表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その境界の先  作者: nao 11
31/63

~邂逅と別離~

 『……ようやくだ。君のおかげで門が開いた。本当に感謝しているよ』

 『貴方はなんなの? ひび割れてたとはいえ、使われなくなって百年以上経ってる魔法陣を媒介にして別の世界の魔力を取り込み、その上門をこじ開けて来るなんて』

 『僕は誰でもないよ。だからこうしてここに居るのも大変なんだ。だけどここに来たからには一安心だな』

 『一人で何やら喜んでるみたいだけど、こっちとしては気味が悪くて仕方ないわ。正直、こうして会話しているのも嫌で逃げ出したいくらいよ』

 『そう邪険にしなくてもいいじゃないか。僕は何より、ここに至った君に用がある。そう、誰でもない僕に、君の存在をくれないか。君の姿、君の魔力、君の魂を』

 『やっぱり碌でもない奴ね! そんなのお断りに決まってるじゃない!!』

 『ああ、駄目だ。君が如何に強く、優れた魔術師だとしても、君に僕は殺せない。そもそも僕は生きていない。だから死ぬ訳がないんだ』

 『訳の分からないことをッ!! ごちゃごちゃと!!』

 『さようなら、勇敢で思慮深く美しい、この世界の魔術師よ。これより僕は君になる。そして僕になる為の旅が始まる。ああ、ありがとう。君に尽きぬ感謝を』

 『くっ、駄目。こいつを外に放ったら、とんでもないことになる。でも、ああこいつはきっと…… それならせめて、意地でも遺す。私が只で死ぬと思ったら大間違いよ!!』




 「見送りがあんただけとはなんとも寂しいね、こいつは」

 「フハハハハ、奴らはこれからの国をどう導くかで今が一番忙しいからな。まぁ餞別もある、これで許せ」

 相変わらず大声で笑うラウルから渡されたのは、マギナイト結晶が埋め込まれた両刃の剣だ。前使った剣より幅が広く、こういった剣をブロードソードと言っただろうか。中世の武器なんて知識が無かったから判断が曖昧だ、こんなことなら世界史をもっと勉強しておくべきだったか。

 「おお、なんつーか、前よりも重厚感のある剣だな。でも丁度いい重さで案外振りやすそうだ」

 「うむ、剣としてはそれくらいの違いだが、この剣のマギナイト結晶は刃の中に埋め込んである。以前の剣とは兵装としての使い方は当然違ってくる。まぁその点は今のお前ならば自然と理解し、新たな戦い方を生み出せるだろう」

 縦、横、踏み込んでの突き、そして斬り上げ。重量はあるものの、慣性や体を捻っての遠心力を使えば問題なく振ることができる。それどころか剣に掛かる重さのおかげでより威力のある斬撃ができそうだ。速度は落ちるだろうが、これにはこれの良さがある。むしろこれくらい無骨な方が単純な俺には合っているか。

 「悪くない、いや良いな、こいつは」

 「ふむ、その格好で腰に下げれば正に『黒騎士』だな」

 戦闘でボロボロになった服の代わりに俺が貰い受けたのは、白が基調のスーツに似た騎士の服装。その黒バージョン、今の俺の格好は言われた通りの『黒騎士』だった。だがエミリオの童顔に黒スーツは、どうにもミスマッチにしか思えない。

 「茶化すなよ。似合ってるとは思ってねーから」

 「ハハハ、まぁその内様になってくるだろう」

 そんな会話もそこそこに、太陽が昇りきる前に出発して目的地付近に拠点を構えなければ。人が碌に住んでいない地域に野宿なんて考えるだけで恐ろしい。この世界には組み立てが簡単なテントなんて売ってないからな、ある程度時間をかけて寝床を確保しなければならん。

