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その境界の先  作者: nao 11
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~停滞と成長~ 3

 竜一がこの敵を報せに行ったが、増援が期待できるかどうか。ここに一人侵入者がいるということは、他に侵入者がいても不思議ではないのだ。しかもこの実力から見るに、この男は四都市を制圧した大物の可能性が高い。つまり最悪の場合、実力者四人がこの街に侵入して動き始めているかもしれない。もしもそうなれば、とても一か所に集中させる戦力などありはしない。俺一人で仕留めなければ。

 「埒が明かんな。マギナイト兵装起動」

 「おっ隠し玉か。お友達は待たなくていいのか?」

 「お前を殺し切るのに助力は不要」

 「言ってくれるねえ……!!」

 翼に魔力を入れろ。一気に飛び上がり街の上空へ。俺の狩場に引き入れろ。奴は暗幕を広げた様な黒い闇を翼にして同じく飛び上がる。こうすれば街中で大暴れされることは無くなるか。

 「空中なら音を立てずに動くことなど出来ぬ」

 「いいな、この方がスカッとする。真正面から殺す方が、殺した実感が大きいしな!!」

 闇の翼を羽ばたかせ、黒い粒子を噴き出しながら突撃してくる。ここからは普段しない真っ向勝負だ。こんな戦い方を思いついたのは、あの小僧のせいかもな。

 「光刃翼展開、交喙の型」

 こちらも正面に突っ込み体を捻って短剣の刺突を躱す。距離が開けばこの戦法が活きてくる。翼の粒子をレーザーに変えて奴を追尾させるが、速度を落とさずに振り切られてしまう。もう少し追尾の精度を上げたいところだが、いかんせん思い付いてから実戦投入までの期間が短すぎて練度が足りない。さて、奴はどうでるか。

 「まだまだ手がありそうだな! いいぜいいぜ、こっちも本気で行くか!!」

 短剣を懐に直し、両手を広げ奴が吼える。今度は闇が長い爪になって固まった。威力の程は分からんが、リーチは間違いなく伸びている。加えて防御を捨てたであろうその姿は、攻撃に特化しているだろう。一度捕まればどうなるか。



 ここまで来れば多少は面白い奴に会えるだろうと思っていたが、最初から大当たりだな。最後に行き着くところは同じでも、そこまでのプロセスは楽しみたい。皆殺しは皆殺しでも、確かな力を持った奴を更に上回る力で潰す。結局人間は最後に自分の事を最優先にする。“自分だけは大丈夫”、そんな甘い考えが砕かられた時の表情が堪らない。あの時自分達の事しか考えずに最悪の選択をした馬鹿共と同じ様に、この世界に生きるモノを殺し尽くす。爪に、翼に、目に憤怒を込めろ。煮え滾る呪いで切り刻め!!

 「ヒャハハハハハハ!! 戦え! 食いしばれ! そして死ねェ!!」

 「くっ、最早魔物以下だな」

 「好きに言えや、元々人間なんて最低の生き物なんだよ!!!」

 魔力による強化なのか、奴の装束は文字通りの布といった訳ではなくかなりの強度が付与されている。だがそんなものは関係ない。切り裂けないなら削り落とすまで、更に飛び回る速度を上げて爪を振る。防御はされているが手応えは確かなものだ。奴の翼からレーザーが撃たれ続けるが、数は少なく避けることは容易い。このままその翼を斬り落としてやる。


 「お前も! 下のガキや女も! わらわらといる魔族も! 全員死ねばいい!!」

 「何がお前を魔物に変えた? 魔族か、それとも人間か」

 「両方だ!! 知らねえ他人の為に戦うことを強制されて、挙句自分の家族は呆気なく殺された! 街の重要性、要人の保護、そんな下らねえ理由で妻も娘も死んだんだ!! 下らねえ、下らねえ下らねえ下らねえ!!! 人間も、魔族も、全員殺す! それでやっと俺は死ねる。もうこんな世界で生きるのも、のうのうと生きている奴らを見るのもうんざりなんだよ!!!」

