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みっつ 王様のパレードで

『風と森の精霊のおまつり』は

古くからこの国で祝って来たおまつりです。 


この国では、すべての生き物は

みんな風と森の精霊の助けを借りて

生まれ育つものだと言われているのです。 


本当のところは

風と森の精霊のいたずらやきまぐれ

遊び心に助けられていることもあるのですが

多くは風と森の精霊に大事に守られ

力をもらって生まれ育ってきたのです。 


 その時代の風たちと精霊たちが出会って

仲良くなって、いい仕事をしてくれることで

自然が豊かになり

生き物たちが立派に育ってきたのです。


『風と森の精霊のおまつり』の日は

そのことを、みんなでお祝いするおまつりなのです。

 その日は、王様のパレードが

町の広場までやってきます。 

この小道を馬車でお通りになるのです。 


小道の両脇にキノコの休憩所が並んでいる様子は

とてもキレイで

ぜひとも王様に見ていただきたいものだと

ひとびとは思うのですが

こんなに傘が張り出していては

王様の馬車がお通りになる時に

邪魔にならないだろうかと

とても不安に思いはじめました。 


パレードの日までに

これはなんとかしなければならないと

町のひとびとが考えるようになって

今日もまたキノコの大屋根の下で

相談をしていました。

 そんな町の噂を聞きつけて

お城からの使いの者が

大きなキノコのことを下調べにやって来たのです。


 馬に乗って訪れた、お城の使いの者は

小道の両側にずらっと並んだ大きなキノコを見て

馬から落っこちそうになるほど驚きました。 


傘の高さが、馬の頭の高さどころか

馬上の自分の頭すら超えているのですから

無理もありません。


「こんなに大きなきのこは初めて見たぞ。

立派なものだがあまりに大きすぎて

傘が少し垂れ込めて邪魔にならないだろうか? 

これでは馬車も通れまい。

はてどうしたものか?    

