~正気と狂気~ 3
「ようやっと出番か。ここまで待ったせいか、腕が疼いてしょうがねえ」
「鎮まりなさいレオン。ここはまだ戦場ではないのです」
「ケッ、俺より惨い殺し方をするくせに良い子ぶるんじゃねえよユウリィ」
「全てはミラ様が宣言をしてからです。あと、別に良い子ぶっている訳ではありません。常識です」
「うむ、変わりない光景で和む程だよご両人」
「貴方は少し食べるのを自重なさい、ハワード」
扉を開けると、ようやく動く状況にそれぞれが落ち着かない様子だ。無理もない、これから待ちわびた祭りが始まるのだ。態度はいつも通りでも、その顔は笑みが零れている。滅びを待ち望む狂気の笑みが。
「既に兵士は集めています。後は始めるだけです」
「お疲れ様です。では幕開けといきましょう」
城内のバルコニーに歩み出せば、眼下に淀んだ瞳の魔族がひしめき合っていた。いずれも小さく唸り、武器を握りしめ、今か今かと殺戮を待っている。私は先程記録した女王と従者の光景を部屋の天井に映し出す。
「皆さん! この光景をご覧ください。我らが女王は従者を引き連れ人間の領域、その間近に姿を現しました。この混迷を極める魔族の状況を見捨て、我が身可愛さで逃亡し、人間に取り入ろうとしていたのです! 私は悲しい。志を同じくする仲間を簡単に見捨てる者、その者を掲げていた我らの愚かさが。最早女王と従者の方針など意味を持たない。我らは我らの為に立ち上がる時なのです!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」」
「蹂躙しなさい、破壊しなさい、殺し尽くしなさい。私が許可します。今こそ、奴らを血の海に沈めなさい」
「お疲れ様でした。既に大半の戦士は移動を始めています」
「まともに話を聞いていた者がどれほどいたか怪しいですが、場を呑み込む熱気は重要ですからね。雑魚の中にも力を授けた者を紛れ込ませていますし、ある程度は泥沼にしてくれるでしょう」
多くの者が移動する音は地響きの様に城を揺らす。その終わりに近づく音が心地よく、思わず顔がにやけてしまう。そんな夢見心地でいると、後ろから声を掛けられた。闇の中から姿を現す声の主は、血色の悪い顔でこちらを睨む青みがかった銀髪の少年だ
「僕はもう動いていいんですか? 正直ここにいるのは時間の無駄にしか思えないのですが」
「なんだ、こんな奴いたか?」
「ミラ様、この者は」
「ああ、ようやく貴方が動いても問題ない時になりました。それと紹介をしなければなりませんね」
睨むレオン、怪訝なユウリィ、構わず干し肉を齧るハワードに向き直り芝居がかった動きで彼を紹介する。
「貴方達に紹介しましょう。彼は協力者の、『エミリオ』君です」
「協力者になった覚えはないんですがね」
「貴方のすることが私達の助けになります。だからそれでいいのです」
今更行き着く先は変わらない。三人は別に構わないといった雰囲気で了承を伝えてくる。そう、誰が増えようが減ろうが、私達は何も変わらないのだ。
「まあいいです。僕は自分の体を取り戻して故郷に帰る。それだけですから」
「ええそれで構いません。いずれは殺し合うでしょうが、その時は頑張って下さいね。幼馴染と家族を守りたいなら尚更です」
「…………」
「ハハッ、相変わらずえげつねえ! そうでなくっちゃな」
私の意図を察してレオンが笑い声を上げる。ああ、望みが無いと気付きながら、それでも幻想の希望に縋るというのはなんと愚かで美しい。人間とはこうなくては。ああ、ああ、やはり人間は素晴らしい。
「では我々も行動を開始するのかね? 拠点を決めて食料の準備を始めなくては」
「私も触媒の材料を揃えたいのですが、問題ありませんか?」
「ええ、ではいよいよ始めましょう。“黄昏の葬列”はここから往きます。来る者は拒まず、去る者は決して許さない。闇が世界を覆うまで、我らは歩み続けるのです」




