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その境界の先  作者: nao 11
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~邂逅と別離~ 4

 男達と円になって食べた晩飯はなんともワイルドなバーベキューだった。元があの狼というのもあっておいしい代物ではなかったが、それでも全員が思い切り食べられる食事など随分久しいらしく皆がもりもりと凄い勢いでかっ喰らっていた。満腹になれたことと、俺が仕事の口利きが出来るかもしれないと伝えたことでその場は最早宴会の様相となり、騒ぎは夜更けまで続いた。翌朝、俺はアミナへ向けて歩き出す。なんでもこのねぐらから徒歩で半日程度らしい。この距離ならば今日中に辿り着き、そこが今どんな有様なのか少し調べることも出来るだろう。

 『アミナにいる“なりそこない”には出来るだけ攻撃しないで下さい。こっちから攻撃しなければ、ほとんどの奴らは何もしないって話です。それも昔聞いた話なんでどれだけ信用できるか分かりませんが』

 アミナに着いた後の事について、ガトーはこんな風に話していた。触らぬ神に祟りなし、というところだろう。可能なら邪魔されずに調査を済ませたいが、一体どうなるやら。道は徐々に無くなり、周りの木々も数を減らし、枯れていく。雑草までもが灰色に染まり、まるで先に進む程に命が吸われているかの様だ。そんな異常な光景に気を引き締めつつ進み続けると、日が暮れる前にようやく見えてきた。建物は倒壊し、植物は枯れ、土は色を失った、そこはまるで沼の底。


 「なんだ、こりゃあ。人間どころか魔物でも嫌がりそうな場所じゃねえか」

 思わずそんな言葉が漏れる。だがシリウスの姉はここに来たらしい。一体何を求めて、この悪夢の様な場所を訪れたのか。ゆっくりと歩を進め周囲に気を配る。建物だった瓦礫は今にも崩れ落ちそうで、気のせいか周りから何かの呻き声の様な音がする。そして俺はその正体を認識してしまった。頭がデカい手足の生えた蛇の様な生き物、その体長は2m近くあり、それだけで異様な存在だと思い知らされる。これがあの“なりそこない”だ。俺は見たことも無いのに一瞬で確信した。それも一体ではない。一度気が付けば瓦礫の影や枯れ木に寄り添い結構な数が蠢いている。

 (うおお…… こいつは結構、へヴィだな)

 無駄な声を出さず刺激しないようにゆっくりと周囲を調べる。どこもかしこも瓦礫と枯れた植物、それに噂の“なりそこない”。これはどうしたものかと困り始めたところで、比較的形が残っている家を見付けた。一般的な家と比べればあちこちが崩れぼろぼろだが、この悪夢の中ではそれでも立派に見える。俺は縋る様にその家のドアに手を掛けた。


 (少し、休憩するか…… 気が休まらん)

 中に何も居なければ少し体と心を休めよう、襲われることがなくともこの異様な空間は俺の精神をじわじわと削る。今は気持ちを落ち着け、気合いを入れる時間が欲しかった。だがそんな俺の願いは叶わなかった。入った家の中には、小さな蝋燭だが明かりが灯してある。それはこの家に誰かがいる確かな証に他ならない。その事実に驚いていると、更なる衝撃が俺を襲った。

 「あれ? 約束の時間まではまだ、って人間じゃない!」

 物陰から顔を覗かせ、驚きと喜びに声を上げたのは見知らぬ女性だ。だが彼女はなんと言った? 『人間じゃない!』それはつまり、

 「うわぁ、こんなところに人間が来るなんて初めてよ!! もう分かってたら片付けくらいしたのにー」

 俺の前に現れたのは上半身が人間、下半身が蛇の姿の明らかに人ではない何かだった。突然の光景に数秒呆けてしまうが、気を入れ直してそれに向き合う。腰の剣に手を掛け、入り口のドアを背にして万が一の事態にも備えるが、それに反して相手は随分と友好的に話をする。

 「ま、待って! 私は何もしないし、何なら歓迎するつもりよ!? まずは話をしましょう。それがお互いの為よ」

 「話ったって、お前は所謂魔族だろう。俺を殺すんじゃないのか」

 「大半の魔族はそうかもしれないけど、私はそんな事しないわ。だって私は人間に憧れてこの場所に住んでいるんですもの」

 「憧れてって、そんなこと言って身内からは何もされなかったのか。言ってみれば裏切りみたいなもんだろう」

 「そりゃあまあ色々あったけど、それでも私は譲れないの。それに生まれだけで生き方が決まるなんて馬鹿みたいじゃない」

 どうやらいきなり殺しにかかる様なタイプではないらしい。完全に信用するのは危険だが、ピクシーの例もあるし何か情報が手に入るかもしれない。ここは剣から手を下げ、彼女と話をしてみることにした。

 「俺は竜一、お前は?」

 「種族はラミア、名前はペトラ。よろしくね、小さな騎士さん」

 「騎士って訳じゃないんだがな。それよりお前は名前があるんだな」

 「当たり前よ。名前っていうのは他者と区別する為にあるの、貴方もただ『人間』、なんて呼ばれるのはいい気分しないでしょ?」

 うーむ、ピクシーはそんな事口にもしなかったし、どうやら本当に思考は人間寄りの様だ。だとしたらまあ、なんと不思議な存在か。世界を二分し奪い合っている対象に憧れ同朋から離れて暮らすのは、先程語った『生き方』なのか。

 「でも貴方良い人で良かったわ。貴方だったらここに居ても大丈夫かな」

 「なんだ、やっぱり何か危険な事でもあるのか」

 「違う、こともないけど、もう少しでここに客人が来る予定なのよ。その人がちょっと変わってるから、血の気が多い人間だったら離れていてもらおうと思ってたの」

 「変わった客人、ねぇ」


 そこまで話したところで背後のドアが開く、ゆっくりと開いたその先に居たのは、真紅の髪と黒のドレスに銀の装飾が輝く眩しい美女。恐らくどんな奴が相対してもそんな感想を抱くであろう、出るところが出て締まるところが締まったその姿は、女性の魅力が暴力の様に襲い掛かる。思わず見惚れていると、そこに予想外の言葉が飛んできた。

 「あ、陛下。時間通りのご到着ですね」

 「珍客だなペトラ。しかも人間とは尚更珍しい」

 「陛、下?」

 陛下? ペトラは陛下と言ったのか? 猛烈に嫌な予感が寒気になって背筋を走る。まさかとは思うが、いやそんなことがあり得るのか。そんな俺の予感を確信に変える言葉をペトラが放つ。


 「こちら、私達魔族の頂点に立つ女王。名をモルガン様。覚えておいてね」


 その言葉に俺は比喩ではなく、本当に卒倒しそうだった。


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