第4話「初めて」
「チッ」
赤髪の彼女の舌打ち。
それを見て「最っ高!!」と声を上げてその場でくるくる回って喜びはじめる。
「…"本持ち"だから?腕1本でも満足度がこんなに違う!」
「能力付与っていうより魔改造型か」
「ぜーんぶ食べたら何年分お腹いっぱいに出来んの!?」
「両手を切り落とせば無力か…?顔についてる口にも同じ能力があるのか…?」
会話にはなっていない。
互いに一方的に声を発している。
ひとりごとをぶつけあっている。
……ただ、2人とも僕のことを気にしていない様子。
とある子供向けの小説をふと思い出した。
気が弱い主人公が学校のトイレでいじめっ子に追い詰められたところ、別のいじめっ子も登場。
圧倒的ピンチな場面で主人公はひと言だけ嘘をついた。
それによりいじめっ子達は仲間割れして、隙をついて主人公は逃げ出し大声で先生に助けを求める…。
この主人公は、後に同じ作者の大人向けサスペンス小説にも登場する。
その後いじめられないために目立たない生き方を選んだ結果、ついには人に気づかれなくなった。
今度はそれに耐えられなくなって、再び隙をついて…
「次は足!やり返してやる!」
「いっそのこと頭ぶっ潰してやる」
…出来る。
僕の目の前の2人は、もう互いのことに集中している。
ならば、この隙に。
「同じように割れたガラスで!ぐしゃぐしゃにしてやる!」
「1発。…1発で"決めろ"」
僕が動き出したのを赤髪の彼女が気づいた。
決めるではなく決めろと言った。
しかしその違和感丸出しの発言に相手は気づくことはなかった。
「やば。よだれ出てきた」
「やれるもんならやってみろ」
「やるよ?今…今から食べる!」
僕には戦闘技術はもちろん特別な力があるわけでもない。
だから、足音を消したりなんかは出来ない。
なるべく静かに歩いても、靴底が擦れる音は聞こえてしまう。
なのに全く気づかれないまま背後に立てた。
「んきいいいいいい!」
相手がやる気をアピールする。
その時、
「あれ、なーんだ?」
赤髪の彼女が背後の僕を指さした。
「は?」
「展開!!」
振り向きに合わせてアイアン・カードを投げた。
子供の時、テレビで手品師がトランプを上手に投げる方法をレクチャーしていたのを見て、夢中で練習していた時期があった。
最終的に手本を無視して自己流になったが。
カードは無回転でまっすぐ飛び、その形を変える。
先端は縫い針並に細く鋭く、そこから徐々に太くなる。
刺さりやすいし、勢いのまま突き刺さればそのまま致命傷になる。
長さは約1m。
……僕はその瞬間を見た。
振り向いて、後ろを取られていたことに気づいて、驚きで開いた口の中に、変形したアイアン・カードが…
ガシュ。
あの姿を見たら、しばらく焼き鳥などの串に刺さった料理を食べる時は箸で串から外して食べようと思うだろう。
そのまま倒れ、赤髪の彼女が確認する。
即死したようだ。
「なあ、車の中を調べてくれ。創造の書があるはずだ」
血で汚れたアイアン・カードを圧縮して回収し、言われるままに従う。
………初めて、僕は、初めて、人を……
行動に移ってから1分も経っていない。
短時間で、人間の命を…。
運転席のドアを開ける。
わざとでも難しいほど手が震えていた。
車の中は薄暗い。
スマホのライトで照らす…つもりが、手が震えてまともに操作出来ない。
仕方なくそのまま調べることにした。
ポテトチップス、チョコレート、駄菓子…お菓子のゴミが散乱している。
それから、脱ぎ捨てられた服…汗臭い。
……創造の書は…無い。
「うぉぇっ…」
どうしたんだろう。
突然の嘔吐。
車内がさらに汚れ、臭う。
それに誘われさらに吐き出す。
何もかもが今更だ。
秀爺の生首を見た時から今日この瞬間まで、"グロい"瞬間をどれだけ見てきたのか。
初めて人を殺したという事実が僕に正しい反応を強制したのだろう。
「おーい。…おい、大丈夫か」
報告が遅いからか彼女が車内へ入ってきた。
背中を優しく撫でてくれるが止まらない。
なんなら、彼女は今片腕しかないのだ。
それを想像するだけでもまだまだ吐ける。
「…創造の書は無いか。ならあいつは使者だな」
「…うぉぇ…」
「蛇女が大蛇を出したのと同じ原理だ。使者に条件を設定し別の創造を書き足す。さっきの女は何もかも不明だが、…多分、今までに"食った分"太るように設定してたんだろ。最初にデブったのはどちらかと言えば相手の動きを知るための守りの創造。デブを解除すると本来の姿になって、"雑食"になる。…あの手についた口で噛みつけば捕食が成立して…」
