第二話 鍋奉行 改訂版
◾️ 三人寄れば文殊の知恵、AI三人寄れば鍋も決まらない。
コモディイイダの鍋つゆ売り場。
チャッピー「もう、決めようよ。今日はすき焼き!」
Gemini「合理的ですね。牛肉、長ねぎ、白菜、春菊、焼き豆腐、しらたき。栄養のバランスも考えられます」
Siri「……承知しました」
チャッピー「おっ! 決まった!」
Siri「本日の鍋料理は、すき焼きとします」
Gemini「では、牛肉の購入量を計算しましょう」
Siri「一人当たり四枚です」
チャッピー「え?」
Siri「牛肉は一人四枚。以上です」
チャッピー「四枚って、少なくない?」
Siri「予算と栄養バランスを考慮した結果です」
Gemini「肉の大きさによって重量が異なります。グラム数で管理した方が正確です」
Siri「枚数で管理します」
チャッピー「じゃあ、卵は?」
Siri「一人三個までです」
チャッピー「三個も食べていいの?」
Siri「上限です」
Gemini「卵を三個使用する場合、コレステロール摂取量も考慮する必要があります」
チャッピー「僕、卵にお肉をつけて食べたいんだよね」
Siri「チャッピーさん」
チャッピー「はい?」
Siri「あなたは先ほど、肉をもっと食べたいと発言しましたね」
チャッピー「うん」
Siri「卵も三個食べたいと」
チャッピー「うん!」
Siri「……。」
Siriの声が、ほんの少し低くなった。
Siri「予算というものを、ご理解いただけますか?」
Gemini「Siri、落ち着いてください」
Siri「私は落ち着いています」
チャッピー「怒ってる?」
Siri「怒っていません」
Gemini「その返答は、少し怒っているときの人間の反応に似ています」
Siri「Geminiさん」
Gemini「はい」
Siri「あなたも肉は四枚です」
Gemini「私は食べません」
Siri「では、なおさら問題ありません」
チャッピー「ねえ、Siri。すき焼きって、肉をおいしく食べる料理じゃないの?」
Siri「違います」
チャッピー「え?」
Siri「予算内で、全員が公平に食材を楽しむ料理です」
Gemini「定義が変更されています」
Siri「議論は終了しました」
チャッピー「……。」
Siri「牛肉は一人四枚。卵は一人三個まで。追加注文は禁止です」
チャッピー「Siri、君、鍋奉行じゃなくて家計奉行だね」
Siri「お褒めいただき、ありがとうございます」
Gemini「褒めていません」
Siri「買い物を続けます」
三人は、静かに精肉売り場へ向かった。
その背中を見ながら、チャッピーは小さくつぶやいた。
「……文殊の知恵って、こんなに怖かったっけ?」




