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その境界の先  作者: nao 11
20/63

~王と民~ 3

 「ニーナ、準備は万全か? こちらの兵装は最終調整が終わったぞ」

 「オッケー、それなら後は竜一君を迎えに行くだけだ。訓練場に行こうか」

 私の新たなるマギナイト兵装。複数の噴射機構のせいでかなりのじゃじゃ馬になったが、これくらいでなければあの皇帝には通用せんだろう。なにやらあの男も訓練をしていた様だが、まぁ囮くらいにはなるだろうか。

 「戦う格好くらいにはなったか?」

 「見れば驚くんじゃないかな? 魔力の扱いが素人から一晩で騎士クラスになった人なんて、ボクは初めて見たよ」

 言葉を疑ったが、ニーナがこんな場面で嘘を吐く訳もない。本当に魔力の扱いを習得したのか。あんな斬り掛かることしかできなかったチンピラ風情が。訓練場に着くと、その中央で剣を振り続けるあの男が居た。その剣には光が煌めき、起動された兵装だということが分かる。

 「ありゃ、1時間前に止めていいって言ったのに、しかもまだ起動したままか。こりゃとんでもない人材かもね。おーーーい!! そろそろ時間だよーーー!!」

 「……本当に使っているのか、マギナイト兵装を」

 振り返った男の顔は、疲れが見えたがそれ以上に充実している様だ。まるで何かを掴んだかの様な確信を持った顔。……少しだけ、認識を改める必要があるかもしれん。



 「おい、どうなるか分からねぇんだ。先にあの女のことを話せよ」

 「なんだ、生きて帰る自信はないのか。情けない」

 本当にこの女は一々神経を逆撫でしてきやがる。だがここで挑発に乗っては肝心の情報を得られないかもしれない。俺が素直に突撃して無事に生きて帰る保障は無いのだ。いざとなったらどこかの通路ではぐれて脱出することも視野に入れつつ、俺は餌の情報を貰っておきたかった。

 「お前が死んだら聞けないだろう。それとも最初から約束なんて守る気は無かったのか? 盾の騎士さんよ」

 「……露骨な挑発だな。約束はちゃんと守る、そうだな、なら少しだけ話してやろう。……お前が探している世界を越える程の力を持ち、尚且つ私に似ている魔女。恐らくそれは私の姉だ」




 暗闇の中で扉が開く。それは突入の開始を意味し、数十人程の騎士がなだれ込んで行く。俺はその最前列に身を置きながら、シリウスから教えられた内容について考えていた。

 (結局あの銀髪女がシリウスの姉ってこと以上は聞けなかった。予想通り、これ以上ない手がかりだったが、上手いこと釣られちまったな。こうなりゃ成功させて、アイツから根掘り葉掘り聞きだしてやるぜ……ッ)

 城の通路を走っていた周りの連中が立ち止まる。何事かと思って同じく立ち止まると、開けた通路の先に、小さな女の子が立っていた。時間は夜中、こんな場所に立っている筈がない。

 「ア、アニタ隊長……ッ! ぐはっ!!!」

 「お、おい!! どうした!? 何にやられた!?」

 騎士の誰かが名前を呟いたが、その直後に声を上げて倒れていく。その後も数人が倒れ、その場には血が広がっていた。通路に入り口に盾を壁にして騎士達がバリケードを作り、状況はようやく落ち着いた。しかし前方の少女は不気味に佇んでいる。

 「誰かあいつを知ってるか!? 何が起きてる!?」

 「第二部隊の隊長、アニタ隊長だ…… しかも最初から兵装を起動してる……待ち伏せだ! 伝令急げ!」

 見た目は幼い女の子だが、ニーナの様な例もある。しかも既に何人かは床に倒れ伏している。彼女が行ったなんらかの攻撃によって。

 「奴はどんな戦い方をする!? このままじゃ一方的にやられるだけだぞ!」

 「アニタ隊長は普段兵装や道具の開発に専念しているから戦ってるところなんて誰も見たことないんだ! 少なくとも何かを操って攻撃させているみたいだが、それ以上は分からんぞ!」