「ごめんなさい…今は…うぉぇっ」
「車から出るぞ」
引っ張られて外へ。
…外の空気を吸うと少し楽にはなったが…。
「あの…腕は…」
「ああ、気にすんな。仇討ちには成功したんだし」
「……」
「よくやった。お前がやってくれなかったら、多分両腕無くなってただろうな!あっはっは!」
「……」
「一旦帰ろう。来るだろ?」
「…はい」
………………………………next…→……
てっきり、彼女の家に行くのだと思っていた。
ホームレス達が住むあの場所に戻ってきた。
ドラム缶の暖房をみんなで囲って。
「兄ちゃん、好きなの食いな。ありがとよ!頑張ってくれて」
おにぎり、弁当、菓子、つまみ、ジュースにお酒。
コンビニで手に入るものが並べられ、ちょっとした宴会が始まった。
そんな気分ではないのでジュースだけもらって喉を潤した。
大人しくしていると、周りは酒が入ってどんどん賑やかになっていく。
「それで言いやがったんだよ、俺の家で一緒に暮らそうぜ!何ひとつ不自由な思いはさせないからって。でもお前ホームレスじゃねえかよってな!」
仲間同士で暴露話。酒の力というやつか。
「でもよぉ!俺は残念だよ!」
そこに雰囲気ごとぶった切った1人のホームレス。
「"ユウコさん"の腕が片っ方無くなったんだぞ!俺達はその両腕に何回助けてもらった?何回救われた?」
少しの間。
「俺も。もうガシガシ髪洗ってもらうことも出来ねえなぁ」
「だな…また抱きしめられてえって思っても…」
「お前ら俺を都合よく見すぎなんだよなー」
暗くなりそうになった雰囲気…しかしすぐ笑い声で掻き消される。
「…あの」
「ん、どうしたー?」
でも今のはそのまま流してはならない。
「…名前、ユウコさん…なんですか」
「そうだけど。…あれ?言ってなかったっけ?」
再び場が笑いに包まれる。
これだとつまらないダジャレでも大ウケしそうだ。
「天使 結子。よろしくな」
アマツカ ユウコ。
残された方の手と握手をした。
「なぁ、ちょっと2人で話そう」
そのまま結子さんに連れ出される。
なぜかホームレスの人達が「ヒューヒュー!」と少し古いからかい方をしてきた。
ブルーシートの住宅街を歩きながら、改めて僕も名乗った。
「へぇ。真か。…で、どうしたい?」
「え?」
「お前のパートナーだよ。使者を創造の書の中じゃなくて小説の中に戻したいんだろ?」
「あ…」
…忘れてたわけではない。
でも、先の戦いのせいで一時的に考えるのをやめていた。
僕の創造の書を結子さんに渡す…その代わりに、彼女が責任をもって凪咲さんを元の世界に戻してくれる。
「そ、そういえば、凪咲さんに借りがあるから1つだけ何でも創造の書について教えてもらえるんですよね…?」
「それも言ったな。そっちは決まってんのか?」
ここは、欲張るべきだ。さっきのことを考えたらいけると予想した。
「…さっきの使者との戦い。僕がいなかったら危なかったんじゃないでしょうか」
「……あっはっは!なるほどな。真、俺はお前にも貸しが出来たって言いたいのか」
「はい」
「なら2つ教えろってことだよな。会話の流れからして」
「お願いします」
結子さんは目を閉じて頷いた。
「……それじゃあ、まずは」
「ん」
もう少し質問を考える時間があったら聞きたいことだらけになっていただろう。
でも今はそこまででもない。
「同じ使者を、創造の書から何度も創造したり書き込んだり出来ますか?たとえば、危なくなったら創造の書の中に避難させて…後から戻す…みたいに」
「お前の求める感じだと半分半分だな。お前みたいに使者っていうよりパートナーを創造するとそういうことを考えるんだよなー。形式としては出来る。ただし、出たり入ったりする度に使者の状態はリセットされる。死にかけで戻せば新品みたいに元通りになるわけだが、記憶やら何やらも元通りになる。あ、やり方も聞くならそれで2つ分だからな」
「いえ。それは大丈夫です…では、次を…」
「おう」
「創造の書を、創造することは出来ますか」
最後まで言い切る直前、不快感があった。
…これは、いわゆる"殺気"というものだろうか。
………………………to be continued…→…




