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4/6

よっつ カタリとアレシ

それから何百年たったでしょう。 

大きな森が育っていました。 


森は町からほどよく離れていましたが

町のひとびとがピクニックやキャンプをするのに

ちょうどいい場所でした。


 森は、春から夏にかけてのその時期

キノコ採りのピクニックに訪れるひとたちで

賑わっています。 


町の子供たちから大人たちまでが

学校でも家族でも職場でも

ピクニックと言えばこの森というくらいです。


 子供達のおとうさんやおかあさん

おじいさんやおばあさん

そのまたおじいさんに、ひいおばあさん

ひいひいおじいさん、ひいひいおばあさん

と言う具合に

つまりは先祖代々のみんなが

森へ遊びに来ていたのでした。


 よそから引っ越して来たひとたちも

この森がいっぺんに好きになるくらい

そんな素敵な森でした。


 森には小道がいくつもありましたが

そのうちのひとつに言い伝えがありました。 


その小道は

大きな森と少し小さな森をつなぐ小道で

古いお城に繋がっています。


その小道に昔々、大きな大きな大屋根キノコの

『通り抜け』があったという言い伝えです。


 町の子供たちは小さい頃から

森やお城にちなんだ古い昔話を

たくさん聞いて育ちました。


 とりわけ人気のあるのは

王様の馬車がキノコの間を通り抜けるお話です。


 それが単なる言い伝えなのか

本当の話なのかを知っている者は

今ではどこにもいないだろうと思われています。


 けれども、森の小道の両脇には

たしかに時々ぽつんぽつんと

小さなランプのようなキノコが現れたりするのです。


 それはとても可愛らしいながめで

見つけたひとは物語の始まりを感じて

夢を見るようにワクワクしながら見物するのですが

キノコが大屋根にまで育つのは

誰も見たことがありませんでした。 


長雨小雨の続く春から夏にかけて

小さなこびとさんのランプのように

森の入り口をほんのしばらく

ほんのりと照らすことはありましたが

大屋根どころか

腰掛けほどにも育ったりしたものは見かけません。


「昔話とはそんなものだよ」

と、おとうさんやおかあさんは笑うのですが

おじいさんやおばあさんたちは、

「生きている間に見て見たいものだね」と

口ぐせのように言っています。 


子供たちは大人たちの

そんな話を聞いて育っていきます。


 この町で育ったカタリとアレシも

そんな言い伝えを聞いて育ちました。


 カタリは、そのお話の王様の子孫で

 亡くなったおじいさんから古いお城を譲り受け

住むには大き過ぎて考えあぐねていたところ

最近になって、隣町のコンツェルンから

連絡をもらいました。


 古いお城を使ったホテルと

森のテーマパークを建設する話で

実はその話にとても乗り気になっているのです。 


お城は歴史があって

情緒もあるとても素敵なところなのですが

古くて壊れかかっていて

電気も引いていない部屋が怖くて不便で

そのままではとうてい住めません。 


改修するのも大変なので

できることなら

森のテーマパークのホテル建設にと

考えていました。 


アレシもこの町で育ち

カタリとはいとこ同士でしたが

隣町にあるそのコンツェルンの話を

運んで来たのです。


 森や、古いお城や、町の将来や

いろんなことを考えた上で企画を練って

この話をカタリに持って来たのです。 


ふたりは下調べのために

森の入り口の広場で待ち合わせしました。


「やあ、カタリ、元気そうだね」

「ひさしぶりね、アレシ。良いお話をありがとう」 


いくつもある小道のひとつから歩いて入って

並んで歩いて行きます。


「子どもの頃、よくピクニックに来たわね」

「ほんとにひさしぶりだ、森は変わらないね」


 ふたりとも小さい頃から、この森が大好きで

森のことはすみからすみまで知っています。 


幼い頃からのピクニックのことも

いまではなつかしく思い出されます。


「勝手に森の奥深くまで入って行って

よくおこられたっけ」


「森のことなら、こっちはオトナよりも