これはさっそく王様に報告しなければ」


 そう言って、お城へ戻ろうとした時です。 

突然、大粒の雨が降り出しました。 

長雨小雨が続いた季節の変わり目でしたが

こんなに大粒の雨が降るのはひさしぶりです。


 馬に乗ってきたお城の使いの者や

その場に居合わせて傘の用意もなかった町の人々は

みんな、おお慌てでキノコの大屋根の下に

駆け込みました。

「ほう、これはちょうどいい具合に

雨やどりすることが出来た。

ありがたいキノコの大屋根だ」

 お城の使いの者はすっかり関心してしまいました。


 大粒の雨が止むのを待っていると日が暮れ始め

キノコの大屋根から出ると

お城の使いの者は、あたりをぐるりと見渡しました。


 道の両脇にずらっと並んだキノコの大屋根が

最初はほんのりと、だんだんあかあかと

あたりを照らし始める様子を見ていて

お城の使いの者は

なんとも言えない温かい気持ちに包まれました。


「ほう、これはまたすてきな眺めだ。

雨宿りにもちょうどよかったしな。

だが、もしかすると馬車が通れないかもしれない」

 お城の使いの者はつぶやきました。 


王様の馬車が通れなければ

切り倒さなくてはならないのです。


「キノコを切り倒すのですか?」 

ひとびとが心配して尋ねました。 

お城の使いの者は少し困りましたが

そのまま帰って行きました。 


その様子を風と精霊も見に来ていました。 


 心配して相談していた町のひとびとが

みんな帰ってしまったそのあとで

またキノコたちはひそひそと話をしました。

「こんどこそ切り倒されるかもしれない。

みんな順番がくるのかものキノコ」

「順番がくる時までは

みんなで一生懸命ここで頑張ろうよのキノコ」

 噂を聞きつけた風たちと森の精霊たちは

自分たちが大切に見守って来たキノコが

嘆いているのを見ていると

かわいそうで心配で胸が痛みます。 


キノコたちが切り倒されるかもしれないと

聞いてしまったからには

何もしないでいるわけにはいきません。

「そのままにしておいてもらえるような

何かいい方法はないだろうか」と

頭をひねっていました。

「そうだわ、いいことがある!」 

森の精霊の中のひとりが

思いついたことを話しだしました。

「風さんたちと私たちで

キノコの屋根を持ち上げて

王様の馬車が通れるようにしましょうよ」


 みんなは大賛成しましたが

王様の馬車がお通りになる時に

そんなに大きな風を吹かせるわけにはいきません。


『どうすれば小さな風を吹かせるだけで

持ち上げることができるだろうか?』などと

みんなで知恵を出しあって考えました。


「大変だろうけど頑張りましょうよ。

だってキノコたちのため、森のため

町のひとびとのためだもの。

そして、みんなが私たちのことを祝ってくれる

『風と森の精霊のおまつり』の日なんだもの」


 風たちと森の精霊たちたちは

それから国中を駆け回って

国中の風たちと国中の精霊たちに

手を貸してもらえるよう

声をかけて回りました。


 さて、その日がやって来ました。

『風と森の精霊のおまつり』が始まって

これからいよいよ王様のパレードです。 


今まで、何事もなく、すくすくと育ってきた

大屋根キノコたちでしたが

今日のこの日を迎えて

胸のうちは内心びくびくしていました。


 うれしいお祝いの日なのに

町のひとびとも心配でたまりません。


 大屋根キノコの話を

お城の使いの者から

いろいろと聞いていらした王様でしたが

ご自分の目で

そのキノコたちをご覧になりたいとお思いになって

『切り倒さずにそのままにしておくように』と

家来に仰せになりました。

 けれど実は、王様の家来は

前もって木こりたちを集めて

『もしもの時には馬車が差し掛かる前に

キノコを切り倒すように』と

命令を出しておりました。 


王様の馬車の屋根がつっかえでもして

馬車がひっくり返るようなことがありでもしたら

それこそ一大事です。

 さてさて、お城の方から王様の馬車が

見えて来ました。

 町のひとびとも総出でお迎えです。


大屋根キノコの大通りは溢れるひとたちで

いっぱいになっていました。


 木こりたちへの命令があったことを聞きつけた

風たちと森の精霊たちも

間に合わなければ大変と

国中の風たちと精霊たちを集めて

大急ぎで駆けつけていました。

「おお、なんと立派に育ったキノコじゃ」

 王様は遠くから

もう身を乗り出してご覧になっています。 

そして王様の馬車が

キノコのあいだを通り抜けはじめました。 


キノコたちはあれからも

まだかなり大きく育っていたので

キノコの傘は

馬車の屋根よりも高いものがほとんどでしたが

ギリギリの高さのキノコや

少しだけ傘が垂れ込めていて

馬車の屋根とぶつかりそうになるキノコも

ありました。 


もしもの時はそれを切るために

木こりたちが通りの両脇で待機しています。 


風たちと森の精霊たちは

はじめはヒヤヒヤしながら見守っていましたが

とうとう見ていられなくなって

王様の馬車の手前に躍り出ていきました。


 そして、誰にも見えないように

吹き抜けたり飛び回ったりして

みんなで力を合わせてキノコの傘の軒先をかかえ

持ち上げて行きます。 


大きな風を吹かせるのではなく

心地よいくらいのそよ風でありながら

キノコの傘を持ち上げるのは

けっこう大変な力がいるのですが

風たちと森の精霊たちは

自分たちの大事な

みんなの大好きなキノコを守るために

一生懸命になって、知恵と力を振り絞って

がんばりました。 


おかげで王様の馬車は

まったくキノコの傘につっかえることもなく

すんなり通り抜けることが出来たのです。 


王様と町のひとびとは大喜び。 

今日が『風と森の精霊のおまつり』だから

『風と森の精霊が力を貸してくれたに違いない』と

口々に感謝してほめたたえました。


 風たちと精霊たちは

ちょっとくすぐったく思いましたが

『がんばって良かった』と、誇りに思いました。

 町の広場では、王様がおこしになるのを歓迎して

うたげの準備ができていました。


 キノコ大通りの出口から

王様の馬車をみんなで囲んだままぞろぞろと

町の広場まで移動しようとしていた時でした。 


突然、空から大きな『ひょう』が

バラバラ、ガチガチと音を立てて

降って来たではありませんか。


 みんな驚いて声をあげながら

逃げまどいました。


 王様の馬車も、お城の従者も、町のひとびとも

みんな大急ぎで大通りに引き返し

キノコの下へ駆け込みました。 


キノコの傘の上に、軽くめり込むくらいの勢いで

ボコボコと大きな音を立てて降ってくる

『ひょう』でしたが

分厚い大屋根キノコの傘はびくともしません。


 みんなはキノコのおかげで、けがもなく

『ひょう』がやむまで、無事にやり過ごしました。

「たいしたキノコだ、キノコばんざい!」

「風と精霊のおまつりの日、ばんざい!」「みんな、ここでお祝いのうたげだ!」

 それから、そのまま大屋根キノコの下に

お料理やお酒が運ばれて来て

パーティーが始まりました。 


その日は夜が更けても夜が明けるまでも

ずっとパーティーが繰り広げられました。 


キノコたちは嬉しくて

いつもよりもさらにあかあかとあたりを照らします。


 風たちと森の精霊たちも

自分たちのことのように嬉しくて

キノコの傘の上で

みんなのようすを見守りながら楽しく過ごしました。


 町のひとびとはこれからも

キノコのことを大事にしていこうと誓いました。 


そしてこれからも『風と精霊のおまつり』の日には

大屋根キノコの大通りに王様をお招きして

キノコのうたげを繰り広げる

習わしとすることも決めたのでした。

 風たちと森の精霊たちは

おまつりが無事に終わるのを見届けると

その場所をあとにして

また飛び回って見ることにしました。 


風たちの肩先に森の精霊たちが乗って

地面を見下ろしながら

あの日、タネや胞子が落ちて行ったところを

見回ります。


「私たちのご先祖も

ずっとこうして森を作ってきたのよ

きっとどこかで新しい森が育ちはじめているわ」


 あの日、森の精霊たちの声を聞きつけて

頭をもたげた小さなタネたち……


 顔を上げ、芽を出し、根を伸ばし始めていた

あのタネたちはどうしているでしょう?


「森に? 大きな森になるの? 私たちが?」 

そう言って不思議がっていたタネたちは

あの場所で根を張り小枝や葉をつけて

まだ小さいながらも『木』になろうとしていました。


 木はキノコのようには早く育たないので

木々が大きくなって森が育つ頃には

風たちや精霊たちがもっと年をとって

次の世代の風たちや精霊たちと交代するのです。 


次の世代の風たちと精霊たちも

仲良く森を育ててくれるようにと祈ります。




                    つづく

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