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その境界の先  作者: nao 11
58/63

~始まりと終わり~ 4

 「チィッ!! 余裕かましやがって!!」

 「君にその力を与えたのは僕だ。ならば僕が使えない筈がないだろう」


 翼の推力を最大にして斬り掛かってもあっさりと受け止められる。どれだけ押してもそれ以上剣は進まず、奴が造り出した剣に傷すら付けられない。動きが止まったところに背後からシリウスがバンカーで突っ込む。しかしそれも片手で掴まれ、それ以上杭は先に進めない。俺の翼とシリウスのバンカーの噴射音だけが激しく響き続ける。


 「くそっ! 片手だと!?」

 「畜生がッ! 全然斬り込めねえ!!」

 「そのまま動くなよ小僧共!!」


 両腕が塞がったところへラウルが殴り掛かるが、カロンの鎧に翼が生え数メートル飛び上がってしまう。その翼は鎧の骨組に光が収束した様な羽を広げ、神々しさまで覚えてしまいそうな偉容だった。だがそんな見た目に怯んでいる場合じゃない。俺は飛び上がった奴を追って、再び翼に火を入れる。


 「逃がすかよッ!!」

 「飛べるのが貴様らだけの業だと思うな。“我らは嵐の如く(ストームルーラー)”!!」

 「そんな密度で捕えたつもりかい? 愚かな」

 「どうわっ!? 巻き込まれる!」


 全周囲に分身したアーロンがその姿を竜巻に変える。カロンはその竜巻の隙間を縫って包囲を抜け出したが、近くにまで迫っていた俺は暴風に耐えきれず一旦地上へ降り立った。衝突こそしなかったが、あの風をもろに受けては飛行なんて出来るわけがない。


 「おいテメェ! 範囲を考えろ範囲を!!」

 「いや、これでいい。あの網に入らなくてよかったな? 竜一」

 「ハァ? 何を言って……」


 文句を言っている途中で気付いた、カロンが抜けた先、そこに竜巻が隙間なく壁として並べられた檻が出来上がった。そしてその檻の前に、モルガンが翼の様に広がる紋章を背負って宙に佇んでいる。


 「……死ぬがよい。“震天大雷”」


 思わず目を逸らしてしまう程の閃光と、耳をつんざく爆音。竜巻で作られた檻の中に、巨大な雷が墜ちたのだ。あまりの事に周りは一瞬無音になり、全員が檻の中へ視線を送る。地表が焼け焦げた煙と竜巻が消え去ったその後に、僅かに焦げ跡が残った鎧で、カロンが宙に浮かんでいた。


 「ハッ! 流石の威力だね。まさかいきなり撃ってくるとは思わなかったな。……それでも足りないけど」

 「ならば嫌とも言えん程に喰らわせてやる。覚悟しろ」

 「いいねえ。お互いにまだまだ余裕だろ?」


 カロンが剣を振り下ろすと、その剣筋の延長線上の地面が切り裂かれた。それはクレバスの様に割れ、躱したモルガンもその様子に視線を釘付けにされている。


 「畜生! ビビッてられっかよ!!」

 「陛下、参ります」


 まるで陶酔する様にその場で揺らりと体を傾けるカロンに斬り掛かる。先にモルガンの雷を受けたおかげか、今度は突っ込む勢いで押すことが出来る。それでも武器を弾けないのは悔しいが。


 「落ちやがれ!!」

 「やるじゃないか。僕も負けないよ!!」


 完全に叩き落としたと思ったのに、奴は背中から落ちる寸前で足を地に着け、周りの地面にひび割れができる程の衝撃を受け止めて立っていた。剣がぶつかり削り合い、衝撃と圧力で構成している魔力が塵になって刃が欠けてしまう。だがそんなことも構わずに押し続ける。攻勢の機会を与えては個々の実力差で撃破は難しい。だからかわるがわる全力で攻め続けて殺し切るしか勝機は無い。


