたい」


「……」


「そうでなければ、創造の力は人間の勘定で使われることになる。悪人だから殺す、もう先は長くないから殺す、気に入らないから殺す。そんな個人の勝手が許されていいわけがないだろう?」


「ですね」


「…君も使者の彼女と同じ目をしているね」


「え?そうですか?」


「考えは分かるし、否定もしない。ただ、賛成はできない」


「…そうかもしれません。少なくとも僕は多くを助けられるほど強くはないので。もしそれを可能にする力を持ったら…考え方も変わるんでしょうか」


「どうだろうね」


「ご主人様。彼らに答えを」


「ジュリアさんは何を?」


「ああ。彼女は私の考えを読み取ったんだ」


「シンクロですね」


「それに近いことが君達にも起きている」


「………」


「もしかしたら君の使者は元々人の考えや気持ちを察するのが上手なのかもしれない。だとしても、素の部分でどこか意見が一致しているようだ」


「そ、そうなんでしょうか…」


「さっきはまだ君の意見を聞いていなかったから答えを濁したが、今ならば話してもいいだろう」


「……?」


「レベル2になる方法を」


「え…!」


「驚かずに喜びたまえ」


「で、でも。いいんですか?」


「私なりの信頼の証だよ。…驚かずに聞くと約束したまえ」


「…頑張ります」


「レベル2になるには」


「なるには…!」


「ジュリア」「はい、ご主人様」


創造の書を取り出し、僕に見せながらページを捲る…あ、日本語の手記…?


「読みたまえ」



私は創造した使者と共に苦しみを乗り越えた。

病を撒き散らす使者との戦いに勝利したのだ。


「それは神の文字の一部を解読してわかりやすく翻訳したものだ」


私達は抱き合った。体だけではなく、血と汗も共有した。

離れる瞬間…私は、勢いのままに抱き寄せて口付けをした。人の形をした人間ではない存在に。


「衝撃的だろう?」


「…あの、続きは…」


「読める人間が死んでしまった。そこまでしか知ることは出来なかったんだよ。その前後にもきっと面白いことが書かれているのだろうね」


「…あの…」


「方法は、敵の使者を撃破し、パートナーの使者に口付けをすること」


「………」


「恐らく、創造の力を悪用する者が許せないのは神も同じなのだろう。そして勝利を祝福し、力を与える…」


「でも口付けって」


「面白いだろう。代行が使者を信頼する証として、代行から口付けをする。そして使者はそれに応えるように成長し、代行の思考を共有することが出来る」


「…でも口付けですよ?」


「別に唇を重ねる必要はないと思うよ。頬でも手の甲でも。何よりも信頼していると伝われば」


「………」


「ご主人様。そろそろ時間です」


「そうか。では、気が向いたら試してくれたまえ」


「そんな簡単には」


ジュリアさんが僕の買い物袋を返してくれた。

…重い。


「また機会があれば会おう。それまで元気に生き延びたまえ」


「…ダンさんも、お元気で」



別れた場所は僕の家から数mの場所。

時間の都合というより、僕の家の近くまで来ちゃっただけだ。


2人は駅の方へ歩いていく。

電車で移動してるのかな。





………………………………next…→……







「ただいま…」


複雑な気持ちだ。

強くなる方法が分かったのに、それが出来ない。

凪咲さんに口付けだなんて…!いくら信頼してるからって…!



「真…!ねぇ、さっきダンが」


「来たんですよね。僕も会いました」


「そうなの?」


「とりあえず、これを冷蔵庫に」


「……すごく多い」


「はい。これで正月まで買い出しが不要です」



…冷蔵庫からしたらあまりよろしくない詰め込み具合。

ただ、僕としては冷蔵庫を何度も開け閉めしたいと思う出来になっている。



「結構高かったんじゃない?」


「全部で6000円ちょいとかです」


「…嘘」


「本当です。レシート見ますか?」


「………何この値段」


「今度凪咲さんも入会しましょう。2人でならもっと得できます」


「う、うん」


「凪咲さんの運動能力なら、ミスターイナズマより早く会計まで行けそう…そしたら、10個しか用意されない"レジェンド"にも…」


「真?何の話?」


「いえ。まだ気にしなくて大丈夫です」


「…そ、そう…」


「ふぅ。じゃあちょっと僕はお風呂入ってきます。起きてすぐ出かけたので」


「あ、待って。ダンが」


「子供達を助けたんですよね。聞きました」


「あと、レベル2になる方法を聞いたんだけど」


「………」


「代行と使者が強い信頼関係で結ばれる…何か分かる?」


「………さぁ…分からないですね…」


「真には何か言ってない?」


「……言ってな」「言ったんだ」


「言ってないです」「何を聞いたの?」


「お風呂入ってきます!」「待って!逃げないで!」


「の、覗かないでくださいよ!?」「私ここで待ってるから!」



……確かに凪咲さんは僕の考えとか気持ちを察するのが上手い。

そうか。父親の影響か。僕にも観察力を磨けと言っていた気がする。

人のことをよく見ているから、察することが出来るのか。



「……あ、シャンプーが」


無くなりかけるとポンプを連打して全部使おうと頑張るのはよくあることだ。

1回分には少し足りないそれを直接髪で泡立てる。


……凪咲さんには何て言おう。

嘘はバレたら大変だし、正直に言ったらそれはそれで気持ち悪がられてしまう。


強くなるには君と口付けをしなきゃいけないんだ。


…そんなの聞いたことない。気持ち悪すぎる。ただただ変態だ。



「真」


「えっ!?えっ!?」


卑怯だ。シャンプー中に。ちょうど泡が垂れてきて目が開けられない…!



「教えて」


「今は無理です!」


「気になってどうしようもない」


「それは僕の方です!覗かないでください!」


「見てないよ。ちょっと開けてるだけ」


「せめて伝える言葉を考える時間をください…」


「そんなに難しいの?」


「はい。奇跡が何回起こっても難しいです」


「………じゃあ朝ごはん作って待ってるから」


「もう覗かないでくださいね…!」



…だ、誰か…助けて…!!







………………………to be continued…→…


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