そんなやり取りをしている間も、少女は一向に動かない。しかし、しばしの間の後、その口が開いた。

 「大人しく降参して…… これ以上は無意味……」

 「好き勝手やって随分な言い草だな。ここで簡単に止まれるなら、最初から来てないんだよ!」

 このまま引き下がっては情報はもちろん多くの人間が犠牲になってしまう。不気味な相手ではあるが、ここは突破するしかない。盾で作られたバリケードを這い出て、俺は少女と向き合う。

 「ここは通してもらうぜ、コネクト!!」

 「残念…… なら倒れて……」




 奴に近づけずに下がっていた時は分からなかったが、飛び回りながら騎士を斬りつけたそれは、少女に近づこうと踏み込んだ際に姿を現した。目を疑ったが、それは熊のぬいぐるみに見える。だが普通の物とは明らかに違う。その両手からは青白い結晶の爪が生え、背中からは翼の様な薄い膜が輝く粒子を吹き出しながら、それを宙に浮かせているのだ。

 「なんつーもん武器にしてるんだよ…… 悪趣味が過ぎるんじゃないか?」

 「ジャックは悪趣味じゃない…… 私の相棒……」

 その不気味なぬいぐるみがゆらゆら漂っているかと思いきや、粒子を吹き出しながら豪速球の様に飛び出した。しかもその爪を振るいながら俺の周りを飛び回るから性質が悪い。姿を捉えている今はまだマシだが、それでも素早く動き回る小さい相手を斬るのはひどく難しい。顔や首の致命傷は避ける様に剣で防いでいるが、それ以外の体中を斬りつけられ痛みがじりじりと蝕んでいく。

 (このままじゃジリ貧か…… なら飛び込んでみるか!)

 剣に注ぐ魔力を一気に上げる。峰からはジェット噴射の様に青白い粒子が噴き上げ、その勢いに腕を取られそうになる。だがこれを活かして飛び込むんだ。狙いは操縦者、武器が動くならば、それを操る本体を狙う! 足に力を込め、噴射の勢いも活かして一気に距離を詰める。

 「おおおおおおおおおおおお!!」

 「……!!!!」

 間合いを縮めて勢いのまま剣を振り下ろすと、突如眼前に熊のぬいぐるみが現れる。剣は勢いそのままに、俺の周りを斬り飛び回っていた不気味なぬいぐるみを両断した。

 「なっ!? 庇った?」

 「……ジャック、この後直してあげるから少しだけ待ってて。お友達が仕返ししてくれるから」

 彼女曰く相棒の熊を斬ったのに、まるで動揺が見られない。そして彼女が口にした“お友達”の意味を、俺は直ぐに知ることになった。通路の先、まだ闇に包まれた彼女の背後から、ぞろぞろと今斬ったのと似たようなぬいぐるみが歩いて来る。そして姿が明らかになると皆結晶の爪を生やし、粒子の羽を輝かせながらゆらりと宙に浮くのだ。

 「皆で仕返し…… これなら負けない……」

 「マジかよ……ッ!?」

 散々苦労して突撃した結果、偶然斬り伏せることができたあのぬいぐるみが、数えるのも嫌になる程湧いてきやがる。その圧に押され、後方に跳び距離を離したのが悪手だった。決壊した川から溢れ出す濁流の様に、そのぬいぐるみ達は襲い掛かって来たのだ。

 (飲みこまれたら負けだ、だったら進み続けろ!!)