 「哀れな怪物よ、同じ復讐でもこれほど違うものか」

 「あのクソガキのことか、それこそ下らねえ!! 復讐すると決めておいて人間面してるなんて半端過ぎるんだよ! 情けも常識も捨てる、誰かを殺すと決めたなら血塗れになる覚悟が必要だ!」

 「だが奴はその血塗れの手で誰かを救えることも知っている。それが貴様と竜一、悪鬼と人間の違いだ」

 「悪鬼で上等!! ここはもう地獄の底なんだよ!!!」

 右手の爪を巨大な一本にまとめる。そろそろぶった切って終わりにしてやる。そして、マリーとウェンディがいないこの世界もすぐに終わらせる。何をしたって二人は帰ってこない。ならこの世界ごと終わらせる。それで、漸く楽になれる。

 「愚か者よ…… 啄木鳥の型」



 大剣にも見えるその爪を振りかぶり、眼前の悪鬼は必殺の一撃を叩き込もうと飛び込んでくる。敵を殺せると踏んで突撃するのは最後の一手にせねばならない。その瞬間、歓喜に歪んだ顔には防御や回避のなど微塵も入り込まないからだ。

 「がっ、テメェ……ッ!!」

 動きを止めて奴を正面に捉え、広げた光刃翼から無数の針を前方に展開する。飛び込んできた勢いで全身に突き刺せば苦痛に呻きを上げるが、止めとまではいかない。だが動きを止めるには十分だ。

 「例え怒りに身を焦がしても、越えてはならん人としての境界がある。貴様は何人の“貴様とその家族”を生み出した」

 「くそっ、まだだ! まだ俺はァ!!」

 「いや終わりだ。終の型、百舌」

 先に放っていた多数のレーザー、その全てを地上の一点に集約し巨大な杭を造りだす。始めから直接当てる必要などない、全てはこの一撃の為の布石。動きの止まった悪鬼を抱え、地上へ向けて一気に急降下する。

 「地獄があるのならば、その罪に押し潰されるがいい」

 「があああああああああああああああッッッ!!!」

 落下の速度をそのままに活かし投げた体は、背中から胸を貫かれ絶命した。目は虚空を見続け、断末魔の叫びが途絶える。するとその体は赤黒い炎に包まれ、やがて何も残さずに燃え尽きた。それはまるで、焦がし続けた奴の憤怒が漸く燃え尽きた様だった。

 「勝つには勝ったが、消耗が大き過ぎるな。しばらく暇を頂きたいものだ」

 上空から城壁の内部まで戻り息を吐く。立ち眩みと眠気が同時に襲ってくるかの様な強烈な怠さに頭を振って、座り込んでしまいたい足に力を込めて歩く。このまま部屋で休みたいが、その前に報告はせねば。恐らく都市を落としていたであろう四人の内一名を倒したと。だが一つの気がかりがあった。あの戦いを報せると言って姿を消した人間が。

 「…… しかし、竜一はどうしたのだ?」




 一つの灯が消えた。それはいずれ至る過程の一つであり、さして騒ぐ程のことでもない。しかしもう一つ、今にも消えてしまいそうな灯がある。

 「レオンが倒れましたか、まあそんなものでしょうね。半ば疲弊している魂ではあの程度がいいところでしょうか。しかし、竜一君の方はちょっと問題ですね。今の段階で形になるかどうか。まぁ焚き付けてみましょうか」

 久しぶりにこの姿から戻る。既に廃墟となったこの街では人目を気にすることもない。白髪黒目で中肉中背、この世界で礼服になるのは随分と久しぶりだ。もうこの姿に意味は無いが、彼の前ではこの姿でなければ意味が無い。

 「では、迎えに行くとしよう」


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