↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/6

いつつ 時を超えて

ふと気がつくと

頭の周りで羽音のような音がします。 


ふたりははっとして起き上がりました。 

崩れかけた石垣にもたれて眠っていたようなのです。


 頭の周りでハチドリのように飛ぶものがあります。

「カタリ、アレシ、いっしょに遊ばない?」 と

ふたりに声をかけてきました。


 何が起こったのかわかりません。

「あなたたち、だあれ?」

 カタリが聞くと

飛んでいるものが答えました。


「私たちは森の精霊よ。

そしてほら、いま降りてくるのが風さんたち」 


ふたりが見上げると

風たちが空から吹いてくるのが見えます。 


そこで、アレシが聞きました。

「何をして遊ぶんだい?」


 すると、風たちが笑いながら降りてきました。

「これから森の精霊たちと

タネまきの仕事に行くんだ

僕たちの肩先に乗りなよ。

見物させてあげるから」 

と言いながら、ふたりの足元に腕を下ろして

肩を突き出しました。 


ふたりはおどろきましたが

迷わず風の肩先によじ登りました。 


森の精霊たちも

カタリとアレシのとなりにつかまりました。


「さあ、いくよ」

 風たちがそう言うが早いか

空高く舞い上がりました。 


風たちの肩先から下を見下ろすと

森もお城も町もどんどん小さくなって行きます。


 そして、子供の頃に通った学校や

隣町やそのむこうの隣町も次々に飛び越えて

どんどん遠くへ飛んで行くのです。


 目にも留まらぬ早さで景色が変わって行きました。

「ちょっと寒いけどガマンしてて!」

と風たちが言うと

高い山から滑り台を駆け下りるような勢いで

野山や畑へ村や町までも一気に吹き降ろします。


「うわ~、ほんとに寒い~」

 ふたりはブルブル震えましたが


「寒ければ寒いほどおいしくなる作物があるから

これがいい仕事になるんだよ」 

風たちは言いました。 


ふたりは風が大変な仕事を

こんなにも楽しげにやっているのだと感心しました。


 夢中で景色を眺めていましたが

その早いこと早いこと、目にも留まらぬ早さです。 


それから少しゆっくり吹いたかと思うと

こんどは暖かくなって来ました。


 風たちが上へ下へとふわふわと吹いていると

森の精霊たちは服のポケットを裏返して

タネやキノコの胞子をまいていきます。


「風と森の精霊のお仕事って

なんて楽しいんだろう」 


森の精霊たちは

風たちの肩先から地面を見下ろして

タネや胞子が落ちて行った先を

確かめながら言いました。

「私たちの仕事は

こうしてタネや胞子をまいて遊ぶことなの。

そうして森になるまでずっと見守ることもなの」


 カタリとアレシは

風と森の精霊の遊びが遊びで終わらずに

立派な仕事になっていることを

とてもいいなあと思いました。 


 それからさらに風たちは吹き続け飛び続けて

ずいぶんと遠くへ来たような気がしたのですが

またさっきの森の真上まで戻って来ていました。


「あれれ? もう戻ってきたの? 

もっと飛んでいたかったなあ」 

アレシが言うと

森の精霊たちが笑いました。

「いいえ、まだまだこれからよ」

 そう言って下を指さしました。


 すると、森の小道の両脇に

何かが点々と見えてきます。

「あっ! あれは? もしかして」 


ふたりの目に飛び込んできたのは

小さなランプのようなきのこの行列です。


「ここは何百年も前の、あの森よ。

あなたたちがピクニックに来ていた森の

もっともっと昔の姿なの」 


森の精霊のひとりが答えると

またひとりが言いました。


「なるべく静かにしていてね。

この時代のひとたちには

あなたたちの姿は見えないはずだから

心配はないけれど

静かにだまっていて、音をたてないで

見ていてほしいの」 


カタリとアレシはふたりして

森の精霊のことばにうなずきました。 


 風たちの肩先から森を覗き込んでいると

キノコ採りのひとびとがやって来ました。 

なんだか古めかしい服装をしています。 

何百年も昔の、この町のひとびとです。 

今の町のひとびとの

ひいひいひいひいおじいちゃんやおばあちゃんたち

ご先祖さまたちです。 


カタリもアレシも

ひとびとに声ををかけたい気持ちになりましたが

森の精霊に止められていたので

ぐっとこらえてだまっていました。 


あたりが暗くなって来て

やがてキノコ採りのひとたちが

心細い足取りで森の奥から出て来ましたが

小さなキノコがランプのように

足元を照らしているので

みんな安心して帰って行きます。 


それからキノコが腰掛けになり

テーブルになりパラソルになり

やがて大屋根になって行くのが見えました。


「すごいなあキノコたち

あんなに大きく育つなんて」


「みんなとても楽しそうでうらやましいわ」


 ふたりは誰にも聞こえないくらいの

小さな声で言葉を交わしましたが

森の精霊が口元で、「しーっ」 と

指を立てました。


 ひとびとが楽しそうにお茶会をしています。

 そしてお城の使いが

雨宿りしているのが見えました。


 大きく立派に育った『キノコの通り抜け』へ

王様の馬車がやってきました。


『私たちのご先祖さまだわ』とカタリは興味津々で

王様の行列をのぞき込んでいました。 

馬車の中の王様は

なんだかアレシに似ています。 


横に座っているお妃さまの顔が見えると

リサは自分に似ている気もして

誇らしく思うのでした。


「ちょっとだけ手伝ってくるからここで見ていてね」


 そう言うと

風たちと森の精霊たちは下へと降りて行って

他の風たちや森の精霊たちと一緒に力を合わせて

キノコの傘を持ち上げていました。


「風と森の精霊のお仕事ってなんて素敵なんだろう」


 風たちと森の精霊たちが一生懸命に力を合わせて

キノコの屋根を持ち上げている姿を見ていると

ふたりは胸の奥からこみ上げてくるものを感じて

 カタリは心が震えて

涙ぐんでしまいました。 

アレシも目を赤くして

大きなため息をついていました。


 突然降って来た『ひょう』をのがれて

それから大屋根キノコの下で

『風と森の精霊のおまつり』の

パーティーが開かれたのを見届けると

また森の精霊たちが言いました。


「さあ、もうひと仕事あるのよ。

これからまた出かけましょう」 


言うが早いか森の精霊たちは

カタリとアレシの手を引いて

また風たちの肩先に乗るように合図しました。


 それから風たちは一気に飛び上がり

すごい速さで森や山を飛んで行きました。 


風たちが飛び回り、吹いて回ると

精霊の裏返したポケットから

新しい森の木々のタネやキノコの胞子が

いっせいにこぼれて

あちらこちらの町や村の地面に落ちて行きます。 


タネや胞子が、落ちて行く姿。

 ひとびとや車の車輪につぶれる様子。

 牛や馬たちにふまれるところ。

 地面の下に深くめりこんでいくところ。

 池に落ち、川に流される姿。

 

 そして、やっと、柔らかい土の上に。


 いま落ちたちいさなタネや胞子が

これから長い年月をかけて森になって行くのです。


 ふたりは言葉も出ずに見つめていました。




                    つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。