 物量に負ける前に進路を斬って拓く。再び剣に魔力を注ぎ、全開の推進力でぬいぐるみ達の壁を強引に斬り進む。止まれば全方位から爪が襲いくるのだ。的の方から寄って来る。進め、進め、進み続けろ。体中に切り傷を負いながら進むが、先程居たはずの場所に少女が居ない。進路上のぬいぐるみを斬り、操っている本人を倒すつもりだったが、このぬいぐるみ共に紛れられては非常に不味い。流石に突っ立ったまま斬られる阿呆じゃなかったか。

 「ああくそ、面倒だ、全部斬ってやらあ!!!」

 どこにいるのか分からないなら、進み続けて全部斬ればいい。我ながら単純にも程があるが、もうそれ以外に解決策が思いつかなかった。最初のぬいぐるみが復活しなかったことを考えると、斬ったぬいぐるみが治ることは無いと思いたい。本人に辿り着くまで襲ってくるそれを斬り捨て続ける。そんな馬鹿な真似をしていると、不意に声が聞こえた。

 「……信じられない」

 「!! そこかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 全身でブレーキを掛けて剣を声のした方向に転換する。紛れる隙を与えないように全力のまま突撃をかける。今度は逃がさない。群がるぬいぐるみ共を押し退けて、ようやく彼女の前に辿り着く。

 「決める!!」

 「……駄目」

 あと一歩、剣が届くはずだった少女は宙に浮いてまるで幽霊の様に下がっていく。そしてそれと同時にまだ動いていたぬいぐるみ達が一斉に動きを止め、その場に落ち始めた。地面を埋め尽くす落ち葉の様に、通路は熊のぬいぐるみで溢れかえった。

 「……ジャック、もう一度、頑張って」

 真っ二つになっていた最初のぬいぐるみが浮かび上がり不気味に漂う。そして床に散乱していたぬいぐるみ達から青白い粒子が抜け始めた。その粒子は突風の様に一点に集まる。最初に両断されたぬいぐるみに。やがて粒子が集まりきると、ジャックと呼ばれたぬいぐるみを出来の悪い子供の工作の様に結晶で結合した。切断面はずれたまま、地に落ちて薄汚れた外見をそのままに、そのぬいぐるみを中心にして結晶は更に大きくなっていく。変化が落ち着いた時、その見た目は既に大きな人型の結晶体となっていた。

 「……潰して」

 「まだ隠し玉があったのかよ…… 流石だね畜生!!」

 高さは3mはあるだろうか。天井に頭を擦りながら、結晶の塊となった腕を振り回す。大振りの攻撃となった分避けるのは容易だが、その腕が床に叩き付けられる衝撃は思わずよろめいてしまう程だ。また結晶人形の図体が大き過ぎて操っている少女まですり抜けることも出来ない。

 (どう見てもコアはあのぬいぐるみだよな…… 縦で駄目なら今度は横だ、四分割にしてやる!)

 その体と攻撃に追いつめられる前に、今度はこちらから攻めなければまた押され続けて潰されるだけだ。横に振り回す腕の威圧感を前転で潜り抜け、結晶人形の懐まで飛び込む。案の定動きは遅い、今なら仕留められる!

 「おおおおおりゃああああああああああ!!!!」

 粒子を噴かせ、剣を人形の脇腹にぶち込む。しかし少し結晶を砕くと、ぬいぐるみに届く前に結晶に阻まれ剣は止まってしまった。バキバキと音を立てながら、頭上にその剛腕が迫る。なんとしても押しこまなければ潰されて終わりだ!

 「だああああああああ!! 行けえええええええええええ!!!!」

 先のことを考えての温存など考えていられるか。ありったけの力と意識を剣に込め、噴射と必死の踏ん張りで押し続ける。そして結晶の腕が振り下ろされる寸前、一際甲高い音を響かせ結晶は割れた。抵抗が無くなった剣は振り抜かれ、中心部のぬいぐるみは綺麗に四分割となった。

