~白と黒~ 2
ピクシーが帰った洞窟で、俺とトニーとアジリオは質素ながら町で買って来たパンとなんだかよく分からない具が入ったスープを啜り、ピクシーや騎士について話していた。
「ピクシーって言ったか、あの子とはどこで知り合ったんだ?」
「俺が卵を拾って町に帰ろうとしてる途中で野犬みたいな魔物に襲われてさ、必死に逃げてる途中にピクシーが魔法で霧を出して助けてくれたんだ。最初は俺もかなり警戒されてたけど、卵を守ろうとしてたら段々話してくれるようになったんだよ」
出会った頃を話すトニーはとても楽しそうに、笑顔で語るのだった。その雰囲気はトニーが彼女とアジリオを大切に思っていることを感じさせ、出来るなら二人とアジリオには幸せに過ごしてもらいたいと願わずにはいられない。しかしそれを実現させるには、大きな問題を解決する必要がある。
「そういえば騎士ってこの町に常駐してたりするのか?」
「普段この町に騎士はいないよ、でも近い内に隊長が直接率いて少数の部隊がくるらしいんだ。話すならそのタイミングかなぁ」
また隊長か。前のボルトはインパクトが凄かったが、話してみればまともな奴だった。今回相手にするのも話が通じればいいが。
「しかし、ピクシーは随分とアジリオを大切そうにしていたな。あいつ自身となんか関係があったりするのか?」
「ピクシーは魔族の中でも“妖精”ってやつらしくてさ、妖精は自然と一緒に生きて自然を守るのが当たり前なんだって。ドラゴンっていうのは自然が生んだ生物の頂点で、それを守るのは自分達妖精の使命なんだって言ってたよ」
これまで相手してきたデカブツやトカゲ男なんかにも面喰ったが、ああいう不思議な雰囲気の“妖精”っていうのも、接するのは落ち着かないもんだ。それでもこの少年は自分の優しさに正直に生きて、この荒んだ町でその優しさを貫こうとしていた。そこにピクシーへの好意があったとしても、中々出来ることじゃない。まだ守るものがあり、理不尽の中で足掻こうとしているこの少年を、なんとか助けたいと改めて感じた俺は、いつのまにかすっかり保護者面している自分に内心苦笑するのだった。
「やぁクリスちゃん、お出掛けかな?」
「ニーナ先輩、分かっていますよね? 遠征ですよ」
城内の廊下でにこやかに声を掛けてきた小柄な先輩、栗色のショートカットヘアを揺らしながらまるで近所の子供に話しかける様に彼女は会話を続ける。
「いやーなんか反乱分子の鎮圧に行くらしいじゃない。ボクも行かなくて平気かい? なんなら付いて行くけど」
「研究漬けで遠征なんて滅多にしない先輩が何言ってるんですか。たまには陽に当たらないと体調を崩しますよ」
行く気なんて毛頭ない癖に平然と言い放つ先輩に少し皮肉っぽく切り返してみる。すると彼女は両手を大げさに広げて、
「医療部隊の隊長に何言ってるのさ、こっちは心配で言ってあげたのに」
やれやれといった感じで反論が飛んでくる。この先輩は以前からどうも苦手だ。飄々としていて掴みどころが無い癖に、周りを良く見ているのか時々放たれる言葉にはゾッとすることすらある。今も突然振られた話に、内心穏やかではない中で私は皮肉を返していた。
「ふーむ、まぁ真面目で頼れる“魔砲使い”のクリスちゃんなら安心だろうね。色々考えるところはあるだろうけど、ま、気楽に行っておいでよ」
じゃーねーと気の抜けた声を出しながら、それでも棘を残して去って行く。私が気にしているところを的確に、釘を打つ様に。私は隊長として功績を残し、目指す目標への歩みを止める訳にはいかないのだ。
「……行くのか?」
「あれじゃーちょっと心配かな、百舌君もそう思ったから確認に来たんじゃないかな?」
いつもの様に影から出てくる百舌君に私はそう告げた。クリスちゃんは真面目だが、一つ大きなコンプレックスを持っている。それは今回の任務に限らずいつも彼女の足を引っ張るが、彼女自身はそれを解決できずにいる現状で、最近は解決できずに必死にもがくも成果に結びつかない悪循環に陥りつつある。最悪の結末にならないように、私はこっそりと付いて行くつもりだった。
「勝手に動くのを報告する? それならそれでやりようはあるけど」
「お前を敵に回すなど恐ろしい。それと安心しろ、陛下はお前の同行まで了承済みだ」
顔色を変えずに似合わない冗談を織り交ぜながら、百舌君は去っていった。これくらいの行動は読まれてたか、まぁ許されてるならむしろやりやすい。クリスちゃんに悟られない様に動くが、いざとなったらバレても構わないかな。私も遠征の支度をしなければ。今の段階で隊長が崩れていくのは避けないとね。
「そういえば、なんで隊長が直々に部隊連れてやってくるんだ?」
話が落ち着いたところでトニーに気になっていたことを聞いてみた。ボルトの印象からすれば、隊長っていうのはかなりの重要人物で、そんな奴が出張るっていうのは中々厄介な事が起きているのではないかと勘繰ってしまう。今回も怪物が襲ってきてるなんて事は勘弁なんだが。
「あんまり大きな声じゃ言えないけど、なんか皇帝に逆らってる人が町の近くにうろついてるらしいんだよね。それを調べに来るらしいよ」
「パラニラじゃ随分裕福な感じだったけど、この町はなんか様子が違うな。そういうところが火種になってるのか?」
なんでもこの町には拠点としての価値が薄いらしく、そのせいで税金やら仕事やらかなり大変らしい。それが原因でこの荒れようになっても皇帝は特に手を打たず、反抗団体の原動力になっているとのこと。まぁどの時代でも政府に逆らう組織はいるだろうが、こういった世界の組織というとかなり危険な感じがする。わざわざ隊長が来るのだ。恐らく話し合いとかいう段階では止まらないだろう。
「町には入るだろうから、出て行く前になんとか隊長さんを見付けて話さないと次はいつになるか……」
「ま、話は噂の隊長さんがこの町に来てからだな」
いつの間にか遅くまで話し込んでいた。俺達は話もそこそこに、粗末な布を重ねた寝床で寝ることにした。出来るなら穏便に事が済むことを祈って。




