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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
聖夜の贈り物
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第4話「ミラクルぱん」





「………」


「お兄ちゃん、あの人達なにしてるの?」



それは僕も聞きたい。

いや、何をしているのかは分かる。

ただその行動に至った理由が知りたい。



「良いステップだ」「ありがとうございます。ご主人様」



踊ってる。

家の外に出たら、ダンさんとジュリアさんは踊っていた。

社交ダンスみたいなやつを。

上品で、優雅で、…あのジュリアさんの表情が柔らかい。

ダンさんとそれ以外で対応の差が大きい…。


しばらく2人で踊っていた。

ダンさんが鼻歌も入れて盛り上がってくると…彼は1人で踊り始めた。

取り返した傘を振り回し、スタイリッシュに舞う。

革靴の地面を蹴ったり擦ったりする音まで気持ちいい。



「それっ」


傘をジュリアさんに投げ渡し、彼の足が加速した。

タップダンスのようだ。靴も床も専用のそれではないから、音に関しては何も言えないが…踊り自体はすごい。


最後にクルッと一回転して決めポーズ。


僕達3人の拍手を浴びて満足したようで。



「ありがとう。ありがとう。…ところで、その女の子は?」


ようやく本題だ。


「今からこの子の家に向かおうと思ってます。どうやら、子供達が盗みをしていたのは悪意というより生存するため…だったみたいなんです」


「詳しく聞こうか」



女の子が何が起きたのかを話してくれた。

前は仲の良い家族で、喧嘩することはまずなかった。

それが、去年のクリスマスに変わってしまった。


……家にサンタさんが来たのだ。


ただ、絵本で見たような優しい印象は皆無で。肌は茶色くてしわくちゃ。太ってなくて変な臭いがした。


そして両親にプレゼントを渡した…中身は分からなかったが、箱の中に両親が顔を埋めると……


「次に見た時には2人とも目の色が変わって豹変したと」


「それからそのサンタさんはどこに行ったのか…分かりますか?」


「ううん…」


その日のうちに、女の子は両親に叩かれた。

なぜまだ起きているのか。なぜ歯を磨くのか。なぜ歯を磨かないのか。なぜ着替えようとするのか。なぜ着替えないのか。なぜ寝ようとするのか。なぜ、なぜ、なぜ、


いちいち叩かれた。しかも、ひとつの行動に対して"なぜするのか"……"なぜしないのか"…。


「おかしいです」


「意味がわからない。病気でもなさそうだ」


女の子は朝を待たずして家を抜けて逃げ出した。

パジャマ姿で寒い夜の中を歩いていると同じ格好の子供達と出会ったそうだ。


全員、家にサンタさんが来たらしい。


「そして親も変わってしまった…か」


「代行が関わってる以外に可能性はありませんよね」


ダンさんは頷くと、恐る恐る女の子に手を伸ばし…


「1年。よく頑張った」


頭を撫でた。


「私達に任せてくれ。必ず君達の親を元に戻してみせるよ」


「ダンさんも協力してくれるんですね!心強いです!」


「では、行くとしよう」





………………………………next…→……





女の子の家は隣町にあるマンションだった。


「やだ。いきたくない…」



マンションの前まで来たところで女の子は怖がってしまった。



「君。その子を頼む。私達が見てくるから近くで待っていてくれたまえ」


「はい。お願いします」


部屋番号だけ聞くと2人は正面…ではなく裏に回っていった。


ぐぅるるぅ…


「あ…」


「お腹空いてるんですか?」


子供とは思えない腹の鳴り方だった。

…あんな生活をしていたなら、ある意味当然かもしれないが。



歩いて1分もしない場所にパン屋さんがあったので2人で入店。



「いらっしゃいませー!」



女の子は様々なパンを見て目を輝かせている。


「どれが食べたいですか?」


「いいの?」


「はい」


……財布を確認。大丈夫。大丈夫。



店内を見て回り、2人で3個のパンを買った。


女の子が選んだのはチキングラタンパン、フルストロベリー。

どちらもガッツリしている。

特に、フルストロベリーとかいうパンは赤みがかった薄いパンにいちごジャム、ストロベリームース、いちごクリーム、スライスしたいちご…これでもかといちごが使われている。1個で398円だ。



