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その境界の先  作者: nao 11
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~白と黒~ 3

 「隊長、これより捜索を開始します」

 「はい、見付けたら深追いせずに連絡を。私達の目的は鎮圧であって殲滅ではありません」

 相変わらず人気の少ない寂れた町だ。指示を受けた部下が捜索を開始するのを見送り、私は町長に話を済ませに行く。私と話した町長はいきなりの訪問に驚きを隠せずかなり狼狽えていたが、陛下の命令ということもありすんなりと内容を受け入れた。お世辞にも立派とは言えない家が立ち並び、道が入り組んだ迷路の様なこの町は、ああいった勢力の隠れ家に最適なのだろう。比較的道が広い中央の通りで部下の報告を待っていると、私のいる反対側から近づいてくる影が見えた。

 「ほら、あれじゃねーか? 行くぞ」

 「だ、大丈夫かな……」

 そんなやりとりをしながら銀髪と茶髪の少年二人が近づいてくる。だがそれよりも私は目を疑った。二人の少年の茶髪で小柄な方、その少年の腕の中にはドラゴンの幼体が抱えられていたのだ。

 「君達! そのドラゴンの幼体はどうしたのですか? 危険だからこちらに渡しなさい」

 「あー、それがな、ちょっと訳ありでな」

 「た、隊長さん! コイツは俺が卵を拾って育ててたんだけど、俺に懐いてて危なくないし、連れて行くのはやめて欲しいんだ。後、一緒にコイツを育てたピクシーがいるんだけど、その子も見逃してくれないか!? 魔物は危ないって言うかもしれないけど、コイツやピクシーは危ないことなんて何もない。だからお願いだ!」

 思い詰めていたのか一気に喋る小柄な少年の言葉に戸惑うが、聞き捨てならないことがあった。ドラゴンをピクシーと一緒に育てた? しかも見逃してくれと? 例え妖精であろうと危険が無いとは言い切れない。それが成長し人よりも遥かに巨大になるドラゴンならば尚のことだ。

 「今はその関係で上手くいっているかもしれません。しかし、人と魔族が共生することなど不可能です。魔族の大部分は人を喰らい、知能の無い魔物などその代表格です。その幼体が悲劇を生む前に、こちらに渡しなさい」

 そう、今が良くてもそれは未来に必ず影響を及ぼす。私はこの子に恨まれるのを覚悟の上で告げた。そこの境界を曖昧にすればこれまで誰かを失った人々も、これから生まれて生きていく人々も守ることが出来なくなる。

 「まぁまぁ、もうちょっと考えてみてくれないか? こんな子供の言ってることだし、なんとかやりようはないか?」

 「私とて子供の願いは叶えたいですが、この問題については例外です。あなた達は魔族に大切な人を殺された人の前で、同じ言葉を言えますか?」

 私の言葉に銀髪の少年は少し俯き黙るが、小さな方の少年は一歩前に出て大きな声を出した。

 「言える! 俺にとってはコイツとピクシーが大事な奴らなんだ!! そこになんの違いがある!!」

 「トニー…… そうだな、今生きている人達がどうでもいい訳じゃない。でも譲れないもんだってある。だからこうやって頼んでるんだ、なんとかならないか?」

 「あなた達は何も分かっていませんね。その我儘でどれだけの人間が死ぬ可能性が生まれるか。私は騎士として、その我儘を許すことはできません。……マギナイト兵装起動」

 二人の少年は私の言葉を聞いても態度を変えることはない。説得できないのならば、この子達には恨まれるが実力行使で障害を排除する。市街地だから私の魔砲は使えない。だがドラゴンとはいえ幼体一匹、マギナイト兵装で十分だ。ホルスターから抜き、私はドラゴンの頭に照準を合わせ、引き金を引いた。だがその銃撃はドラゴンの頭部を撃ち抜くことはなく私は驚愕した。銀髪の少年の右腕が黒い鎧と化し、撃ち抜くはずだった私の魔弾をその手で防いでいたのだ。



 (咄嗟に手を出したけど、撃ち抜かれなくてよかった!!)

 この黒髪の女、話の途中でロングコートの下、腰の辺りに手を下げたその光景に、猛烈に嫌な予感がした。だから突きつけられた物が銃であると理解する前に右腕を変化させ、突如飛んできた光線の様な何かを防いだ。焼き付く様に熱いそれは、貫通することはなくとも生物にとって十分に危険であると分かる。まるでその姿そのままの銃を向けられている様だ。

 「に、兄ちゃんその手……」

 「話は後だ。説得は無理そうだぜこれは。お前はアジリオを連れて寝床まで逃げろ!」

 トニーとアジリオを逃がし、目の前の拳銃女と向き合う。使いたくはなかったが、向けられる殺意に対抗するため背負っていた剣を構えた。しかし、銃と剣じゃまともにやり合っても勝ち目は薄い。だが大人しく引き下がってもアジリオを撃たれるのは必至だ。

 「第五部隊の隊長として、このクリス・ヴィンドが災いの芽を撃ちます。ここで絶えなさい」

 「そうまで言われちゃ絶対に引けなくなったな。悪いが邪魔させてもらうぜ!」

 ここで下がればアジリオどころかトニーまで危なそうだ。いよいよ引けなくなったが、まずはあいつ等が安全に逃げ切るまで時間稼ぎだ。剣の腹を盾に一気に距離を詰めて剣の間合いに入る。零距離の拳銃でも簡単には狙えないはずだ。

 「!? 何故この兵装の間合いが分かるのですか!?」

 「前に見たからな、ある程度はなァ!!」

 この世界で銃は珍しいらしい。警察の経験に助けられ、俺は剣を銃で防がせながらギリギリとその場で時間を稼ぐ。やがて十分に睨み合いをした後、俺は大きく剣を振って間合いを開け、走り出す。撃たれるのも恐ろしいが、町中でドンパチやるのも不味い。パラニラ側の入り口へ向かって建物の影を伝い、射線を切りながら全力で走った。

 (巻き込むのも撃たれるのもごめんだからな。ここは逃げるぜ)



 (あの少年、私のマギナイト兵装のことを理解していた…… そして撃たれないように動いていた…… 一体何者なのか、それによってはドラゴン以上の問題になる)

 銃なんて代物はもう博物館の展示物じみた物だ。そしてそれを参考に作ったこのマギナイト兵装は、私が戦うその場でしか晒されない。それを前に見た? 執拗に射線を切る動きに町中での戦闘を諦めながら、私はあの少年を追って町の外へ飛び出した。得体のしれない存在。ある意味魔族を相手にするよりも寒気がする。

 「君は何故これを知っているのですか。こんなもの一般の者には接触する機会も無いはずです。返答によっては君をここで消さねばなりません」

 「前の仕事の関係ってだけだよ。……どわっ!? いきなり撃つんじゃねぇ!」

 まともに答える気は無いらしい。なら行動不能にして聞き出すまで。抜いていなかったもう一丁も取り出し、目の前の少年に構える。殺しはしないが、少々痛い目に遭ってもらおう。

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