~始まりと終わり~ 2
「さて、骸の器は崩れたけれど、既に選定は終わった。こういうのを、大陸の言葉ではなんて言ったかな」
最後の一体にまで崩れ去った数多の亡骸。しかしその中にはまだ、体を奪い合い潰し合った魂が残っている。自我は消え、生きる者への憎しみだけがこびり付いた最後の妄念。
「ああ、蠱毒。だったね」
「む? ……どうやら終わりではないらしいぞ。気を抜くな!!」
「何? もう跡形もなく…… いや、最後の一体に仕込みがあったか。あの魔女め、どこまでも……」
「何だあれは……」
ラウル殿の声にその場の全員が怪物のいた方を見る。既に体は崩れ去り、何もかも終わったと、誰もが思っていただろう。だがその最後は違った。振り下ろされた剛腕は死体を圧し潰すことなく宙に静止している。元の体はウェアウルフ、崩された最後の一体が、その凄まじい一撃を両腕で受け止めていたのだ。目は真っ赤に光り瞳が見えず、体は真っ黒な霧の様な何かを零している。そして耳をつんざく雄叫びと共にその剛腕を弾き返した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
「こやつ、ただの生き残りではない様だ。来るぞ!!」
言葉と同時にその場に居た獣が消える。いや、正確には消えたのではなくとんでもない速度で移動したのだ。地面が爆発する様な爆音と少しの土煙を残し、小さな唸り声と共に鉤爪が襲い掛かる。
「ふん!! これ程の力を持っておったのか!?」
「そのまま捕まえておけ。私が仕留める!!」
ぶつかり合った衝撃で土煙と爆音が再び上がる。ラウル殿が自身の腕で鉤爪が切り裂く前に受け止め、眼前まで迫った獣を繋ぎ止めたのだ。どうやら予想以上の力を持っていた様だが、それでもその鉤爪を食い止めている。そうして動きが止まった獣にモルガン殿が雷を落とすも、直前で察知したのか再び凄まじい速度でその場から移動してしまった。
「チッ、勘の良い奴だ」
「今度は、私かッ!!」
飛び掛かってくる影を盾で防いで弾き返す。しかし払いのけた先を見やると、そこに既に影はなく、僅かな土煙が漂うだけだった。一撃を狙い攻撃を受ける前に次の獲物に移る。攻撃できないという点もだが、何よりその速度と力が厄介だ。盾で防ぐことはできたが、その衝撃はかなりのものであったし、あの速度で不意打ちでも喰らおうものなら致命傷は免れない。だから攻撃の瞬間に捉えたいのだが、
「ぬうん、儂の方に来んではないか」
「これは、明らかに狙いを絞っておるな。このッ!!」
今度はモルガン殿の前に現れたが、攻撃する暇もなく雷撃が落とされ直ぐに姿を消す。それで私も確信した。腕力で止められるラウル殿を避け、一方的に攻められる標的を選んでいるのだ。アーロン殿の前にも現れたが、瞬時に蹴り飛ばして攻撃を防いだために、その後の攻勢に出られずにいる。
「移動中を狙うか? いや、速すぎて当たっても軽傷にしか…… 陛下! そちらです!!」
「分かっておる! だが、捉えられん」
「今度は私か!? くそっ、バンカーを打ち込むには速すぎる!!」
皆負傷は避けているが、攻撃を加えることも出来ない。何ともしがたい状況に全員が手をこまねいていると、状況に動きがあった。それは予想だにしない最悪の流れだったが。
「おい! 周りの亡骸が、動いておるぞ!! 儂があれだけ砕いたというのに」
「まさか四肢があれば十分だとでも言うのか!? いかん、これはまずい!!」
状況を察したモルガン殿が攻撃を始める前にと先制で雷撃を見舞う。しかし既に殴られ焼かれたその体は、今更そんな攻撃がなんだと言わんばかりに跳躍を始める。手を焼いていた獣が増えた。その数は決して多くは無いが、膠着した状況を覆す敵にとっての一手。
(どうすればいい…… ここで死ぬ様ではこの盾の意味が無い。今度こそ、私は……)
「ふん、普通は魂の複製なんて出来ないんだけど、あれには記憶も自我も無いからね。これで決まったかな?」
そこまで進んだ展開に仕事が終わった様な感覚を覚えたが、それは間違いだった。空に赤い光が見える。夜明けが近づく薄闇の空を流星の様に切り裂いて飛ぶ。彼が来たのだ。その信念と怨讐を燃やし、炎を噴き上げ戦場に向かう。
「君が来たなら話が変わるな。さあ、その前座を片付けてくれ。竜一君」