 「まだまだ足りないよ? そらッ!!」

 「ぐおおっ! 持っていかれる!?」

 「その隙は逃さんぞ!!!」


 剣を振り払われ吹き飛ばされた俺に代わり、今度はシリウスが突っ込んで行くのが見える。剣を払って空いた右の脇腹に向かってフルブーストのパイルバンカーをぶち込んだ。六回の衝撃音が鳴り、最後の一回で奴を大きく吹き飛ばした。更にその先で、ラウルが拳を構えて待ち構える。正拳突きでカロンを止め、凄まじい拳の連打連打連打で殴りながら弾き飛ばす。衝撃が体を貫通し延長線上の地面を抉り、追い打ちで一気に懐に飛び込みアッパーを打ち込んだ。


 「覇を唱えるは我が拳也!! “覇王豪拳墜”!!!」

 「その結晶を墓標にしてやる。“震天大雷”!!!」


 上空へ飛ばされたカロンをマギナイト兵装の拳が地表から追い討つ。更に上空にも拳が造り出され、奴を二つの拳が挟み撃ちにした。衝突した勢いで兵装は結晶の様に崩れ、その一撃の為だけに叩き込んだことを示している。ガラガラと降り積もる結晶に埋もれ、カロンは動きを止めた。そのチャンスを逃さないと言わんばかりにモルガンが雷を降らせる。再び襲った爆音と閃光に顔を背け、一体どうなったのか視線を向ける。


 「おお! 見事な連携ではないか」

 「奴を倒す為だ。気くらいは遣ってやる」

 「……お前ら二人の決闘とか周りが滅びそうだな」


 人間と魔族の戦争があった当時からは想像もできない光景だろうが、この二人が共闘してくれるというのはこれ以上なく心強い。恐らく夢の連携であっただろう猛攻を受けたカロンは、流石にふらつきながら立ち上がる。全身の鎧は傷と断裂が現れ、焦げた跡もまた全身に広がっている。光の翼は消え、片羽は骨組も壊れていた。


 「……ククク、ハハハハハハハハハ!!!! 付け上がるなよ有象無象がァ!!!!!」


 傷つき砕ける寸前だったカロンを再び闇が呑み込む。赤黒い闇が弾け飛んだその後には、傷と断裂が直っているが、その色が純白から変貌しまるで血と錆に塗れた異様な姿で佇んでいた。腕を振ると大鎌が現れ、風を斬る音と共に闇を撒き散らす。


 「正直ここまでの力があるとは思ってなかったよ。この僕に本気を振るわせる最高の賛辞を抱いて死ね!!!!」

 「ぐおあああ!! くそッ、火が!!!」


 鎌を持っていない左手を握りしめると、俺達の周りで爆発が起きた。しかも舐める様に炎が貼り付き、体が焼かれ続ける。距離を取って何とか火を振り払う。他の奴らも同様に火を払い、再び攻勢に出る為に構え直していた。しかしそこに追い打ちが掛かる。奴が先程と同じく左手を握りしめたかと思えば、今度は急激に体が凍りついた。四肢から胴体まで氷が伸び、動くことができない。


 「だああ!! 今度は動けねえ!!!」

 「氷だと!? どの系統の魔法も自在なのか!!」

 「神に逆らった報いを受けろ」


 必死に体を動かそうともがくが、氷は割れず縫い留め続ける。更に振るわれた大鎌から闇が波の様に広がり、ラウルに殴られた時よりも凄まじい威力で衝撃が叩き付けられた。その破壊力で氷は砕けたが、全身を激痛が襲って地面に転がる。立ち上がろうとしても腕が、足が悲鳴を上げて力が入らない。顔を上げるとあの場に居た全員が同じく地に伏していた。


 「畜生がッ、力が入らねえ……ッ」

 「ぐっ、これが奴の本気なのか……」

 「死ねんぞ。儂はまだ……ッ」

 「この私が…… 地を這うなど……」

 「陛下、ぐはっ……」


 倒れている俺達の中心に立ち、カロンは笑いながら告げる。


 「君達の魂はとびきりの一級品だ。それに君達が死ねば、遺された奴らも絶望して楽に喰えるだろう。その分で、この戦いの消費は賄うとするさ」


 奴が大鎌を真上に掲げる。その先にまた闇が集まり、恐ろしい量の魔力が収束しているのが俺でも分かった。そしてそれが叩き付けられれば、死ぬだろうということも。未だ蠢くしかできない俺を見て更に口角を吊り上げる。




 「さようなら。君は最高に楽しませてくれた、いい道化だったよ」


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