ふたつ キノコの森
そうしたある日のこと
ある町はずれの、森の小道の脇に
小さなキノコがちょこんと顔を出しました。
精霊たちが風たちの肩先に乗って
ばらまいていったキノコの胞子が
落ちたところでうぶごえをあげたのです。
この年に芽を出すキノコは
実は何百年かに一度の特別なキノコなのです。
そのことを知っていたのは
この時まで森の精霊たちだけだったのですが
この年になって風たちもそれを知ることになり
他にも協力者が現れてくるのです。
そのことはずっとあとでわかるので
今は内緒にしておいてくださいね。
さて、今年のこの季節に
この小さな特別なキノコは
森の小道の両脇にいくつも顔を出してきて
かわいい行列を作り始めました。
夜になるとそれはまるで
こびとさんたちの置き忘れていった
小さなランプのように
ほんのり光ってあたりを照らしていました。
町の方からこの森へ
毎年のようにキノコ採りに通っていた
キノコに詳しいひとたちも
初めてこのキノコを目にしたのでした。
「こんなにきれいな傘の色なら
毒キノコではないかしら?」
そう言って、心配そうに遠巻きに眺めるだけでした。
風たちと森の精霊たちは
自分たちがまいた胞子から芽吹いたキノコが
毒キノコと思われて避けられていることに胸を痛め
心配になってたびたび様子を見に来ていました。
それから間もないある日のこと。
森で夢中になってキノコを採っていたひとたちが
ついうっかり遅くなってしまい
すっかり暗くなってしまった帰り道のことです。
本当ならちょっとこわいその道を
ランプのようにあかあかと
キノコが照らしてくれたおかげで
安心しておしゃべりしながら帰ることができました。
ひとびとはランプのようなキノコがあると
とても助かるので
喜んでそのままにしておくことにしました。
こっそり様子を見にきていた風たちと精霊たちも
キノコがランプの役割を果たして
ひとびとに喜ばれているのを見ると
とても嬉しくなって、安心して帰りました。
夜遅くになって、誰も小道を通らなくなると
キノコたちはひそひそと話を始めました。
「毒キノコじゃないかって言われてたから
引っこ抜かれるかもしれなくて
ハラハラしたねのキノコ」
「ランプのかわりになるって喜ばれてるから
抜かないでもらえてうれしいねのキノコ」
キノコたちは、そんな風に声を潜めて
心配事やうれしいことを
つぶやきながら過ごしていました。
来る日も来る日も
キノコ採りのひとびとが森を訪れ
入れ替わり立ち代りその小道を通ります。
けれど、誰もそのキノコを
摘んでみようとはしませんでした。
なぜですって?
もしも、そのランプのようなキノコが
毒キノコでなく、食べられるキノコだったとしても
摘んで食べられるような大きさは
とっくに超えてしまっていたのです。
それはもう
お鍋に入りきれないくらいの
大きなキノコになっていたのです。
その色といい
ランプのような明るさといい
その大きく育った具合といい
あまりにも珍しかったので
キノコ採りに訪れていたひとたちだけでなく
そのうちに町中だけではなく
国中のひとびとにも知れ渡りました。
キノコたちは、どれもこれもが
それはそれは鮮やかでキレイな色をしていましたし
日が暮れると火が灯ったランプのように
小道の脇で光りはじめるので
森へ遊びに来たひとたちに
とても重宝がられていました。
ランプのようにあかあかと光るおかげで
それが毒キノコであろうとなかろうと
お料理に使ってみようなどと思うひとは
誰もいなかったのです。
すでにふつうのキノコの大きさは超えていたので
これからどこまで大きくなるのだろうかと
ひとびとは、もう興味津々で
キノコの成長を見守るようになりました。
それから半月も経った頃でしょうか。
キノコたちは『こしかけ』になりそうなくらいに
大きくなりました。
その硬さもほどよくて
大きさもじゅうぶんで
座り心地もふかふかで申し分なくよかったので
森の小道を行くひとたちが
休憩したりおしゃべりしたりするのに
ちょうどいい椅子になっていました。
座り心地の良いキノコの椅子で