よく知ってたもの、全然平気だったわ」


 いとこ同士のふたりは兄妹のように育ったので

とても仲良しで、ことに森のピクニックの時は

よくふたりで探検ごっこをしていました。


『小道の脇からは

ひとりで踏み込んで行ってはいけません。

必ずグループで行動するように』

 そんなふうに注意されても

どこ吹く風でした。


「おぼえてる? ランプのキノコを探して

向こうの小道を何往復もしたこと」


「ああ、おぼえてるよ。

見たひとがいるって聞いたけど

見つからなかったね。

それが何百年かに一度

ものすごく大きくなるんだって

おばあちゃんが言ってた」


「私が聞いた話では

大屋根キノコが育った年に芽を出した木々が

それから立派な森になる頃に

また大屋根キノコが出てくるんですって」


「それじゃあそろそろ出て来てくれないかなあ。

テーマパークが出来た時にでも現れてくれたら

すごいイベントになるし」


「お城の書庫に資料があるかもしれないから

下調べに行きたいんだけど

ひとりじゃちょっとこわいのよ。

オバケが出そうなんだもの」

「じゃあ、これから行ってみよう」

ふたりはお城へ続く小道に入って行きました。


「あの頃から見ても

また立派な森になったものだよね」


 歩きながら

ふたりは昔のピクニックのことを

思い出していました。


『そっちじゃなくて、あっちに行ってみようよ』

『こっちの方がそっちよりおもしろそうよ』

などと、よくケンカしながらも

探検して遊んだものです。 


そんなふうに

なかなか意見がまとまらないながらも

迷子にならないように

ちゃんと一緒に行動していました。 


この道を通るのも十年振りになるでしょうか。

『十年ひと昔』などと言いますが

昨日のことのように思い出されます。 


小道の両脇に積まれた古めかしい石垣が

あの頃よりもいっそう古めかしくなったのに

崩れそうでまだ崩れないのを見て

ふたりは感心しました。 


ひび割れて崩れ落ちかけているはずの石垣を

つる草や木の根が

がっしりとつかんでいるからです。


「森ってすごいよね」

「なんだか助け合ってるのを感じる」


 石垣を見ながら、そのあたりに腰を下ろすと

そこでおべんとうを広げたことも思い出しました。 


この石垣がちょうどいい感じの

背もたれになったのですが

もたれている石垣のすき間から

時々足のたくさんある虫が出てきて

びっくりして飛び上がったり

それを見て大笑いしたこともありました。 


もともと森に住んでいる虫たちなのですから

外から来た自分たちが邪魔してはいけません。 


そっとよけたり払ったり

逃がしたりするだけで

ふんだりしないように気をつけてあげたことも

おぼえています。 


上級生になった頃、カタリは

ママに教わりながら作ってきた

大好物の卵サンドイッチをここで広げた時

森の木々の香りもいっしょにほおばって

格別においしかったことを思い出しました。


 アレシもおかあさんに作ってもらった

大好物のピロシキを取り出して

いただきますも言わずにパクパク平らげたことを

思い出しました。


 こぼれたパンくずにアリがやって来て

おもしろいように大行列が出来たことや

持って来たおやつを少し食べたら

ふたりとも眠たくなってしまって

先生に起こされるまで

石垣にもたれたまま昼寝してしまったことなどを

次々に思い出しました。 


そんなふうに、思い出して笑いながら

大きな森から小さな森へ差し掛かる

小道に出てきました。 


そこからまっすぐ歩いて行くと

もうすぐお城です。 


その時でした。 

かすかに聞こえたのです。


『カタリ、アレシ、いっしょに遊びましょうよ』


「いま、何か聞こえなかった?」

「聞こえた、誰か、呼ぶ声がした」 


ふたりはあたりを見回しましたが、誰もいません。


 気のせいかと思い

進んでいこうとした時

 小道の向こうからつむじ風が走り込んで来て

あっと言う間にふたりを巻き込んでいました。




                    つづく

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