表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その境界の先  作者: nao 11
41/63

~献身と欲望~ 4

 (魔族を送還するために一時的に近づくとこはあるだろう。だが、人間を殺すことなどありえない! しかし、百舌が嘘の報告をしたとも思えない。なら、一体何があったのだ……)

 先程からずっと同じ事が頭の中を回り続ける。あの姉さんが、街一つを滅ぼす魔女な筈がない。なら目撃されたのは誰なのか。どちらにせよ自分の目で見なければ判断はできないし、これ以上犠牲を出すわけにはいかない。

 「姉さん、本当に姉さんなのか…… うわっ!?」

 「やっと、追いつきました……」

 突然目の前に現れたぬいぐるみに思わず変な声を出してしまう。掛けられた声に振り返ると、そこには少し息を荒くしたアニタが立っていた。

 「呼びかけても、どんどん進んでいくから、ジャックで止めたんです」

 「そ、そうだったのか、それはすまん。それで、何か用か?」

 「マギナイト兵装のことです。パーツはあるのでどう組み上げるかってだけなんですが、シリウスさんの希望を取り入れたいと思いまして」

 「私の希望……」

 皇帝の拳を受けて容易く破壊された私の兵装。誰かを守りたいなどと言っておきながら、自分の身すら守れずに、その上囮くらいに考えていた少年に救われたあの戦い。まだ迷いを抱えたままで、以前の様な兵装を扱えるかどうか。

 「……あの盾だが、正直上手く扱えるか不安なんだ。皇帝には『お前の戦いは自分の為だけのもの』だと言われてな。私は否定できずにあっさりと殴られてしまったよ。私がまだ折れずに上手く扱えれば、皇帝の拳も防げたかもしれない。そう思うと、私には何があるのだろうと思ってしまうんだ」

 「……自分の為、それ以外の理由がある人なんているんですか?」

 「え?」

 「誰かの為、なんて言ってもそれが望まれてるかどうかなんて分かりません。ならどんな理由であっても、それは自分で選んだ自分の道なんです。選ぶ道を他人の責任には、私はしたくありません」

 その言葉に私はとても驚いた。以前のアニタは、お世辞にも気力に溢れる人間ではなかった。表情はいつも暗く、研究に手を抜くことは無いが、その有様は見ている人間をとても不安にさせる。だがここにいるアニタはどうだ。真っ直ぐに私を見詰め、自分の選択を自分の責任だと言い切るその姿は、私なんぞよりよっぽど立派ではないか。

 「……すまん、正直驚いてな。お前は強いな」

 「いえ、私もとある人の受け売りで。でも、そんな風になりたいって思いまして」

 少し顔を赤らめて俯く姿は、見た目通りの少女のものだ。だがその心は強く成長している。足を止めずに前に進んでいる。だからこうして私は、背丈では勝っていても彼女はとても大きく見えるのだろう。ならば私も、ただ塞ぎ込んでいるなんて姿は見せられない。私も私の責任で、私の理由で闘うのだ。誰かの為であってもそれは自分の願い、その事実から逃げてはいけない。

 「兵装の件だが、以前の物より一回り大きくできるか? 盾もバンカーも。出来れば推進装置も付けて欲しい」

 「多分大丈夫です。でも、いいんですか? 相当な暴れん坊になりますけど……」

 「ああ、今度こそ使いこなして見せる。いつまでも躓いたままなんて格好がつかないからな」

 「分かりました。明日の朝には仕上げますので、楽しみにしておいてください」

 アニタはくるりと踵を返し、自分の研究室に戻って行った。アニタの仕事なら本当に注文通りの暴れん坊が出来上がるだろう。だがそれに負けてはいけない。今度こそ、私は自分の意志で、願いで闘うのだ。例え姉さんが躊躇いなく人を殺す魔物になっていたとしても、全てを救いたいと旅立ったあの日の姉さんに、人々を守る為に戦っていると胸を張って言える様に。




 「急げ急げ急げ!! このままじゃ間に合わなくなる!!!」

 「そんなこと言われずとも分かっている! 貴様を連れていなければもっと早く飛べるわ!!」

 猛禽の翼を広げ飛ぶアーロンについつい急かす言葉を掛けてしまう。だが状況が状況なのだ。ガトー達の住処を離れしばらく歩いた頃、遠く離れた地平線を塗っていく影が見えた。俺の目にはそれが何なのか分からなかったが、アーロンにはそれが見えたらしい。多種多様、様々な種族が入り乱れ、一心不乱にこちらに向かっているという。それは一番恐れていた、狂戦士達の大攻勢だ。今はまだ距離があるが、その津波がバルカニアまで押し寄せるのは時間の問題だろう。