 「さて、そろそろ行くぜ。達者でな、爺さん」

 「お前もな、武運を祈る」

 その言葉を最後に歩き出す。お互いに先を見据える者同士、大げさな別れは必要なかった。いずれまた会えるならその時は、まだ生きてるのかと笑い合おうじゃないか。



 道を歩きながら手頃な薪を拾う。キャンプの経験なんて浅いもんだが、日が暮れてから動くのは手遅れというくらいは分かる。大量に必要な訳ではないので横道に逸れることはないが、それでも歩みは遅くなる。事前に見繕ったところ、アミナまでは一度夜を明かさなければ辿り着くのは難しい。焦ってもいい結果にはならんだろうし、ここは着実に進むことにしよう。

 (とりあえずまだ道はあるが、段々細くなって掠れているのはそういうことなんだろう)

 道は通る者がいなければ自然に還り無くなっていく。その光景はこの先が人の領域から離れていることを嫌でも思い知らされる。だがそれよりも、

 (あいつら…… 嫌な予感がする……)

 道の脇は茂みや林になっているが、その中に気配がする。明らかに柄の悪い奴らが身を潜め俺が通りがかるのを待っているようだ。隠れているつもりだろうが、そこはただのゴロツキ。怪しさに目を細めれば自然に紛れていない不審な部分や動きが見えてくる。まるで絡まれそうだなと嫌な感じを拭えないまま、町中でヤンキーの前を歩かなくてはいけない状況に似ている。

 (……引き返すなんて論外だしな。不意打ちも気付いてりゃなんとかなるか)

 怪しい集団から離れる様に道の端へ寄り、左手を腰の剣にかけておく。歩く速度は変えず、努めてそのままに。なにも知らない暢気な旅人を装う。襲いやすい、絶好のカモだと。……そんな間抜けを演じていると、釣られた魚が飛び出した。

 「おおっと!! そこまでだ坊主。荷物を全部置いて下がりな、そうすれば命は助けてやるよ」

 「細っこい見た目でいいナリしてんじゃねえか。さっさと物をだせブフォッ!?」

 「ハッ、予想通り過ぎて笑いも出ねぇよ!!」

 一番近いところに飛び出して来た野盗らしき男に蹴り掛かる。いきなりの攻撃は予想していなかったのか、もろに蹴りを受けて勢いよく転がっていく。剣で斬り掛かりはしなかったが、手加減はしなかったのでなかなかの痛みだろう。吹き飛んだ仲間と俺を見比べ、しばしの静寂の後に他の面子が喋り出す。

 「て、てめえ!! 何してやがる!?」

 「この野郎、ぶっ殺してやる!!」

 「お前らみたいな三下相手に殺し合いできるかよ、さっさと諦めて帰りな!!」

 最初に一人蹴り飛ばしたし、そんな啖呵を切って脅してみたが、どうやらそれくらいで逃げ帰る腰抜けでもないらしい。各々に武器を取り出し、怒号を放ちながら襲い掛かってくる。だが遅すぎる。これまで相手にしてきたトロール、騎士隊長の面々、そして皇帝。思い返せばとんでもない奴らを相手に生き残ったもんだが、そのおかげか俺の目は凄まじい殺し合いに慣れていた。襲い掛かるナイフ、棍棒、そのどれもが実にゆっくりとした動きで、剣で受け止めるのも面倒だと感じる程に。

 (この程度の動きなら本当に当たらねえな。わざわざ殺す必要もないし、ここは適当に素手で追い返すか)

 振り下ろされる腕を避け、胴体や顔に拳を入れる。怯んだところを掴み、足を払って地面に叩き付ける。倒れてもがく奴の上から別の奴を投げ落とし追い打ち。

 「死ねやガキがァ!!」

 「吠えるなよチンピラ」

 大振りの剣を持ち出し斬り掛かってくるが今更そんな物に当たる訳もなく、隙だらけのところに打撃を加えていく。気付けば数分と掛からず、6、7人いた野盗共が地に伏していた。

 「な、なんだこのガキ…… 化けモンかよ……」

 「悪いがくれてやる物も構う時間もなくてな、これに懲りたら追剥ぎなんて止めろよ?」

 小声で恨み言を呟く連中をそのままに、俺は先へ進むことにした。これで辞めるとも思えんが、それでもしばらくは大人しくなるだろう。出発早々に躓いたが、気を取り直して出来るだけ距離を稼ぐとしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