表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その境界の先  作者: nao 11
48/63

~他人と家族~ 2

 逃がしてしまった。ニーナ先輩からこの少年のことは聞いていたが、事情を知っているからと半端に情けを掛けたのが間違いだった。なまじ自分がストーラで関わっていたがために、もしかしたら説得の余地があるのではないかと迷ってしまった。結果は逃げられた上にドラゴンを連れ去られるという始末。


 「逃げられましたか…… いえ、今からでも追撃を」

 「た、隊長さん! これからピクシーを追うのか?」

 「ええ、誰にも気付かれずに城へ侵入できる敵を放置できません。しかもドラゴンを連れ去られました。今の奴らなら何をするか分かりません」

 「な、アジリオが何かされるのか!? ピクシーは一緒に暮らすって、育てるって……」

 「その育て方はどんなものでしょうか。例えば強制的に魔力を供給して急速に成長させる。その上で他の魔族に施している様な洗脳をかければ狂った魔竜の出来上がり、とかでしょうかね」


 敵を逃がした苛立ちもあって意地の悪い言い方になってしまった。嘘ではないが、もっと言い方があっただろう。その証拠に少年の顔色はみるみる青くなっていく。


 「……俺も行く。行ってピクシーを止めてみせる!」

 「君の事情は知っています。ですからそういった思いになることも理解できます。ですがそれは無謀です。行ったところで成す術無く死ぬだけでしょう」


 一番可能性の高い未来を告げる。今外で跋扈しているのは話ができるかもしれないピクシーだけではない、既に理性が崩壊した魔族が山程いるのだ。そんな場所に子供が入って安全に話が出来るはずもない。だがこの少年は青い顔ながらも強い目でこちらを見つめてくる。


 「危険なのは知ってる! でも俺が行かなきゃ駄目なんだ!!」

 「本当に死にますよ? 想いを言い残す時間も一目見る瞬間も与えられずに呆気なく殺されるかもしれないのです。だから君は……」

 「それでも行く!! 行かなきゃ俺は絶対に後悔する。だから行く、たとえ死んでも!!」

 「…………」


 この少年がこれほどの想いを持っているのは、正直考えていなかった。弱き者は守らなければならない。それが私の考えであり、騎士としての役目だ。その想いは最近の騒動で自分でも再認識したことだが、弱き者と言えど心が無いなどということは無いのだ。私には私の信念がある様に、この少年にはこの少年の譲れないものがあるということか。


 「しかし、君はお世辞にも戦えるとは言えません。強い想いがあるのは重々承知ですが、それこそ死んでしまっては意味が……」

 「それでも…… それでも…………」

 「お困りだね? ご両人」

 「「うわっ!?」」


 お互いに手詰まりかと沈黙しかけたところで思わぬ横槍が入る。それは医療部隊の隊長で大忙しのはずのニーナ先輩だった。いつの間に近づいていたのか全く気付かなかった、本当に心臓に悪い。


 「先輩、音も無く忍び寄るのは止めてください。あと医療部隊の仕事に追われてるんじゃないんですか?」

 「医療部隊と言えど人間だからね、ボクらにだって休憩はあるさ。まあその休憩時間にこんな事態が起きるとは思ってなかったけどね」

 「隊長さん、ピクシーがアジリオを……」

 「ああ、物陰から見ていたから把握してるよ。そしてクリスちゃんは追撃に、トニー君は彼女の説得に向かいたい。だが戦力としてトニー君は間違いなくお荷物だし、クリスちゃんだけで他の魔族を排除しながら彼女の場所まで護衛するのも難しい。そういう話だろう?」


 歯に衣着せず簡潔に先輩は説明する。だがそれは悪意など欠片もなく、事態を解決する為に余計な気遣いや時間を省くものだ。この人はそういう人だ。何が重要か、そしてそのためには何を優先すべきかをすぐに判断する。


 「そこでだ、ボクも同行しよう。君達を連れて来たのはボクだしね。アガレス隊長やボルト隊長に比べれば見劣りするだろうけど、ボクだってそれなりには戦える。クリスちゃんと彼女までの道を拓こう」

 「ホ、ホントか!? 隊長さん!」

 「先輩大丈夫ですか? 恐らく外の魔族を突破して進むことになりますが……」

 「いやー正直荒事は苦手だけどね。それでもここで踵を返して休憩に戻るなんて真似は出来ないよ。ま、なんとかなるとも!」


 腕組みしてからからと笑う先輩を見ていると先程までの深刻な空気が嘘の様に薄れていく。勝算は恐らくあるのだろう。もしも自分の力では及ばないと感じるならば、迷いなく“行くべきではない”と言い放つ人だ。これから追跡の手筈は整えなくてはならないが、そういえば私はニーナ先輩が“本気”で戦っているところを見たことが無い。先輩の兵装が鞭を模しているのは知っているが、所属が医療部隊なこともあり最前線に繰り出されることはまず無いのだ。


 「準備は念入りに、勝算は十分に。ボクは望む結果を勝ち取る戦いしかしないものさ」





 二人が死んだ。一人は己の力を過信して無策に突撃し、一人は突如現れたイレギュラーを前に成す術無く。だがそれは幸せなことかもしれない。二人が辿り着いた絶望は自らをこの世に繋ぎ止める想いではなく、世界を拒絶して取り残された残滓。だからレオンは喪った者を想い続けることに疲れ、ハワードはどれほど努力しても無慈悲に奪われることに開き直った。所詮は絶望と言っても、“諦めた”だけなのだから。でも私は違う。最後まで生き残り最後まで殺し、最期にあの方の為に死ぬ。


 「……どうしてなのかしら」

 「戻りましたか。その様子では説得できなかったようですが。竜を連れ帰っただけまだ良いと考えましょう」


 妖精が竜を連れ戻ってきた。本来私達にとっては羽虫の様に払われるだけの存在だが、この個体はミラ様が与えた少々珍しい力を持っている。そのため今回の襲撃に加えられたのだが、その働きはこの小さき存在にしては悪くない。それに免じて今回の行動は許したが、その結果はどちらでも構わないのだ。どうせ、皆死に絶える。


 「まだよ。まだトニーは分かっていないだけ、もう一度話をすればきっと分かってくれるわ」

 「……まあ、好きになさい。ただし足手まといは御免ですよ」


 もうこちらの話など耳に届いていない様子だ。それでもいい、要はどれだけ巻き込んで死んでくれるか、それだけなのだから。


 (私も準備しましょう。数多の血を吸い、狂い咲き、全てを死に沈めるために)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