 「城外で一度陛下に報告をする。貴様はその間に城に駆け込め」

 「ああ分かってる。お前らも間違えて攻撃されない様に目立つ行動はするなよ」

 俺を抱えているせいで飛び辛そうだが、それでも歩いて目的地を目指すより何倍も速い。本当は俺も飛べれば速いのだが、魔力を使い切っているのかコネクトが反応しない。ただでさえ全身が痛いのにこれでは正にお荷物だ。心苦しいが、今はアーロンに頼る他ない。そんなもやもやを抱えたまましばしの間身を任せる。焦燥感に冷や汗が止まらず、掛けたくなる声をぐっと我慢し続け、長い長い体感時間の末にようやくバルカニアの姿が見えてきた。その瞬間、アーロンはぐいっと進行方向を変えて地面に近づいて行く。

 「どわっ! いきなりなんだ!?」

 「言っただろう、先に陛下と合流する」

 地面すれすれを滑空し、茂みを抜けた先にモルガンが居た。激突前に手を放し、全身でブレーキを掛けてなんとか無事に着陸した。モルガンは少し暗い様な、しかし絶望とはまた違う様な、そんな複雑な表情で佇んでいる。

 「陛下、お待たせ致しました」

 「うむ、しかし戦況は悪くなっておる。このバルカニアの東西南北に存在する都市、それがあの魔女共に落とされた。恐らく街の人間は全滅か、敵に手中にある」

 「な、先に街を襲ってやがったのかよ!!」

 行動が早すぎる、いや俺の感覚が暢気過ぎたのか。あれだけの大軍勢を動かして、尚且つ先に街も制圧しているとは。四方を囲まれ、その上で押し潰すつもりなのだろうか。そうだとしたら尚の事早く伝えなければ。

 「くそっ…… 悪い、俺は城に行って情報を伝えてくる」

 「待て、話を最後まで聞くのだ。四つの街が敵の手に落ちたことは奴らの斥候が調査し連中も知っておる。潰される前に攻めるだろうと思い、私が先に話をしてきた」

 「なんと、陛下が自ら……」

 「そうか、なら今迫っている大軍勢も知ってるのか? かなりの数だったが」

 「何、今迫っているだと? もう姿を見たのか?」

 「地平線の先だがな、とんでもない数だ。あれを見たから俺達は急いで来たんだ」

 俺の言葉を聞いてモルガンの表情は明らかに曇る。正に厄介な問題が山積していくのを見た様な顔をしている。

 「間髪入れずに送り込んできたか。竜一、先程とは状況が変わった。再度奴らにこの情報を渡しに行くぞ。アーロン、のんびり歩かせる暇もない。お前が飛んで連れてゆけ」

 「はっ、今すぐに」

 「ああ分かった。お前も城内に来てくれよ」

 「私だけなら転移で行ける。先に行くぞ」

 一瞬の雷光に包まれ、モルガンは衝撃と共に姿を消した。それに続いてアーロンも高く飛ぶ。再びその足に掴まり、スピードもそのままに城のバルコニーに突撃する。室内で上手く踏ん張れずにごろごろと転がってしまうが、そうして辿り着いた部屋の先には、ラウルとアガレスが目を丸くしてこちらを見ていた。そしてすぐ傍にモルガンが現れる。妙な光景を見られたのは少々気まずいが、連絡すべきトップがいるのは都合がいい。

 「いきなりすまん! アミナの方向から魔族の大軍勢だ! まだ地平線に見えるくらいの距離だが、数はとんでもない」

 「なんだと!? いくらなんでも侵攻が早すぎる! それなら一度全戦力で迎撃せねば街の奪還どころではない……」

 「次から次へと…… 本当に厄介な事よ」

 魔族の襲撃については知らせた。だがもう一つ、伝えなければならない事がある。前もってアーロンから受け取っておいた小さな結晶体を取り出し、簡潔に述べた。

 「まだ報せがある。狂った魔族を率いている銀髪の魔女だが、あれは外見だけ『ミラ・ベオウルフ』だ。憑りつかれたのか化けているのかは分からんが、ここに本人が遺したメッセージがある。だからあれは、紛れもない敵だ」

 俺が伝えた内容にアガレスとラウルは一瞬息を呑んでいる様だった。だが直ぐにしっかりとした目でこちらを見据え、言葉を発する。

 「再度隊長を招集する。この危機から、総力でバルカニアを守るぞ」









 「もうすぐ、迎えに行くから、待っていて。アジリオ、トニー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