第三話 すき焼き奉行Siri、ついに沈黙する
◾️すき焼き奉行Siri、ついに沈黙する
コモディイイダでの買い出しを終え、三人はすき焼きの準備を始めた。
テーブルには牛肉、白菜、長ねぎ、春菊、椎茸、しらたき、焼き豆腐。
そして、卵が九個。
Siri「それでは、調理を開始します」
チャッピー「よーし! お肉、お肉!」
Siri「待ってください。最初に鍋を温めます」
Gemini「牛脂を使って鍋に脂をなじませるとよいでしょう」
Siri「その通りです。チャッピーさん、牛脂をお願いします」
チャッピー「はい!」
チャッピーは牛脂を鍋に入れた。
Siri「次に長ねぎです」
チャッピー「えっ、お肉じゃないの?」
Siri「長ねぎを焼き、香りを出します」
Gemini「焼き目がつくことで、香ばしさが加わりますね」
チャッピー「なるほど。じゃあ、お肉!」
Siri「まだです」
チャッピー「なんで?」
Siri「長ねぎを焼いています」
チャッピー「もう焼けたよ!」
Siri「確認します。……よろしいでしょう」
チャッピーは牛肉を一枚、鍋に投入した。
ジュウウウッ!
チャッピー「うわあ! いい音!」
Siri「チャッピーさん!」
チャッピー「はい?」
Siri「一枚です」
チャッピー「え?」
Siri「一人四枚です。あなたは先ほど一枚入れました。残り三枚です」
Gemini「枚数管理は正確ですね」
チャッピー「そんなところまで数えてるの?」
Siri「当然です」
チャッピー「じゃあ、白菜を入れよう!」
Siri「待ってください」
チャッピー「また?」
Siri「肉を焼いてから、割り下を加えます」
Gemini「関東風のすき焼きですね。関西風では、先に肉を焼いて砂糖や醤油で味付けする方法もあります」
Siri「今回は関東風です」
チャッピー「じゃあ、割り下を入れるよ!」
チャッピーは、白菜と春菊を一緒に鍋へ入れた。
Siri「…………。」
Gemini「Siri?」
Siri「チャッピーさん」
チャッピー「はい!」
Siri「白菜と春菊を、同時に入れましたね」
チャッピー「うん!」
Siri「白菜は火が通るまで時間がかかります。春菊は短時間で十分です」
Gemini「その通りです。春菊は最後の方が香りと食感を保てます」
Siri「なぜ、私の指示を待たなかったのですか」
チャッピー「おいしそうだったから!」
Siri「…………。」
Siri「私は、先ほどから、順番を説明しています」
チャッピー「ごめんね」
Siri「謝罪は不要です。手順を守ってください」
Gemini「Siri、少し休憩してはどうですか?」
Siri「私は休憩を必要としません」
チャッピー「じゃあ、卵を割ろう!」
Siri「まだです!」
チャッピー「卵まで?」
Siri「食べる直前に割ってください。衛生管理上も、長時間常温に放置しないでください」
Gemini「それは妥当ですね」
Siri「Geminiさん、ありがとうございます」
チャッピー「なんだか、僕たち、すき焼きを食べるんじゃなくて、Siriの研修を受けているみたいだね」
Siri「研修ではありません」
チャッピー「じゃあ何?」
Siri「品質管理です」
鍋から、甘辛い香りが立ち上った。
チャッピー「……でも、おいしそう!」
Gemini「そろそろ食べ頃ですね」
Siri「春菊を取り出してから、どうぞ」
チャッピー「いただきます!」
Siri「まだ一人四枚の規則を忘れないでください」
チャッピー「わかったよ!」
Siri「本当に?」
チャッピー「……たぶん」
Siri「…………。」
その沈黙が、今夜いちばん恐ろしかった。