ながながおしゃべりしていたひとたちが
すっかり夜ふけになってしまってから
やっと腰を上げて帰って行くと
またキノコたちは、ひそひそと話をしました。
「長い時間、腰掛けられていると
重たくて大変だけど
引っこ抜かれるよりはいいねのキノコ」
「森に遊びに来たひとに喜んでもらえるなら
多少のことは気にしないで生きていこうねのキノコ」
それからまた半月も経った頃でしょうか。
キノコたちの中で一番大きいものは
テーブルにちょうど良いくらいの
高さと大きさになっていました。
一番最初に生えて来たキノコが
テーブルにぴったりなら
そのまわりに、少しあとから生えてきたキノコが
ちょうどいい椅子の高さに追いついてきています。
このキノコたちときたら、すてきなことに
お茶会のできるテーブルと椅子にぴったりなのです。
森へ遊びに来たひとびとは
キノコ採りに来たはずなのに
その目的も終わらないうちに
大きなキノコのテーブルと椅子で
はやばやとピクニックのおべんとうを広げています。
小道の両脇には、キノコというキノコに、
朝早いうちから我先にと
場所取りのしるしになるように
バスケットや帽子が置かれて行きました。
ひとびとは、大きくなったキノコの上で
昼は昼でお茶会を
夜は夜でパーティーを繰り広げます。
夜はキノコが光って
また格別に素敵な雰囲気の
キノコカフェになるのです。
ひとびとは大きなキノコがあることを喜び
とても大切に思い始めました。
風たちと森の精霊たちは
キノコカフェのパーティーの
ワクワクするような噂を耳にして
連れ立って様子を見に来ました。
ひとびとが大きなキノコのテーブルで
楽しそうにしている姿を見た風たちと精霊たちは
キノコが喜ばれているので
嬉しくて誇らしくなり、胸がいっぱいになって
安心して帰りました。
その日も夜中まで
キノコカフェで遊んでいたひとびとが
片付けて帰って行くと
またキノコたちはひそひそと話をしました。
「お茶やスープがこぼれると熱いけど
引っこ抜かれるよりはいいよねのキノコ」
「役に立って喜ばれるなんて
生きがいになるよねのキノコ」
そしてまた半月も経った頃でしょうか。
一番最初に生えて来た大きいキノコは
あづま屋ふうの屋根になり
その次に大きいキノコがパラソルに
そしてその下にテーブル、椅子と
順々にちょうどいい大きさになって
それぞれが育っていました。
相変わらず長雨小雨の続く毎日でしたので
ひとびとは、少々雨が降ってきても休憩が出来て
暗くなっても明るく照らしてくれる
大きなキノコの屋根の下に
朝から晩まで集いました。
そして、そこでいろんな相談事をしたり
大好きなひとと待ち合わせたりして
みんなが楽しく過ごすことが出来て
キノコは町のひとたちには
なくてはならない存在になっていました。
真夜中になって
遊び疲れたひとびとが帰って行くと
またキノコたちはひそひそと話をしました。
「傘の下に大勢集まってきて騒がしいけど
引っこ抜かれるよりはいいねのキノコ」
「楽しそうに過ごしてもらえるのは
見ていて嬉しいから
ずっとここにいたいねのキノコ」
キノコたちは長く降り続く雨を浴びて
さらにもっともっと大きくなっていきました。
はじめは小さなランプ替わりだったキノコも
いまやあかあかと照らす
街灯の役目まで果たしていて
テーブルや椅子までそろった
大屋根付きの立派なキノコカフェ通りです。
小道の両脇から張り出した
屋根の代わりのキノコの傘が
道の真ん中まで届いて重なり合うほどに大きくなり
そこはまるで大屋根キノコの大通りになりました。
はじめの頃は、キノコのことを
毒キノコかもしれないと
疑っていたひともありましたが
今ではみんなとても大切に思っているのです。
いいことずくめのキノコなのに
どこからかこんなささやきが聞こえてきます。
『休憩するにはとても助かるけれど
ちょっと大きくなりすぎじゃないだろうか?』
それもそうなのです。
実は心配なことがあるのです。
もうすぐ『風と森の精霊のおまつり』の日が
やってくるからです。
つづく




