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その境界の先  作者: nao 11
24/63

~拳と拳~

 『お前さんが今更何をしたところで、って感じだがな』

 『それでも全てを傍観して挙句に悔いるよりはいいです。貴方はそれでいいのですか?』

 『……世の中には大きな流れがある。それに逆らうのは賢い奴のすることじゃない』

 『確かにそうでしょう。ですが目を瞑り気付かないふりなんて、私はもう嫌です』

 そういって彼女は謁見の間へ向かっていった。その歩みには迷いがなく、以前までの彼女とはまるで人が違う様だった。さっきの黒騎士といい他の下っ端連中といい、物分りが悪い奴らが多すぎる。

 「青いねぇ…… ったく、昔を思い出しちまうじゃねえか。……ああ嫌だ嫌だ、とうの昔に諦めた筈なのに」

 世の中は理不尽なことばかりだ。そんなこと分かりきっているのに、あんな奴らを見ていると、どうにも燻ってくる。自分でも腐りきっていると思っていたのに、まだどこかで諦めていないのだろうか。

 「ああ、どうするかねぇ……」

 「らしくないんじゃない? アガレス隊長」

 「あ? ボルトかい。……あんな事を立て続けに言われると、どうもな」

 「思い切って行けばいいじゃない。アタシも行くつもりだし」

 ……やっぱりか。あの連中に感化された奴らは少なからずいるだろう。ごまかし続けていた小さな火も、近づいてきた炎に取り込まれ一緒に燃え上がる。

 「……私も行きます。あの人とは、少し話をしたいです」

 いつの間にかアニタが通路を歩いてくる。その少し後から、百舌がニーナの肩を借りながらよろよろと近づいてきた。

 「アガレス隊長、不覚にも敗北を……」

 「はいはい、肋骨が何本も折れてるんだからあまり喋らないでね」

 「おーおー、こりゃひどいもんだ。思ったよりもあいつやるな」

 決して弱くはない仲間が負傷している様子に少しだけ少年の認識を改める。さて、陛下相手にどこまでやれるか。そんなことを考えていると、今度はクリスがスタスタと通り過ぎる。

 「ちょっと、クリスちゃん!? 大丈夫なの?」

 「ええ、大分落ち着きました。それよりこんな所で何をしているんですか? 先に行きますよ」

 あっという間に大所帯だが、考えることに差はあれど行く先は同じだ。皆がしばしの沈黙の後に謁見の間へ視線を向ける。そして誰ともなく歩き出す。変わるかもしれない何かを、それぞれの目に映す為に。

 「じゃあ行くかい。散々火種を振りまいた奴らが、何を成すのか」




 騒がしく突入してきたにも関わらず、待ちくたびれたと言わんばかりに陛下が変わらず玉座に座していた。扉と玉座、遠く離れているこの状況でも受ける威圧感は凄まじい。そして私の姿を見ると、ゆっくりと立ち上がり歩み始める。

 「お前が来たか、ここまで来たなら言葉は必要あるまい。自らの信念を、儂ごと貫くがいい!!」

 「ではお言葉に甘えて、遠慮も加減もするつもりはありません!!」

 小細工など、この方相手では意味が無い。最初からバンカーの推進翼を展開し、全力で突っ込んで行く。だが陛下は避けようともしない。撃ち込まれる杭を、真正面から拳で殴り止めたのだ。

 「なっ!?」

 「ハハハ、真っ向から挑むその意気は良し! だがまだ足りんぞ!!」

 腕が払われ、杭が逸らされる。その上容赦無く顔面を殴り飛ばされた。視界が真っ白になって一瞬何も考えられなくなる。頭を振って意識をはっきりさせた時、私は10m程も離れていた。なんという飾り気のない力、愚直なまでに真っ直ぐだが故にその巨大さが嫌でも分かる。

 「ぐう…… くっ」

 「さぁ、その程度で折れる杭と意志ではあるまい。立てい! そして来るがいい!!」

 「言われずとも!!」

 余裕を持って迎撃されれば防がれる。相手の攻撃を誘い、隙に最大推力で叩き込むしかないだろう。走って近づきよく動きを見なければ。陛下はそんな考えを知っているのか知っていてもどうでもいいのか、間合いに入れば凄まじい圧力の拳が振るわれる。盾で逸らし、目を離さず、守りが薄くなる瞬間を待ち続ける。

