第5話「真、戦場へ」
「ダンさんと協力関係になれたら、僕達は」
「まだ、早いよ」
「………」
「まだ信じちゃ駄目。代行同士の関係って普通の人間関係とは違うんだよ?」
凪咲さんは警戒してる。
「戦わずに本を奪おうとしてるかも。不意討ちが好きなのかも。本当に協力関係になるなら、もっと相手を知らないと」
「…でも僕、あの2人を見て思ったんです」
「何?」
「その気になったら簡単に僕達を倒せるなって」
「………」
「だから、逆に利用するくらいの気持ちでダンさん達と仲良くなる…のは…」
「私は反対」
「あ…」
「ごちそうさま」
答えは揃わず、凪咲さんの機嫌を悪くしてしまった。
……黙って食事の片付けを始められると、提案したことを後悔してしまう。
たしかに油断は出来ない。
言う通り、あの時の協力関係の提案は本を奪うための嘘なのかもしれない。
でも…あの2人はこの家の住所を知ってる。
わざわざ訪ねてきたくらいだ。
寝ている時を狙えば戦わずに本を奪うことも…一方的に殺すことも出来る。
何もしてこないということは…。
「私先にお風呂入るね。残りの食器洗いは」
「やります…」
「うん」
少しだけ声のトーンが…やっぱり怒ってる…。
凪咲さんからしたら、僕の考えは甘いんだろう。詐欺にあう寸前まで詐欺師のことを信じ続ける人みたいに見えてるのかも。
でも、痛い目を見て気づいた頃には遅い。
…それは分かってるつもりだ。
代行同士の争いでは簡単に生死が決まる。
「でも…」
ダンさんは僕達が強くなれる方法を知ってる。
そして、協力関係になれたら必ず教えてくれると思う。
凪咲さんがレベル2になったら…きっとジュリアさんにも負けない。
「……ん?」
ダンさんは自分の創造の書にレベルについて書かれていたのを見た…?
でも、僕の所有する本には書かれていなかった。
………なら、もう1冊の僕の本ならどうか。
まだ食事は途中だけど今すぐ試さずにはいられない。
スマホで小説サイトを開きつつ、創造の書を取り出す。
どうせ普通に読もうとしても神の文字が読めない。
ならば、過剰読書で無理やり読む。
「ふぅ…」
まずは助走として投稿された小説を……。
主人公は、次期魔王と言われ大切に育てられてきた魔族…シュライム。
褐色の肌と魔族にしては珍しい人型。シュライムへの周囲の期待はいつしかプレッシャーに変わった。
魔族より人間に容姿が近づいていくシュライムに、現魔王が使命を与える。
「これからお前が滅ぼす世界…人間の世界で旅をしなさい」
近くで人間を見て、共に生き、よく知る。それを経て、見知った人間の弱さを突いて人間界を滅ぼす。
シュライムは…………この創造の書を心無き者に託す。
我々が知らせるのは後世に送られた最大の罪。
その罪の大きさに人間は無のまま死ぬだろう。
アマゴウラは全てを破壊し喰らう者。
アマゴウラという罪を…………代行が自身の体に創造を施す場合、基本は創造の書が心臓の代わりとなる。
創造した物体に使用者が想像を加えた場合、使用者の生命が削られる。
強欲な肉体
使用者の体に付与する。使用者は痛覚を失い、肉体は負傷せず、滅びない。
一定時間経過でこの力は剥奪される。
………残り使用回数…0。
私は海とは無縁な場所で生きている者。しかし、今日、海が持ち込まれた。
海水は毒の水だ。あの中で生きる魚などは他よりも強い…毒に耐性があるのだ。
これから、我々は儀式を行う。海の力を獲得し、毒の耐性を手に入れる。
そうすることで、我々は海と戦うことが出来るのだ。
真実の冠
冠を頭に乗せたモノが嘘を言うと、冠から毒針が突き出る。
冠を頭に乗せたモノが真実を言うと、冠は美しくなる。
代行が武器を創造する場合、その
「真!!」
「っ………」
「しっかりして!」
「……うわ」
目の前には凪咲さんの顔。
あまりに近くてびっくりした。
「…大丈夫?」
「あ、はい」
「なんで?」
「え?」
「なんで読んだの?私がお風呂に入ってる間に」
「いや、これは」
「私が……」
「聞いてください」
「……」
「もしかしたら、闇深3兄弟から手に入れたこの本にレベル2について書いてあるかもって。タイミングは悪かったんですけど思いついちゃったんです。一応目覚ましもちゃんと」
「どこ?」
「……あれ?」
セットしてなかった。
「…真。あなたは慎重さが足りない」
「…ごめんなさい」
「そうやって、自分では大丈夫と思ってても失敗することがあるんだよ?もし、ダンさんダンさんって近寄っていって同じように失敗してたら?」
「……」
「……もっと私を頼って。信じてよ」
優しく言ってくれた。でも、凪咲さんは心の底から怒っている。
…僕も。僕自身に怒っている。
「軽くじゃなくていっぱい読むんなら私に言ってからにして」
「はい。…凪咲さん」
「うん…」
「勝手に…ごめんなさい」
「もういいよ」
「あと、いつも信じてます」
「分かったって」