「いただきます」


「どうぞ」


店内に飲食スペースがあったのでそこで食べることに。


「…っ、おいひぃ…!」


何度もパンに食らいつき、頬が膨らんでいく。

ギリギリまで口の中に詰め込んでから咀嚼を始めて…幸せそうだ。


「それじゃあ僕も」


連れがいる時にお店で1人で食べるとなるとちょっと…。と思う人は少なくない。それはきっと子供でも同じだ。

なので適当に面白そうなパンを買ってみた。


ミラクルぱん…1個120円。


普通の丸いパンだ。見た目は。

中は食べてみないとわからない仕様になっている。


…ひと口。


「………?」


「お兄ちゃん、どうしたの?おいしくないの?」


「いや、そんなことは…」


店員さんの目の前でそんなこと…でも、なんというか、


「からい」


パンを半分に割ってみた。テレビで肉まんを割って見せるように。


……真っ赤だ。唐辛子的なものが…大量に。


僕の反応を見て店員さんが飛んできた。


「あ、お客様。大当たりです!」


「ほへ?」


「そちらは"ミラクルホット"となっております」


いや、ハズレだろう。

子供の前だから大げさに反応しないようにしているが、歯茎にまで辛さが染みていく。

口内全体が地獄だ。


「唐辛子の世界ランキング、というのがございまして。そのランキング上位の唐辛子がほんの少しだけ使われています」


「…それって食べて平気なやつなんですか…?」


「安全の範囲内で使用しております。少々お待ちください」


店員さんは僕達にパックの牛乳をくれた。


「こちらはサービスです」


「あ、ありがとうございます…」


「ありがとうございます」


1個180ml…それしか入ってないのか…!

正直このパンをもう食べたいとは思わない。

食べ物を残すのはよくないが、これは…これは、食べ物なのだろうか。


ストローを差し込み、辛さを和らげるべく吸い上げる。

冷たい牛乳が口の中に広がって…あれ…なんでだろう…全然


「んっ…」


しゃっくり。


「お兄ちゃん?」


「大丈夫です。それを食べ終えたら出ましょう。ダンさん達の帰りを待たないと」


いよいよ唇に腫れを感じてきたところで退店。

…あれを完食していたら。もしかしたら入院することになっていたかもしれない。



マンションの前に戻ると、ちょうどダンさん達も戻ってきた。


「おや?顔色が悪いように見える…」


「気にしないでください…!それより、中はどうなってましたか?」


「そのことだけど、想像していたより厳しい状況だったよ」


「そうなんですか…?」


「呼び鈴を押したら夫が包丁を持って出迎えてくれてね。ハロウィンだったなら可愛い行為に思えたが…」


「……」


「ジュリアが2人を大人しくさせた。もちろん怪我はさせていないとも。安心したまえ」


「どうすればいいんでしょうか…」


「この件については私達に任せてもらえないだろうか」


「…え?」


「君がどれだけ戦えるのかは知らない。でも、君は元々用事があって外出していたのでは?」


「……たしかに」


延長コードを買いに出たはずだ。

でも、残金で買えるかどうかが怪しいし…今この子を置いて帰れるわけがない。


「ここまでの短い時間で見てきたと思うが、私には"便利"な創造が可能だ。ジュリアもそう簡単に敗北しないだろう」


つまり、僕は不要…。


「何より、あまり手の内を見せてしまうのはよくないと思ってね」


「え?」


「私にその気がなくても、手の内を知った君の気が変わる可能性は?」


「……対策したら勝てる…ようには見えません」


「それは嬉しい言葉だ。特にジュリアにとっては」「はい、ご主人様」


「それにこの子も放っておけないです」


「その子だけではないだろう?窃盗団の子供達全員が同じ体験をしている。問題が解決するまで、悪さをしないように世話役も必要だ。君は私達ほど暇じゃないはず。違うかな?」


