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むっつ 協力者

「さあ、さっきの大屋根キノコの胞子を持って

何百年も超えて、あなた方の時代へ戻って

これからまた、まくのよ」

精霊たちが声高らかに言いました。


「えっ? じゃあ、私たちの住んでいる時代の

あの森に、大屋根キノコが生えるの?」


「そうよ。あなたたちといっしょに

さっきの『何百年も昔』にまいた木々のタネが

あなたたちの時代に

りっぱな森に育っているんですもの。

お祝いしなきゃ」 


カタリとアレシは、自分たちもこうして一緒に

それを手伝っているのだと思うと

心からうれしく思いました。 


こんなにイタズラっぽい笑顔を振りまきながらも

楽しそうに役目を果たしている森の精霊たちの

生き生きした表情を見ていると

カタリもアレシも、うれしくてたまりません。

 もちろん、風たちもうれしそうです。

 

 それから風たちは

タネや胞子や、森の精霊たちのために

そして、カタリとアレシために

もっともっと遠くまで飛んで吹いて回りました。


「タネさん、胞子さんたち、そこで生まれたら

そこの暮らしを楽しんで、大きな森に育ってね」 


風たちの肩先に乗った森の精霊が、吹き抜けざまに

まいたタネや胞子たちへ声をかけます。 


カタリとアレシも森の精霊たちのマネをして

大きな声で呼びかけます。


「タネさん、大きな森に

立派な、素敵な森に育ってね」 


その声を耳にしたタネがありました。

「森に? 大きな森になれるの? 私たちが?」


 タネたちは自分たちがまさか

大きな森になれるだなんて、と不思議に思いましたが

とにかくそこで顔を出し、芽を出して

小さな細い根も伸ばしてみることにしました。 


風と森の精霊とカタリとアレシは

自分たちが想い想いに吹いて行く先で

タネやキノコの胞子たちが落ちてゆくのを見て

こころゆくまで楽しみました。


 このとても大事な仕事を

永遠に伝えて行けたらと願い

『タネや胞子が大きな森に育ちますように』と

心から祈りました。 


こうしてカタリとアレシは

風と森の精霊と、とてもなかよしになり

またいつかきっと、いっしょに遊ぼうと

約束をして帰りました。


 ふと気がつくと、頭の周りで羽音がします。 

ふたりは、はっとして起き上がりました。

崩れかけた石垣にもたれて眠っていたようです。 


風がさっと吹き抜けて行きました。 

頭の周りでハチドリのようなものが

何度も回っていたように思いましたが

あたりを見回すと何もいません。

ふたりは顔を見合わせました。


「風たちと森の精霊たちだったね」


「タネと胞子をまいたわ」


「大屋根キノコも見たよね」


「もうすぐ生えるんだわ」


 そして

小道を歩いていて

つむじ風に巻き込まれたことも思い出して

すぐに立ち上がってみましたが

どこにもけがなどしていませんでした。


 それから、ふたりは

お城の方へ歩いて行きました。


くずれ落ちそうに見えたお城は

つる草や木の根につかまれて

意外としっかり建っていました。 


ふたりは書庫へ行って記録を調べようと思いました。

 本棚の奥で、タクが何か見つけ出しました。


「『風と森の精霊のまつり』って

背表紙に書いてある」 


そう言って、本を一冊引っ張り出して来て

ほこりをかぶった机の上で開きました。 


ページをめくっていくと

目に留まったのは

『数百年に一度、そのキノコが大屋根にまで育つ。

その時代の風たちと森の精霊たちに

その見守り役がまかされている。』


そして、こうもありました。


『風と森の精霊は見守りの引きつぎ時に

ひとびとの中から協力者を選ぶ』


 この本を記したひとは

きっと、あの時代の『協力者』として

その役割を果たしたのでしょう。


カタリとアレシは

自分たちが、この時代での『協力者』として

風たちと森の精霊たちから

選ばれたのかもしれないと思いました。



「この本には、風と精霊から教えてもらったことと

まったく同じことが書いてあるわ」


「まちがいない。あれは本当のことだったんだね」 


この本が書かれたのは

ふたりが風たちと精霊たちに連れて行かれた

あの大屋根キノコが育った年かもしれません。


 風たちと森の精霊たちによって

胞子と同時にまかれた木々のタネたちが

立派な森に育ったことを確かめるかのように

そのことを祝うかのように

大屋根キノコが現れ

森とキノコがいっしょになって

風と精霊のおまつりを盛大に祝おうと

その時がめぐって来るのを待つのでしょう。


 めぐりめぐる不思議な自然の秘密。

 とても大きな自然の、小さな秘密です。 


何百年もかけてゆっくり育つ森と

あっと言う間に大きくなるキノコが

同時にスタートを切ったとしても

同じペースで育つわけはない。


考えたこともなかったのです。

たとえ頭でわかったつもりでも

本当にはわかっていなかったと

いま初めて気づいたふたりです。

 

一緒に遊んだ風たちと森の精霊たちが

伝えてくれたこと。


 森ではいろいろな木々や生き物たちが

力を補い合って、助け合って育ちます。 


森にはいろんな生命が宿っていて

もちろんキノコの多くは

森の木々の下にいるから育つのです。 


いろんな生命を

守り育てることのできる大きな森に育つまでには

何百年という長い長い年月が必要なのです。 


そして、『風と森の精霊のおまつり』が

続いているのは、ずっと昔から

風と森の精霊の見守りがあったからなのです。 


カタリとアレシは

自分たちも子孫のために森や自然や

町のひとびとのことも見守って行こうと

心に誓いました。


そうして、カタリはお城を売るのをやめ

アレシはテーマパークの企画を取り下げました。


 それから数日後のこと

森の小道にこびとのランプのような

キノコの行列ができ始めました。 


国中のあちらこちらで

既に大きく立派に育っている森

 その遠く近くで新しい根を張り

小さな枝葉をつけた細い木が

ひっそりしっかりと生まれ育っているから

森が守られていくのです。


 森へピクニックやキャンプに出かけた時

古いお寺やお城の庭を訪れた時

誰かが起き忘れたランプのような

小さなかわいいキノコの光が

点々と続いているのを見かけたら

このお話を思い出して下さい。




                 了


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