「…途中だったので、もう少し読みたいです…」
「それは…どうかな」
「え?」
「鼻血出てるし」
「あ…」
創造の書のページに垂れないようにと2人で慌てた。
結局、レベル2について知ることは出来なかったが…。
「んー…」
鼻にティッシュを詰めこんで考える。
すごく間抜けだ。
「何が書かれてるか分かったの?」
「少しは。でも…僕の本と比べると、なんて言うんだろう」
「何か違うの?」
「順番がめちゃくちゃなんですよね。僕の本は先代から伝わってきた手記みたいなのがあって、基本的な説明があって、あとは創造のためのフリースペースなんですけど。こっちのは手記、創造、説明、手記…みたいに」
「勉強ノートって人によって見やすさとか違うでしょ?それと同じかも」
「そうなんですかね…僕には、何か意味があるようにも…」
「意味…」
「……」
「懐かしいな…私、勉強はそんなに得意じゃなくて。受験勉強はずっとお母さんが一緒だった。解き方を調べてくれてそれをわかりやすく教えてくれる…手作りの問題集とか」
「あ。…そうですよ。問題!問題!」
「な、なに…?」
「手記が当時発生していた問題で、その後に続く基本的な説明や創造の書き込みが問題への答え!」
「……うん?」
「えっと…ここ!手記には毒の雪を降らせる怪物がいると」
「私には…なにも」
「書いてあるんです。えっと…それから、こっちには毒の雪に対抗するために解毒作用の強い花が書き込まれていて、続けて説明が…創造した物体を体内に取り込むのは注意が必要…」
「真、鼻のティッシュが」
「これなんて、海水は毒だなんて…昔の人は色々なものを毒として」
「真。ストップ」
「むっ」
凪咲さんが手で僕の口を塞いだ。
「今日はこれくらいにしよ。鼻血止まらなさそうだし」
「…そうです…ね」
「約束。してくれる?」
「何をですか?」
「私無しで読書し過ぎないこと」
「…はい」
「手出して」
「………」
「約束。ね」
約束の誓いといえば、"指切りげんまん"が有名だ。
でも凪咲さんは…両手で僕の右手を包み込むように握る。
「あの…」
「小指で約束しないのはどうして?」
「え」
「お母さんのやり方。私はあなたを信じてるって片手に対して両手を出すことで伝えてるんだって。小指だと、所詮指1本だから口約束と変わらない。でもこのやり方だと、約束を破れば相手の両手を自ら振り払うことになる。それは本当の意味で信頼関係も」
「もう十分に分かりました!」
「信じてるからね」
「は、はい…!」
約束の仕方に重みを感じた…とかではない。
油断するとつい、異性として意識している自分がいる。
彼女の手が離れた後も柔らかさとかしっとりした感触とか…そういったものを感じている。
自分が気持ち悪い。
「もう寝よう」
「あ…おやすみなさい」
「おやすみ」
鼻血が落ち着くまでは眠れないが。
………結局、覚えてる限りでは夜中の2時まで起きていた。
………………………………next…→……
朝。
「……はっ…!!」
寝ぼけながらスマホの通知を見て瞬時に目覚めた。
1件のメール。これは絶対に見逃してはいけないメール。
毎月1回開催されるスーパーの特売メールだ。
今ではネットでチラシを見ることも出来るし、様々なサービスで得することが出来る…でも、このスーパー…"イナズマ"のメールはそれらの比じゃない。
…イナズマパス。年会費100円のこのスーパーだけがやっているサービス。
入会出来るのは店のルールに違反しないと同意書を書いた人だけ。
会員限定、1人1点限定、さらには個数も限定…3つの限定条件を重ねた先にはそれこそ雷に撃たれたような衝撃の値段が…
「クリスマスケーキ…!!なっ、チキンも…!」
なるほど。
年末年始に向けた特別な商品を用意しているようだ。
メール下部には参加条件がある。
会員様のみ、1人1点のみ、各100個限定。
会員様のみ…これはイナズマパスに入会している本人しか参加出来なくて…1人1点のみの部分でズルをするために入会してない人を連れていくのがルール違反。
あとはよくある条件だ。
それでも欲張りなおばさんなどがルールを破って得をしようとする。
そうすると…罰金となるわけで…。
「ぼーっとしてる場合じゃない。着替えなきゃ」
激安のためなら、身支度を多少は省く。
歯磨きとか顔を洗うとか…そんなの帰ってからでも構わない。
今はとにかく、スーパーに急がなければ。
「開店時間まであと1時間…!行列を考えると猶予は20分!」
慌ただしい僕のせいか、凪咲さんが目を擦りながら起きてきた。
「真…?」
「おはようございます!ちょっと買い物に行ってきます!」
「こんな朝から?どこも開いてないでしょ…それに何買うの?」
「いえ、スーパーイナズマは特別なお店なので!」
「…すごく張り切ってる」
「はい!戦場ですから!」
「………」
商品の取り合いは当然発生するし、手に入れた商品がぐちゃぐちゃにならないように気をつけなければいけない。