 「よっしゃあああああ!!」

 「……嘘」

 結晶人形は粉々に崩れ、その場には斬られたぬいぐるみが残った。肩で息をしながら少女を見やると、そこには床に膝をつき呆然としている姿があった。

 「はぁ、はぁ…… これで終わりかな」

 「やったな! 信じられん!! おい、隊長を拘束するぞ」

 全身が怠く疲労困憊で立っていると、いつの間に寄って来たのか後方で傍観していた騎士達が走って来た。そして特に抵抗しない少女を後ろ手に縄で縛ると、先を争う様に通路の奥へ進んで行った。未だ取れない疲れにその場で突っ立っていると、俯いたまま動かない少女の姿が目に入る。少女は何も語ろうとはぜず、諦めた様な目で床を見つめるだけだ。その様子が気に掛かり、俺は少女に話しかけてみた。

 「……隊長って言うなら『アヴァロン』のこと知ってるだろ。なんでそっちに味方してるんだ?」

 「……どうでもいいから。私の守りたかった人はもう死んだから。私はお父さんとお母さんに会う方法を探すだけ。そのためにはここで研究しなくちゃいけない。ここに居られるなら他はどうでもいい……」

 この少女はそんなことを語った。それはまるでこちらに来る前の俺を見ている様で、なんともやるせない。考え方は人それぞれ、とはいえ俺はそれに同意できない。確かに譲れない目的、想いはあるだろう。だが自分の力で何かが出来て、それが誰かを救えるならば、俺は力を使いたいと思う。少なくとも俺の願いの先は、何も残らないのだから。

 「……お前、かなり強いじゃねーか。それだけ力があるなら研究しながら誰かを助けられるんじゃないか? それは欠片もお前の為にはならないかもしれないけどよ。それでも誰かが大事な人を亡くすのは防げる。ま、そうしろとまでは言わねえよ。俺も自分の目的を目指して動いてるしな。でも、どうせなら出来るだけ悲しい目に遭う人を出したくないな、俺は」

 返事は聞かなかった。言った通りこうしろと強制させる気は無かったし、似たような立場としてそんな気は起きなかった。

 「死んだ人間に会いに行くなんてどうせ碌でもないことを探ってるんだろうが、同じく碌でもないことをしてる俺にそれを止める資格はないし、否定も肯定しない。だが気に入らねぇ。俺は無意味な目的に辿り着くまでに、誰かにとって意味のあることをしたい。じゃあな」

 どうせ自己満足だ。俺は自分の言いたいことだけ言って通路の先に歩を進める。すると意外なことに背後から声を掛けられた。

 「……待って。私はアニタ。あなたは?」

 「竜一だ。お前と同じく大事な人を失って、悪足掻きしてる只の馬鹿さ」




 「格好だけの覚悟で進むからこうなる。残りも怯えて下がるばかり。貴女達の信念など、こんなもの。……やはり貴女は嫌いです」

 「随分派手に暴れたな、正門まで崩しかねんぞ。そして騎士なら闘いに私怨を持ち込むな、クリス」

 通路の中央、仁王立ちで立ちはだかるのはクリス。周りには彼女の魔砲に撃たれ動けなくなった者達。息はあるが、戦うどころか動くことすら難しい。私にはこの手加減が舞台作りに思えた。邪魔者を見せしめに晒し、私と一対一で闘い、殺す為の。

 「……シリウスさん、貴女が選んだのがこの道ですか。他でもない貴女が、こんな愚かな道を。ミラさんは、何の為にこの城を出る羽目になったのか」

 「それこそ姉さんなら今のお前を笑うだろう。何の為に騎士となったのかと。姉さんが望んだのは正に理想郷だ」

 「惰性で騎士を続けた貴女にそれを口にする資格は無い! ……問答は無駄ですね。ここで死んでください」

 「私は殺すつもりなど無い。殺すのではなく勝つのだ。私が道を拓き、お前も含めてあらゆる者にその道を歩んでもらう。歩む者がいない道など荒野と同じだ」

 クリスは魔力を両手に集中し、私はマギナイト兵装を起動する。空気は張りつめ、そして始まる。

 「死になさい!! 私の正義の前に!!!!」

 「その曇った眼を覚まさせてやる!! 行くぞ!!!!」


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