「…いや、その…」


「約束しよう。子供窃盗団は私が救おう。そして、解決したら君に知らせる」


「………」


「…お兄ちゃん、なんでそのパン食べないの?」


「え。あ、いや、こ、これは」


「美味しそうだ。ひと口もらっても?」


「これをですか!?」


なぜこのタイミングで。


食べかけで持ち帰ることにした激辛パンをダンさんが僕の手から優しく奪い取った。


「どれどれ…この香り…スパイシーな味を期待しよう」


「やめた方が…!」


阻止…できなかった。


手でちぎって…大きめなそれを口の中に。


「ダン…さん?」


「おぉ…美味だ」


「は?」


「素晴らしい。ここまで痛覚を刺激してくれるのか。なのにまた食べたいと思わせる旨み…!」


「そんな…うそだ…!」


「君には刺激が強かったのかな」


「…それ、刺激物の塊ですよね?」


「いやいや。よく考えられている。このパンはどこで?」


「……あそこです」


「そうか。ジュリア、これと同じものを」「はい。ご主人様」


「………」





あまりにショックで、僕はいつの間にか帰宅を選んでいた。


女の子をあのまま任せてよかったのか…とは思うが、ダンさんの言っていた通りでまだ他にも被害を受けた子供達がいる。

全員の面倒を見るだけの経済的余裕は…。



「ダンさん、辛いのが好きなのかな……あ」


隣町まで来たおかげか。

テレビで度々紹介される激安価格の雑貨屋を見つけた。

この雑貨屋は都内に数店舗ある。本店ではこたつ一式が2000円で揃ってしまうなど価格破壊のような大盤振る舞いが…


「延長コード…!!」


店の入り口に配置されたカゴに山ほど入っている。

コードは2mまで延長可能で長さを調節することも出来る。

しかも4口…埃の侵入を防ぐ加工まで…!

他にも色々と機能が盛り込まれ、その価格は


「198円…!!」


驚くのは価格だけではない。

売られている商品の質の高さ。大手メーカーの似たような商品と比べても全く劣らない。



迷わず購入した。

ついつい、レジ横に並べてあった小分けのチョコレートも。

通常1粒30円ほど…それが1粒10円。

…やり過ぎだ…もっと家の近くにあったなら僕はこの店に入り浸っているだろう…。



少額の買い物で満足し、チョコレートを食べた。



「…甘い…」


あのパンの辛さをチョコレートが優しく上書きしていく。





………………………………next…→……






「ただいま…」



「おかえり。遅かったね」


「凪咲さん。読書してたんですか?」


「帰りが遅かったから。もう少し待って帰ってこなかったら探しに行こうかなって」


「心配かけてすみません。延長コードは無事買えました」


「…そう」


「それ、ソープが出てくる…」


「うん。これすごいね。ソープはどうしても魚の缶詰が欲しかったってだけなのに、どういうわけか銀行強盗が捕まってる」


「その後の話はもっとすごいんですよ」


「…真」


「はい」


「心配したよ」


読んでいた本を置いて僕をまっすぐ見ている。


「ごめんなさい…連絡すればよかったですね」


「うん。してほしかった」


「実は…色々あってダンさんと一緒にいました」


「ダンさんって」


「あのダンさんです」


「どうして?」


「とりあえず部屋着に着替えても…いいですか?」




その後、食事をしながら何があったのかを報告した。



「子供達が…かわいそう…」


「ですよね。しかも1年、子供達だけで生き抜いてたなんて」


「任せてよかったのかな…」


「ダンさんの方が向いているとは思います。何かしてあげたい気持ちはありますけど」


「…そっか……ねぇ。レベル2ってどうやったらなれるの?」


「え?」


「どうすごいのかは分かったけど」


「……」


「でも聞いても教えてくれるか分からないよね。それが出来るかもわからないし」


「すみません」


「ふふっ。謝らなくていいよ」


「……」


「まだ強くなれるってことでしょ?」


「はい…」


「私はもっと真の力になれる」


「………」


「どうかした?」


「あの。いいですか?」


「うん」




「やっぱり、ダンさんに協力しませんか」





「ニャ…ニャッ!」


なぜか、ソープがいつもより激しくおもちゃで遊んでいた。





………………………to be continued…→…


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