しかも、店を出るまではカゴから商品を取られないように守る必要もある。
戦争だ。力強さ、大胆さ、繊細さ…色んな要素で競うことになる。
「私も行こうか?」
「いえ!凪咲さんは入店不可なので!」
「え?」
「詳しいことは帰ってから!行ってきます!!」
「あ…行ってらっしゃい」
「ニャア」
「おはようソープ。ご飯食べる?あー、でも少しだけ一緒に遊ぼっか。ね?ね?」
「ニャアア…ゴロゴロロ…」
「よしよーし。いっぱい撫でさせてね」
「………」
ピンポーン…。
「…真…じゃないよね」
「ニャ…」
「一緒に行こ」
1人と1匹は1階まで無音で降りた。
そして凪咲が最大限に警戒しドアを一気に開ける…と
「おっ…と。朝早くからすまないね」
無言のメイドと突然開いたドアに小さく驚く紳士。
「…ダン…だよね」
「ああ。私は代行の彼に用があって来たのだが…」
「今はいない」
「それは残念だ」
「何の用?私が代わりに聞く」
「ふむ……ではそうしよう。彼に伝言ということで」
「何?」
「子供達を苦しめる悪夢は取り除いた。既に全員親の元へ帰って幸せを取り戻した…そう伝えてもらおうか」
「…それ本当?昨日の事だよね?」
「確認するが、君は使者かな?無関係な一般人には詳しく話せない内容でね」
「使者。嘘じゃない」
「代行は年寄りだった。若い時に彼は父親だったが、子供をクリスマスの夜に誘拐されて…結果失ってしまった。気が狂いそうになった彼の背中を押してしまったのが創造の書…ということだ」
「……」
「創造の力を使い、大人達を狂わせた。子供達を孤立させて…彼は子供を集めていた。生死問わずでだ」
「そんな…」
「たまたま被害者の子供を1人連れていてね。気絶させた両親の顔を見せて、すり替わっている可能性を潰そうとしたところ」
「代行が来た?」
「逃げ出した子供達がどうしようもなくなって帰ってきたところを狙っていた。多分、彼の本物の子供も帰宅中に…ということなのだろう」
「……」
「死ぬ直前まで悔しそうに私達に話してくれたよ」
「殺したんだ…」
「というよりは、自滅に近い。無警戒でジュリアに近づき、反撃された。そしたら思ったより効いてしまったようだ。創造の力を自身にも使った結果代償として脆くなった…と見ている」
「……」
「以上だ。子供達は代行の彼にも感謝していた。そのことも伝えてくれたまえ」
「…ねぇ」
「何かな」
「どうしてここに住んでるって分かったの?」
「その答えは…難しいな。ただ、彼なら予想は出来るだろう」
「答えられないの?」
「もう一度ハッキリ言っておこう。敵対するつもりはないと」
「…信じられると思う?」
「私がジュリアに命じれば、君達くらいなら1分もかからない」
「っ…」
「簡単に勝てるからわざわざ戦う必要がない、というわけではないよ…強力な力を持つ代行が手を組めば可能性はより広がる。正しく使われれば、世界を救うことも出来る。この本の歴史を知り、力の使い方を知り、生命の価値を平等にしたい」
「生命の価値?」
「代行は生命を預かる者。昔は単純にその数だけを見ていたようだが、今は違う。時代が変わっていく度に人間の思考はより深くなった。弱き善を救い、強き悪から力を奪う…生命の価値を平等にした上で、次は地球を救う。生き物には寿命がある。どんなに粘ってもいつかは終わるものをわざわざ殺す必要はない。そう思わないかい?」
「知らない」
「ほう…」
「私はいつだって今が大切だから。自分と大切な人が幸せならそれでいい」
「その他の人間は?」
「そんな余裕ある?自分が幸せになるだけでも大変で、それを維持するのはもっと大変なのに」
「幸せという概念を知らないまま死んでいく人間もいる。助けてやりたいとは」
「本当に出来る?」
「……」
「私、綺麗事が大っ嫌い。人間ってね、綺麗だけど汚い生き物なんだよ。平等なんて有り得ない。必ず誰かが欲張ってバランスが崩れる。そして何度でも醜い争いが起きる」
「そうかな」
「弱い立場の人を助けるつもりで色んなものを施して、その人達は全員が感謝すると思う?そんなわけないよね。必ずもっと寄越せって言う人が現れる。辛い思いをしてきたんだからと言い訳して欲張る」
「私の考えには賛成出来ない…ということか」
「賛成はしない。気持ちは分かる」
「なるほど」
「否定もしない」
「それでいいとも。さて…そろそろ帰るとしようか。ジュリアが無言で怒っているからね…私が他の女性と話すのをあまり良く思わないらしい」
「待って」
「何かな?」
「レベル2。どうしたらなれるの?」
「簡単さ。代行と使者が強い信頼関係で結ばれるだけでいい」
「……」
「問題は信頼関係が結ばれる瞬間だ」
「どういうこと?」
「それは私にも分からない」
「ではまた」そう言い残し駅の方へ歩いていく2人。
その背中を見て、凪咲は首を傾げた。
………………………to be continued…→…




