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その境界の先  作者: nao 11
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~生と死~ 5

「一先ずの危機は去ったようだね、竜一君」

目を開くとそこはカロンが佇む暗闇だった。体は俺のままだが、腕が元に戻っている。だが、手の甲に×印の切り傷があり、ぼんやりと赤く光っている。

「呪いと言ったろう? その傷は印さ。あの鎧は少しずつ君を飲み込んでいく、それが進行する程に力は強くなるけれどね」

「おい、これはどう使えばいいんだ? 乱用はしないとしても、いざという時に使えませんじゃ話にならねぇ」

さっき力を貰った時は無我夢中でどうやって使ったのか分からない。魔法とかならさっぱり分からんし、話が出来る内に使い方を聞いておきたかった。

「簡単な話さ。右手を握りしめて、傷に意識を集中するんだ。呪文も魔法陣も必要ない、簡単だろう? まぁ、戦う意志が無ければ使えないだろうけれどね」

相変わらず胡散臭い笑顔で、カロンは飄々と言う。今はこの内容を信じるしかないか。そう思ったところで周りが白んでくる。

「ふむ、そろそろ現実の君が眠りから覚める様だね。君の進む道は険しいものだろう。だが、それでもその道を選んだ君を、僕は応援しているよ」

その言葉を聞いたのを最後に、目の前は真っ白になった。



目が覚める。

目の前の天井に既視感がある。ここはエミリオの家の寝室か。

「……痛ぅ、体中が痛ぇ。一応生きてたのか」

上半身を起こしてみるが、今度は全身が痛い。右腕は元に戻り、体中に包帯が巻かれている。あの死にもの狂いの戦いが現実だったと身に染みて分かる。手当てに感謝しつつも、あれからこの村はどうなったのかを確認するために寝室を出てエントランスへ向かう。家を出ると、壊された家や倉庫を修理するために忙しなく働く男達と、白が基調のスーツの様な服を着た者達と話すエミリオの父親が居た。なにやら話し込んでいる様なのでしばらく待つと、話を終えた奇妙な者達は村を後にした。

「おお、目が覚めたのか。体中傷だらけだったから心配していたぞ」

「中々しんどいですけど、なんとか大丈夫です。あの後村はどうなったんですか?」

俺が気絶した後、夜明けと同時に怪物どもは逃げ帰ったらしい。時刻は昼を過ぎた頃で、村の男達は復旧作業に忙しいようだ。避難していた老人や女子供達も帰ってくることが出来たらしい。白スーツの連中は“騎士”といい、なんでもこの国で治安維持や魔物討伐を始め統治に関わる仕事をしているらしい。あの化け物が『騎士でもないくせに』と言っていたのは、魔物相手を担当してるのが騎士だからということか。

「村を救ってくれて本当に感謝する。本当なら、シーザー達を救ったエミリオにも伝えたかったのだがな。今後はこの村に騎士の護衛も入るとのことだ、この危機を脱したのは君とエミリオのおかげだ」

ぼんやり考えていると、予想外にストレートな感謝をされた。父親は穏やかな顔で俺を見詰めている。エミリオの姿がここにあるのだ、中身が俺だと分かっていても、エミリオに感謝を述べている様だった。



改めて荷物を整え、出発の準備をする。思いがけず死にかけたが、多くの死者が出るなんてことにならず本当によかった。荷物を背負い、いざ村を出ようとしたところで、避難していたであろうエミリオの幼馴染の少女に引き留められた。

「あの、村の為に、トロールと戦ったって聞いて……その、ありがとうございました。見ず知らずの私達の為に……なんてお礼を言ったらいいか……」

「ああ、いいんだ。俺が勝手にやったことだしな。誰かが殺されるかもしれないってのに知らん顔できる程アホじゃない。それだけだっただけさ」

何度も頭を下げる少女を少し戸惑いながらなだめる。自分が放っておけなかっただけなのだが、こんな風に感謝されると警察官の仕事を思い出す。自分にとっては仕事で、犯人を許せずに上の命令を無視することもあったが、それでも犯人を捕まえれば、感謝されることもあった。失ってしまったものが戻らないとしても、その元凶が捕まれば、被害者や遺族の方々は悲しくも安堵したような表情で、俺に感謝を伝えてくれた。あの銀髪女を追うだけが目的のはずだったが、感謝されれば、やっぱり嬉しいものだ。

「さて、日が暮れる前に途中の町に着いておきたいんでな、そろそろ行くよ」

「はい、あの、旅のご無事を祈ってます」

少女の言葉を背に、道を歩き出す。そういえば、

「そういえば、君の名前を聞いてなかったな。教えてくれるか?」

「私はソニアっていいます。あなたは?」

「俺の名前は秋山竜一。ソニア、辛いことも悲しいこともあるだろう、でも、負けるなよ」

我ながら語彙力の少なさに呆れるが、余計なことを言うよりはマシか。今度こそ歩みを進める、まだ見ぬ仇を追うために、見知らぬ世界での旅が始まった。まずは一番近い鉱山の町、パラニラだ。





「報告は以上です」

「死んだはずの少年が生き返り、トロールを倒したと。にわかには信じ難い話だが……」

「私も伝え聞いただけならそう思いますが、この目で確認した情報です。どう判断されますか?」

「ふむ……陛下はどのようにお考えでしょうか」

「……その小僧に一番近いのはパラニラのボルトか。もしこのバルカニアへ近づくのならば、そこでボルトに試させるとする」

薄暗い城の玉座の間、岩石を削り作ったとても豪奢とは言えないその座に、皇帝は腰掛けている。高貴さとはかけ離れた姿だが、その光景は見る者に畏敬の念を抱かせる。それほどに皇帝から放たれる威圧感と力は圧倒的な物だった。

「「御意にござります」」

皇帝からの言葉を賜り、二人の男は玉座の間を後にする。誰もいなくなった空間で、誰に語るでもなく、皇帝は一人呟く。


「ようやく始まる、この世界の救済が」


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