 「ぬうん!!」

 「ッ! その隙は見逃さん!!」

 床を抉る程の勢いで振るわれた右腕を躱し、一気に噴かせてバンカーを脇腹に撃ち込む。防御は間に合わない。切っ先は胴体を捉え、迷いなく杭を撃ち込んだ。確かに脇腹に突きつけ撃ち抜いた筈だった。だが目の前にあったのは撃ち抜いた陛下の体ではなく、簡単に弾かれ強烈な振動に痺れる自分の腕だった。

 「生身の体でッ!?」

 「魔力強化は儂の最も得意とする業よ! フハハハハハハ!!」

 豪快に笑いながらその剛腕であっさりと私を吹き飛ばす。壁際まで飛ばされて、ようやく起き上がることができた。床に切っ先を突き立て、歯を食いしばり足に力を込める。そうしなくては直ぐにも倒れてしまいそうだった。

 「まだ、まだ戦える……」

 「ふむ、そこまでして意地を張るのは姉への想いか。貴様はその理想をなんとする? ミラは確かに目指していた。周りの輩に笑われたその理想を。だが貴様が目指すのは姉の背中だ。ならば儂を撃ち抜いた先に何を見るか?」

 その言葉に動きが止まる。陛下を倒した先? そんなもの、姉さんを迎え、姉さんの理想を支えるに決まっている。……私は姉さんを支える為に、ずっと。

 「貴様が護りたいのは人々ではなく姉だけだ。その盾も、撃ち抜く杭も、振るわれるのは只一人の為。貴様にとって騎士とは一人を護ることのようだな」

 「それは…… そんな、ことは……」

 「多くを守る為に小を切り捨てる。その犠牲が許せない。そんなことはこじつけだろう。他人などどうでもいいという点では、儂よりも割り切っているな?」

 「違う、私は、救える命ならと」

 「脆いな、実に脆い。その程度ではなァ!!!」

 その声にはっとすると、右側から拳が迫っていた。咄嗟に盾で防ぐが、またとてつもない衝撃に吹き飛ばされる。壁際から部屋の中央まで飛ばされ、再び襲った衝撃から頭を振って立ち上がる。立ち上がった私が見たのは、陛下の両脇に浮かぶ巨大な腕。マギナイト結晶を核にして流体で作り上げられた、兵装と言うにはあまりに無骨なその暴力に寒気が走る。

 「正しかろうと間違っていようと、自らを信じられずに敵を倒すことが出来ようか。できる筈があるまい。……これより先は戦いではなく余興だな」

 「はっ、そんな、ことは……」

 「その飾りの盾で防いでみせい!!!!」

 真正面から巨大な右腕が拳を握って迫る。必死に盾を構え足を踏ん張るが、盾を襲った衝撃は凄まじく、展開翼用に手を加えていた部分があっけなく弾け飛ぶ。更には踏ん張っていた足どころか体ごとまた吹き飛ばされるが、しかし今度は勢いが違う。そのまま一直線に壁まで飛ばされ背中に激痛が走った。どうやら壁にひびが入る程のスピードで叩き付けられたらしい。


 意識が朦朧とする。視界がぼやけ、全ての音が遠い。何が起きている? 目の前に影が差す。陛下の巨大な腕が振りかぶっているのか。しかし体が動かない、これで死ぬのか。……結局何もできなかったな。クリスにあれだけ偉そうな口を叩いておいてこの有様か、本当に情けない。私は間違っていたのだろうか? なら正しいこととはなんなのか? だがそれはもう分からないか。


 いよいよ訪れる最期に目を閉じようとした時、黒い何かがこの部屋に飛び込んできた。それは赤黒い光を放ちながらこちらに近づいて来る。目前まで来た時にそれがなんなのか分かった。生き残る事など無いと思っていた、生意気な口を叩く黒騎士。奴だった。


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